• 検索結果がありません。

共感覚比喩の理解における経験基盤の重要性の検証

ドキュメント内 楽曲検索システム    (ページ 48-61)

第 4 章 人間の認知活動における経験基盤の重 要性要性

4.4 共感覚比喩の理解における経験基盤の重要性の検証

本節では,大規模な心理実験を実施し,実験から得られたデータを分析すること で,これまで経験基盤が重視されていない共感覚比喩においてさえ,我々の経験基 盤が重要であるということを確認する.これによって,経験に基づくシーン想起に 着目して楽曲検索における色彩の利用を検討することが,認知的に妥当なアプロー チであることを確認する.

4.4.1 仮説の設定

共感覚比喩の理解において,我々の経験基盤が重要な役割を果たしていることを 検証するために,本研究では,Utsumi & Sakamoto (2007) [54]の2段階カテゴリ化 モデルを参考にした.

2段階カテゴリ化モデルは,共感覚比喩を含む形容詞比喩では,形容詞が表す特徴 と名詞が表す特徴は直接的に結びついておらず,図4.6に示すように,形容詞に関 する具体的な成員から形成される仲介カテゴリを介して,形容詞と名詞が相互作用 する,というモデルである.例えば, 赤い声 という共感覚比喩を理解する場合,

赤い に関する具体的な成員から, 赤いもの という仲介カテゴリが形成される.

この仲介カテゴリと 声 が相互作用することで,最終的に, 悲鳴 , 血 , 危 険 といった特徴が出現することになる.

Utsumi & Sakamoto (2007)は,共感覚比喩を含む形容詞比喩の意味を,形容詞と 名詞で構成される多次元意味空間上のベクトルとして表現し,人間の形容詞比喩に 対する理解を模倣するための計算機シミュレーションによって,2段階カテゴリ化 モデルの妥当性を確認している.このシミュレーションには,2段階カテゴリ化モ デル,比較モデル(Bowdle & Gentner,2005 [2]),類包含性モデル(Glucksberg,

2001 [8];Glucksberg & Keysar,1990 [9])の3種類のモデルが用いられている.こ のシミュレーションの結果,2段階カテゴリ化モデルが最も良い結果を示したこと から,共感覚比喩を含む形容詞比喩の理解は,2段階カテゴリ化モデルが妥当であ ると報告している.ただし,Utsumi & Sakamoto (2007)では,仲介カテゴリと被喩 辞(i.e., 名詞)の間にある具体的な関係や,仲介カテゴリと被喩辞が具体的にどの ようなプロセスを経て相互作用するのか,という点に関する詳細な説明は未解決の ままである.

4.6: 2段階カテゴリ化モデル

4.7: 2段階カテゴリ化モデルにおけるシーン想起

本研究では,Utsumi & Sakamoto (2007)の2段階カテゴリ化モデルにおける仲介 カテゴリと被喩辞の相互作用が,図4.7に示すように,経験に基づく具体的なシー ン想起を介して行われると考え,以下の仮説を設定した.

[仮説]

共感覚比喩の理解では,喩辞(i.e., 形容詞)から様々な具体物が想起される.

そして,想起された具体物と被喩辞(i.e., 名詞)が表す感覚が,それらを典型 的に同時に知覚するシーンの想起を介して相互作用する.この相互作用のため,

共感覚比喩の理解では,具体的なシーン想起が重要な役割を果たしている.

この仮説の妥当性が検証されれば,これまで経験基盤が重視されていなかった共 感覚比喩においてさえ,我々の経験基盤が重要であるということを確認できる.

以降では,この仮説の検証を,心理実験および実験結果に対する2種類の分析に よって行う.分析1では,共感覚比喩の理解において,喩辞(i.e., 形容詞)に関する 顕著な特徴と被喩辞(i.e., 名詞)に関する顕著な特徴が,直接的に結び付けられて

いるのではないということを確認する.分析2では,喩辞と被喩辞が経験基盤(i.e., シーン想起)によって相互作用していることを確認する.

