4. 分析と考察
4.2 海外電炉業界の実態に関する調査
4.2.2 欧州の電炉業界
(1)EU
加盟国における電炉業の概況
2009
年の
EU加盟国における電炉による生産量は粗鋼生産量全体の
43.4%に達しており、図
4.2.2-1に示す通り、電炉による生産量の割合は、最近
10年間では上昇傾向にある。
欧州における各国の粗鋼生産量の内訳は表
4.2.2-1に示す通りであり、
EU加盟国での主 な粗鋼生産国では、高炉と電炉が共存
12していることがわかる。また
EU加盟国全体の電 炉による生産量における各国の電炉による生産量の割合は図
4.2.2-1に示す通りである。
これによると、電炉による生産量が多いのは、イタリア、ドイツ、スペインである。イタ リア、スペインにおいては、表
4.2.2-1の粗鋼生産量の内訳を見ると、電炉による生産量 は
7割以上を越えているのに対して、ドイツは、
EU加盟国の中で電炉による生産量が二 番目に多いが、国内の内訳を見ると電炉による生産量は
3割強を占める程度である。
0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 千t
30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
% 45 電炉による粗鋼生産量
粗鋼生産量における電炉による生産量の割合
出典:World Steel, “Statistical Yearbook”, 2009より作成
図
4.2.2-1 EUの粗鋼生産量における電炉による粗鋼生産量と粗鋼生産量における
電炉による生産量の割合の推移
表
4.2.2-1 欧州における粗鋼生産量(2009年)
高炉(転炉) 電炉(アーク炉) 平炉 合計
生産量百万トン
割合
%
生産量 百万トン
割合
%
生産量 百万トン
割合
%
生産量 百万トン
ドイツ
21.3 65.1 11.3 34.6- -
32.7イタリア
6 30.2 13.9 69.8- -
19.9スペイン
3.2 22.2 11.2 77.8- -
14.4フランス
7.7 60.2 5.2 40.6- -
12.8イギリス
8 79.2 2.1 20.8- -
10.1ポーランド
3.2 45.1 3.9 54.9- -
7.1オーストリア
5.1 89.5 0.6 10.5- -
5.7 その他の EU 加盟国 23.3 64.4 12.2 33.7 0.7 1.9 36.2EU 加盟 27 カ国
77.8 56.1 60.3 43.4 0.7 0.5 138.8トルコ
7.6 30.0 17.7 70.0 0 0.0 25.3ロシア
(推計値) 33.1 55.2 17 28.3 9.8 16.3 60.0ウクライナ
(推計値) 16.2 54.4 1.3 4.4 12.3 41.3 29.8合計
134.7 53.1 96.3 37.9 22.8 9.0 253.9出典:UK Steel ホームページより作成
18.7%
23.1%
18.6%
8.6%
3.4%
6.5%
1.0%
20.2%
ドイツ イタリア スペイン フランス イギリス ポーランド オーストリア その他のEU加盟国
出典:UK Steel ホームページより作成
図
4.2.2-2 EU加盟
27カ国の電炉粗鋼生産量に占める各国の電炉粗鋼生産量の割合
過去
20年間で電炉の鉄鋼生産は、全体に占める割合でも実際の生産量でも増加傾向に
ある。生産量の増加傾向に対して、電炉の比率の上昇傾向が高い理由としては、 東欧諸国
で旧式の非効率な高炉や平炉の施設が閉鎖されていることが挙げられる。また、生産量が
増加した理由は、電炉工場の新設によるものである。メーカーでは、電炉工場を新設すれ
ば一つの工場に生産を統合し、非効率な平炉や旧式の高炉を閉鎖できるため、電炉工場を
新設することが多い。しかし、電炉工場に転換するため、比較的新しい高炉工場を閉鎖す
るという兆候はない。なお、設備投資額が低いことも電炉工場を選ぶ要因となっている。
電炉業にとって、電力価格は大きな影響を持つものであるが、EU 加盟国における各国 間のエネルギー電力価格の差は、電炉での生産に影響を与えるほどではない。たとえばド イツやイタリアは、ともに
EU内で電力価格が最も高い国だが、イタリアでは電炉による 鉄鋼生産が全体の
70%を占めるものの、ドイツでは35%にとどまっている。欧州の電炉製品は主に建設市場向けであるが、製品の品種構成は国によって異なってい る。従来から電炉による鉄鋼生産の割合が高いイタリア(全体の
70%)やスペイン(同 78%)のような国はロング製品の輸出で強力な地位を築いているが、その他の国では、標準的な 鋼板製品では輸出よりも輸入が多い。フランスは輸出入の均衡がとれ、ドイツは大半の鋼 板製品とロング製品で輸出に強い。また、欧州のほぼ全ての国が特殊鋼の輸出では強力な 地位を確保している。
重点的に生産している鉄鋼製品の種類は、欧州各国でそれぞれ 特徴があり、欧州全体と しての特徴を示すのは難しい。たとえばスペインは建設市場向けの低品位の製品に特化し、
ドイツは電炉で機械エンジニアリング・工業分野に適した鋼材を生産している。
欧州各国で新たに現れている共通した特徴は、電炉は一部の高付加価値製品の生産にも 用いられているものの、自動車業界向けの鋼材は依然として高炉で生産しており、欧州で 使われるスクラップの品質が向上し、DRI(直接還元鉄)の割合が増えない限り状況が変 わる見込みはない。
