ベクトルx の次元は,2M(M=データチャンネルの数)であり,その相関行列は式Ⅵ-14 と なる。
(式Ⅵ-14)
相関行列
R
xxの固有ベクトルe
iから,F
sベクトルを定義できる。(式Ⅵ-15)
F
sとS は同じ信号部分空間を張り,従って唯一の行列 T が存在する。またF
s は式Ⅵ-16 で表すことができる。(式Ⅵ-16)
F1とF2は式Ⅵ-17 の関係となる。
(式Ⅵ-17)
以上より
F
sの部分行列F1とF2を求め,TLS(Total-Least-Squares)-ESPRIT 法に従ってΨ
を求める。行列Ψ
の固有値をλ
i′ ( i = 1 , 2 , ⋅ ⋅⋅ , d )
と表すと,各局所散乱中心(干渉位相)は そのi番目の固有値の位相と推定される。(式Ⅵ-18) 局所散乱中心
φ
iより,ターゲットの高さh
iは式Ⅵ-19 となる。(式Ⅵ-19)
ここのB は Master 軌道と Slave 軌道間のベースライン距離であり,αはベースライン と水平面となす角度である。実際に
h
iを求めるにはピクセル単位のベースライン情報を 高精度で求める必要がある。森林コヒーレンスモデルによって得られた地表面と樹冠の散乱中心は,ESPRIT 法によ って推定される散乱中心と一致することは山田(2001)が証明した。
SAR センサのフル偏波モード(HH,HV,VH,VV)で取得したデータは,3 素子ペア(d=3)が存 在し,3 散乱波まで推定することが可能である。デュアル偏波モードで(HH,HV 或いは VV,VH)で取得したデータは,2 素子ペア(d=2)しか存在しないため 2 散乱波を推定できる。
2波推定の場合は,不完全な偏波状態下の推定になるので,その精度が3波推定より悪く なることが考えられる。PALSAR の通常モードはデュアル偏波モードである。フル偏波モ ードデータの入手が困難な場合は,2波推定が実行可能な選択肢となる。
T N
T S
N N T S T
xx
nn
S S xx R
∗
∗
∗
∗
= Σ
= Σ
Σ + Σ
=
=
σσ
σ
2[ e e e ] S T
F
s=
1,
2, ⋅ ⋅⋅ ,
d=
⎥⎦
⎢ ⎤
⎣
=⎡
⎥⎦
⎢ ⎤
⎣
=⎡
SDT ST F
Fs F
2 1
DT T
F F
1 1 2
≡
−Ψ
Ψ
=
)
Ⅵ-3 樹高推定
Ⅵ-3-1 対象地域と使用データ
結果を比較する為に,Cloude らの事例と同様にロシア・バイカル湖南東地域における リビートパスのフル・ポーラリメトリック SIR-C/SAR L バンドデータを用いて樹高推定を 実施した。使用データの詳細を表Ⅵ-1 に示す。2 シーンデータのカバー範囲を図Ⅵ-7 に,
それぞれの SLC カラー合成画像を図Ⅵ-8 に示す。
表Ⅵ-1 対象地域の SIR-C/SAR L バンドデータ
Granule pr42613 pr42615
Site name Tien Shan, China Tien Shan, China
Scene GMT center time 1994/10/07 22:33:30.642 1994/10/09 21:47:41.643
Scene center latitude (degrees) 52.1651077 52.1892242
Scene center longitude (degrees) 106.6797943 106.7599182
incidence angle at scene center (degrees) 24.569 24.565
Platform heading at scene center (degrees) 63.1774406 63.2474060
図Ⅵ-7 SIR-C データの画像範囲
図Ⅵ-8 PR42613(上)と PR42615(下)の SLC 画像(HH:HV:VV=R:G:B) N
N
106.2 106.3 106.4 106.5 106.6 106.7 106.8 106.9 107.0 107.1 107.2
51.9 52.0 52.1 52.2 52.3
Near range early time
Far range early time
Far range late time Near range late time
PR42615 PR42613
longitude
latitude
作業フローを図Ⅵ-9 に示す。Pol-InSAR 処理とベースラインの算出の2つ独立した処理 に分かれる。
図Ⅵ-9 樹高推定の作業フロー
Ⅵ-3-2 マッチング処理
