第 5 章 原子力発電を含めた各種発電源の 外部性評価に関する調査研究外部性評価に関する調査研究
5.2 外部性評価について
5.2.1 欧米における環境外部性評価( ExternE )
近年、欧米で環境外部性に関する検討や、議論が盛んに行われている。欧米では、発 電システムのエネルギー利用が地球温暖化や大気汚染の深刻化および酸性雨等の環境 に与える影響に対し、深い危惧や危機感を抱いている。これらの影響を定量的に評価 し、今後の政策に反映するために1991年〜1997年に渡りExternEと呼ばれるプロジェ クトが行われた。
プロジェクトの目的は、 環境影響や社会的費用の定量化による統合的な解析方法 論の開発と提供、 様々な燃料サイクル増設時の外部コスト評価の際に方法論を適用 し、その結果を利用した適切な社会的意思形成支援資料の提供、 新世代エネルギー・
経済・環境モデルへの環境的要素の組み込みによる、外部コストの市場価格への内部 化や政策手段の最適化の支援である[30]。
ExternEプロェクトは3期に渡り、第1期(1991〜1992年)には、欧州委員会と米
国エネルギー省との共同プロジェクトとして行われ、分析方法論の開発、8つの燃料サ イクル(石炭、石油、天然ガス、原子力、太陽光、風力、バイオマス、小規模水力)及 び4つの省エネルギーオプションの外部性の評価が行われた。第2期(1993〜1995年)
には、第1期の共同研究を引き継ぐ形で、欧州で研究が継続された。主な発電方式(石
炭、褐炭、石油、ガス、原子力、水力、風力)を対象として、方法論の開発と適用可能 性の実証研究が行われた。そして、第3期(1996〜1997年)には、欧州15ヶ国から50 以上のチームが参加して、約5百万ECUの予算規模で行われた。方法論の拡張検討と
ExternEの方法論の国別実施が行われ、各国や欧州連合における現実の政策形成の支
援に役立てられる段階に入った[30]。
表 5.1: 発電用燃料サイクルの外部費用試算結果(英国)
項目 石炭 石油 オルマルジョン ガス 原子力 風力 バイオマス 公衆の健康 23.50 19.80 17.30 3.30 2.08 0.78 4.70 職業人の健康 0.85 0.26 0.01 0.10 0.10 0.26 0.01 農作物 0.79 0.28 0.44 0.16 0.00 0.00 0.15 建築材料 0.65 0.41 0.34 0.03 0.00 0.00 0.02 騒音 0.15 0.15 0.15 0.03 0.00 0.07 0.10 地球温暖化※ 28.70 20.90 23.60 12.90 0.37 0.25 0.49 その他 nq nq nq nq nq nq nq
小計 54.6 41.8 41.8 16.8 2.55 1.36 5.47
※:割引率3%ケースと1%ケースの値の中央値、nq:定量化されず
出典:伊藤慶四郎,総論:エネルギー外部性研究の概要, エネルギー資源学会誌, Vol. 21, No. 6, pp. 10-15(2000)
評価の対象は、地球温暖化だけでなく、公衆の健康、職業人の健康、農作物、建築材 料および騒音に至る。地球温暖化に関して、評価の対象となった温室効果ガスはCO2、 メタン、N2Oであり、対象とする発電所から排出される温室効果ガスの大気中濃度か ら気温上昇を評価し、その気候変化による被害額を既存文献から推計している。公衆の 健康、職業人の健康に関しては、発電源からの大気汚染物質や放射性廃棄物等による人 体への影響を統計的生命の価値に基づいて貨幣換算している。また農作物、建築材料 に関しても、同様に発電源により発生した一次汚染物質(CH4,N2O,SO2,NO,SPM,HCl)
が大気中に拡散し、二次汚染物質(オゾン,H2SO4,NO2,HNO3,NH4Cl,硫化・硝酸エアロ ゾール)となり、それらが農作物や建築素材に与える影響を経済的価値付けを行うこ とにより評価している。騒音に関しては、顕示選好法、表明選好法により損害を評価 している。
また、割引率に関し、地球温暖化による損害の場合、割引率3%ケースと割引率1
%ケースの中央値が、放射線による公衆の健康損害(評価期間1万年)の場合、割引 率0%が採用されている。
[mECU/kWh]
0 10 20 30 40 50 60
図 5.1: 燃料サイクル別コストの比較(英国)
イギリスの燃料サイクル別の環境外部性コストの結果を、表5.1、図 5.1 に示す。
表、図より、公衆の健康損害に関して、原子力発電は2.08mECU/kWhであり、石炭
(23.50mECU/kWh)、石油(19.80mECU/kWh)、ガス(3.30mECU/kWh)のそれぞれ 8.9%、10.5%、63.0%となっている。また、地球温暖化に関する外部コストは、原子力発 電は0.37mECU/kWhであり、石炭(28.70mECU/kWh)、石油(20.90mECU/kWh)、 ガス(12.90mECU/kWh)のそれぞれ1.3%、1.8%、2.9%となっている。これより、原 子力発電は公衆の健康損害や地球環境問題に対する防止策として有力なエネルギー源で あるといえる。6項目の総合に関して、原子力発電の環境外部コスト(2.55mECU/kWh)
は、石炭(54.6mECU/kWh)、石油(41.8mECU/kWh)およびガス(16.8mECU/kWh)
のそれぞれ4.7%、6.1%、15.2%となっている。このようなことから、原子力発電は 環境外部性の観点から風力発電に次いで優れた発電源であるといえる。
我が国でも環境外部性について、ExternEの手法の導入と総合評価が検討されてい る。今後、このような評価は原子力発電に対する合理的な社会的合意形成のための有 力なツールとして期待される。