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楽曲検索における歌詞の利用可能性に関する仮説

ドキュメント内 楽曲検索システム    (ページ 63-68)

第 5 章 楽曲,歌詞,色彩の結びつきを利用し た楽曲検索手法の実現可能性た楽曲検索手法の実現可能性

5.1 楽曲検索における歌詞の利用可能性に関する仮説

3.3.2節で述べたように,坂本・鎌田(2007)[45]によって,音楽や色彩に関する

特別な訓練を受けていない一般的な被験者においては,楽曲の試聴時に,楽曲の試 聴から具体的なシーンを想起することで色彩を想起するという認知プロセスが確認 されている.しかし,坂本・鎌田(2007)では,このプロセスを楽曲検索に利用す るための具体的な手法については,提案されていない.

本研究は,歌詞には具体的なシーンに関する記述が含まれていることを考慮し,坂 本・鎌田(2007)が示した認知プロセスを具体的に利用するための手がかりとして,

楽曲の歌詞に着目した.被験者が楽曲の試聴時に,歌詞の内容に基づいて具体的な シーンを想起しているとすれば,少なくとも,歌詞付きの楽曲の試聴から想起され る色彩と歌詞のみの提示から想起される色彩には相関関係があると予想される.こ の相関関係を確認することができれば,例えば, 海 や 空 に関する単語が多く 含まれていれば 青 , 山 や 森 に関する単語が多く含まれていれば 緑 , というように,歌詞に含まれる具体的な場面に対応する色彩を利用することで,楽 曲の試聴から想起される色彩が推定可能であることを示すことができる.すなわち,

歌詞の解析によって楽曲の試聴から想起される色彩が推定可能であることを示すこ とができる.

5.1: 実験の種類 実験 内容

実験1 楽曲の試聴からの色彩想起実験 実験2 歌詞のみの提示からの色彩想起実験

以上から,本章では,心理実験によって以下の仮説を検証することで,楽曲の試 聴からの具体的なシーン想起に基づいて色彩を想起するというプロセスを応用する 楽曲検索技術の実現可能性を示す.

[仮説]

歌詞付き楽曲の試聴時に,歌詞の内容に基づいて具体的なシーンを想起してい れば,少なくとも,歌詞付き楽曲の試聴によって想起される色彩と歌詞のみの 提示によって想起される色彩の間に相関関係がある.

5.2 実験内容

5.1節で設定した仮説の検証を行うため,本研究では2種類の心理実験を実施した.

一方は,楽曲の試聴から想起される色彩を調査するための実験(実験1)であり,他 方は,歌詞のみの提示から想起される色彩を調査するための実験(実験2)である

(表5.1参照).

5.2.1 被験者

実験に参加した被験者は,大学生120名(男性83名,女性37名,平均年齢20.74 歳)である.これらの被験者を2つのグループに分け,一方を実験1に割り当て,他 方を実験2に割り当てた.実験1に割り当てられた被験者は60名(男性36名,女 性24名,平均年齢20.70歳)であり,実験2に割り当てられた被験者は60名(男性 47名,女性13名,平均年齢20.78歳)である.本実験では,互いのグループに他方 のグループで行っている実験内容を知らせないようにするため,実験1と実験2は,

それぞれ別の日程で実施した.

また,後述するように,本実験で使用する楽曲数は80曲と多いため,1人の被験 者に80曲全てを割り当てると被験者負担が大きくなる.そこで,被験者負担を抑え るために,実験1および実験2の両方において,被験者を30名ずつのグループに二 分し,一方のグループには用意した80曲のうち40曲を割り当て,他方のグループ には残りの40曲を割り当てることにした.したがって,それぞれの実験において,

1曲あたり30名の被験者から回答を得た.

5.2.2 使用楽曲

本章で行う心理実験は,以降で詳述する心理実験から得られた結果を用いて,具 体的なシステム実装(次章)を行うことを念頭に置いている.しかし,心理実験に おいて使用可能な楽曲数には限界がある.計算機に実装されたシステムが心理実験 に使用した楽曲のみにしか対応できないのであれば,そのシステムの有用性は非常 に低い.

