第 5 章 楽曲,歌詞,色彩の結びつきを利用し た楽曲検索手法の実現可能性た楽曲検索手法の実現可能性
5.3 実験結果および考察
本章で行った心理実験の結果を分析するにあたり,本節では2種類の分析を行う.
一方は,本章の心理実験で使用した35色の各色彩の選択率に関して,楽曲の試聴か らの色彩想起実験(実験1)から得られた結果と歌詞のみの提示からの色彩想起実 験条件(実験2)から得られた結果を比較する分析である.他方は,本章の心理実 験で使用した35色の色彩を類似色でグループ化し,各色彩グループの選択率に関し て,楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)から得られた結果と歌詞のみの提示 からの色彩想起実験条件(実験2)から得られた結果を比較する分析である.
5.3.1 心理実験で使用した各色彩に関する結果
楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)の結果
それぞれの楽曲に関して,被験者が回答した上位N位までの色彩に関する累積回
答率rcumulative(N)を,式(5.1)により求めた.
rcumulative(N) =
∑N
n=1a(n)
∑35
n=1a(n) (5.1)
ただし,a(n)は回答数の多い上位n(n= 1, ...,35)位の色彩に関する述べ回答数と する.
表5.3は,式(5.1)におけるN の値が1から5までの,全80曲に関する累積回 答率の平均値を示す.表5.3から,選択可能な色彩が35色あるにも関わらず,被験 者の想起した色彩は特定の上位色に偏りがあることが分かる.また,全体的に見て,
全く選択されなかった色彩はなかった.このことは,実験で使用した各楽曲の試聴 から想起される固有の色彩が存在することを示している.
歌詞のみの提示からの色彩想起実験(実験2)の結果
5.2.5節で述べたように,実験2では,各楽曲に関して,楽曲名が分かったと回答
した被験者の回答を無効回答とした.実験の結果,30名の被験者のうち,1曲あた
表5.4: 歌詞のみの提示からの色彩想起実験(実験2)の結果 N 累積回答率の平均値
1 0.2352
2 0.3718
3 0.4745
4 0.5545
5 0.6202
りの有効回答として扱われた被験者の平均人数は29.34名(98%),最大人数は30 名(100%),最少人数は24名(80%)であった.
それぞれの楽曲に関して,被験者が回答した上位N位までの色彩に関する累積回
答率rcumulative(N)を,実験1と同様に,式(5.1)により求めた.表5.4は,式(5.1)
におけるNの値が1から5までの,全80曲に関する累積回答率の平均値を示す.表 5.4から,選択可能な色彩が35色あるにも関わらず,被験者の想起した色彩は特定 の上位色に偏りがあることが分かる.また,全体的に見て,全く選択されなかった 色彩はなかった.このことは,実験で使用した各楽曲の歌詞の提示から想起される 固有の色彩が存在することを示している.
実験1と実験2の比較
それぞれの楽曲に関して,楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)で被験者が回 答した各色彩の選択率と,歌詞のみの提示からの色彩想起実験(実験2)で被験者 が回答した各色彩の選択率を比較する.比較はPearsonの積率相関係数rを求める ことによって行う.すなわち,楽曲mi(i= 1, ...,80)に関して,楽曲の試聴からの色 彩想起実験(実験1)における色彩cj(j = 1, ...,35)の選択率をxij,歌詞のみの提示 からの色彩想起実験(実験2)における色彩cjの選択率をyijとして,楽曲miにお ける変数xとyに関する相関係数rを求める.
この比較によって得られた,相関係数rの分布を表5.5に示す.表5.5において,
中央列の数値は左端列に示す範囲の相関係数となった楽曲数を表し,右端列の数値 は左端列に示す範囲の相関係数となった楽曲のうち,有意確率5%水準(両側)を 満たす楽曲数を表す.本節では,35色の色彩の選択率によって相関係数を求めてい るため,相関係数の導出に用いたサンプルサイズは35である.したがって,相関係 数の検定(両側)における棄却の限界値は0.3338である.
Pearsonの積率相関係数は,0.2以上の場合に相関関係があるとされている[42].し たがって,表5.5から分かるように,本章の心理実験で使用した全80曲中74曲に相 関関係が見られた.このうち,有意確率5%水準(両側)を満たす楽曲に限定した 場合でも,80曲中66曲に相関関係が見られた.この結果は,楽曲の試聴から想起 される色彩と歌詞のみの提示から想起される色彩の間に相関関係があることを示し ている.したがって,歌詞付きの楽曲の試聴から想起される色彩と歌詞のみの提示
表 5.5: 実験1と実験2の比較結果
相関係数r 楽曲数 p < .05
0.9≤r≤1.0 0 0
0.8≤r <0.9 7 7
0.7≤r <0.8 11 11
0.6≤r <0.7 14 14
0.5≤r <0.6 15 15
0.4≤r <0.5 12 12
0.3≤r <0.4 9 7
0.2≤r <0.3 6 0
0.1≤r <0.2 6 0
0.0≤r <0.1 0 0
から想起される色彩の間に相関関係があるという,5.1節で設定した仮説は妥当であ ると言える.参考のため,本章の心理実験で使用した全80曲に関する,本節で求め た相関係数の詳細を,付録Bに記載しておく.
