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〜日米市場の比較に基づく考察〜

ドキュメント内 ' Vol.31 No.22011 (ページ 34-45)

マーク・E・パリー

● ミズーリ・カンザスシティ大学ブロック・ビジネススクール 教授

川上 智子

● 関西大学 商学部 教授

笊――― はじめに:価値の定義

笆――― 価値分析の枠組み:技術受容モデルの視点 笳――― アメリカの電子書籍市場

笘――― 発見事項のまとめ:アメリカの電子書籍市場における価値創造 笙――― 日本の電子書籍市場

笞――― 考察

テンツ(ソフトウェア)がそれぞれ直接的・

間接的なネットワーク外部性を有する(Katz and  Shapiro  1985  ;  Kawakami,  Kishiya  and Parry  2012  ;  Redmond  1991  ;  Song,  Parry and  Kawakami  2009)3)。よって,図− 1にお ける電子書籍の顧客にとっての相対的価値と は,端末とコンテンツとの両方に起因する有 用性と利用容易性を,利用コストの増分で除 したものである。次節以降では,この枠組み に基づき,日米の電子書籍市場を対象に事例 分析を行なう。

笳――― アメリカの電子書籍市場

アメリカでは,2007 年にアマゾン社がキン ドルを発売して以来,電子書籍市場の規模が 急 速 に 拡 大 し た 。 全 米 出 版 協 会 に よ れ ば , 2010 年の電子書籍市場の売上は 4 億 4130 万ド ルで,書籍市場全体の約 8.3%に当たる4)。以 下では,アメリカにおける電子書籍市場の歴 史を概観する5)

1.アメリカ初の電子書籍端末

キンドル発売の 10 年前に当たる 1998 年,

アメリカでは Softbook Press 社と NuvoMedia 社の 2 社が電子書籍端末を発売した。最初の 電子書籍専用端末と言われる Softbook  Press

社の Softbook は,価格 299 ドル,画面サイズ 9.5 インチ,重量 3 ポンド(約 1.3kg),バッテ リー持続 3 〜 5 時間,メモリは 2 〜 3 冊分だ った。電子書籍はモデムでオンライン接続し て入手し,月額利用料は 20 ドルであった。

一方,NuvoMedia 社が発売した Rocket は,

価格 499 ドル,画面サイズ 5.5 インチ,重量 1.25 ポンド(約 570g),バッテリー持続 20 時 間,メモリ約 10 冊分だった。電子書籍はバー ンズ&ノーブルやパウエルズ等の書店サイト にパソコンを接続して入手した。当時のバー ンズ&ノーブルは,約 300 冊の電子書籍を扱 っていた。

その後,両社とも 2000 年 1 月に Gemstar International  Group に買収され,市場から撤 退した。ところが,端末そのものは失敗した にも関わらず,アメリカの電子書籍の売上は 伸長し続けた。電子書籍は,主に個人用の端 末である palmOne 社のジレ 21,ソニー株式 会社(以下,ソニー)のクリエ TJ25,ヒュー レ ッ ト パ ッ カ ー ド 社 の iPAQ  ポ ケ ッ ト PCH4150 等で読まれていた。

2.ソニーの電子書籍端末「リーダー」

2006 年 10 月,ソニーがリーダー PRS-500 を 299 ドルで発売した。後述するように,ソ ニーは 2004 年に日本で類似機種の LIBRIe EBR-1000EP を発売し,2007 年に撤退してい る6)。ソニーが日本でリーダーの後継機種を 発売するのは,それから約 3 年後の 2010 年で ある。

アメリカで発売されたリーダーは重量 9 オ ンス(約 255g)で,7,500 頁分の移動が可能 なリチウムイオンバッテリーを搭載し,内蔵 メモリ約 75 冊分,メモリーカードで拡張も可

■図―― 1

電子書籍の価値分析に関する概念枠組み

能であった。スクリーンには E  Ink 社の電子 ペーパー7)を使用し,文字のサイズや画面方 向を変えることもできた。

コンテンツに関しても,ハードウェア端末 の発売と同時に,ソニーはアメリカの大手出 版社 6 社から提供された約 1 万冊の電子書籍 が利用できる Sony  CONNECT ストアをオー プンさせた。電子書籍の平均価格は,従来の 書籍と比べて 25 %程度安く設定された。ただ し,コンテンツを利用するには,電子書籍を いったんパソコンにダウンロードする必要が あった。