図Ⅵ-8 に示す2つデータをマッチングした結果はレンジ方向に 4 ピクセル,アジマス 方向に 868 ピクセルを平行移動するだけで高精度な重合画像が得られた。
マッチングした結果をコヒーレンシー及びインターフェログラムの生成で検証した。図
Ⅵ-10 に示すコヒーレンシー画像は全体的に 1 に近く極めて高い相関が得られた。図Ⅵ-11 に示すようにペア画像の HH 偏波を例にして,良質なインターフェログラムが得られて いる。ここで,SIR-C 軌道精度の良さ及び JPL SAR Processor の高い処理精度を改めて確 認した。高精度な SAR Processor が整備されると,干渉処理のハードルがかなり低くなる。
図Ⅵ-10 SHH-SHH間(上),SVV-SVV間(下)のコヒーレンシー
0 1
図Ⅵ-11 SHH-SHH間のインターフェログラム
Ⅵ-3-3 ESPRIT 法による樹高推定
本研究で実行された ESPRIT アルゴリズム(3波推定)のフローを図Ⅵ-12 に示す。
図Ⅵ-12 ESPRIT アルゴリズムのフローチャート
−π π
データベクトルの作
相関行列の作成
Rxxの固有値方程式を解く
固有ベクトルよりF12を作る
(F12F12†)の固有値方程式を解
0固有値の固有ベクトルを2分割 Φの作成
Φの固有値方程式を解く
2M×1行列
2M×2M行列
d<=2M M×2d行列 2d×2d行列
2d×2d行列
d×d行列
d×d行列
①相関行列の固有値による森林地域の検出
相関行列の固有値の3成分を解析することにより,森林領域と非森林領域を区分できる (図Ⅵ-13)。地表面からの散乱波を関連するλ1成分は,森林地域ではその割合が相対的に 低く,農地地域では高い。植生内部における多重散乱に関連するλ2成分は,逆に森林地 域ではその割合が高くなり,農地地域では非常に低い値となる。ワイヤ散乱に関連するλ
3成分はλ2と類似し,森林地域ではその割合が高くて農地地域では非常に低い値である。
以上の特徴より,森林地域で 2 種類以上の散乱機構(樹冠,地表面)が存在することが確認 される。非常に低い値を無視して,農地地域では主に地表面からの1種類散乱しか持たな い領域となる。
図Ⅵ-13 相関行列の固有値3成分(割合)
②干渉位相の算出
最終的な干渉位相は固有値問題を解く事で得られる。式Ⅵ-17 の行列
Ψ
は一般的に非 対称な複素数行列であり,その固有値も複素数である。そのため,推定された固有値がど の散乱中心の位相差を表すかは判断し難い。3 波推定の場合は,ESPRIT 法によって 2 つに 分離されたと仮定して1つを地面,残り 2 つを樹冠による干渉位相としている。位相差の 最も大きいものが地面と樹冠上部の位相差とする。最大位相差を図Ⅵ-14 に示す。位相差=Max[(φ1 - φ2),(φ1 - φ3)]=地表面 - 樹冠上部 (式Ⅵ-20)
図Ⅵ-14 樹冠上部と地表面の干渉位相差
③樹高の推定
樹高(樹冠上部と地表面との高低差)は式Ⅵ-19 により推定されている。
インターフェロメトリの計算に必要なベースライン B は衛星の軌道情報から計算される。
推定されたベースラインは 20m前後と非常に短い。しかし、真値はアジマス方向(衛星の 軌道方向)及びレンジ方向(照射方向)の関数として 31m~70m前後で変化する(山田,私 信)。樹高の推定結果を図Ⅵ-15 に示す。樹高のレンジは 60m~90m となった。Cloude らの 20m~30m と比較して,過大評価であることが判明した。
図Ⅵ-15 樹高の推定結果
Ⅵ-4 あとがき
今回使用したベースラインの推定は 2D baseline model に基づいており,軌道が平行,
照射方向が軌道に対して垂直という仮定が用いられており,シーン全体にわたりベースラ インが一定という単純なものである。実際のデータは SIR-C のヘッダ情報にあるように照 射方向は垂直ではない(fDCが 0 でない)ため,ベースラインの推定誤差が大きくなった。
改善すべき点として,照射されたピクセル位置を推定し,そのときの slave の軌道を R/D 方程式より逆算するという 3D baseline model などが必要となる。また,照射されたピク セル位置を求めることでピクセル単位のオフナディア角が求められ,より精度が高くなる ことが予想される。
本章における Pol-InSAR による樹高推定技術の開発は,課題を残したものの,ESPRIT 法の処理ツールを構築した。高精度なベースライン推定手法が別途に必要となることが新 たに判った。実データから3次元のベースラインを逆推定することは,Unwrapping 技術 がさらに必要となることを意味する。