ここで,様々な歌詞に高頻度で出現する単語を多く含む歌詞であるほど,その歌 詞は一般的な歌詞である可能性が高いと考えられる.歌詞から色彩を想起するため の,一般的な認知メカニズムを調査するためには,一般的な歌詞を用いた心理実験 の結果を分析することが好ましいと考えられる.その結果,一般的な認知メカニズ ムを発見することができれば,心理実験に使用していない多くの未知楽曲にも対応 できると考えられる.

また,本章で述べる心理実験の目的は,歌詞付きの楽曲の試聴から想起される色 彩と歌詞のみの提示から想起される色彩の間の相関関係を確認することである.こ のとき,歌詞に対応する楽曲が容易に推測できる場合に得られた色彩は,純粋に歌 詞から想起される色彩ではなく,歌詞以外の要素の影響(e.g., アーティストの印象,

CDジャケットの色彩,メロディなど)によって想起される色彩である可能性が排 除できない.したがって,この可能性を排除した上で,歌詞から想起される色彩と 楽曲の試聴から想起される色彩の関係を調査しなければならない.

以上を考慮し,本研究では,様々な歌詞に高頻度で出現する単語をできるだけ多 く含み,かつ,歌詞から楽曲を特定しにくい楽曲となるように使用楽曲を選曲した.

具体的には,1578曲の歌詞から抽出された単語の使用頻度をまとめ, 単語使用頻 度リスト として公開されているデータ1 を用いて,この 単語使用頻度リスト に 含まれる単語のうち,出現回数が30回以上の単語をできるだけ多く含む歌詞を持つ 楽曲を,音楽試聴サイトや歌詞検索サイトを参考に人手で選曲した.この作業は,3 名のジャッジによって,可能な限り,アーティストや曲調が異なり,かつ,歌詞から 楽曲を特定しにくい楽曲となるよう配慮しながら,多数決によって行った.結果的 に,本章の心理実験では,付録Aに示す80曲を使用した.ただし,本章で実施する 心理実験は,使用する楽曲数が多いために被験者負担が大きい.このことを考慮し,

楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)および歌詞のみの提示からの色彩想起実験

(実験2)の両方において,楽曲の1番に相当する部分のみを使用することにした.

なお,本章で実施した2種類の心理実験の両方において,順序効果を考慮し,被 験者毎に,実験開始時に計算機によって無作為に楽曲を並び替えることで,被験者 に提示する楽曲の順序を決定した.

1千種研究室2007年度の卒業研究において,佐藤慎也氏が公開していたデータ.最終確認日:201057 日.http://www.teu.ac.jp/chiit/2007/ (佐藤慎也氏のページへリンクされている)

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29 30 31 32 33 34 35

5.1: 実験で使用したカラーパレット 5.2.3 使用色彩

実際の楽曲検索システムの運用において,クエリとして色彩を用いる場合,専門 的で複雑なカラーチャートを用いるよりも,日常的に馴染みがあり,かつ,適度に色 数が充実しているサンプルカラーをインターフェイスとして用いる方が,ユーザは 使いやすいと考えた.そこで,本研究では,Microsoft社のWord2003の標準カラー パレットに採用されている色彩を実験に使用した.ただし,予備実験によって,こ の標準カラーパレットに用意されている40色のうち,互いの色彩の区別が難しい 色彩(すなわち,被験者が判断に迷うと考えられる色彩)と判断された5つの色彩

(ツールチップに表示される名称が「濃い青緑,青緑,アクア,スカイブルー,ペー ルブルー」である色彩)を削除し,35色の色彩を被験者に提示することにした.実 際に被験者に提示した35色のカラーパレットを図5.1に示す.なお,図5.1に示す 各色彩に関して,ツールチップに表示される名称は,各色彩の番号ごとに,1(黒),

