親近感などが,社会心理的指標の例としてあ げられる。
具体的なマーケティング問題としては,ブ ランド・マネジメントがあげられる。 木,
井上(2008)に示されたレクサスのブラン ド・ピラミッドでは,核心として「高級の本 質の追求」が,姿勢として「想像力,自信と 思いやり」が,提供する価値として「感動の 時間の提供,ときめきとやすらぎ」が,そし て手段として「時間の尊重,一人ひとりへの おもてなし,二律双生,I.D.E.A.L.」が,基本 思想として掲げられている。いずれも,社会 心理的指標である。次の③節では,このブラ ンド・マネジメントの側面から,収益性を確 保するための製品開発戦略の一モデルを紹介 することにする。
第三の指標は,情動反応指標である。生体 反応に関する研究は,マーケティングにおい ては依然,端緒的であるが,考慮すべき側面 であると考え,本論の枠組みに包含している。
社会心理学的指標では完全に包摂することが 難しい感性的な側面が,注目されつつある
(
e.g.
, 大澤,西原 2010)。しかしながら,感性 を測定することは容易ではなく,様々なアプ ローチがある。鈴木,行場,川畑,山口,小 松(2006)は,モダリティ・ディファレンシ ャル法を活用し,視覚,温覚,嗅覚,痛覚,聴覚,冷覚,味覚,身体運動,触覚という感
覚の関連性を,「全く関連がない」〜「非常に 関連がある」という尺度で分析することを提 案している。あるいはテキスト・マイニング
(
e.g.
, 上田,黒岩,戸谷,豊田 2005)も一つ の感性を測定するために用いることのできる アプローチである。これらの尺度や技法を用いることで感性を 測定する以外に,感性を直接,生体的に測定 することもできる。池尾,青木,南,井上
(2010)の第 8 章で,マーケティング調査に用 いられている生体情報とその測定技術を図− 4 のようにまとめている。生体情報には,fMRI を用いて測定される脳内血流,EEG を用いて 測定される脳波,GSR を用いて測定される皮 膚電位,そしてアイカメラを用いて測定され る視線や瞳孔がある。Fukushima, Inoue, and Niwa (2010)は,Oyama and Hirohashi
(2010)による GSR ベースのリアプノフ指数 とフラクタル次元を用いて,生体反応を測定 し,生体反応の次元に関するテレビ広告効果 を考察した研究である。
図− 3で示されたマーケティング ROI の管 理枠組みは,第一に,財務情報,社会心理的,
そして情動反応という 3 つの指標でとらえら れる Return と投資 I との関係を明らかにする こと,第二に,これら 3 つの指標間の関係を 明 ら か に , 最 終 的 に 財 務 情 報 関 連 指 標 で Return を特定化可能とすること,そして第三
■図―― 4
マーケティング調査に用いられている生体情報とその測定技術
生体情報 脳内血流 脳波 皮膚電位 視線・瞳孔
測定技術
fMRI (functional Magnetic Resonance Imaging)
EEG (Electro Encephalo Graphy)
GSR (Galvanic Skin Response:皮膚電気反射)
アイカメラ
に,これらを事前そして事後で行い,マーケ ティング・ナレッジを資産化することである。
次節では,具体的な事例を紹介する目的から,
社会心理的指標を把握しつつ,財務情報に関 して評価し,収益性を確保するための製品開 発戦略の一モデルを述べることにする。
笳――― 収益性を確保する製品開発戦 略の一モデル:価値デザイン を包含した製品開発戦略
本節では,図− 3における第二水準の社会 心理的指標を把握しつつ,第一水準である財 務情報で評価し,収益性を確保し,企業が成 長するための資源を提供するマーケティング ROI の一例を提示したい。
薄型テレビの主要部品の一つであるフラッ ト・パネル・ディスプレイ業界は,競争の激 しい業界の一つである。パナソニック,富士 通日立プラズマディスプレイ,サムソン,LG,
フィリップス,友達光電,奇美電子など名だ たる企業が,高い開発技術水準,高い生産技 術水準で競い合っている。しかしながら,高 い技術水準が健全な収益性をもたらしている とは必ずしも言えないのが現状である。青木
(2011)の言う,オーバー・シューティングで ある。同様に,ノートブック PC 業界におい ても,非常に薄型で軽量という高い技術水準 で開発された製品を提供している企業が,高 い収益性を確保しているわけではない。デジ タル・カメラ業界でも同様であり,多くの例 を挙げるのは難しいことではなかろう。
差別化,価値獲得,脱コモディティ,価値 共創,関係性・絆の構築など様々な概念が,
この問題に対処するために考えられてきたと
