本章の目的
ポラリメトリック SAR データを用いた効率的な森林分類手法及び針広葉樹の混生率推定 手法を開発することを目的とする。
本章の概要
第Ⅳ章で提案された簡単散乱体分解アルゴリズムを実際のポラリメトリック SAR データ に適用して,分解された簡単散乱体の諸成分を用いた森林分類手法を開発した。また第Ⅳ 章の研究成果より,広葉樹は縦ワイヤ成分が優勢,針葉樹は横ワイヤ成分が優勢であるこ とを受けて,パターン展開法による針広葉樹の混生率の推定を検討する。針葉樹,広葉樹 と草地の3成分を設けて,1ピクセル当たりにそれぞれが占める割合を算出した。
北海道苫小牧の平地林及び北海道早来町の山地林において,樹種分類及び混生率の算出 を目的とする解析を実施した。苫小牧の国有林地域では JPL/AIRSAR の L バンドデータを 利用し,早来町の MMC 社有林地域では SIR-C/SAR の L バンドデータを利用した。苫小牧の 平地林において,広葉樹のワイヤ成分の角度αは縦方向に近い角度で分布していることを 明らかとした。また,最尤法による樹種分類から良好な分類結果が得られた。早来町の山 地林については,データの取得時期が間伐前なので,解析結果と当時の林況との検証がで きなかった。
JPL/AIRSAR 及び SIR-C/SAR の異なるセンサのポラリメトリック SAR データから,また 苫小牧の平地林及び早来町の山地林の異なる林地から,簡単散乱体成分を用いて針葉樹と 広葉樹に対して同じような解析結果が得られた。従って,簡単散乱体の有効性と SAR セン サが捉えた森林の特徴が判明した。
Ⅴ-1 まえがき
バイオマスの定量計測として,森林の現況を知ることが第一歩となる。営林署の林班図 は施業実施計画図の略称である。植林した地域がそのまま反映されるが,成長した森林の 混生度合及び現況の樹種分布は実測する必要がある。林野庁管轄の国有林において,1980 年代末期から殆ど植生調査が実施されていない。既存の林班図及び植生図は補助的な参考 データとして利用できるが,森林の現況が反映されていない。従って,既存データに頼ら ず,人力調査より効率的な植生分類手法を新規に開発する必要がある。また,世界中に全 土の森林をカバーする林班図を整備した国は日本とカナダの2国だけである。従って,海 外におけるバイオマス定量計測作業は森林の分類から始まる。
本章は第Ⅳ章で提案された簡単散乱体分解アルゴリズムを実際のポラリメトリック SAR データに適用して,分解された簡単散乱体の諸成分を用いた森林分類を研究する。また第
Ⅳ章の研究成果より,広葉樹は縦に近いワイヤ成分が優勢,針葉樹は横に近いワイヤ成分 が優勢であることを受けて,パターン展開法による針広葉樹の混生率の推定を検討する。
解析の対象地域は,北海道苫小牧の平地林及び北海道早来町の山地林の2箇所を設けた。
Ⅴ-2 使用データ及び対象地域
苫小牧の平地林に関しては,2000 年 10 月 2 日に取得された JPL/AIRSAR の L バンドデ ータを利用した。対象地域の JPL/AIRSAR 画像を図 V-1 に示す。スラントレンジのピクセ ルサイズは 3.33m,アジマス方向のピクセルサイズは 4.63m である。高い空間分解能を有 することで,森林ではなく樹木単位の後方散乱が捉えられていることが考えられる。分類 対象とした植生は,北海道苫小牧市北西部に位置する胆振東部森林管理署管轄下の約 15 の人工林林班を含む国有林である。主な樹種は針葉樹のカラマツ,トドマツ,アカエゾマ ツ及び多種の広葉樹である。対象地域の地形は,侵食された火山麓扇状地に広がる沢と,
平坦に近い緩やかな斜面地形である。
図Ⅴ-1 平地林の JPL/AIRSAR L バンド画像(R:G:B=HH:HV:VV)