4.4.2 心理実験 被験者

被験者は株式会社マクロミルのwebアンケート調査に参加した20歳から78歳ま での3,266名の男女(平均年齢37.39歳)である.このうち,男性は1,418名(平均年 齢40.13歳),女性は1,848名(平均年齢35.28歳)である.

実験材料

Sakamoto & Utsumi(2009)[44]では,形容詞比喩から喚起される認知的効果を 調査するために,25種類の形容詞と11種類の名詞を総当りで組み合わせることに よって形容詞比喩が作成されている.そして,作成された形容詞比喩に関する理解 しやすさと慣習度を,7段階SD法(-3から+3までの整数値)によって評定する予 備実験を行い,理解しやすさあるいは慣習度が極端に大きい値とならなかった(具 体的には,-2から+2までの値となった)共感覚比喩を実験刺激として採用してい る.これは,新奇かつ理解可能な形容詞比喩を刺激として用いるためである.結果 的に,彼女らは158種類の形容詞比喩を心理実験で使用している.

本研究では,Sakamoto & Utsumi(2009)で使用された158種類の形容詞比喩の うち,喩辞と被喩辞が共に感覚モダリティに属する語である62の形容詞比喩(i.e., 共感覚比喩)を実験材料として採用した.本章の心理実験で使用した共感覚比喩は,

表4.3に示す62の共感覚比喩である.

実験手続き

実験に参加した3,266名の被験者を20グループに分け,グループ1〜4の被験者 には共感覚比喩を構成する形容詞および名詞(7〜8語)を単独で提示し,その他のグ ループの被験者には共感覚比喩(3〜4語)を提示した.被験者には,提示された表現

(i.e., 形容詞,名詞,あるいは共感覚比喩)から連想した語を自由記述により最大で

3つ回答するよう求めた.なお,与えられた表現に対する連想語を2つ以上回答しな いと次の刺激は提示されないようにした.また,被験者に刺激を提示する際,読み 間違えないよう, 辛い , 臭い , きな臭い , 生臭い には,振り仮名( か らい , くさい , きなくさい , なまぐさい )を添えて表示した.

実験結果

連想語は被験者の自由記述によって回答されたものである.このため,例えば, ば ら , バラ , 薔薇 のように,同一の概念を表し同一の読みを持つ語でも平仮名,

4.3: 実験に使用した共感覚比喩

軽い味,軽いにおい,軽い色,固い味,固い色,固い声 柔らかい味,柔らかいにおい,熱い味,熱いにおい 熱い色,冷たい味,冷たいにおい

おいしい色,おいしい声,甘い手触り,甘い色 辛いにおい,辛い色,辛い声,酸っぱい色 酸っぱい声,渋い手触り,渋いにおい

香ばしい色,香ばしい声,かぐわしい味,かぐわしい色 かぐわしい声,臭い味,臭い色,臭い声,生臭い色 生臭い声,きな臭い味,きな臭い色,きな臭い声 赤い味,赤い声,青い味,青いにおい,青い声 白い味,白い声,黒い味,黒いにおい,黒い声 黄色い味,黄色いにおい

静かな手触り,静かな味,静かな色

うるさい手触り,うるさい味,うるさいにおい やかましい味,やかましいにおい,やかましい色

騒がしい手触り,騒がしい味,騒がしいにおい,騒がしい色

片仮名, 漢字という表記ゆれが存在する.本研究では,この表記ゆれを除去するた めに,被験者の回答を日本語シソーラスである日本語語彙大系[14]で検索し,検索 に成功した場合は,検索された語に対して登録されている表記のうち,先頭の表記 に統一するという手続きを実施した.例えば,日本語語彙大系において 薔薇 を 検索した場合,その表記として 薔薇 , バラ , ばら という順に記載されてい る.したがって, 薔薇 , バラ , ばら という表記は,先頭の表記である 薔 薇 に統一される.

ただし,この手続きだけでは同音異義語の問題が残る.例えば,日本語語彙大系 で ばら という表記を検索した場合, rose を意味する 薔薇 と field を意 味する 原 の2通りの概念が検索されてしまう.そこで,検索された概念が複数 の場合,検索された概念の上位概念と,検索された概念の先頭の表記および被験者 に提示した刺激を考慮して,3名のジャッジのうち2名以上のジャッジが適切である と判断した概念の先頭の表記に統一するという手続きを実施することで,同音異義 語の問題に対応した.

