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(1)診断に用いるデータ

気象庁では、日本沿岸の74地点(平成25年1 月1日現在)で潮位の観測を実施するとともに、

他機関の検 潮所の観測 データも用 いて海面水 位を監視している。

日 本 沿 岸 の 平 均 的 な 海 面 水 位 の 長 期 傾 向 を つかむため には、でき るだけ長期 間にわたる 地盤変動の 少ない地点 の潮位観測 データが必 要である。このような条件にある地点として、

図1.2-4に示すとおり、1906年から1959年まで

は4地点を、1960年以降は16地点を選択した。

前者については4地点ごとの年平均潮位平年差 の平均値を 日本沿岸の 長期的な海 面水位の評 価に用いた 。後者につ いては、地 域の偏りを 受けないよ うにするた め、まず16地点を長期 変動パターンの類似している4海域に分け、海 域ごとに年平均潮位平年差を求めた後、4海域 を平均した 値を日本沿 岸の長期的 な海面水位 の 評 価に 用 い た (平 年 差 は1981~2010年平 均 値からの差を表す)。

(2)海面水位の長期変化

(1)で求めた経年変動を図1.2-5に示す。

期 間 によ り 地 点 数が 異 な る が、1960年 以降 の16地点における平年差の5年移動平均値(赤

線)と4地点における平年差の5年移動平均値

(青破線)は類似した変化傾向を示しており、

この図は日 本沿岸の海 面水位の長 期変化傾向 をよく表しているとみることができる。

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1950年 頃 に 極 大 が み ら れ 、1990年 代 ま で は 約20年周期 の変動が繰 り返されて いる。また 1990年代 以 降は 上昇 傾 向と 共に 約10年 周期 の 変動が確認できる。日本の気温が過去約100年 間 、 比 較 的 単 調 に 上 昇 し て い る ( 気 象 庁 , 2011)のとは異なり、ここ100年の日本沿岸の 海面水位に は、世界平 均の海面水 位にみられ るような明瞭な上昇傾向はみられない。

IPCC第4次 評 価 報 告 書 と 同 じ 期 間 で 日 本 沿 岸の海面水 位の変化を 求めると、20世紀を通 した期間で は有意な上 昇を示さな かったが、

1961年 か ら2003年 に か け て は 年 あ た り0.8[0.3

~1.3]mmの 割合で上昇し、1993年から2003年 に か け て は 年 あ た り4.8[1.9~7.6]mmの 割 合 で 上 昇 し た ([]内 は 、 信 頼 度 水 準95% の 区 間 ) 。

(3)海面水位の変動要因

地球 温暖 化 に伴 う海 面 水位 の上 昇 を検 出す るためには 、過去の海 面水位変動 の要因を明 らかにし、 自然変動と 地球温暖化 に伴う変化 を可能な限 り区別する ことが必要 である。特 に日本沿岸の海面水位に関しては、図1.2-5に みら れる20世紀 後半 の 約20年周 期 変動 や1980

年代半ば以 降の大きな 上昇の要因 を明らかに することが重要である。

気 象 研 究 所 で は 、 海 洋 大 循 環 数 値 モ デ ル

( 気 象 研 究 所 供 用 海 洋 モ デ ル :MRI.COM, Tsujino et al.2010)を用いて20世紀後半以降の 海洋変動を 再現する実 験を実施し 、日本沿岸 海面水位変動の要因の解明に取り組んでいる。

実験には、 海洋モデル の水平解像 度を従来の 約100km(Yasuda and Sakurai, 2006: Tsujino et al. 2011)から約10kmに高解像度化したモデル を用いた(Tsujino et al. 2013)。これにより、

日本近海の 海流を詳細 に表現する ことが可能 となった。 海洋モデル では、海洋 熱膨張など の 海 洋 密 度 変 化 の 効 果 は 計 算 さ れ る が 、 グ リーンラン ドや南極大 陸の氷床や 山岳氷河の 融解の効果は計算されない。図1.2-6に、モデ ル海面水位偏差の領域変化分(世界平均で0)

に 観 測 世 界 平 均 海 面 水 位 偏 差 (Church and White 2011) を 加 え た も の を モ デ ル の 日 本 沿 岸海面水位 偏差として 示し、観測 海面水位偏 差と比較する。