北海道早来町の山地林に関しては,1994 年 4 月 14 日に取得された SIR-C/SAR の L バン ドデータを利用した。元の SIR-C/SAR SLC データを4ルックに処理し,1ピクセル当りの 地表分解能は 25m となる。対象地域の SIR-C/SAR 画像を図 V-2 に示す。解析対象となる三 菱マテリアル株式会社(MMC)の社有林は破線枠内にある。また,SIR-C/SAR 画像から切出 した MMC 社有林の画像を図 V-3 に示す。解析対象地域における主な樹種はカラマツ,白樺,
広葉樹の天然林及びトドマツである。対象地域の地形は,海抜約 400m の低山である。
Ⅴ-3 平地林の樹種分類及び混生率の推定
苫小牧国有林において,図 V-1 に示す JPL/AIRSAR データを用いて平地林の樹種分類及 び混生率の推定を実施した。
図Ⅴ-2 山地林対象地域の SIR-C/SAR の L バンド画像(北海道・早来町)
図Ⅴ-3 山地林対象地域の SIR-C/SAR L バンドカラー合成画像 解析対象地域
(MMC 社有林)
Ⅴ-3-1 簡単散乱体による分解処理
前処理として第Ⅲ章に述べた Lee(1999)[11]が提案したエッジ保存型ポラリメトリック スペックルノイズ軽減手法を,JPL/AIRSAR データに適用した。非正方形移動ウィンドウ のサイズは,本対象地域において最適な 7×7 を選定した。また,営林署の林班図[23]に 基づいてカラマツ(Larch)を 4 つ,トドマツ(Fir)を 5 つ,アカエゾマツ(Spruce)を 4 つ及 び広葉樹(Broadleaf)を 4 つ,合計 4 樹種 17 地域(図Ⅴ-4)を設けた。各樹種の教師エリア は,純群林となることが理想であるが,実際には多少なりとも他樹種が混生している。
図Ⅴ-4 教師エリアの位置図
第Ⅳ章の式Ⅳ-10 を適用し,L バンドの Kennaugh 行列データを簡単散乱体の諸成分に分 解した。全ピクセルに対して分解が成功した。ワイヤ散乱体の角度成分αの画像を図Ⅴ-5 に示す。輝度値の高いピクセルは,広葉樹教師エリア(青枠)及び林班境界付近の広葉樹に
図Ⅴ-5 L バンドにおけるワイヤ散乱体の角度成分αの画像
⎥⎦⎤
⎢⎣⎡− − −
= ( ) −( )
2 exp 1 )
2 ( ) 1
|
( 12 1
2 i i
t i i
i k X X V X X
V c
X
p π
) (
) (
log )
( 21 i 21 i t i 1 i
i X V X X V X X
G =− − − − −
集中する。アカエゾマツ教師エリア(赤枠)には輝度値の低いピクセルが集中する。
分解された5つの簡単散乱体の中から,ペデスタル成分と横ワイヤ成分と縦ワイヤ成分 のパワーを用いたカラー合成画像を図Ⅴ-6 に示す。図Ⅴ-6 の画像と図Ⅴ-1 の画像を比較 して,Ⅴ-1 の色調特性をⅤ-6 が継承していることが判る。植生地域においてペデスタル 成分,横ワイヤ成分及び縦ワイヤ成分が支配的な散乱成分となることが考えられる。
図Ⅴ-6 簡単散乱体3成分のカラー合成画像
Ⅴ-3-2 簡単散乱体諸成分を用いた樹種分類
①初期クラス分類
Kennaugh 行列から分解された簡単散乱体の諸成分画像は実数の多次元画像とみなす。
分類しようとするクラスはそれぞれ広葉樹,トドマツ,カラマツ及びアカエゾマツである。
分類に用いる簡単散乱体の成分は,以下の3つである。
・L-Band のペデスタル成分 Ppds ・L-Band の横ワイヤ成分 PWH
・L-Band の縦ワイヤ成分 PWV
各ピクセルにおける3次元の特徴ベクトルをXとする。
予め,教師エリアから各クラスの平均特徴ベクトル Xi及び分散共分散行列 Viを求める。
このとき,クラス ciにおける確率密度関数(尤度)p(X|ci)は次式のように表される(高木 et al., 1991)[24]。
式(Ⅴ-1) 式中のkは多次元画像の次元数で,今回は 3 に等しい。
式Ⅴ-1 の右辺の対数を取り,また定数項を除いたものを判別関数Gi(X)として用いる。
式(Ⅴ-2) 注目ピクセルの特徴ベクトルXは,Gi(X)を最小とするクラスiに属するものとする。
分類しようとするクラスは4つあるが,カラマツとアカエゾマツはあまりにも接近して いるため,この 2 クラスを一旦統合する。先ず広葉樹,トドマツ及びカラマツ・アカエゾ