5.3.2 類似性を考慮した色彩グループに関する結果
本研究で用いた色彩は,図5.1(5.2.3節)に示す35色であるが,これらの色彩に は類似した色彩が幾つか存在する.そのため,類似した色彩の数にばらつきがあれ ば,そのばらつきが分析に影響する可能性が考えられる.例えば, 青 に類似した 色彩が 青 の他に3色あり, ピンク に類似した色彩が ピンク の他にない場
合(i.e., 青系の色彩が4色でピンク系の色彩が1色の場合),本来, 青 の想起率
と ピンク の想起率が同じであったとしても, 青 を想起した被験者の回答は類 似色に分散している可能性が考えられる.したがって,5.3.1節で行った分析から得 られた相関係数は,本来の傾向を示すものではない可能性が考えられる.
以上を考慮し,本節では,図5.1に示す35色の色彩に関して,類似した色彩のグ ループ化を行い,得られた色彩グループを用いて,5.3.1節と同様の分析を行う.
類似した色彩のグループ化
類似した色彩を同一の色彩グループにまとめるために,図5.1に示す35色の色彩
をL*a*b表色系で表現し,L,a,bの各値を用いてクラスタ分析(Ward法,距離
の算出にはユークリッド距離を使用)を行った.このクラスタ分析2によって得られ た結果を図5.2に示す.ただし,図5.2において,横軸の各値は,図5.1に示す各色 彩に付与された番号に対応する.
2統計解析ソフトRによる
図5.2: 心理実験で使用した35色をL*a*b表色系で表現したときのクラスター分析結果(デ ンドログラム)
このクラスタ分析の結果,35色の色彩を最も良く分類していると判断された13グ ループに分類した.この分類結果を図5.3に示す.ただし,図5.3における各色彩お よび各色彩に付与された番号は,図5.1における各色彩および各色彩に付与された 番号に対応している.以降では,この13グループを用いて分析および考察を行う.
グループ1
13 14 21
グループ2
29 34
グループ3
26 28 30 32 33 35
グループ4
16 23
グループ5
17 24 31
グループ6
10 11 18
グループ7
25
グループ8
5 6 12 19
グループ9
20 27
グループ10
22
グループ11
1 3 4 7
グループ12
2 8
グループ13
9 15
図5.3: 類似した色彩のグループ化 楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)の結果
5.3.1節と同様に,それぞれの楽曲に関して,被験者が回答した上位N位までの色
彩グループに関する累積回答率r0cumulative(N)を,式(5.2)により求めた.
rcumulative0 (N) =
∑N
n=1a0(n)
∑13
n=1a0(n) (5.2)
ただし,a0(n)は回答数の多い上位n(n= 1, ...,13)位の色彩グループに関する述べ 回答数とする.
表5.6は,式(5.2)におけるNの値が1から5までの,全80曲に関する累積回答 率の平均値を示す.表5.6から,選択可能な色彩グループが13グループあるにも関 わらず,被験者の想起した色彩グループは特定の上位グループに偏りがあることが 分かる.また,全体的に見て,全く選択されなかった色彩グループはなかった.こ のことは,実験で使用した各楽曲の試聴から想起される固有の色彩グループが存在 することを示している.
歌詞のみの提示からの色彩想起実験(実験2)の結果
実験2における有効回答の結果に関しては,5.3.1節で述べた通りである.被験者 が回答した上位N 位までの色彩グループに関する累積回答率r0cumulative(N)を,実 験1と同様に,式(5.2)により求めた.表5.7は,式(5.2)におけるNの値が1か
表5.6: 楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)の結果(色彩グループ)
N 累積回答率の平均値
1 0.3142
2 0.5083
3 0.6446
4 0.7453
5 0.8204
表 5.7: 歌詞のみの提示からの色彩想起実験(実験2)の結果(色彩グループ)
N 累積回答率の平均値
1 0.3707
2 0.5721
3 0.7092
4 0.8009
5 0.8697
ら5までの,全80曲に関する累積回答率の平均値を示す.表5.7から,選択可能な 色彩グループが13グループあるにも関わらず,被験者の想起した色彩グループは特 定の上位グループに偏りがあることが分かる.また,全体的に見て,全く選択され なかった色彩グループはなかった.このことは,実験で使用した各楽曲の歌詞の提 示から想起される固有の色彩グループが存在することを示している.
実験1と実験2の比較
それぞれの楽曲に関して,楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)で被験者が回答 した各色彩グループの選択率と,歌詞のみの提示による色彩想起実験(実験2)で被験 者が回答した各色彩グループの選択率を比較する.5.3.1節と同様に,比較はPearson の積率相関係数rを求めることによって行う.すなわち,楽曲mi(i= 1, ...,80)に関し て,楽曲の試聴からの色彩想起実験(実験1)における色彩グループgj(j = 1, ...,13) の選択率をx0ij,歌詞のみの提示による色彩想起実験(実験2)における色彩グルー プgjの選択率をyij0 として,楽曲miにおける変数x0とy0に関する相関係数rを求 める.
この比較によって得られた,相関係数rの分布を表5.8に示す.表5.8において,
中央列の数値は左端列に示す範囲の相関係数となった楽曲数を表し,右端列の数値 は左端列に示す範囲の相関係数となった楽曲のうち,有意確率5%水準(両側)を 満たす楽曲数を表す.本節では,13の色彩グループの選択率によって相関係数を求 めているため,相関係数の導出に用いたサンプルサイズは13である.したがって,
相関係数の検定(両側)における棄却の限界値は0.5529である.