本稿では,いくつかの角度からサプライヤー
選択基準に関する主要な先行研究を紹介してき た。これらの研究は,企業の購買意思決定プロ セスにおけるメカニズムを明らかにすることで,
生産財マーケティングに示唆を提供してきたと いえる。一方で,生産財マーケティングに関し ては,サプライヤーが選択基準において顧客の ニーズに応えていないことを指摘する研究もあ る。Lambert, Adams and Emmelhainz(1997)
は,アメリカにおけるヘルスケア業界の購買責 任者を対象とする実証研究を行い,サプライヤ ーが選択基準において購買企業の要求を満たし ているかどうかについて考察した。同研究は,
選択基準において購買企業が求める重要度と購 買企業によるサプライヤーの評価との比較を行 った。研究結果では,ほとんどすべての選択基 準要素において,各サプライヤーに対する評価 が購買企業の求める重要度を下回っており,サ プライヤーが選択基準で顧客企業の要求を満た していないことが示された。
これまで紹介した先行研究が指摘しているよ うに,選択基準は事業環境などの要因によって 影響されるため,購買企業の選択基準を正確に 把握することが難しい場合もある。筆者のマー ケティングにおける実務経験でも,同一業界で 同一製品を購入するという状況で,購買企業の 事業戦略や事業環境により,企業間で選択基準 が全く異なっている例があった。これは同一業 界で企業によって選択基準が異なる例であるが,
一般的に業界,企業,購買担当者などの次元で,
購買企業は異なった基準でサプライヤーを選択 する可能性がある。マーケターは,このような 購買企業の選択基準を正確に把握し,効果的な マーケティング戦略を構築する必要がある。
今後,実務と学術との間で問題意識や情報の 共有が促進され,企業の購買プロセスにおける メカニズムを明らかにすることで,サプライヤ ー選択基準の研究が生産財マーケティングに貢 献していくことが期待される。
参考文献
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渋谷 義行(しぶや よしゆき)
一橋大学商学部卒業。現在早稲田大学大学院商学研 究科博士後期課程在学中。
専攻はマーケティング戦略。
まるでノンフィクション小説を読むがごとく,
夢中になって,引き込まれて読み終えてしまっ た。2 つの会社を比較しながらその生い立ちか ら今日に至るまでのドキュメンタリーに基く
「小説」である。でも,何故,小川先生が小説 なの?と思いつつも,読み終えて「そうだった のか」と苦笑いを隠しえなかった。この「作品」
は,「作家・小川孔輔」の「処女作」なのだ。
刊行するにあたって一般書の出版社であること にもこだわったようである。
ご本人曰く,先生が執筆された『当世ブラン ド物語』(誠文堂新光社)や『マーケティング 情報革命』(有斐閣),『続・当世ブランド物語』
『中国へのブランド移転物語』(どちらもダイヤ モンド・フリードマン社『チェーンストアエイ ジ』の連載)は,いつかノンフィクションのド キュメンタリー小説を書くためのステップとし て,ひそかに取り組んできた書き方教室だった という。これまでの作品は「書くという行為」
を鍛えるための媒介物であり,来るべき日のた めの備忘録だったというから面白い。
そして「来るべき日」こそ,この『しまむら とヤオコー』を世に問うた日だったのである。
何と思いたってから 25 年目の本書の出版だっ たというから半端ではない。そのような重要な 位置づけにあるのであれば,もっと姿勢を正し て読むべきだったかもしれないが,「まるで小
説のように読み終えた」という感想はおそらく 小川にとって,最も喜ばしい感想であるのでは ないだろうか・
この書物を読んでいる最中,私は,故田島義 博先生の若いころの書物を思い出してしまった。
軽いタッチで書かれていながら,その背景に的 確な視点と深い洞察力の下での取材と観察があ り,それらが興味深いストーリーを持ってまと められているが故に,一挙に読み終えることが でき,読後に,「なるほど」と感銘し,同感す る諸点が心に残って消えない。ウィットに富み ながら深い感銘を読後に覚えるのである。あの 感覚に近いものをこの作品に感じた。田島先生 は,雑誌記者から研究者・学者になった。小川 は,学者・研究者であるにもかかわらず,作家 を目指しているという。田島先生と比較される ことの善し悪しは小川に聞いてみねば分らぬが。
