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カオス発現領域のパラメータ推定

第 6 章 離散化勾配系モデルのカオスを用いた制約条件付大域的最適化 120

6.3 カオス発現領域のパラメータ推定

される.

x(t+K) =x(t) (6.8a)

x(t+j)6=x(t), j = 1,· · · , K−1 (6.8b) はじめに,(6.8a)式のみに着目すると,これを満たすx(t)ならびにx(t+k)を求めるこ とは,以下の最小化問題に帰着して考えることができる.

min kx(t+K)x(t)k2 = Xn

i=1

{xi(t+K)−xi(t)}2 (6.9) ところで,離散化勾配法モデルの写像F が既知であれば,xのある時刻における値,お よびパラメータaが定まれば,それ以降の時刻における変数xの軌道は一意に定まる.し たがって,(6.9)式の最小化関数は,K周期軌道上の1点x0とパラメータaのみの関数J1 と書くことができ,問題(6.9)はこれらの量を最小化変数として

minx0,a J1(x0,a) =kFK(x0,a)x(t)k2 (6.10) と書き直すことができる.

次に,(6.8b)式を満たすために,最大化問題 maxx0,a J2(x0,a) =

KX1 l=0

XK m=l+1

kFm(x0,a)Fl(x0,a)k2 (6.11) を考える.これは,0≤t≤Kにおける相異なる時刻の軌道通過点が相互に重ならないよ う,各点間の距離を拡大することを目的としている.

問題(6.11)の最大化関数J2は一見複雑であるが,軌道周期K が素数であるならば,隣

接時刻における通過点が1組異なることが,K周期軌道が存在するための必要十分条件 であるから,この場合

J2(x0,a) =kF(x0,a)x0k2 (6.12) と簡略化することができる.

以上から,最適化問題(6.10)および(6.11)を統合して,最適化問題 minx0,a J(x0,a) = J1(x0,a)

J2(x0,a) (6.13)

を考えることができる.(6.13)式の最小化関数は,その定義からJ 0であり,かつJ の 値が有限であるためにはJ2 >0が必要である.したがって,最適化問題(6.13)の大域的 最適解は,厳密にK周期軌道を実現できたときに与えられる.

なお,本問題を具体的に解くため,x0,aを時間τに依存する変数とみた最急降下法 dx0i(τ)

=−∂J(x0(τ),a(τ))

∂xi

, i= 1,· · · , n (6.14a) dai(τ)

=−∂J(x0(τ),a(τ))

∂ai , i= 1,· · · , m (6.14b) の適用を考える.しかし,(6.14)式右辺でJ の偏導関数を解析的に求めることは容易で はないため,以下の近似計算値により代用する.具体的な計算アルゴリズムを以下にしめ す.ここで,jiは第i成分のみを1とするn次元単位ベクトル,kiは第i成分のみを1と するm次元単位ベクトル,およびhは微小量とする.

アルゴリズム6.1 (K周期軌道の初期点およびパラメータを推定するアルゴリズム)

Step 1 変数xの軌道初期点x0,およびパラメータaの試行初期値を適当に与え る.

Step 2 以下の諸量を差分近似により計算する.

αi = ∂J(x0,a)

∂xi J(x0+ 0.5hji,a)−J(x00.5hji,a)

h , i= 1,· · ·, n (6.15a)

βi = ∂J(x0,a)

∂ai J(x0,a+ 0.5hki)−J(x0,a0.5hki)

h , i= 1,· · · , m (6.15b) ただしhは微小な正数である.

Step 3 x0ならびにaを以下のように更新する.

x0 :=x0−ηα (6.16a)

a :=a−ηβ (6.16b)

ただしα= [α1,· · · , αn]T,β = [β1,· · · , βm]T であり,η は微小正数,も しくは直線探索法などにより適切に定めた正数とする.

Step 4 (i)J(x0,a)< ² (²は微小正数とする),もしくは(ii) 十分な回数の反復 計算経過後ならば計算終了.それ以外はStep 2へ戻る.

なお,上記アルゴリズム中Step 4に示した終了条件はそれぞれ,(i) K周期解条件を 満たす適切なパラメータを発見した場合,(ii) 最小化計算が十分な回数の反復計算によっ ても収束せず強制終了する場合,を考慮したものである.

以上の手法を,離散化勾配系モデルのカオス発現パラメータ領域を推定するために利用 する場合,(6.7)式の写像F を目的関数の勾配∇E,パラメータaを差分化のステップ幅

∆T とし,K = 3とおいて計算を行えばよい.

以下,1変数多峰性関数(6.6)に対する上下限制約,すなわち図6.2〜図6.5の分岐特性を 有する力学系について,アルゴリズム6.1を用いて3周期軌道を与えるパラメータを推定 した結果の例を表6.1,表6.2に示す.ここで,計算に際して,x0の試行初期値はランダ ムに与え,∆T の試行初期値は1.0×108とした.また,微小量h,eもまたは1.0×108 と与えた.

