環境マネジメントシステムを「構築する」とは、本業を進める上において各活動が環境に どのように影響を及ぼしているのかを明確にし、その環境負荷(環境影響)を小さくする、
または環境に対して良い影響を与えるよう配慮し、継続的にその改善を行うための仕組みを 作ることを言います。また、そのために支援する業務も構築することが必要になり、それら は ISO9001 品質マネジメントシステムの支援業務と共通部分が多くあり、これらを活用する ことができます。
本業の環境に影響する要素(環境側面)は多くのものがあります。また、それらが法律な どで規制を受けていることもあります。
わが事業所は
・ どういう環境側面があるのか
・ それはどういう環境影響を及ぼすのか
・ 法規制は何があるのか
・ 近隣地域はどのような規制があるのか
など事業所の置かれている環境を現状把握することが必要で、それを「初期環境調査」と呼 びます。
構築基礎研修はそのための知識と技能を身につけることが目的です。サンプル文書を活用 する上でも大変重要なことです。全日本トラック協会主催の「ISO 実践セミナー」などの外 部講習会を利用することは有効な方法と考えられます。
<構築基礎教育の項目例>
・ 環境側面抽出方法と環境影響評価方法
・ 環境法令の種類と内容
・ 本業の分析方法
・ 著しい環境側面の特定 など
5.初期環境調査
事業所、およびその活動の現状を調査、把握することを初期環境調査といいます。この調 査は環境マネジメントシステムを構築する基礎となる非常に重要な活動です。
なお、以下の(1)、(2)、(3)項の調査結果は、「3.環境方針の決定」(31 ページ)に 反映します。
(1)環境側面とその環境影響
環境側面とは「環境と相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの 要素」と定義され、また、環境影響とは「有害か有益かを問わず、全体的に又は部分的に組 織の環境側面から生じる、環境に対するあらゆる変化」と定義されています。つまり、原因
(環境側面)に対しての結果(環境影響)ということです。
仕事を進める上で発生する環境側面の抽出について、環境側面に対する規格要求事項を下 記に示します。
環境側面は本手引き書の「2.適用範囲の決定」(23 ページ)に基づいて決めたシステム の範囲の中で抽出します。a)では環境側面の特定を、つまり、
① 組織が管理できる環境側面
② 組織は管理できないが、影響を及ぼすことのできる環境側面 の両方を特定しなさい、と要求しています。
そして b)では a)で特定した環境側面の中から「著しい環境側面」を決定するよう要求して います。「著しい環境側面」決定の仕方は規格では定められていません。つまり、組織が自由 に決めることができます。決め方については一例を「4)環境側面の影響評価」(43 ページ)
で解説します。
4.3.1 環境側面
組織は、次の事項にかかわる手順を確立し、実施し、維持すること。
a) 環境マネジメントシステムの定められた適用範囲の中で、活動、製品及びサービスについ て組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面を特定する。そ の際には、計画された若しくは新規の開発、又は新規の若しくは変更された活動、製品及び サービスも考慮に入れる。
b) 環境に著しい影響を与える又は与える可能性のある側面(すなわち著しい環境側面)を決 定する。
組織は、この情報を文書化し、常に最新のものにしておくこと。
組織は、その環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持するうえで、著しい環境側面 を確実に考慮に入れること。
( JISQ14001: 2004 )
「トラックで貨物を運送する」という活動の場合、代表的な環境側面と環境影響は次表の ようになります。
【代表的な環境側面と環境影響】
活動 環境側面 環境影響
軽油の使用 天然資源の枯渇 大気汚染
CO2の発生(地球温暖化)
排気ガスの排出
健康悪化
地域住民への迷惑 騒音、振動の発生
健康悪化 大気汚染 トラックで貨物を運
送する
粉塵の発生
健康悪化
上記は「通常」活動の環境側面で、この他「非通常」(時々行う:定期点検、修理など)の 活動や「緊急」(緊急な対応が必要:交通・貨物事故など)の活動も考える必要があります。
また、組織が直接管理できるものとして「自社従業員の活動による環境側面」があります。
さらに、影響をおよぼすことができるものとして「傭車先や取引先の活動による環境側面」
も考慮することが必要です。
環境側面は、現在実施している活動のみでなく、今後予定される活動の環境側面も抽出す ることが必要です。環境保全はあくまでも予防という観点に立って進める活動です。従って、
将来起こり得る事態に対しても環境側面を抽出しておくことが求められます。
また、有害な環境側面のみならず、有益な環境側面、つまりその活動により、プラスの環 境影響があるものについても抽出します。
<プラス環境側面の例>
・ 静脈物流
・ 植林、植樹
・ 地域清掃
