第3章 日本とハンガリーの合唱指導の比較 第1節 文化と環境
第6節 比較のまとめ
ハンガリーと日本の音楽教育は大きく違っている。ここまでで述べてきた細かい指導法 についてははもちろんであるが、そもそも音楽教育における目標に大きな違いがある。ハ ンガリーではコダーイ・ゾルタンの理念が日本でいう目標や指導内容となっており、音楽 教育は歌唱から始めることや、すべての人が音楽の読み書きができるようにすること、わ
らへ歌を使って教育を行うこと、またできるだけ幼い時期から教育することが挙げられる。
ここで挙げたいくつかの理念を基に教育のプログラムが組まれ、下は保育園から上は中学 校まで一貫した教育が行われている。
日本にはこのような一貫した学習のプログラムがない。そのため小学校で担任が授業を 行っていると、毎年指導者が変わり、指導の方法や内容に差が出てしまうこともある。ま
た幼稚園・保育園から小学校、小学校から中学校の連結も必要であり、それによって子ど もたちのレヴェルに適した指導ができる。
日本とハンガリーではともに小学校の低学年の音楽を教える教員が教育大学の出身者で ある。音楽小学校や一般小学校の高学年では音楽専科が教えているが、そこも日本の高学 年ではおもに音楽専科が教えているので同じである。ただ、同じように音楽の専門家では
なくてもハンガリーではコダーイ・システムによる徹底した教育プログラムの中で教える ので、指導しなければならないことや、達成させなければならないレヴェルが明らかにな っていて、教材をみて学習の内容を考えるという手間は省けるのではないかと思われる。
3章第3節の教材の比較からそれぞれの教科書について述べたが、そこから学習の進め 方がある程度わかった。学習する音程の順に並べた簡単校わらべ歌を繰り返し同じ音程を 歌わせる。また楽譜についても記号の一つずつの果たす役割などがわかりやすいように、
学習する順番や登場の仕方に工夫をしている。ある程度の音程感覚が身につくと二声の合 唱の学習になる。初めて学習する二声の教材には他のパートの音だけを頼りに、全く同じ 音から歌い始めなければならないという状況を作る力がある。二声の教材だけでなく、.他 の内容を学習する際も、子どもたちにとってそれらが必要な状態を作り、自然に身につく ようになっている。
日本ではできるだけ子どもたちの負担を減らそうという意識が強く、楽譜は1年生の時 から載せているが、ハ長調の読譜は3・4年生の指導内容になっている。何かそこには教 材と学習指導要領の目標にズレが生じているように感じられる。また合唱の導入として分 担唱や交互唱の教材が使われているが、それらにはハンガリーの教材のようなもう一方の
パートの音を集中して聴かなければ歌えない、という状態を作るカを持っていない。
日本の音楽教育はハンガリーの細かい指導法にも参考にすべき箇所がたくさんあるが、
枝や葉の部分だけでなく、この比較によって教育の根元の部分やプログラムなども見直す ことが必要であり、コダーイ・システムの一部導入なども考えられる。