第5章 映画の中のラジオ
~5つの映画作品を読み解く~
『引き出しの中のラブレター』
『グッドモーニング ベトナム』
『ラジオデイズ』
『僕はラジオ』
『旅立ち~足寄より~』
藪崎 文奈
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Ayana YABUSAKI
中京大学現代社会学部現代社会学科 3年生(2011年度)
◆1.はじめに
〈調査対象〉
作品中にラジオが登場する映画をピックアップし、 その作品の中でラジオがどのように描かれているのか、ラジオ を作品に使用した意図はなんであるのか、物語に作用しているのかなどを調査する。
〈調査動機〉
もともとは指導教員の提案で、ラジオが組み込まれている他メディアの調査をするという方向から、調査者である 私が映画好きということもありラジオが描かれている映画について研究するに至った。
〈調査方法〉
・インターネット検索
・DVD視聴による研究
作品中の気になるセリフやシーンをトランスクリプトし、分析を進めていく。
・文献収集
〈研究対象〉
「引き出しの中のラブレター」
「グッドモーニング,ベトナム」
「ラジオ・デイズ」
「僕はラジオ」
「旅立ち〜足寄より〜」
「ラヂオの時間」(参考として)
ラジオが登場する映画は他にも・・・
「トーク・レディオ」
「ラジオ☆スター」
「ラジオは笑う」
「ラジオ将軍」
「ブース/booth」
「オー・ブラザー!」
「笑撃生放送!ラジオ殺人事件」
「泣きたいときのクスリ」
「プライベート・パーツ」
「今夜はトーク・ハード」 等
◆2.「引き出しの中のラブレター」の分析
ラジオパーソナリティの主人公真生は父親とケンカ別れして、お互い気持ちを伝えられないままで父親が他界して しまった。その後実家から、父親が伝えたくても伝えられなかった本当の気持ちが綴られた手紙が届く。その体験か ら、ラジオを通じて心の奥にしまったままの想いを伝える「引き出しの中のラブレター」という企画を発案する。そ の企画がリスナーの背中をそっと押していく。
●作品中でのラジオの描かれ方
人々の日常生活におけるラジオの位置
• タクシーの中で1日中ラジオを聞いている運転手
• ベンチでラジオを片手に休憩する男性
• 自分の投稿文が読まれるのを楽しみにする学生 ⇔J-wave(東京のFMラジオ局)を知らない学生
人と人をつなぐ架け橋‥見えない相手との交流
心の奥にしまった気持ちを伝える手段
1 対 1 で向き合う→テレビより本音を出しやすい
段ボールいっぱいの手紙やはがき
●分析
作品中でラジオを聞いている人々は職業も立場もバラバラであることから、ラジオが幅広い人々に楽しんでもらえ るということを伝えていることがわかる。その中で、中学生の会話に注目してみた。
友人 A:おい、直樹直樹。2組の早見ってやっぱお前?
直樹:聞いてたの。
友人 A:やっぱそう。やったじゃん。これで黒沢に近づけるっしょ。
直樹:ばか。
友人 B:何?なんの話?
友人 A:こいつのはがき、ラジオで読まれたんだわ。
友人 B:すごいっしょ!どこのラジオ局?
直樹:J-WAVE。
友人 B:J-WAVE?何それ?
友人 A:何それって、なあ。
黒沢:私も聞いてたよ。
直樹: そう。
WAVEの存在を知らなくても不思議ではないのに、4 人中 3 人が聞いている。テレビや携帯電話などを楽しんでいる 若者が多い現代にも、ラジオを好んで聞いている若者がいるのだと肯定的に表現されている。
子どもの頃からの夢を叶えてラジオパーソナリティという仕事に誇りを持っている主人公の真生は、職業に対する 考え方の違いから父親との仲が悪化する。
父:お前どうする気や。
真生:へ?