海 洋 モ デ ル で 再 現 さ れ た 日 本 沿 岸 海 面 水 位 変動は、図1.2-6に示されるように、約20年周 期の 変動 や1980年代 半 ば以 降の 海 面水 位の 上

図1.2-4 診断に用いた海面水位観測地点

日本沿岸で地盤変動の影響が小さい検潮所を選択した。1906年から1959年までは4地点(左図)、1960年以降 16地点(右図)の検潮所を選択。1960年以降については、海面水位の長期変動パターンが類似している海 域別に日本周辺をⅠ:北海道・東北地方の沿岸、Ⅱ:関東~東海地方沿岸、Ⅲ:近畿~九州地方の太平洋側 沿岸、Ⅳ:北陸~九州地方東シナ海側沿岸の4海域に分類(右図)。

忍路、柏崎、輪島、細島は国土地理院の所管。東京は1968年以降のデータを使用している。

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の影響を受けた可能性のある函館、深浦、柏崎、東京は、2011 2012年のデータから除外している。八戸は、検潮所が流失したため欠測としている。

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 海面水位

昇を再現す る。海洋モ デル実験や 観測データ の解析から 、日本沿岸 海面水位の20年周期の 変動は主に 北太平洋の 冬季偏西風 の南北移動 や強度変動 が原因であ ることが明 らかとなっ た(Tsujino et al. 2013)。

図1.2-7上 段 は 、 観 測 世 界 平 均 海 面 水 位 偏 差 を含まない日本沿岸海面水位変動(モデル)、

中段は偏西 風帯の北部 で平均した 風応力東西 成分の時間 変動を示す (偏西風の 強度変動の 影響を取り 除くため、 各年の偏西 風の最大値 を引いてあ る)。両者 を比較する と(時間軸

が4年ずれていることに注意)、どちらも20年 周期の変動 が卓越して おり、偏西 風帯の北部 で偏西風が強い年の約4年後は日本沿岸海面水 位が高いこ とがわかる 。一方、20世紀半ば以 降偏西風は強くなる傾向にある。

図1.2-7下段の等値線は海面風応力東西成分 の平年値、矢印は海面風応力の平年値を表す。

北太平洋上 の冬季偏西 風は、北緯37度付近を 中心として 北緯25度~50度に存在 する。陰影 部は、日本沿岸海面水位が高い年から4年さか のぼった年の冬季海面風応力東西成分を示す。

冬季偏西風 の南北で正 負の値、す なわち、偏 西風が北部 で強く、南 部で弱くな ることを意 味する。

では 、偏 西 風の 変動 は どの よう に 日本 沿岸 海面水位の 変動をもた らすのだろ うか。北半 球では、偏 西風下の海 洋表層で南 向きの流れ

(エクマン 流)が生じ る。エクマ ン流の強さ は海上風の 強さに比例 するため、 偏西風から 南北に離れ るほどエク マン流は弱 くなる。こ のため、偏 西風の南側 の海洋表層 では海水が 収束し、海 面を押し上 げ、水温躍 層を押し下 図1.2-5 図1.2-4の地点・海域で平均した日本沿岸の海面水位の経年変動(1906~2012年)

1906年から1959年までは、地点ごとに求めた年平均海面水位の平年差を4地点で平均した値(白丸・黒破 線)の推移、1960年以降については、4海域ごとに求めた年平均海面水位の平年差の平均値(白三角・ 黒 線 ) の 推 移 を 示 す 。1981年 か ら2010年 ま で の 期 間 で 求 め た 平 年 値 を0と し て い る 。 青 線 は4地 点 平 均 の 平 年 差 の5年 移 動 平 均 値 (1960年 以 降 の5年 移 動 平 均 値 を 青 破 線 で 示 す ) 、 赤 線 は4海 域 平 均 の 平 年 差 の5 移動平均値を示す。

‐80

‐60

‐40

‐20 0 20 40 60 80

1960 1970 1980 1990 2000 2010

図1.2-6 日 本沿岸の平 均 的な海面水 位 の観測値(赤 線)と数値モデルによる再現値(青線)

1960年~2007年の平均を0としている。

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げている。 偏西風の北 側では逆に 海水が発散 し、海面を引き下げ、水温躍層を引き上げる。