2種類の計算結果をみると,いずれも推定されたステップ幅∆T の値は,図6.2,図6.4の カオス領域に含まれる点である.ただし,決定変数に関してみると,試行初期点からの変 化が極めて小さい.これは,決定変数と差分化ステップ幅のスケールが大きく異なるため であるといえるが,このパラメータ推定を行う段階では分岐構造は未知であり,スケーリ ングファクタなどを導入することも合理的ではない.したがって,上記アルゴリズムは,

決定変数に関する試行初期値の近傍で周期軌道を探索する手法と解釈できる.そのため,

試行初期点の与え方によっては,評価関数Jが局所的最適解に停留し,周期軌道を求める ことができない場合もある.以下の例は,評価関数が十分0に近くなるまで減少させるこ とに成功した場合のものであることに注意を要する.また,評価関数が十分0に近づいて も誤差が残る場合,厳密な周期軌道は得られない.この場合,非周期性を有するカオス領 域内の軌道となる.

表 6.1: 非線形作用素勾配系の3周期軌道を与える∆T の推定結果 試行初期点 0.4417308

推定3周期点 0.4423480 推定パラメータ値 0.0583114

表 6.2: 非線形作用素勾配系の3周期軌道を与える∆T の推定結果 試行初期点 0.2404506

推定3周期点 0.2401575 推定パラメータ値 0.7997911

6.3.2 不変領域上限値推定法

前項では,分岐現象からカオス領域の内部に3周期が出現することに着目し,離散化勾 配系モデルの差分化ステップ幅∆T を力学系のパラメータとみなし,3周期軌道を与える

∆T の値をパラメータ推定問題に帰着して求める手法を述べた.しかし,周期軌道を与え る∆T の値を求めることができても,その軌道を含むカオスは離散力学系の通過点が最適 解の近傍のみを通過するものか,制約領域全域を通過するものか判断できない.そこで以 下では,本論文で扱っている力学系モデルの有界性を考慮したカオス領域を特徴づける差 分化ステップ幅∆T の推定法を考える.

例として,6.2.3項で示した分岐図を参照すると,勾配系モデルの種類に関係なく,決定 変数xの分岐図は,∆T を増やしていき最後に出現するカオスの占める領域はいちばん広 い.このように,軌道が稠密に通過する有界領域はカオスの不変領域とよばれるが,引き 続き∆T を大きくしてゆくと,この不変領域が崩壊し,通過点が境界のみに偏在する特 徴をもつ.これは,ここで扱っている力学モデルの特徴として,決定変数の有界領域への 閉じ込めが保証されるためである.この性質を利用すると,分岐図で∆T を増加していっ たとき,探索点が境界に偏る直前の値を求めれば,不変領域の上限における差分化ステッ プ幅∆T が求まることが期待される[58].

この考え方を適用するために,x int Xに対し,境界bd Xへの近さをlog型障壁関 数を用いて,

(i)非負領域(2.2),単位シンプレックス上領域(3.1)および単位超球面上領域(3.2)に対し て

L(x) = Xn

i=1

logxi (6.17)

(ii) 単位超立方体領域(2.2)に対して L(x) =−

Xn i=1

{logxi+ log(1−xi)} (6.18) で与える.(6.17),(6.18)の関数Lは,変数成分の少なくとも1つがその境界に近づけば 大幅に値が増加するため,Lの値がある有限な閾値を上回った時点でxが境界に十分接 近したとみなすことができる.提案手法のアルゴリズムは次のように記述することがで きる.

アルゴリズム6.2 (カオスが消滅するパラメータ値を推定するアルゴリズム)

Step 1 制約の内部領域int Xで離散化勾配系モデルの初期点x0,および差分化 ステップ幅∆T の試行初期値として微小量を与える.

Step 2 離散化勾配系モデルの差分方程式を,x0 からあらかじめ設定した回数TN だけ反復させる.

Step 3 Step 2で計算したxの最終値に対して関数Lの値を計算する.

Step 4 Step 3で計算したLの値が,事前に設定した閾値LT を上回るようにな れば,このときの∆T が推定値を与えるものとして計算を終了する.Lの 値がLT より小さければ,∆T の値を増加させてStep 2に戻る.

なお,上記アルゴリズムは,離散化勾配系モデルの初期点x0 の与え方により推定結果 に大きな差を生じることがある.そのため,実用的には初期点x0を制約領域Xの中で多 数与え,各初期点ごとに∆T の値を求め,平均をとることによって初期点依存性を弱めて 用いる.

以下ではふたたび1変数非凸関数(6.6)に対する上下限制約,すなわち図6.2〜図6.5の 分岐特性を有する力学系について,アルゴリズム6.2を用いてカオスが消滅するパラメー タを推定した結果の例を表6.3に示す.試行条件は,勾配系の初期点x0は上下限制約内部 でランダムに1000個与え,反復回数TN = 10,閾値LT = 20とした.

これらの推定値を,図6.3,図6.5の分岐図と通過すると,実際にカオス領域が消滅する 領域より大きい値となった.しかし,制約領域全体を覆うカオス領域を越えたパラメータ 値が得られることを考慮すれば,6.3.1節の手法と比べて有効であるほか,パラメータ推 定にさほどの厳密性を求めないならば,計算コストも少なく済む長所がある.ただ,x0

の試行初期点数が多いこと,および閾値LT の設定により結果にばらつきが生じることに 留意を要する.

表 6.3: カオスを生じる差分化のステップ幅∆T の推定結果 離散化勾配系モデル ∆T の推定値

非線形作用素勾配系 4.410575 非線形変数変換勾配系 26.102267