ここでは,「フェリシモの森基金」プロジ ェクトを事例としてとりあげ,同社の社会貢 献活動を詳しく理解したい。
同基金は,「地球のために,何かいいこと をしたいけれど,ひとりでは何をしたらいい か分からない」という人に,毎月一口 100 円 の寄付をするという形で参加してもらい,集 まった基金で国内外の森づくりを進めるとい う活動である。(図− 5を参照)
カタログにはさまざまな商品が紹介されて
いるが,「フェリシモの森基金」はその中の 1 ページに紹介されている。顧客は,カタログ を見て「ほしい」と思った商品を注文するわ けだが,その過程で「フェリシモの森基金」
の存在を知ることになる。そして,「100 円で 森づくりに貢献できるなら」と賛同する顧客 は,他のコレクション商品を注文する手続き と同じ要領で「フェリシモの森基金」を注文 し,支払いをする。このように,顧客は通常 の買い物の中で手軽に森づくりに参加するこ とができる。
この森基金に支払う 100 円に対して,顧客 には直接的な見返りは何もない。それでも,
1990 年に開始されて以来,累計で 350 万人以 上の顧客がこの森基金に賛同している。2011 年現在,集まった基金の累計は 3 億 5,000 万円 を超え,国内外 38 か所で 19,103,166 本の植林 を実現している13)。
このように多くの顧客の賛同を得てきた
「 フ ェ リ シ モ の 森 基 金 」 が 開 始 さ れ た の は , 20 年以上前の 1990 年のことである。その頃 は,環境問題がメディアで取り上げられる中,
■図―― 5
「フェリシモの森基金」プロジェクトの活動風景
出所 : 同社より提供された画像
それに対して具体的に何をしていいのか分か らず,ストレスがたまる人も多くいた。その ような人たちに「一緒に森を作りませんか」
と提案したのが,「フェリシモの森基金」で ある14)。
「環境は,消費者にとっては身近ではない 遠 い問題 。そこに一歩,踏み出しやすい仕掛け があると参加してくれる。」(矢崎和彦社長)15)
環境問題への取組み,と言っても多様な可 能性がある中で,フェリシモでは自社の事業 で多くのカタログを発行していることから,
紙の資源に注目した。紙の原料となる木に関 わる活動として,森づくりに取り組むことに したのである。この活動を実施するにあたっ て,フェリシモは自社だけで行うのではなく,
「顧客と一緒に何かできないか」と考えて企 画を検討した。同社はコレクション商品を毎 月 1 回,顧客に届けることを事業の基本スタ イルとしている。つまり,毎月 1 回,顧客と の接点がある。この接点を通して実施できる こととして考えたのが,毎月一口 100 円から の基金を募ることであった。
毎月 1 回の接点を通して実施する「フェリ シモの森基金」は,多くの顧客の賛同を得た。
コレクション商品の購入と同じ仕組みで基金 に参加できることは,寄付をすることが特別 なことのようだと抵抗を感じるような顧客で も,手軽に参加できることで賛同を得てきた16)。
森づくりの活動報告は,毎月 1 回,商品を 届ける際に同梱する冊子で報告したり,ウェ ブサイトを通して伝えたりしている。顧客は,
自分が寄付した 100 円が多くの人の寄付と連
帯して,どこの森づくりをどの程度の規模支 援したことになるのか,といったことを知る ことができる。そうした対話を通じて,森基 金は 1990 年の開始時より多くの顧客との連帯 によって,継続的な森づくりの支援を実施す ることができている。
こうした活動の実施を支えるのは,フェリ シモ内に組織される基金事務局である。ただ し,フェリシモには基金運営を目的とした部 署は存在しない。基金事務局には,1 人の窓 口担当者が専属スタッフとして配属されてい るが,他のスタッフは社内公募により集めら れ,プロジェクトとして取り組まれている。
スタッフは 2 年の任期で基金運営に携わり,