R=横ワイヤ G=ペデスタル B=縦ワイヤ
{
x w x w x w}
X = 1 , 2 ,⋅⋅⋅, C
) ( ) (
)
( i t i 1 i
i X X X V X X
G = − − −
マツの 3 クラスで分類し,広葉樹に属すピクセルを分離させる。残りのトドマツ,カラマ ツ及びアカエゾマツの 3 針葉樹クラスに対して再度分類する。
②樹種カテゴリーへの再分類
本研究で使用した JPL/AIRSAR 高解像度データに関して,ピクセル単位で細分化された クラスは必ずしも樹種カテゴリーに対応しないところがある。初期分類クラスからノイズ 或いは誤分類を無くし,樹種カテゴリーへ再分類することが必要となる。そこで,分類精 度を向上するために分類結果の空間的な分布を調べて分類結果を整理統合するような再分 類を実施した。ここでは,マハラノビス距離を用いた最短距離法を利用した。
教師エリアにおけるピクセルを中心とするエッジ保存型 9×9 の局所非正方形ウィンド ウを設け,4 クラスの局所領域における構成比を特徴ベクトルXとする。
式(Ⅴ-3) ここでは,xi:局所領域内のクラスiの生起頻度
C:クラスの数
w:局所領域のピクセル数
予め,式Ⅴ-3 を用いて 17 教師エリアから 4 クラスの平均特徴ベクトルXi及び分散共分 散行列 Viを求める。各注目ピクセルにも同じように局所領域の特徴ベクトル X を求める。
このときマハラノビス距離と呼ばれる判別関数Giが式Ⅴ-4 で定義される。
式(Ⅴ-4) 注目ピクセルの特徴ベクトル X は,Gi(X)を最小とするカテゴリーi に属するものとす る。
初期クラス分類結果に対して式Ⅴ-4 を適用した。L バンドデータのカテゴリー再分類結 果を図Ⅴ-7 に示す。
図Ⅴ-7 簡単散乱体3成分を用いた樹種分類画像
③分類精度の評価
各樹種の教師エリアは純群林であると仮定する。純群林仮定に基づいて,教師エリアに 赤エゾマツ
トドマツ カラマツ 広葉樹
おける分類精度を評価し,判別効率を表Ⅴ-1 に示す。平均分類精度は 72.25%である。各 カテゴリーにおいて,おおよそ 70%台の分類精度を達成した。
表Ⅴ-1 L バンドにおける簡単散乱体3成分の判別効率表 分類カテゴリー
判別効率
( % ) Broadleaf Fir Larch Spruce
画素数
Broadleaf 75.31% 10.27% 14.39% 0.04% 2523
Fir 9.58% 73.99% 6.35% 10.08% 3214
Larch 9.95% 5.60% 70.71% 13.75% 3448
参 照 ク ラ
ス Spruce 1.12% 17.66% 12.22% 69.00% 5016
平均精度 72.25% 14201
Ⅴ-3-3 パターン展開法による混生率の推定
藤原ら(1996)[25]が光学センサの TM データを用いて,水・植生・土壌の基本 3 パター ンを予め教師エリアで求め,最小2乗法を適用してピクセル単位における水・植生・土壌 のそれぞれの含有率を推定する手法を提案した。
このパターン展開法を SAR データへ転用し,ピクセル単位における広葉樹・針葉樹・草 の 3 成分それぞれの混生率を推定する。森林の樹木はペデスタル,横ワイヤ及び縦ワイヤ の 3 成分が支配的な散乱成分となる。林内の草地及び伐採跡地はペデスタル成分が低下し,
変わりに平面成分が大きくなる。従って TM のバンドに相当する多次元データは,
Kennaugh 行列から抽出された簡単散乱体のペデスタル,横ワイヤ,縦ワイヤ及び平面の 4成分データを利用する。赤エゾマツとトドマツとカラマツを針葉樹に統合する。広葉樹,
針葉樹及び草地の教師エリアから得た基本パターンを図Ⅴ-8 に示す。
図Ⅴ-8 広葉樹,針葉樹及び草地の基本パターン図
Ⅴ-8 から,広葉樹はペデスタル成分が高く,縦ワイヤ成分(90deg)が他 2 候補より高い。
また縦ワイヤ成分が横ワイヤ成分(0deg)より高くなる。針葉樹はペデスタル成分が高く,