言えよう。これらの問題に対して,技術経営 である MOT,ブランド・マネジメントなど 様々な見地から多様な研究が対処してきた。
MOT の見地からのこれら諸問題に対処した 研究の一つである延岡(2006)は,企業が行 っ た 差 別 化 に よ っ て 顧 客 の 「 支 払 意 思 額 WTP(Willingness To Pay)」が高まること が,価値を獲得し維持していくための条件と 述べている。そしてその条件として,第一に,
自社に差別化を実現するだけのモノづくりの 能力があり,第二に,その差別化が競合企業 に対して持続的な優位性を持ち,第三に,そ の差別化に対して顧客が価値を認め付加的対 価を支払ってくれる,という三条件をあげて いる。しかし条件を明示したにとどまり,具 体的な WTP を高める枠組みに関しては,延 岡は提供していない。後述するモデルは,ま さに具体的にどのように自社のモノづくり要 素を,どのように用いて差別化し,どのよう に表現し顧客に理解してもらうかを明らかに するものであり,最も WTP が高くなる製品 開発戦略そしてマーケティング戦略の示唆を 与えるものである。したがって,これ以上の 記述は留めておくことにする。
Vargo and Lusch (2004)のサービス・ド ミナント・ロジックも,MOT 同様にこれら の問題に対処するアプローチの一つである。
19 世紀以降のモノを中心とした経済学やマー ケティングではなく,モノそのものに加えて サービスを中心とした交換モデルの重要性を 提示した概念である。Vargo and Lusch は,
Vargo and Lusch (2008a;b)を経て,新たな 10 の根本前提を提示している。それらは 1)
サービスは交換の根本的基礎である。2)間接 的交換は交換の根本的基礎を覆い隠す。3)財
はサービス提案のための配給メカニズムであ る。4)オペラント資源は競争優位性の根本的 資源である。5)全ての経済はサービス経済で ある。6)顧客は常に価値の創出者である。7)
企業は価値を提供することはできず,価値提 案を提供することができるのみである。8)サ ービス中心の見解は本源的に顧客志向であり 顧客関係的である。9)全ての社会そして経済 活動者は資源統合者である。10)価値は便益 受益者によって独自にそして現象学的に常に 決定される。これらの根本的基礎から示唆さ れるように,モノではなくサービスを中心に マーケティングを考えて,競争優位性を確保 しようとするアプローチである。
ブランド・マネジメントの見地からのこれ ら諸問題に対処した研究の一つである青木
(2011)は,脱コモディティ化に向けたブラン ド構築の方向として,価値の内容が感性的価 値であるか機能的価値であるか,価値の所在 や価値様式が属性で価値提供しているか使用 文脈や価値共創であるか,という二つの軸で 4 つの方向性を提示している。第 1 の方向性 は,イメージ・ブランドであり感性的・意味 的・象徴的価値の強化であり,第 2 の方向性
は,コモディティ化であり性能や便宜性の向 上によるコモディティ化への抵抗であり,第 3 の 方 向 性 は 機 能 的 ブ ラ ン ド で あ り 用 途 開 発・カテゴリ創造による価値転換であり,そ して第 4 の方向性は経験的ブランドであり経 験価値の共創と関係性の構築である。
ブランド価値を測定する方法は,多岐にわ たる。上述の 木,井上(2008)に示された レクサスのブランド・ピラミッド(図− 5) のような形状の価値体系もあれば,「購入軸」
「商品軸」「行動軸」などのような 3 軸 3 次元 でブランド価値を体系化し管理している組織 も あ る 。 ま た A a k e r ( 1 9 9 7 ) が 提 示 し た , Sincerity(Down-To-Earth,Honest,Whole-some,Cheerful),Excitement(Daring,
Spirited,Imaginative,Up-To-Date) ,Com-petence(Reliable,Intelligent,Successful),
Sophistication(Upper Class,Charming),
Ruggedness(Outdoorsy,Tough)という Big Five と呼ばれる 5 つの構成概念で測定さ れるブランド・パーソナリティに関して,ブ ランド価値体系を把握している組織もある。
多岐にわたるブランド価値を測定するアプロ ーチの内,最も頻繁に用いられているものが
■図―― 5
商品開発の基本となるレクサスブランドピラミッド
高級の本質 の追求 想像力、
自信と思いやり 感動の時間の提供 ときめきとやすらぎ
卓越した商品=I.D.E.A.L
(印象的・動的・優雅・先進的・普遍的価値)
時間の尊重 一人ひとり
おもてなし への 二律双生 核心
姿勢
価値提案
手段