第3章 「文検体操科」の概要
第3節 検定内容
(1) 予備試験
第26回1912(明治45)年度から第72回1940(昭和15)年までの予備試験問題を資 料編にまとめた。予備試験問題の形式が定まったのは第40回1924(大正13)年からであ
り、解剖生理衛生、体操、遊戯競技の3分野及び兵式体操であった。兵式体操は教練の独 立とともに離れることとなった。この前年、第39回の問題は一般体操(其の一)3時間で 5問。一般体操(其の二)3時間で5問。一般体操(競技及び遊戯)3時間で5問。であ
る。(其の一)の内容は上記の解剖生理衛生の内容と同様である。(其の二)は体操の内容 と同様である。(競技及び遊戯)は男子問題と女子問題に分かれ、それぞれ5問ずっであ
る。
運動能力の性差や特性に関する問題が見られるようになるのは1922(大正11)年以降 である。1926(大正15)年の「学校体操教授要目」の第一次改定を前にして、まだ徒手 体操と陸上競技の内容が多い。スポL−一・ツ教材が問題として登場するのは1926(大正15)
年からである。
ここでは予備試験問題の形式が定まった第40回1924(大正13)年の問題を見てみよう。
大正13年度体操科予備試験問題 ○解剖生理衛生(3時間)
1 平均運動(徐歩行進)の主働筋及び其の勢力謝上より見たる運動の強さを記せ 2 運動(体操教育に於ける教材)の配列つき生理衛生上注意すべき事項を挙げ其の理由 を説明せよ
3 運動能力に関係ある男女身体の差異を挙げよ 4麻痺につき知る所を記せ
5児童及び女子の関節過伸につき生理解剖上知る所を記せ ○ 体操(3時間)
1 跳躍運動教授上の注意を述べよ
2 呼吸運動の目的及び体操科教授上に於けるその適用に就いて記せ 3 管立伏臥に於ける主働筋を挙げよ
4 体操に一層興味あらしめる為教授上注意すべき事項を挙げ之を説明せよ 5 屈膝脚側出運動の要領及び注意事項を述べよ
○ 遊戯競技(3時間)
1 決勝線に於けるテープの切り方及び決勝審判の方法を説明せよ 2 砲丸投げの要領を略述せよ
3 運動に因る外傷予防に関する注意事項を述べよ
4 女子に適当なる遊戯の種類(五種以上)を挙げ其の理由を説明せよ 5 課外運動に関する意見を述べよ 2
当時の受験案内書に模範解答が掲載されている。各1問ずつ引用してみる。
解剖生理衛生の2についての模範解答 (1)指導案作成上の原則に拠ること。
即ち準備運動主運動生理運動の順序を完全に経過する様教材の配列せざるべからず故に 最初先づ簡単なる下肢上肢体幹の運動を課して血行筋関節に対して相当な準備を与へて 次の主運動に入るべきなり、何等の準備なくして主運動に入る事は無謀の極みなり。
而して最後には又簡単なる下肢上肢体幹の運動及び呼吸運動を課して促進せる呼吸を鎮 め、遊戯等に於いてとりたる不良の姿勢に対する矯正等後始末をすべきなり。
(2)調節運動を挿入すること。
各教材間に生理作用及び精神作用を沈静せしむべき如き性質の運動を調節運動として大 なる努力を要する運動の後に入るべきなり。
(3)急激なる変化を避けること、強き運動にはそれに対する準備を行うこと。
如何に順序を経て訓練を受けたるにせよ、跳躍懸垂等の強気運動にはその初め必ずそれに 対する準備となるべき運動を課して良好なるコンジションの下に行わしむべきなり。
烈しき疾走の後直ちに停止を命ずべからず。
疾走の直後停止せしむることとは不可なり、必ず呼吸を少し宛沈静せしむる為軽き行進か 足踏みを課したる後呼吸運動を課すべきなり。
(4)全身を普遍的に練習する様教材を配列すべきこと。
各運動それぞれ異なった目的を持てるものなり随いて個々の運動を全部行う事によりて 身体各部を修練することンなるものなり、身体各部の均整なる発育を遂げしむると云う点 よりも各教材を練習すべきなり。
(5)年齢性別を顧慮すべきこと。
幼年生は兎も角尋常科六学年以上は男子と女子とは生理的に相違を来たす故に懸垂跳躍 等は男女区別して女子には比較的容易なるものを課すべきなり。
(6)第二次的影響を顧慮し又同一姿勢及類似の姿勢を反復せざる様注意を要す。3
体操の4に対する模範解答
体操は遊戯競技と異なりて自発活動に非ず教師の号令によりて運動するものなれば自 然遊戯等の如く興味を持たしむる事難し、故に指導者たる教師が指導に当たりて興味あら しむる様工夫すべきなり。一は教師の取扱の巧拙にもよるならんも、大体次の如き事項に 注意すべきなり。