2(茶),3(オリーブ),4(濃い緑),5(濃い青),6(インディゴ),7(80%灰

色),8(濃い赤),9(オレンジ),10(濃い黄),11(緑),12(青),13(ブルー グレー),14(50%灰色),15(赤),16(薄いオレンジ),17(ライム),18(シー グリーン),19(薄い青),20(紫),21(40%灰色),22(ピンク),23(ゴール ド),24(黄),25(明るい緑),26(水色),27(プラム),28(25%灰色),29

(ローズ),30(ベージュ),31(薄い黄),32(薄い緑),33(薄い水色),34(ラ ベンダー),35(白)である.実験1と実験2の両方において,図5.1に示すカラー パレットを被験者に提示した.

5.2.4 楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)

実験1では,被験者に楽曲の1番に相当する部分を試聴させ,そのときに想起さ れる色彩を回答させた.色彩の回答に関しては,楽曲の試聴に対する直感的な印象 を回答させるために,各楽曲の試聴終了から4秒以内に回答しなければならないと いう時間制限を設けた.実験は静かな部屋で行い,余計な音によって影響を受けな いように配慮した.

5.2: 色彩の回答方法 想起される色彩数 回答方法

1 想起される色彩を3回回答する

2 より強く想起される色彩を2回回答し,他方を1回回答する 3 想起される色彩を1回ずつ回答する

色彩の回答方法に関しては,想起される色彩が1色とは限らないこと,および,被 験者負担を極力抑えなければならないことを考慮し,想起した色彩を最大で3色回 答するよう求めた.ここで,想起される色彩が単色の場合と複数色の場合では,色 彩が想起される強さは異なると考えられる.すなわち,複数色を想起する場合,そ れぞれの色彩を想起する強さは,単色を想起する場合よりも弱いと考えられる.こ のことを考慮し,被験者には,表5.2に示す回答方法により,想起される色彩数に 関わらず,一律に3回回答するよう求めた.

例えば,赤のみが想起される場合は,赤を3回回答し,赤と青が想起され,より 強く想起したのが赤である場合は,赤を2回と青を1回回答する.そして,赤と青 と緑が想起されれば赤と青と緑を1回ずつ回答する.

5.2.5 歌詞のみの提示からの色彩想起実験(実験2

実験2では,実験1とは異なる被験者に,実験1で使用した楽曲の1番に相当する 歌詞を提示し,歌詞を読んだときに想起される色彩を回答させた.色彩の回答方法 は実験1と同様の方法を用いた.このとき,被験者には,色彩の回答と同時に,色 彩の想起に影響を与えた歌詞中の 箇所 も回答するよう求めた.これは,被験者 が歌詞のみの提示から色彩を想起する際に,歌詞中のどの部分の情報を用いている かを調査するためである(5.3.3節で詳述).ここで,被験者に対して,色彩の想起 に影響を与えた歌詞中の 単語 とせず, 箇所 を回答するという漠然とした指示 を行った理由は,被験者が,歌詞のみの提示から色彩を想起するために,単独の単 語から影響を受けたのか,句や文のように複数の単語から構成される部分から影響 を受けたのか,を調査するためである.

さらに,被験者には歌詞から楽曲が分かったかどうかも回答するよう求めた.こ れは,5.2.2節で述べたように,実験2が歌詞のみの提示から想起される色彩を調査 する目的で行うためである.つまり,歌詞に対応する楽曲が推測できた場合に得ら れた色彩は,歌詞そのものから想起される色彩ではなく,歌詞以外の要素から想起 される色彩である可能性が排除できない.そのため,楽曲名が分かったと回答した 被験者の回答は,無効回答とした.

実験は静かな部屋で行い,余計な音によって影響を受けないように配慮した.ま た,色彩の回答は,被験者に歌詞の内容の理解に基づいて回答させるために,時間 制限を設けず,被験者のペースで回答させた.

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