図− 2は,全米出版協会が 2011 年 2 月に公 表 し た 一 般 向 け 書 籍 の 売 上 デ ー タ で あ る8 )。 リーダーが発売された 2006 年には,電子書籍 のシェアは書籍市場全体の 0.5 %程度に留ま っていた。

しかし,2007 年 11 月のアマゾン社のキン ドル発売により,アメリカの電子書籍市場は 急速に成長し始める。2008 年に電子書籍のシ ェアは 1%を超え,2009 年には売上 1 億 6950 万 ド ル を 達 成 し , シ ェ ア は 3 . 2 % に 達 し た 。 そして 2010 年,アップル社の iPad の発売に より,電子書籍の売上は前年比 2.6 倍の 4 億

■図―― 2

アメリカにおける電子書籍市場の成長

注)数字は売上。単位は百万ドル。%は各年の電子書籍の割合を示す。

出所)全米出版協会ウェブサイト(http://www.publishers.org/press/24/)を参考に筆者作成。

■表―― 1

ソニー「リーダー」とアマゾン「キンドル」の比較

ソ ニ ー 「 リ ー ダ ー 」    ア マ ゾ ン 「 キ ン ドル 」   

発 売 時 期    2006年10月   2 0 07年11月  

価 格    2 9 9 ド ル    3 9 9 ド ル   

重 量    9 オンス(約255g)   10.3オンス(約292g)   サ イ ズ    6.9 ×4.9 ×0.5    7.5 ×5.3 ×0.7    バ ッ テ リ ー 寿 命    7 ,5 0 0   頁 分    ネ ッ ト ワ ー ク 接続 時 2 日 間   

非 接 続 時 1 週 間    メ モ リ 容 量    1 6 0 冊 分    2 9 0 冊 分    コ ン テ ン ツ 入 手    パ ソ コ ン 経 由    端 末 で ワ イ ヤ レ ス接 続   

出所)筆者作成。

4130 万ドルに達するのである。

3.アマゾン「キンドル」の市場導入

表− 1は,ソニーのリーダーとアマゾンの キンドルを比較したものである。キンドルの 最大の特徴は,端末からワイヤレス接続が可 能で,アマゾンのウェブサイトから直接コン テンツを購入できる点にある。本体価格は 399 ドルと,ソニーのリーダーより 100 ドル 高いが,メモリ容量やコンテンツ入手の容易 性において,キンドルはリーダーを上回って いた。

アマゾン・ストアでは約 9 万冊の電子書籍 が利用でき,1 冊の価格は,月額払いの新聞 や雑誌を除き,9.99 ドル以下に設定されてい た。さらにアマゾンは,2009 年 2 月にキンド ル 2,2009 年 6 月に画面サイズ 9.7 インチのキ ンドル DX を発売した。こうした製品ライン ナップの充実と並行して,アマゾンは 2009 年 3 月には,アップル社の iPhone9)向けのキン ドルアプリも提供している。

4.バーンズ&ノーブル「ヌック」の参入 2009 年 3 月,バーンズ&ノーブル社は約 6 万冊のコンテンツを有していた電子書籍販売 大手のフィクションワイズ社を 1,570 万ドル で買収する計画を発表した。その 4 ヵ月後,

バーンズ&ノーブル社は 70 万冊以上の電子書 籍を取り揃え,オンライン電子書籍ストアを オープンさせた。この 70 万冊のうち 50 万冊 は,グーグル社から無償提供されたものであ る。

2009 年 11 月,同社は電子書籍端末「ヌッ ク」を発売した。ヌックは 6 インチのモノク ロ電子ペーパースクリーンと 3.5 インチのタ

ッチパネル式カラースクリーンの 2 つの画面 を有していた点が,キンドルとの最大の違い である。価格は 259 ドルで,キンドルやリー ダーよりも安価であった。購入済みの電子書 籍を友人等に最大 14 日間貸し出せる LendMe 機能も搭載し,他機種と明確に差別化して導 入されたヌックはクリスマス商戦で在庫切れ となる売れ行きを見せた。