(1)初より高い要求をなさざること。
児童生徒の程度に応じて要求点を適当にせざるべからず、最初より非常にむっかしく制 限し要求せば嫌気のするものにして、賞められて腹の立つものyなき如く、時には立派に 非ずとも、少し見所あれば満足を与えて奨励すれば子供は元気を出すものなり。
(2)運動を遊戯化すること。
児童生徒は活動性に富みて寸時も静止すべきものに非ず、故に幼年の者にやかましく云 いて、困難なる姿勢を要求するも、子供は喜ぶものに非ず、それよりも運動を調律的に又 は遊戯化して面白く行わせ、不知不識の間に運動の目的を達せしむべきなり。例えば管立 伏臥の運動を教うるも腰掛や地面にて如何程むつかしく説明を用いて行わするも中々上 達するものに非ず。それよりは四つ這いにならせ割助者に両足を広げて持たせ、両手にて 歩ませぱ子供は喜んで行い然も腹の運動としても目的を達成せしものなり。
(3)時々教材を変えること。
新奇を好む風は児童や生徒のみならず、大人にても常に同じ事のみを行うは嫌気の来る ものなり。故に時々教材を新しく変換せしむる要あり、又時には行いて余り歓迎せられざ る如きは撤回して他の教材に変える必要の時もあり。然し馴れ来るに従いて興味を持する に至るものにても馴れざる為に歓迎されざる事もある故注意を要す。又余り生徒児童の言 いなりに変換する事も考うべき場合あるべし。
(4)必要な器械を用うること。
勿論程度によりて徒手体操のみ行う時は興味を持たざる故、器械を用いて心機の転換を 図るべきなり。例えば地上の徐歩行進も平均運動なるが、平均台上の駈歩通過等を行なえ ば興味をもって行い、其の場の跳躍もよけれど、腰掛の跳躍等を行なえば喜びて行う如き なり。之等も興味を持たしむる上に必要なり。
(5)遊戯競技を必ず加えること。
遊戯競技が自発活動にして児童生徒に喜ばるS事は云う迄もなし。一時間固苦しき体操 を行いても決して興味を持つものに非ず、遊戯競技を教案の中に入れ、自由活動の境地を 作る事なり。4
遊戯競技の2についての模範解答 (1)競技の準備。
投榔を行う直径2.134メートル(7フィート)の丸き輪と、足留材、砲丸(6、8、12、
16ポンド)及び20メートルの空地を必要とす。
(2)砲丸の持ち方。
(甲)砲丸の重心を中指の根本より僅かに下位に落し、中指と人指し指と薬指とを後方に 栂指と小指とは砲丸が逸れぬ為に左右より添う。
此の持方にては掌の中、僅かに空き、手頸は稽後方に屈す。之は砲丸が手より離るy前に 後方に屈したる手頸を真直に伸すと同時に後方より当てSいる三指にて押すものなり(之 をスナップと云う)
(乙)此の方法は砲丸を掌上に載せ、四指を後方より添え、栂指は他の指より僅か離して 添う、此の方法は主として砲丸を掌上に支えて指の力を余り頼らず。随いて之はスナップ せず。此の方法は手頸や指の弱き競技者に適す。
(1)一歩投榔の方法。
①右足を輪の中心に左足を足留材の手前七八寸の所に踏む。
②砲丸を持ちたる右手は鎖骨に接して置く。
③左手は投ぐる方向に向いて地表に四十五度の角度をなす様に挙ぐ。
④上体を緩かに後方に屈げ体重の大部分(八分を)右足に托し左足は軽く踏む。
⑤三四回上体を振り、其の動作を利用して之を原動力とし、右足にて強く地上を圧し、両 脚を伸すと同時に右肩を前上方につき出し、左肩を後方に引く。
⑥左管は之を助くる為に動作を起すと同時に管を屈して後下方に振り右管は右肩の晴力 を利用して強く突き出す。
此の時腰を捻りて全身の動作を助く。
⑦之等の動作の連続として砲丸が右手を離るyや其の反動として右足を地上をかすめて 前方に踏み出し、足留材にて支う。
此の時上体は前方に傾く。
(2)二歩投榔の要領。
①右足は7フィートの円の後方内方に投榔方向と直角をなす様に踏み、左足は中央に投榔 方向を踏む。
②次に左足を円滑に而も力強く振り上げ、之を右足の内課骨の辺まで振り下し、其の反動 として再び左足を投榔方向に運ぶ時、右足を中央までホップす(此のホップは地面にすれ すれに行うこと)
③右足が地に着くと同時に左右を足留材より数寸離して地に着く。
④此の時の体勢は一歩投榔の時と同じ。
⑤これよりする投榔要領は前一歩投榔の要領に同じ。
(3)砲丸は突き出すものにして、投ぐるに非ず、今突出すと投ぐるの区別を挙ぐれば (イ)突き出す方
(a)砲丸が肩より後に位置することなし。
(b)砲丸が突き出されたる際、腕は仰角の方向に直線的に伸ぶ。
(c)突き出したる最後の姿勢は、よく伸ぶ。