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簡単散乱体によるターゲットの分解

本章の目的

バイオマスの計測精度を向上させるため,森林分類及び混生率の推定に繋がる新たなポ ラリメトリック SAR データの解析手法の開発を目的とする。

本章の概要

ポ ラ リ メ ト リ ッ ク SAR デ ー タ の 新 し い 解 析 ツ ー ル と し て , 簡 単 散 乱 体 を 用 い た Kennaugh 行列の分解解析手法を提案した[17]。先ず,多重散乱で互いに消し合うことに より生じたペデスタル成分を定義した。また,ワイヤ散乱体を1つの分解成分として始め で導入した。既知の球・平板散乱体と二面コーナーリフレクタ散乱体と合わせて,1つの Kennaugh 行列データを4つの簡単散乱体成分に分解するアルゴリズムを開発した。

この分解手法はターゲットにおける支配的な散乱成分を抽出する目的で開発され,

Kennaugh 行列が4つの簡単散乱体で展開される。不規則の自然ターゲットを規則の簡単 散乱体に展開できないデータが僅かな割合で存在する。また,Kennaugh 行列の K14と K24 と K34の3エレメントを利用していない。数学的には行列の不完全な分解となるが,この 3エレメントが K11に比べると一桁以上に小さく,その影響は他のエレメントが構築した

「骨格」プラスアルファの効果に止まる。

本章では森林ターゲットに合わせて特に横と縦の2つワイヤ成分を設けた。針葉樹林の 横枝が発達し,L バンド SAR データの横ワイヤ成分が支配的な散乱成分となる。一方,広 葉樹林が縦方向に近い枝が横枝より優勢となり,縦ワイヤ成分が高いことを明らかにした。

この特徴を利用すれば,森林の分類及び混生率の推定に繋がることが考えられる。

Ⅳ-1 まえがき

Kennaugh 行列を用いたポラリメトリック SAR データの解析には,主に2つの手法があ る。①偏波シグネチャダイアグラムを用いた解析手法及び②Kennaugh 行列の分解解析手 法である。このうち②の手法については,1ピクセルの Kennaugh 行列から支配的な散乱 メカニズム及び各種散乱成分を抽出することが重要な課題となっている。

Huynen(1970)[18]は,Kennaugh 行列を等価単一ターゲットの形状と対応関係を結び付 けた Huynen パラメータに分解する手法を提案した。Huynen パラメータは,Kennaugh 行列 の各エレメントを理解する為に非常に有意である。

Krogager ら(1995)[19]は散乱行列ベースでのコヒーレント 3 成分(Sphere, Diplane と Helix)分解アルゴリズムを提案した。

山口ら(2005)[20]は Freeman(1998)の[21]3成分散乱モデルに Helix 成分を加えた散乱 行列ベースでのコヒーレント4成分(Surface, Double bounce,Volume と Helix)分解アル

ゴリズムを提案した。

SAR データはターゲットの形状を捉えている。樹木の枝及び細長い幹の形状は,球形・

平板或いは二面コーナーよりワイヤと類似する。特に波長の長い L バンドにおいては,植 生散乱体のうち枝と幹からの後方散乱が支配的となり,ワイヤと見なされる成分の抽出は 形状による植生分類として有意であると考えられる。

本章では,先ず多重散乱で互いに消し合うことにより生じたペデスタル成分を定義する。

また,ワイヤ散乱体を1つの分解成分として導入する。既知の球・平板散乱体と二面コー ナーリフレクタ散乱体と合わせて,1つ Kennaugh 行列データを4つの簡単散乱体成分に 分解するアルゴリズムを提案する。このアルゴリズムの実効検証として,SIR-C/SAR の L バンドデータを用いて針葉樹林及び広葉樹林の Kennaugh 行列データを簡単散乱体の諸成 分へ分解する。針葉樹林の横枝が発達し,L バンド SAR データの横ワイヤ成分が支配的な 散乱成分となる。一方,広葉樹林が縦方向に近い枝が横枝より優勢となり,縦ワイヤ成分 が高くなることが明らかとなる。

