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第4章  日本の合唱指導における現状と課題

第2節  参考にする指導法

 第1節でまとめたことに留意しながら、日本の学校教育でハーモニー感を身につけるた めの指導として参考になるものをいくつか挙げたい。特にここで述べるのは今すぐ実践が 可能であると思われるものである。

 まずは教材に着目する。ハンガリーの音楽教育が用いている、母国語の発音に近く、正 しい音程を身につけるための一つの手段であるわらべうたを日本の教育にも生かしたい。

過去には日本でもわらべうたブームというものが起こり、一部の知識人や音楽教育者がわ らべうたを音楽教育の基礎に用いるべきだと主張したが、現在ではそういった運動も下火 になっている。

 音楽評論家の園部三郎は「日本人の子どもは日本語を話し、その日本語によって歌をう たいはじめる。この現実の事実に基づいて日本人の子どもの語り言葉の発展であるわらべ

うたを、まず音楽教育の出発点とすべきである。j(「現代っ子の情動に勝てるか一わらべ唄 限界論再説」『音楽教育研究』 音楽之友社 1972)(引用は『音学教育を読む』よりpp.124

一125)と言っている。しかしながらそのわらべうたの効果は小学校低学年ぐらいまでの 児童が限界であろうとも述べている。ハンガリーの教科書でも1年生の間は100曲近いわ

らべうたを学習するが2年生から1ま民謡の学習が始まる。そして3年生になるとわらべう たは歌われなくなり、8年生まで民謡の学習をする。日本の場合民謡は西洋音楽とかけ離 れてしまうので童謡などをつかって対処をしなければならないが、学習する価値は十分あ

ると思われる。

 現在日本の教科書で扱われているわらべうたには、指導書に伴奏譜が用意されている。

本来わらべうたには伴奏がないので、ア・カペラにして歌わせたり、ハンガリーの保育園 での歌唱の時間のように手で音高を示しながら歌わせたり、簡単な教材であればあるほど 工夫が必要であり、そのような工夫によってただの遊びではなく、学習に結びつけること ができる。(『コダーイの音楽教育』①幼稚園・保育園 ②小学校1〜3年 ハルモニア

1989)

 さらに合唱の教材に着目する。日本では西洋の合唱の響きにはあまり親しみがないため、

ハンガリーと比べて合唱の単元への導入時には配慮が必要となる。そこで現在採用されて いるのが交互唱や分担唱といったほとんど音の重なりのない合唱教材である。この教材に よって自分の歌う声だけでなく、他の人の声に気づかせることができる。そして輪唱では それぞれがメロディーを歌えるためそれほどつられる心配もなく、音の重なりを体験する

ことができる。

 しかし、この次に学習されるのが主旋律と副次的な旋律を合わせた曲やパートナーソン グなのである。ここにはハンガリーで最初に学習されるような、片方がメロディーを歌う 間、もう一方のパートは1音をのばしておくというような教材が用意させるべきである。

どちらにも動きのある旋律を歌わせてしまうと、お互いに音をつられないようにと子ども たちは一生懸命歌ってしまうためお互いの音をあまり聴きあうことができない。さらに途 中までメロディーを歌っていて急に副次的な旋律を歌うような曲の場合、最初の音がとれ ないという問題も起こりやすい。導入の時期にはできるだけ音がとれないという状態を件

らないようにし、音の重なりを意識できるように配慮しなければならない。

 次に実際の指導についてであるが、授業の中でできるだけア・カペラの時間を設けるこ とが必要である。伴奏が付くとあまり音程を意識しなくても歌えてしまうため、音程に気 をつけることが少なくなってしまう。ただし、音程感があまり身についていない時期には わらべうたなどできるだけ跳躍音程のない、短く簡単なものを選ばなければならない。

 また遊びの一つとして音楽小学校で行われていたボール遊びなども音程感を身につける にはよい。6人の子どもが輪になり、指導者からそれぞれ一つずつ階名を付けられる。ボ ールを受け取った子どもは自分の階名を歌い、好きな方向にボールを投げて次の子どもに 回す。ここで歌わせる階名は、前に歌った子どもの音から自分の音を考えて歌わせている。

このように指導者は他の人の声しか頼るものがない状態をうまく作りだしている。これは 先に述べた合唱用の教材でも同じである。

 またハンガリーの音楽の授業では子どもたちは前に出て何人かで重唱や斉唱をしている 様子がよくみられた。人に聴いてもらう機会と人の歌を聴く機会が設けられている。また 指導者は何組かを演奏させると、どこのグループがよかったかを子どもたちに尋ね、子ど もたちは一番音程が正しくハーモニーが安定していたグループを評価していた。評価する ことや評価されることによって正しい音程で歌うことの大切さを知り、また自分の音に対

しても集中して耳を澄ますことができる。

 第1章で述べた日本の子どもたちに必要なハーモニー感は、正しい音程感や他の人の音 を聴く力を育てることのできる、これらの指導法を積み重ねていくことによって身につい ていくと考えられる。前にも述べたとおり、ハーモニー感とは和声進行や和音そのものを 歌う力ではなく、他のパートの音を感じとらえ、その音に合わせて歌い、和音を作る能力 である。このハーモニー感を育てるには合唱の単元に入る前からの学習が必要であるため、

教材または資料となったハンガリーの音楽小学校の様子を納めた映像は低学年、または幼 児期のものを参考としている。