(2)EU
周辺諸国における電炉業の概況
EU
加盟国だけでなく、
EU周辺諸国まで見ると、欧州における電炉業の様相は異なって
くる。図
4.2.2-3にて示した通り、EU 加盟国にロシア、ウクライナ、トルコを加えて電炉
業を見ると、高炉、電炉とも粗鋼生産における比率が落ち、平炉の比率が高まる。これは ロシアやウクライナでは、EU 加盟国と比べて平炉の占める比率が高いためである。
電炉 43.4 高炉
56.1
平炉 0.5
平炉 9.0
電炉 37.9 高炉
53.1
0 10 20 30 40 50 60 70 80
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 (%)
ロシア ウクライナ トルコ
出典:World Steel, “Statistical Yearbook”, 2009 より 作成
図
4.2.2-4 ロシア、ウクライナ、トルコにおける電炉による粗鋼生産比率の推移トルコでは、図
4.2.2-4で示される通り、粗鋼生産量の
7割を電炉が占めている。生産 している製品のほとんどが建設業界向けのロング製品である。トルコで生産した製品は、
中東の建設業界に出荷されている。
ロシアは電炉による生産を奨励する政策を掲げており、電炉による生産の割合が着実に 伸びている。大規模な生産能力と高い効率性を備えた新規の電炉に代わって平炉や旧式の 高炉が段階的に閉鎖されている。さらにロシアでは、低価格の電力やスクラップが入手で きることなど、電炉業発展の要因となる状況も見ることができる。柔軟な生産水準や低コ スト、生産能力の拡大という魅力を背景に、ロシアの鉄鋼業界では電炉の割合の引 き上げ に取り組んでいる(図
4.2.2-4)。しかしながら、ロシアの高炉が完全に姿を消すわけではなく、電炉による生産を補完する形で両者が共存すると見込まれており、いずれは電炉の 成長が頭打ちになることが予想される。また、ロシアでは、大手メーカーが電炉の多様性 に注目し、高炉とほぼ同じ製品範囲を生産できる柔軟で低コストな代替生産方式として電 炉への投資を決めている。現在のところ欧州では、原材料に含まれる不純物のため、電炉 生産方式は自動車業界向けの高品位市場に参入でき ないが、こうした研究開発の拡大が不 純物の問題を解決するのに大きな役割を果たす可能性がある。
2)欧州における電炉業発展の経緯
欧州では、終戦直後の時代に電炉は特殊鋼や工業用鋼、ステンレス鋼に向いた炉となり、
特に時間をかけ溶解する高品位の合金鋼の生産方式とされていた。
1960
年代後半になると電炉は鉄筋の生産で最も一般的な方式となった。これと併せて生 産時間が重要性を増し、これが生産能力の規模や稼働時間で技術革新をもたらし、電炉は 新たに生産性の高い方式と認識されるようになった。また、 これにより電炉は、独立系の 小規模なミニミルにも採用できる技術となった。鉄鋼業における独立系メーカーは、電炉 生産方式の拡大のもと発展してきたのである。電炉は設備投資額が少なくてすむため新参 メーカーにとって魅力的であり、柔軟な生産方式は競争力の維持が必要なミニミルのニー ズに適していた。それと同時に、電炉の生産方式が広く採用されるにつれて電炉技術の発 達が促され、生産能力が向上し、生産時間が短縮するとともに電炉で生産できる製品範囲 も多様化した。
この傾向は
1980年代と
1990年代にミニミルの設立が増えるにつれて強まり、ロング製 品は電炉生産方式によって生産されるようになった。よく知られた例として、大手鉄鋼メ ーカーのアルベッド社(後のアルセロールミタルの一部)がある。同社はルクセンブルク の高炉を閉鎖し、これを建築構造用ビームの市場を対象とした電炉
3基に転換している。
ほかにもフランスのユニメタル社が線材市場向けに
160トンの直流式電炉を建設した例が ある。アルベッド社がこのような転換を行った理由として、変化のない鋼材需要に対応す るためには、高炉について、生産能力を引き下げるか、スクラップ利用工場へ転換するし かなかったことが挙げられる。これは、柔軟性のある電炉生産方式が高炉生産方式よりい かに競争力があったかを示している。
電炉生産方式によるロング製品が市場に広がると、スクラップの純度や鋼材の窒素含有 量を軸とする一層の技術研究が行われた。欧州ではアベルディ社が一部のフラット製品の 市場でも電炉生産方式を取り入れ始めた。
現在のところ高炉メーカーは主に鋼板類を生産し、電炉メーカーは主にロング製品を生 産するのが一般的な傾向である。これは地域や国によって違いがあり、また一部地域では 電炉メーカーが高品位のフラット製品を生産する動きが出ている。欧州全体では、電炉業 は比較的単純な低コストの鉄筋、ビーム、形鋼等の製品やコストの高い高品位の特殊合金 鋼の生産に集中する傾向がある。
3)欧州における電炉技術
電炉技術の動向は、電力コストが高い西欧を中心に電気消費量を減らすことが中心とな っている。電炉生産方式から排出される主な有害廃棄物である電炉ダストのリサイクルも、
生産能力の発展とともに重要な研究テーマである。
4.2.2-5 4.2.2-6
ドキュメント内
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