父:もうじきに30やろ。ええ加減こっち戻ってきてみき(妹)みたいにええ相手探したらどうや。女の幸せは結婚 やで。遊びはやめにせえ。
真生:遊びって。中学の時からの夢やってんで。私の言葉でな、ラジオ聞いとる人が
父:その仕事、40、50になっても続けていけるんか。夢だけやったら食うていかれへんやろ。
ラジオのパーソナリティを夢見る若者は、今どれほどいるのだろうか。あまりラジオと関わりのない生活を送ってい る私には少々現実味のない話に思えてしまうのだが、人々を楽しませたり癒したりすることで支えになる、華のある 職業だということが伝わってきた。恐らくラジオ自体の魅力だけでなく、ラジオパーソナリティについても知っても らいたいという思いがあったのだろう。ちなみに父親は夢を叶えた娘のことを誇りに思っていたということが、父親 の死後に見つかった手紙から判明し、それが企画発案のきっかけになる。以下がそのシーンである。
真生:誰でも伝えたかったのに伝えられなかった想いってあると思うんです。そんな想いを募集して番組で紹介した いんです。家族や恋人でもちゃんと話すことができず、関係がこじれてしまうことってあると思うんです。そんな言 えなかった言葉を伝えるには何かきっかけが必要です。その何かにこの番組がなればいいと思うんです。
AD:でもそれって伝えられる側もラジオを聞いていないと意味ないんじゃ
社長:いいんじゃないの。確かにラジオには不思議な力がある。テレビより1対1で向き合ってる気がするって言う のかな。だからラジオの方が本音を出しやすい。なんだって、伝えたかったのに伝えられなかった想い。
真生:はい。
社長:ああ、なるほどね。なんでも明け透けに口にするようになった今の時代と逆行してて、実にいい!
真生:ありがとうございます。
社長:でもさ、これタイトルよくないよね、タイトル。うーんとね、そうだね、引き出しの中の ラブレター。これ でいこう。
AD:ラブレターに絞るんですか。
社長:恋人宛の手紙だけがラブレターじゃないんだよ。家族、友人、恩師にしたためる手紙にしたって、まあ立派な ラブレターなんだよ。
ラジオの優位性が社長の発言からわかる。確かにテレビ番組には司会者がいて、ゲストがいて、観覧客がいてという 形が多く、大勢で情報を拡散しているイメージがある。それに対してラジオ番組の出演者は少数で、リスナーと接す る機会を設けることが多い。だから 1 対 1 で向かい合っている気がして本音を出しやすい。また、テレビを見る人よ りもラジオを聞く人の方が少なく、匿名性を守ることができるから本音を言えるということもあると思う。
以下は真生が発案した企画の中で紹介されたラブレターを聞いて、1 人の女性が局を訪ねてきたシーンだ。
女性:放送を聞いて驚きました。もう忘れていたと思ってたことなのに、あの町の匂いまで思い出しました。
真生:潮と魚の匂い。
女性:いらっしゃったんですか。
真生:はい。
女性:思い出したら辛いだけだと思ってたんですけど、違いました。あの日鳴っていた鐘の音さえ懐かしく思いまし た。ありがとうございます。
真生:いえ。
女性は手紙が読まれているのを聞いただけで当時の匂いや風景を思い出した。それができるのは得られる情報が音声 のみで、あとは自分の想像力や記憶力によって思い出を呼び覚ましているからだ。少ない情報だからこそ、相手に多 くの思い出を届けることができる。とても魅力的な方法だと感じた。
また、制作が2009年なので圧倒的に E メールでの投稿が多いはずであるにも関わらず、作品中では何箱もの段 ボールにいっぱいの投稿はがきが描かれている。さまざまなメディアが発達し、多機能化した現代に人の温かみを伝 えようとしている。全体として、J-WAVEが制作に関わっているためラジオをズームアップすることによって多く の人にラジオのよさを訴えかけている。
◆3.「グッドモーニング ベトナム」の分析
●作品紹介
米陸軍放送の人気DJである主人公のエイドリアン・クロンナウアは泥沼化したベトナム戦争に出征している10 0万人の兵士の士気を鼓舞するという任務のために、本国から敵地であるベトナムのサイゴンに派遣される。そして 彼の強烈なジョークとロックミュージックによって兵士たちの心は癒されていく。戦争の残酷さとともに、ブラック ジョークを多用したユーモア溢れるラジオDJの心情を描く。
●作品中でのラジオの描かれ方
戦地の兵士が現実を忘れられる数少ない手段
放送は軍部のルールや常識によって規制
→主人公はそれらにとらわれず、自分のスタンスを保つ
下劣で非常識な放送に送られてくる多くの兵士からのファンレター
→兵士のモチベーションを高める
情報操作によって一部のニュースしか読むことができない
→真実を聴取者に届けたい主人公のフラストレーション
話し手の人柄を映し出す鏡