5.アップル社の iPad による市場拡大 リーダー,キンドル,ヌックと特徴的な端 末が相次いで導入されたアメリカの電子書籍 市場をさらに飛躍的に拡大させたのが,2010 年 1 月末に発表されたアップル社の iPad であ る。

iPad は電子書籍専用端末ではなく,タブレ ット型パソコンである。価格はメモリ 16GB で 499 ドル,重量 1.5 ポンド(約 680g),画面 サイズは 9.7 インチであった。電子書籍コン テンツは,端末から同社の配信ストアである iTunes に接続すれば簡単に入手できた。

アメリカでは 4 月 3 日に発売され,初日に 30 万台,発売 1 カ月で 100 万台が売れた。6 月にはアップル社の CEO(当時)スティー ブ・ジョブズ氏が電子書籍市場シェアの 22%

を獲得したと報告している。

iPad の発売に対し,競合他社は主に 3 つの 対抗手段を取った。①電子書籍用アプリの発 売,②販売チャネルの拡大,③価格引き下げ である。

まず,アマゾンとバーンズ&ノーブルは,

iPad 上で電子書籍が読めるアプリを用意した。

また,両社とも販売チャネルを拡張し,アマ ゾンはターゲット,バーンズ&ノーブルは家 電量販店ベストバイで端末を販売し始めた。

国土が広く,車が主要な移動手段であるア メリカでは,日本のように通勤途上で駅前の 書店に立ち寄るという購買形態は稀である。

図 − 3のように,書籍は地元の独立系書店,

大型書店チェーン,オンライン書店に加え,

ウォルマートやターゲットといったディスカ ウント系の量販店でも購入される10)。それゆ え,アマゾンは当時約 1,700 店舗を構えてい たターゲットと組み,バーンズ&ノーブルは,

書店ではなく端末販売先としての家電ルート に顧客接点を拡大させた。

第 3 に,各社とも電子書籍端末の価格を下 げた。まずソニーは,2010 年 3 月にリーダー の 5 インチ型を 169 ドルに値下げし,7 月には 149 ドルまで下げた。バーンズ&ノーブルは,

6 月に Wi-Fi 専用の廉価型ヌックを 149 ドルで 発売し,3G 搭載型も 199 ドルまで値下げした。

さらに,アマゾンはキンドルを 189 ドル,キ ンドル DX を 379 ドルにそれぞれ価格改定し た。アマゾンはさらに小型の WiFi 専用タイ プを 139 ドル,3G 搭載型を 189 ドルで発売し,

廉価版の品揃えを充実させ,1 人 1 台の普及 を目指した。競合他社は明らかに,高付加価 値型の iPad に対し,価格面で差別化する戦略 を採ったのである。

笘――― 発見事項のまとめ:アメリカの電 子書籍市場における価値創造

以上で振り返ったアメリカの電子書籍市場 の歴史を,図− 1で示した概念枠組みに従い,

顧客にとっての知覚された相対的な有用性,

知覚された相対的な利用容易性,そして利用 コストの増分という観点で整理する。

1.知覚された有用性:電子書籍コンテンツ の充実度

電子書籍を紙媒体の書籍と比較した際に,

相対的に優位な有用性(Rogers 1995)として よく指摘されるのは,携帯性や保存性である。

しかしこれらは,従来の紙媒体の書籍と同等 以上のコンテンツが存在するという前提での 議論である。検索機能や辞書機能が利用でき,

希少本や絶版本が読めたとしても,それが読 みたい本でなければ意味はない。

よって,アメリカの電子書籍市場における 競争は,コンテンツをいかに充実させるかを 一つの焦点として展開していった。とりわけ,

オンライン書店から出発したアマゾンは,電 子書籍の品揃えこそが市場の成長を加速化さ せると考えていた。2007 年のキンドル発売時,

ジェフ・ベソス氏は,この世に存在するすべ ての書籍を 60 秒以内に買えるようにすると宣 言し,その後の記者会見の度に,利用可能な 電子書籍数を公表していったのである。

競合他社もこれに対抗し,アメリカの電子

■図―― 3

アメリカにおける書籍の購入先

出所)インターネットメディア総合研究所(2011) 『電子書籍 ビジネス調査報告書 2011』インプレス R&D,p.216

(原出所は Verso Advertising の調査結果,サンプル は成人 9,300 名以上,2010 年春実施)

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