第 5 章 慣性付力学系モデルによる制約条件付最適化 93
5.4 シミュレーション結果
5.4.1 有界直積集合における制約付最適化
有界直積集合として,2章でとりあげた単位超立方体領域(上下限制約領域)を考え,慣 性を考慮した力学モデルのもたらす性質を確認する.すなわち,制約付最適化問題(2.1) で,制約領域Xが(2.2) 式の単位超立方体領域で与えられる0-1上下限制約付最適化問題 をとりあげ,2.2節の結果との比較をおこなう.
まず,凸関数の目的関数Eを(2.74)式で与えた制約付最適化問題を考える.目的関数 の形状は図2.8の通りであり,最適解がintX に存在する場合に対応する.この問題で慣 性を考慮しない場合の非線形作用素勾配系,非線形変数変換勾配系の軌道は,それぞれ図
2.9,図2.10に示した通りである.他方,慣性付非線形作用素勾配系の内部状態表現モデ
ル(5.9)へ(2.74)式のEをあてはめたときの決定変数x,内部状態変数uおよびvの軌道
を図5.3に示す.ここで,試行初期点x(0)およびu(0)の与えかたは,2.5節にしたがった.
内部状態変数vに関しては,(5.1)式から決定変数の初期速度がdx(0)/dt = 0,すなわち (5.4a)式でdu(0)/dt= 0を満足する条件として,(5.9b)式から
v(0) =au(0) (5.16)
と与えた.また,慣性付非線形変数変換勾配系モデル(5.15)の各変数x,y,zの軌道を 図5.4に示す.ここでも,x(0)およびy(0)については2.5節にしたがい,z(0)は(5.10)式 でdy(0)/dt= 0を満足するために
z(0) =ay(0) (5.17)
と与えた.慣性係数aはいずれも0.5と設定した.
図2.9と図5.3の比較,図2.10と図5.4の比較で,いずれのモデルも慣性の効果が加わると
探索軌道の性質が変化し,特に最適解付近では振動が発生し,減衰しながら最適解へと収 束していることがわかる.いずれのモデルでも,初期値に関係なくxは(5/7,3/7)へ,慣 性付非線形作用素勾配系のuおよび慣性付非線形変数変換勾配系のyは(0.9163,−0.2879) へ,前者のvおよび後者のzは(0.4582,−0.1440)へ収束していることから,平衡点では
v =au (5.18)
z=ay (5.19)
の成立が確かめられる.
次に,目的関数Eを図2.11の構造を有する関数(2.75)式で与え,最適解がbdXに存在 する場合を考える.慣性を考慮しない場合の非線形作用素勾配系,非線形変数変換勾配系 の軌道は,それぞれ図2.12,図2.13に示した通りであり,それらの慣性付モデルの軌道は
図5.5,図5.6である.この場合も,元の力学系モデルが有していた軌道の性質を残存させ
ながらも,慣性の影響により軌道が変数空間で互いに交差するなど挙動の変化を見出すこ とができる.
(a) 決定変数xの軌道 (b) 内部状態変数u の軌道
(c) 内部状態変数vの軌道
図 5.3: 慣性付非線形作用素勾配系モデルの軌道(最適解がint Xに存在するとき)
(a) 決定変数xの軌道 (b) 無制約化変数y の軌道
(c) 内部状態変数zの軌道
図 5.4: 慣性付非線形変数変換勾配系モデルの軌道(最適解がint X に存在するとき)
(a) 決定変数xの軌道 (b) 内部状態変数u の軌道
(c) 内部状態変数vの軌道
図 5.5: 慣性付非線形作用素勾配系モデルの軌道(最適解がbd Xに存在するとき)
(a) 決定変数xの軌道 (b) 無制約化変数y の軌道
(c) 内部状態変数zの軌道
図 5.6: 慣性付非線形変数変換勾配系モデルの軌道(最適解がbd X に存在するとき)
さらに,慣性付力学系がもたらす大域的探索能力を観測するため,大域的最適化のテス ト問題として有名な非多峰性関数であるRastrigin関数において,変数変換してスケール を変更した3次元(n = 3)修正Rastrigin関数[74]
E(x) = 10n+ Xn
i=1
¡x2i −10 cos(10πxi)¢
(5.20) を考える.制約領域(2.2)における大域的最適解は(0,· · · ,0) であり,ほかに数多くの局 所的最適解を有する.
この関数を用いた勾配系モデルの軌道として,慣性を考慮しない2章の力学モデルとし て,非線形作用素勾配系の軌道を図5.7,非線形変数変換勾配系の軌道を図5.8に示す.他 方,5 章の慣性付力学モデルとして,非線形作用素勾配系の軌道を図5.9,非線形変数変 換勾配系の軌道を図5.10に示す.なお,本例では慣性項の係数をa= 0.1とし,その効果 を強化している.
2種類の勾配系モデルに共通していえる性質として,慣性がない場合,決定変数xの軌 道はその初期点が含まれる引き込み領域を形成する局所的最適解へ収束し,そこで停止 する.他方,慣性付力学系では,各勾配系モデルごとに軌道は複雑な挙動を示し,引き込 み領域を脱して制約領域を広範に動くことが可能になっている.また,凸関数での結果と 大きく異なる点として,非線形作用素勾配系の内部状態変数uとv,もしくは非線形変数 変換勾配系の無制約化変数yと内部状態変数vの間にみられた軌道形状の類似性がなく,
むしろ両者の軌道は大きく異なる動きをみせることが確認される.
(a) 決定変数xの軌道 (b) 内部状態変数u の軌道 図 5.7: 非線形作用素勾配系モデルの軌道(慣性なし)
(a) 決定変数xの軌道 (b) 無制約化変数y の軌道 図 5.8: 非線形変数変換勾配系モデルの軌道(慣性なし)
(a) 決定変数xの軌道 (b) 内部状態変数u の軌道
(c) 内部状態変数vの軌道
図 5.9: 慣性付非線形作用素勾配系モデルの軌道
(a) 決定変数xの軌道 (b) 無制約化変数y の軌道
(c) 内部状態変数zの軌道
図 5.10: 慣性付非線形変数変換勾配系モデルの軌道