本研究では,以上の表記ゆれ除去の手続きを施した後,2名以上の被験者の回答と なった連想語を有効回答とした.その結果,連想語の延べ数は10,388となった.以 降(分析1および分析2)では,この10,388の連想語に対して分析を行う.

4.4.3 分析1:喩辞と被喩辞の間接的な結びつきの検証

この分析では,共感覚比喩の理解において,喩辞(i.e., 形容詞)に関する顕著な特 徴と被喩辞(i.e., 名詞)に関する顕著な特徴が,直接的に結び付けられているので

4.4: メタファーの理解において出現する特徴

喩辞特徴 喩辞に関して顕著であるが,被喩辞に関して顕著でない特徴 被喩辞特徴 被喩辞に関して顕著であるが,喩辞に関して顕著でない特徴 共有特徴 喩辞と被喩辞の両方に共通して顕著である特徴

創発特徴 喩辞単独の理解や被喩辞単独の理解では顕著でない特徴

はないということを確認する.これは,本研究において設定した仮説が,喩辞(i.e., 形容詞)に関する顕著な特徴と被喩辞(i.e., 名詞)に関する顕著な特徴は仲介カテ ゴリを通して相互作用しているというUtsumi & Sakamoto(2007)の2段階カテゴ リ化モデルを基礎としているためである.本研究では,共感覚比喩の理解において,

喩辞に関する顕著な特徴と被喩辞に関する顕著な特徴が直接的に結び付けられてい るのではないことを確認するための手法として,Becker(1997)[1]の手法を参考に

した.Becker(1997)は,名詞比喩の喩辞に関する顕著な特徴と被喩辞に関する顕

著な特徴が,直接的に結び付けられているかどうかを調査した研究である.

Becker(1997)によれば, A child is a sponge のような新奇性のあるメタファー の理解において出現する特徴としては,表4.4に示す4種類の特徴が考えられる.第 1の特徴は,喩辞(i.e., sponge)に関して顕著であるが,被喩辞(i.e., child)に関 して顕著でない特徴である.したがって,この特徴は,喩辞を単独で理解する場合 と比喩を理解する場合の両方において,共通して出現する特徴である.彼女は,こ のような特徴を喩辞特徴(vehicle-shared feature)と呼んでいる.第2の特徴は,被 喩辞に関して顕著であるが,喩辞に関して顕著でない特徴である.したがって,こ の特徴は,被喩辞を単独で理解する場合と比喩を理解する場合の両方において,共 通して出現する特徴である.彼女は,このような特徴を被喩辞特徴(topic-shared

feature)と呼んでいる.第3の特徴は,喩辞と被喩辞の両方に共通して顕著な特徴

である.したがって,この特徴は,喩辞を単独で理解する場合,被喩辞を単独で理解 する場合,比喩を理解する場合の全てにおいて,共通して出現する特徴である.彼 女は,このような特徴を共有特徴(common feature)と呼んでいる.第4の特徴は,

喩辞単独の理解や被喩辞単独の理解では顕著でない特徴である.したがって,この 特徴は比喩の理解のみに出現する特徴である.彼女は,このような特徴を創発特徴

(emergent feature)と呼んでいる.

Becker(1997)は, A is a B 形式の名詞メタファーに関する理解プロセスを

調査するために,心理実験を実施した.彼女は被験者を2つのグループに分け,一 方のグループには,喩辞(i.e., B )あるいは被喩辞(i.e., A )を単独で提示 し,提示された刺激に関する特徴を回答するよう求めた.また,他方のグループに は,名詞メタファーを提示し,提示された刺激に関する特徴を回答するよう求めた.

そして,彼女は,名詞メタファーに関する特徴を表4.5に示す4種類の特徴に分類 した.その結果,異なり数に関しては,喩辞特徴と創発特徴が被喩辞特徴や共有特 徴よりも統計的に有意に多く,また,喩辞特徴と創発特徴の間には統計的な有意差

ドキュメント内 楽曲検索システム    (ページ 48-61)