*⑦・⑫・⑮は様々な階名で使われるため、階名を書いていない。
1年生の間は新出の音程や階名のひとつずつにその音程で構成させる曲がいくつも並 べられている。このような順序で学習されるのは「教科内容の理論によってではなく、
子供の音楽的発達の特徴を考慮することによって〜」(『音楽教育メソードの比較』 L.
チョクシー・R.エイブラムソン・A.ガレスピー・D.ウッズ共著 板野和彦訳 全音楽譜 出版社 1994 p.121)決定されたためである。音程だけではなく、リズムに関しても、
初めは四分音符、八部音符、四部休符、二部音符という順序で学習させ、拍子に関して も3拍子系よりも2拍子系から学習させる。
合唱教材に関してぽ2年生から学習される。初めて登場する教材は下のパートがメロデ ィを歌う間、上のパートは1音をのばしておくという、たった8小節の簡単な二声部
形式である。片方のパートが1音をのばしている間に、長2度、短3度、完全4度と
いった合唱曲でよく使われる和音を感じることができる。またメロディを歌うパート は完全4度の跳躍音程が出てくるが、もう片方のパートがのばしている音と同じ音を 歌えばいいので簡単に歌うことができるだけでなく、他のパートの音を聴いて歌うと いう練習もできる。このパターンの二声部形式の曲をいくつか学習し、次に輪唱の曲 を学習する。
最初に登場するのは2パートに分かれて歌う輪唱であるが、階名と四分音符と四部 休符で構成されるリズム講であるため、それほど難しくはなさそうである。
次にメロディのパートとオスティナートのパートの二つに分かれて歌う曲が登場す るが、これも4小節でとても短い。しかし、それぞれ簡単な旋律の中にも両パートが 同音になる拍があり、お互いの音を意識させることができる。そしてこの曲と同じメ
ロディを使った三声の曲が登場する。下の2パートは2拍ずれて歌い始め、4拍ずつ
のばすようになってい手。この2拍のずれがあるため、後から入るパートは先に歌い 始めたパートの音を聴いたり、心の中で歌ったりすることができる。さらに、カノン風の二声部形式の曲が登場する。最後の3小節までは全く同じ旋律 である。そのため先に歌い始めたパートを聴いたり、同じ音になる拍の音を合わせる 練習ができる。また階名で歌うため音程が確認しやすい。
他にも簡単で短い分担唱風の曲や和音を意識させるための曲などいくつかのパター ンで学習すると、16節程度の二声部形式の曲が登場する。ただ歌い始めがずれている など、もう片方のパートを意識しやすいものが多い。また、教科書に登場した2声部 形式の曲はすべて一曲が初めから終わりまで二声になっており、部分二部合唱のよう なものはなかった。
またここでは教材として教科書のみを調べたが、ハンガリーでは教科書の他に合唱曲集 やワークブックなどの補助教材が多く作られ、指導者たちはそれらをうまく活用しながら 授業を行っている。
(4)指導者
音楽小学校では1年生から音楽専科による授業が行われている。普通の小学校では1〜
4年生までは学級担任制、5〜12年生は教科担任制をとっている。音楽を教える教員はそ れぞれ持っている教員免許の種類が異なり、それらの免許を取得するためには違う課程で 学ばなければならない。
例えばリスト音楽アカデミーが音楽の高等教育を受け持っており、ここの三年課程には 一般小学校や音楽小学校の音楽専科の教員を養成する機関がある。また一般の教員養成大 学には三年課程と四年課程の二つがある。三年課程では低学年を教える教員、四年課程で は高学年を教える教員を養成している。
(5)読譜
ハンガリーの音楽の授業の中で、子どもたちは読譜をア・カペラで行っている。その際、
教師は音叉1本で児童に開始音を与えるのみである。カンテムス少年少女合唱団があるハ ンガリーの二一レジハーザ市の第4音楽小学校の授業では子どもたちが正しい音程で歌え
ていない場合に指導者がピアノで音を確認する場面が見られたが、多くは自分たちで楽譜 を読んだり、指導者の声を頼りに歌っている。(『世界最高の合唱団はこうして育てられた カンテムス少年少女合唱団の紹介』 ハルモニア 1993)
読譜について「音楽小・中学校の卒業生は完壁にソルミゼーションができますが、普通 の小・中学校はと言うとそれほどではありません。」(『合唱表現8号』 東京電化2004
「コダーイ・システムからの提言」 伊藤直美 p.3)と伊藤は述べている。一般の小学 校と音楽小学校では音楽に向き合う姿勢や授業時数が違うため、同じ方法で指導を行って
も全く同じ結果は得られない.ようである。しかし伊藤は音楽小学校出身の人もいれば普通 の小学校出身の人もいる合唱団の練習中の様子を次のように述べている。
r指導者が開始音を与え、拍打ちに合わせて全員でサイレント・シンギング(心の中で歌 うこと)をする。次に完壁にソルミゼーションできた人のみが歌い、他の人はサイレント・
シンギングを続ける。これを何度がくり返すうちに、正しい音が耳から入り、最後は全員 でラララで歌う。またこれは全パート同時に行う。音程の難しい箇所のみパート別に行う。」
(同雑誌の要約 p,3)
このように全員が同じように歌うことができなくても、正しい音程で歌おうとすること や、人の声を聴き取る能力など、ある程度の基礎的な力が身にっいているために可能な方 法であるということがわかる。
ここでは読譜の仕方について述べたが、音を心の中で歌ったり、人の声から音を聴き取 ったりすることによって、単に読譜力がつくというだけでなく、音に対する集中力が身に ついてくるということが言える。楽器や伴奏の音がつくとなんとなく歌えてしまうことが 多いため、ア・カペラという方法が特にその効果を生んでいると考えられる。
(6)移動ド唱法と固定ド唱法
ハンガリーの教科書には初めから移動ドで楽譜を読ませるように、同じ音程でも違う調 で書かれているものがたくさん登場する。それらは2〜4小節のとても短い旋律で、開始
音には階名がふられている。子どもたちはそのように簡単な楽譜をいろんなパターンで読 むことによって読譜カを身につけ、さらに移動ドというものにも自然に慣れていく。
ハンガリーの二一レジハーザ市の第4音楽小学校での授業では6人の子どもが一人一つ ずつ階名を決められ、輪になり、ボールを渡されるとその音を歌うという遊びを行ってい た。この遊びでは調に関係なく、前に歌った人の音と自分の与えられた階名との音程を意 識するカが身につく。このように子どもたちは楽譜の上で移動ドを学びながら、また楽譜 を離れた場所でも移動ドをつかって歌うという理論と実践を同時に行いながら移動ドで歌
うことを確実に身につけていく。
また指導は移動ドから始めるが途中からドイツ語音名も習い、子どもたちはどちらも並 行して学び、使い分けていく。同じ小学校の8年生の授業ではある旋律を階名唱した後、
音名唱もしていた。音名唱をする際に、左手を五線譜にみたててそれぞれの音を示しなが ら行っていた。これによって正しい音程感覚のほかに、正しい音高感も身についていく。