Ⅳ-2 簡単散乱体及び抽出アルゴリズム

Ⅳ-2-1 簡単散乱体

① ペデスタル(Pedestal)

多重散乱で互いに消し合うことにより,偏りの無い成分が生じる。偏波シグネチャダイ ヤグラムに一定の部分として表す。植生地域においては特にペデスタルの割合が高い。ペ デスタの Kennaugh 行列は式(Ⅳ-1)と定義する。ペデスタルと言う言葉を用いた無偏波部 分を表すことは以前から多数の研究者が使用した。1つの散乱成分として取り扱い,かつ 明確な定義を与えることは本研究が初めてである。

式(Ⅳ-1)

ここでの Ppdsはペデスタルのパワーを表す。

② 大きな導体球・広い平板(Sphere・Plate)

Mie(1908)[22]は,球散乱の厳密解を明らかにした。大きな導体球では,後方散乱行列 が式(Ⅳ-2),Kennaugh 行列が式(Ⅳ-3)となる。広い平板では同じ偏波レスポンスを持つ。

式(Ⅳ-2)

式(Ⅳ-3) 1 0

0 1

P 2

S a

= ⎜

2

0.5 0 0 0 0.5 0 0 0

0 0.5 0 0 0 0.5 0 0

0 0 0.5 0 0 0 0.5 0

4

0 0 0 0.5 0 0 0 0.5

P S

K a P

= =

3 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1

pds pds

K P

=

( )

[

]

⎜⎜ ⎟⎟

= α α

α α

2 2

1

2 2 1 3

2 0

sin 2 sin

2 sin cos

1 4 ln 3 l a

l SW k

ここでの a は球体の半径であり(図Ⅳ-1),PSは球・平面散乱体のパワーである。

図Ⅳ-1 大きい導体球

③ 二面コーナーリフレクタ(Dihedral Corner Reflector)

入 射 電 波 が 2 つ の 面 で 反 射 さ れ , 更 に 入 射 経 路 の 反 対 方 向 へ 戻 る 後 方 散 乱 は , Jasik(1961)[22]によって明らかにされた。導電体の二面コーナーリフレクタの散乱行列 が式(Ⅳ-4),Kennaugh 行列が式(Ⅳ-5)となる。

式(Ⅳ-4)

式(Ⅳ-5)

ここでの a と b は二面コーナーのサイズであり,θは水平方向から二面接合線までの角 度となり(図Ⅳ-2),PCは二面コーナー散乱体のパワーとなる。k0は真空中の電磁波伝播定 数である。

図Ⅳ-2 導体二面コーナーリフレクタ

④ ワイヤ(Short,Thin Cylinder)

電波伝搬方向と直交する平面における水平方向に対してα角となすワイヤの後方散乱は,

Ruck ら (1970)[22] に よ っ て 明 ら か に さ れ た 。 ワ イ ヤ の 後 方 散 乱 行 列 が 式 ( Ⅳ -6) , Kennaugh 行列が式(Ⅳ-7)となる。

式(Ⅳ-6)

式(Ⅳ-7) ( )