・ 社内外への環境保全啓発活動
具体的な環境側面と環境影響調査の方法は「(4)本業の分析」(42 ページ)で解説します。
(2)法的要求事項およびその他の要求事項調査
組織が規制を受ける法律、条例、地域の協定、荷主の要求などを明らかにし、それが確実 に対応されているかを示すための調査です。規格要求事項を示します。
1)法的要求事項
a)では国の定める法律や省令、および地方自治体の条例のうち環境に関係し、自社が規制 を受けるものを特定します。さらに b)で、どの部署の誰が、何を、どのように対応するかを 決め、一覧表でまとめます。関連する法律の例を「参考3.環境関連法規一覧表」(84 ペー ジ)に示します。
トラック運送事業に関係の深い法律としては
・ 環境基本法
・ 廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃棄物処理法)
・ 使用済自動車の再資源化に関する法律(自動車リサイクル法)
・ エネルギーの使用合理化に関する法律(省エネルギー法)
・ 自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等 に関する特別措置法(自動車 NOX・PM 法)
などが上げられます。
地方自治体の条例については各地方の事情により大きく異なります。ディーゼル車の排出 ガス規制や産業廃棄物の処理などは、国の定めた法律以上の厳しい規制を設けている場合も 多くあります。
法律、条例の調査は、初期環境調査として避けて通ることはできません。各省庁ホームペ ージや解説書を活用し調査します。また、自治体によっては事業者の順守すべき法律、条例 を簡潔にまとめているところもあります。それらを活用することが得策です。
<法律、条例対応で注意すべき項目例>
法律、条例は改正が頻繁に行われるため注意が必要です。環境上の問題が社会問題となっ た際、行政の対応として、規制強化の方向で改正されることが多くあります。また、条例は 法律より厳しくなる場合がほとんどです。
4.3.2 法的及びその他の要求事項
組織は、次の事項に関わる手順を確立し、実施し、維持すること。
a) 組織の環境側面に関係して適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を 特定し、参照する。
b) これらの要求事項を組織の環境側面にどのように適用するかを決定する。
組織は、その環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持するうえで、これらの適用可能 な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を確実に考慮に入れること。
( JISQ14001: 2004 )
① 廃棄物処理法
・ 産業廃棄物の処理方法およびマニフェストの管理
注意点:産業廃棄物と認識していなく、従ってマニフェスト処理の対象としていない ことがあります。また、マニフェストを決められたとおり管理していないこともあり ます。
・ 産業廃棄物に対して、収集運搬業者、中間処理または最終処分業者との契約書の取り 交わし
注意点:契約書、許可証の期限切れや取り交わしていないことがあります。
・ 一般廃棄物の処理
注意点:地方条例によっては一般廃棄物も契約書の対象としていることがあります。
・ 産業廃棄物の持込み
注意点:持込みを禁止している自治体があります。県をまたいでの引越し業者は要注 意となります。(産業廃棄物の持込みを規制する自治体があります)
② 振動、騒音規制法
・ 営業所でのトラックのアイドリング騒音
注意点:法律以上の厳しさを求める地域があります。
・ エアーコンプレッサー
注意点:一定規模以上の出力を有する場合は指定地域では届出の対象となります。
③ 自動車 NOx.PM 法
・ 適用地域⇒首都圏、愛知・三重圏、大阪・兵庫圏内の対策地域
この地域での登録(継続)が禁止される法律であり、運行規制ではありません。
④ 自動車の粒子状物質排出基準に対する地方条例
・ 自動車 NOx.PM 法では対策が充分でない、という判断をした自治体が独自に条例を制 定しています。その地域を通過するだけでも規制の対象となります。
・ 自治体で条例の名称は異なり(例:東京都では「都民の健康と安全を確保する環境に 関する条例」)、規制内容も微妙に異なります。
例:東京都⇒条例で定める PM 排出基準を満たさないディーゼル車の島部を除く都内 全域への運行の規制
兵庫県⇒自動車 NOx.PM 法の排出基準を満たさないディーゼル車の一部地域への 運行の規制
対象地域を運行する事業者は注意が必要です。
2)その他の要求事項
法律並びに地方条例以外にも地域によっては、地域協定を定め更に厳しい規制を設けてい る場合があります。規格要求事項としては、このような協定に対しても特定を行うとともに、
荷主の環境方針や環境に対する要求事項についても特定が必要となります。
以上の「法的要求事項」や「その他の要求事項」の調査を進めていくと、違反している項 目も見つかることがあります。構築の段階で速やかに対応し、順守することが必要です。