毎年,平均して 6 〜 7 名程度で運営されてい る。
基金事務局では,顧客から集められた基金 をもとに,どのようにして目的を実現してい くか等が検討される。森に詳しい専門家の助 言を求めたり,NGO ・ NPO 団体と連携した りする中で,毎年の基金の用途を決定してい く。
例えば,2009 年度はインド東部,山形県最 上町,秋田県潟上町の 3 箇所の森づくり事業 を支援した。インド東部の植樹事業では,タ ゴール協会との連携のもと,2007 年度からの 3 カ年計画で進められ,3 年間で 2,896 ヘクタ ールの土地に約 530 万本の植林を実現した。
また,山形県最上町の植林事業は,最上町総 務課まちづくり推進室との連携のもと,2,600 本の植林を行った。秋田県潟上町では,国土 緑化推進機構との連携のもと,スキー場跡地 などの荒地に 3,250 本の苗木が植えられた17)。
フェリシモは,あくまでパイプ役として,
顧客から集められた基金を有効に形にするお 手伝いをしている。顧客のほしいものを見つ けて提供していく,という購買代理としての フェリシモの事業スタイルにおける基本スタ ンスと同様であると言える。顧客から集めた 基金を有効に使うことができるよう,植樹・
植林を行う地域や規模などを決定していくの である。
実際に植樹・植林を行う際には,顧客にも 参加を呼びかける。フェリシモの顧客は全国 各地に居住しているので,特定地域の植樹に 多くの顧客が集まるわけではないが,植樹に 参加することができた顧客は,その活動を通 して未来の地球環境に対する想いをめぐらせ たり,子供に教育するよい機会を得たり,大 地からエネルギーをもらったりといったこと を経験しているようである18)。
「家族 3 人で参加しましたが,娘はまだ 2 歳に満たず,申し込み時やる気満々だった私 は妊婦になってしまい……と,かなり微力な 私たち。『大きくなあれ』のおまじないをメ イン担当にし,夫に 3 人分以上,がんばって もらいました。このひとつひとつの苗が,や がて森になっていくんだという実感とともに,
充実感と大地から大きなエネルギーをもらっ た感じがしました。すごく楽しかったです。」
「木の製品が大好きです。今まで,地球環 境のために何かをしたいと思っていても,な かなか動けずにいたため,参加したいと思い ました。」
「森林は増えてほしいと思いますが,百年 二百年先を見すえた地球のための森づくりに 取り組んでもらいたいと思います」
「こどもに木を育てることの大切さから生 物多様性のことまで話をする良い機会となり ました。気を植えるだけでなく,管理するこ とまで活動の範囲にしていければ素敵だと思 います」
「フェリシモの森基金」は,森づくりを進 めることを目的とした活動であるが,この活 動がヒントになって誕生した商品もある。事 務局運営に関わった社員が自分の部署に戻っ たときに,基金活動の経験をもとに新商品の アイデアを形にしたのである。
一つの例は,「メンテ」という手袋である。
フェリシモの森基金の支援先の一つである,
インドで活動してきた社員が,同国で生産さ れている綿に注目し,それを素材とした手袋 を開発した。もう一つの商品は,「もくりん」
である。もくりんは木製の鈴で,木の種類に よって色や香りが異なる。鈴の中の球も木製 なので,木の種類によって音が異なる。森基 金に参加するだけでなく,それをきっかけに,
木のことを知る機会もあればと考えられたの がこの商品である。
フェリシモの森基金の活動当初には想定し なかった,森を知ることに関するこうした商 品の展開は,実現した例はそれほど多いわけ ではないが,森基金に関わった社員が活動を 通じて何らかの影響を受けたという側面があ ることは確かだろう。そうした活動を伝える ために,同社ではウェブサイト「森活部」を 立ち上げ,森基金に参加するだけでなく,森 のことをよく知る,森について読む,森に関 する商品を買う,などの広がりを見据えた活 動の展開も始めている。