1 1 1 1

4 4 4 4

2 2

4 6 1 1 1 1 1 1

4 4 8 4 4 8

0

2 1 1 1 2 1 1 1 2

4 8 4 4 8 4

0.25 cos 2 sin 2 0 0.25 cos 2 sin 2 0

cos 2 cos 2 sin 4 0 cos 2 cos 2 sin 4 0

sin 2 sin 4 sin 2 0 sin 2 sin 4 sin 2 0

9 ln 4 1

0 0 0 0 0 0 0 0

W W

P k l P

l a

α α β β

α α α β β β

α α α β β β

= =

⎦ ⎢

⎟⎟

⎜⎜

=

θ θ

θ θ

π sin2 cos2 2 sin 2

0ab cos SC k

2 2 2 1 1 1 1

2 2 2 2

0

2 1 1 1 1

2 2 2 2

0.5 0 0 0 0.5 0 0 0

0 cos 4 sin 4 0 0 cos 4 sin 4 0

0 sin 4 cos 4 0 0 sin 4 cos 4 0

0 0 0 0.5 0 0 0 0.5

C C

k a b

K θ θ P θ θ

θ θ θ θ

π

= =

ここでの l と a はそれぞれワイヤの長さと半径であり(図Ⅳ-3),PWはワイヤ散乱体のパ ワーである

図Ⅳ-3 導体ワイヤ

また密林散乱ターゲットに対して,近横ワイヤと近縦ワイヤの2つ散乱体を設けること ができる。近横ワイヤの Kennaugh 行列式は,

式(Ⅳ-8)

縦ワイヤのミュウラー行列式は,

式(Ⅳ-9) ここでのPWHPWVはそれぞれ横ワイヤ散乱体と縦ワイヤ散乱体のパワーとなる。αと βがそれぞれ 0 度及び 90 度に近い角度となる。

ペデスタル,ワイヤ,球・平板及び2面コーナー散乱体の偏波シグネチャダイヤグラム を図Ⅳ-4 に示す。それぞれの3D ダイヤグラムが独特な形状を有する。またワイヤの平行 偏波ダイヤグラムで示すピークは,角度αの変化によりシフトする。これと類似して,2 面コーナーの直交偏波ダイヤグラムで示す2つのピークは,角度θの変化によりシフトす る。

上述の簡単散乱体を用いた Kennaugh 行列の分解は Huynen パラメータ(付録 B を参照)を 用いて評価すると,F と G と D を無視することとなる。3パラメータが持つ性質は以下の 通りである。

F: ターゲットの螺旋性

G: 対称部分と非対称部分との連結ファクター D: 局部曲率の尺度(凸斑)

Kennaugh 行列において,K14と K24と K34の3エレメントを未利用することとなる

=

0 0 0

0

0 2 sin 4 sin 2 sin

0 4 sin 2 cos 2 cos

0 2 sin 2 cos 25 . 0

2 4 1 8

1 4

1

8 2 1 4 1 4

1

4 1 4

1

α α

α

α α

α

α α

H W H

W P

K

=

0 0 0

0

0 2 sin 4 sin 2 sin

0 4 sin 2 cos 2 cos

0 2 sin 2 cos 25 . 0

2 4 1 8

1 4

1

8 2 1 4 1 4

1

4 1 4

1

β β

β

β β

β

β β

V W V

W P

K

[ ]

+

+ +

=

0 0 0

0 0 0

0

B A D G F

D B A E H

G E

B A C

F H

C B A K

②ワイヤ散乱体

①ペデスタル成分

③球・平板散乱体

④2面コーナー散乱体

図Ⅳ-4 4つの散乱体の偏波シグネチャダイヤグラム Unpolarized

component

α =0D

θ =0D

平行偏波 直交偏波

4 13 1 4

1 P sin 2 PWV sin 2 K

H

W α + β =

12 41

41PWH cos2α + PWV cos2β = K

22 2

14 2 41

21

12PS + PCcos4θ + PWH cos 2α + PWV cos 2β +Pped =K

2 23 8 1

8 1

1PWHsin4α + PWV sin4β + PCsin4θ =K

33 2

4 2 1 4

1 2

1 2

1 PSPCcos4θ+ PWH sin 2α + PWV sin 2β + Pped =K

2 44 1 2

1 PCPS + Pped = K

Ⅳ-2-2 Kennaugh 行列から簡単散乱体を抽出するアルゴリズム

式Ⅳ-1 から式Ⅳ-9 をまとめることによって,次の連立方程式が得られる。

式(Ⅳ-10.1) 式(Ⅳ-10.2) 式(Ⅳ-10.3) 式(Ⅳ-10.4) 式(Ⅳ-10.5) 式(Ⅳ-10.6) 式Ⅳ-10 では,6つの独立方程式に対して,以下8つの変数を求めている。