もし何らか の理由によ り北部で偏 西風が強化 する場合、 南側の海面 の高い海域 が北上する ことになる 。これによ って、北緯30度~45度 の広い範囲 で海面が上 昇する。南 部で偏西風 が強化する 場合は逆に 海面が下降 する。この ように上昇 (下降)し た海面水位 偏差は、地 球 自 転 の 影 響 を 受 け て 西 向 き に 伝 播 ( ロ ス ビー波)し、4~5年かけて日本沿岸に到達し て海面水位を上昇(下降)させる。

次に 、偏 西 風が 強く な る場 合を 考 える 。偏 西風が南北 に位置を変 えずに強く なると、偏

西風の南側 の収束、北 側の発散が それぞれ強 くなる。こ のため、偏 西風の南側 では海面が 上昇、北側 では海面が 下降するこ とになる。

このような 偏差はロス ビー波によ って日本沿 岸に到達し、日本沿岸海面水位を変動させる。

1980年 代 半 ば 以 降 (1985~2007年 ) の 海 面 水 位 上 昇 は 、 年 あ た り 約2.8mmで あ る 。 図1.2-7 では 、1980年代 半ば 以 降に 日本 沿 岸海 面水 位 が上昇して いることが わかる。し たがって、

図1.2-6にみられた1980年代半ば以降の日本沿

岸海面水位 上昇の要因 の一つとし て冬季偏西 風の 変動 が 挙げ られ る 。し かし な がら 、1980 年代以降の 冬季偏西風 の変化によ る日本沿岸 海 面 水 位 上 昇 率 ( 年 あ た り1.0mm) は 実 際 よ りは小さく 、残りの上 昇は地球温 暖化に伴う 世界平均海 面水位上昇 が寄与して いると考え られる。

上 記 は 海 洋 モ デ ル を 用 い た 変 動 要 因 の 考 察 であるが、 海洋観測デ ータを用い た考察も行 われている 。海面水位 は海水の容 積の変化に よって変動 するが、こ れは、水温 と塩分の変 化から算出 できるので 、海洋内部 のこれらの 観測データ から海面水 位の変動を 知ることが できる。

野 崎 ほ か (2005) は 、 日 本 周 辺 海 域 に お け る過去30年余りの観測 データの解 析から、日 本の南方や父島周辺海域の海面水位の変動が、

主に300m以深の海洋内部の水温変動によって 引き起こさ れているこ とを示した 。この水温 変動は北太 平洋中央部 における水 温躍層の深 度変化が伝 播して生じ たものであ り、上記海 洋モデルの 結果を観測 データから 支持する結 果となって いる。一方 で、南西諸 島周辺では 次に示すように変動の要因が異なっている。

東シナ海の海洋観測点PN-1(図1.2-8)にお ける海面水位の変動を図1.2-9に示す。これは 海面から水深200m付近までの表層の水温と塩 分の観測デ ータから求 めたもので あるが、そ の変動は主に水温の変動によって生じている。

那覇の海面 水位の変動 と比較する と、周期、

振幅ともよ く一致して おり、南西 諸島周辺の 海面水位の 変動が海洋 表層の水温 変動に起因 図1.2-7

(上段)海洋大循環数値モデルで再現された1964

~ 2007年 の 年 平 均 日 本 沿 岸 海 面 水 位 変 動 ( 5年 移 動平均:mm)。1960-2007年の平均値を0とした。

観 測 世 界 平 均 水 位 変 動 を 除 き 、5年 移 動 平 均 し た 。( 中 段 ) 偏 西 風 帯 北 部 ( 東 経 160度 か ら 西 経 160度 、 北 緯 40度 か ら 北 緯 50度 の 領 域 ) で 平 均 し た 1960 ~ 2003 年 の 冬 季 海 面 風 応 力 東 西 成 分 変 動

( 5年 移 動 平 均 : Nm-2) 。た だ し 、 偏 西 風 の 強 度 変動の影響を取り除くため、各年の偏西風の最大 値 を 引 い た 。1960-2003年 の 平 均 値 を0と し た 。

(下段)1960~2007年で平均した冬季海面風応力

( 矢 印 ) と そ の 東 西 成 分 ( 等 値 線 : Nm-2) 。海 洋 大循環モデルで再現された年平均日本沿岸海面水 位 変 動 と4年 前 の 冬 季 海 面 風 応 力 東 西 成 分 変 動 と の 回 帰 係 数 ( カ ラ ー ) 。 統 計 期 間 は19642007 年。