タイトル通り本書は「しまむら」と「ヤオコ ー」という 2 つの企業の生い立ちから今日まで に至る様々な出来事を同時並行で追いながら書 かれている。創業はヤオコーが 1890 年,しま む ら が 1 9 3 1 年 と 5 0 年 ほ ど 前 後 し て い る が , 1950 年代半ばのほぼ同じ頃にしまむらは法人 化・チェーン化し始め,ヤオコーはセルフサー ビスを採り入れスーパーマーケットに業態転換 している。そしてこの 2 つの企業が生まれた土 地が共に埼玉県比企郡小川町であることが小説
『しまむらとヤオコー』
小川 孔輔 著
小学館 2010 年
家・小川孔輔の好奇心を高めることになる。因 みに小川が同名であることは偶然である。人口 34,000 人弱の小さな田舎町からいかにして日本 を代表する会社に成長していったかが克明に描 かれている。
ところで,2 社を同時に扱う場合,「この内 容はどちらの企業のことだったか」,ふと迷う ことがありがちであるが,本書はたとえそのよ うなことがあっても心配無用である。見開きペ ージ毎にどちらのことが書いてあるか偶数ペー ジの右下部分に記号化されている。しまむら中 心であれば,しまむらのフラッグが立ち,ヤオ コー中心であればヤオコーの,また,2 社を同 時に扱う場合には,両社のフラッグが立ってい るのである。また,冒頭部分における両社の年 表や家系図は読むさなかに参照することがしば しばあった。これもストーリーを理解する上で 便利である。フラッグに関しては,皮肉を言え ば小説っぽくはないのだが。
さて,本書の構成であるが,第 1 章でいきな り創業時の生みの苦しみを明らかにすることも 可能だったように思うが,小川は違う視点から 両社の共通点を見つけている。それは女性パー ト従業員達の生き生きとした働きぶりである。
誰がその会社を支えているのか,まさに会社の 実態を把握する第一歩はそこで働く人々がどの ように働いているかに着目することである。な ぜ,高いモチベーションを持って働くことがで きるのか,それを発見出来るか否かは,企業の 成長をリアルに捉えられるか否かに匹敵する。
第 2 章からいよいよ 2 社の成長要因を明らか にする「物語」がつぶさに展開されていく。小 売業が成長するステップを小川は大きく「3 つ の試練」として捉えている。創業の苦しみ,人 材確保とチェーン組織化,独自のビジネスモデ
ルの確立,である。これらの 3 つの試練につい て,第 2 章,第 3 章,第 4 章がそれぞれ割り当 てられている。
2 社に限らず創業時の創業者の志と才覚につ いて書かれた書物を読むと,そこには必ずと言 ってよい共通点がある。現状に甘んじることな く,成長の機会を探し,既存の価値観を捨て,
新たな取り組みに躊躇しない果敢な意欲である。
第 2 章では,創業時のそれぞれが描かれている が,小川は 2 つの共通点から生まれる両社の似 ている点について触れている。それは両社が業 種こそ異なれ小売業であることから,その立地 獲得の苦労について触れているのは当然である。
もうひとつ「小川町出身」であることの共通点 について,しまむらの藤原相談役の言葉を引用 する形でこう述べている。小川町気質は「前を 見る体質で失敗したらさっさとやめる。変り身 が早く,くよくよしない」のだそうだ。
第 3 章は,人材確保とチェーン組織化の試練 について書かれている。特に小売企業の成長期 の試練そのものである。企業として成長すると 決めた時から,優秀な人材を確保することを同 時にスタートさせねばならないことを改めて示 唆している。また,成長過程で出会う,先を行 くチェーン小売業や業界内外の先人達,またコ ンサルタント達の素直に耳を傾けることが重要 であることも教えてくれた。興味深いのは両社 のそれぞれの新たな出店戦略(フリースタンデ ィングと近隣型 SC)の試みであり,地方都市 に出店してきた大手流通業との競争回避の手段 であることを教えてくれている。マーケティン グの基本の市場細分化に他ならない。
第 4 章は企業が大きく飛躍するために他者が 模倣できない独自のビジネスモデルを構築する ことが重要との観点から,両社のそれぞれの取