①ペデスタルのパワー成分 Ppds

②横ワイヤ散乱体のパワー成分PWHと角度成分α ③縦ワイヤ散乱体のパワー成分PWVと角度成分β ④コーナー散乱体のパワー成分 PCと角度成分θ ⑤平面・球形散乱体のパワー成分 PS

植生地域では,ワイヤ散乱と多重散乱が支配的であることが考えられる。平面成分とコ ーナー成分の積が最小となる条件を付けて式Ⅳ-10 を解くことができる。実際作業はグリ ッド解析で数値解を割り出す。

式Ⅳ-10 に基づいて,実データの Kennaugh 行列を5つの簡単散乱体に展開している。

金 属 性 タ ー ゲ ッ ト な ど 簡 単 散 乱 体 に 展 開 で き な い Kennaugh 行 列 が 生 じ る 。 ま た , Kennaugh 行列の K14と K24と K34の3エレメントを利用していないことから,不完全な分解 である。

Ⅳ-2-3 無視された K14と K24と K34の 3 エレメントの影響

利用されていない K14と K24と K34の 3 エレメントに関して,偏波シグネチャダイヤグラ ムの形状に対する影響は次の通りである。

① K14エレメント

Huynen パラメータ F: ターゲットの螺旋性を表す。

Kennaugh 行列:

偏波シグネチャダイヤグラム:

⎥⎥

⎥⎥

⎢⎢

⎢⎢

0 0 0 1

0 0 0 0

0 0 0 0

1 0 0 0

平行偏波 直交偏波

平行偏波(Like-polarized)においては,リニア偏波を軸にして右廻り円偏波(RR)から左 廻り円偏波(LL)へ傾斜を加える。偏波シグネチャダイヤグラムの形状における前後の対象 性は破壊されるが,左右対称性には影響しない。直交偏波(Cross-polarized)においては 影響しない。また,リニア偏波に対しては全く影響されない。

② K24と K34エレメント

Huynen パラメータ: K24=G,対称部分と非対称部分との連結ファクター。

K34=D,局部曲率の尺度

Kennaugh 行列: K24= ; K34

偏波シグネチャダイヤグラム:

平行偏波において,K24 は-45 度~45 度の方位角区間に左廻り楕円偏波域(手前)に

「谷」と右廻り楕円偏波域(奥)に「山」を加える。残りの方位角区間には逆センスの

「山」と「谷」を加える。K34は-90 度~0 度の方位角区間に,右廻り楕円偏波域(手前)に

「山」と左廻り楕円偏波域(奥)に「谷」を加える。残りの方位角区間には逆センスの

「山」と「谷」を加える。何れのケースでも対称性が破壊されるが,直交偏波においては 両者とも平行偏波の逆センスとなる。リニア偏波及び円偏波に対しては全く影響されない。

通常,K14と K24と K34の3エレメントは K11に比べると一桁が小さい。その影響は,他の エレメントが構築したダイヤグラム形状の骨格をプラスアルファの効果を果す。

Ⅳ-3 ターゲットの簡単散乱体分解事例

Ⅳ-3-1 針葉樹林の簡単散乱体分解

SIR-C/SAR の L バンドデータから,北海道早来町 MMC 社有林のカラマツ林を代表する

⎥⎥

⎥⎥

⎢⎢

⎢⎢

0 0 1 0

0 0 0 0

1 0 0 0

0 0 0 0

⎥⎥

⎥⎥

⎢⎢

⎢⎢

0 1 0 0

1 0 0 0

0 0 0 0

0 0 0 0

平行偏波 直交偏波

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