• 検索結果がありません。

(1)診断に用いるデータ

気象庁では、地球規模の気候変動を監視するた めに、人工衛星の観測データを用いて北極・南極 域の海氷域を毎日解析している。解析に利用して いる観測データは、米国航空宇宙局(NASA)か ら提供されているNIMBUS衛星7号の多重チャネ ルマイクロ波走査放射計(SMMR;1978年10月~

1987年7月)及びアメリカ雪氷データセンター

(NSIDC : National Snow and Ice Data Center)から 提供されているDMSP衛星のマイクロ波撮像装置

(SSM/I;1987年7月~2009年4月、SSMIS;2009 年4月~2012年12月)によるものである。これら のデータは、同一の特性をもったセンサーによっ て継続的に長期にわたって得られたもので、北 極・南極域の海氷解析の標準データとなっている。

次項では、NASA Teamアルゴリズム(Cavalieri et al., 1984; Comiso et al., 1986; Gloersen et al., 1986, 1992; 長 ほか, 1996)を 用 いて 解析 し た海 氷域

データに基づいて、北極・南極域の海氷の長期変 化傾向について述べる。なお、使用した資料は 2012年12月までのもので、平年値は1981年から 2010年までの平均値である。

(2)北極・南極域の海氷の長期変化傾向

図1.3.1-3は、北極域、南極域の海氷域面積の経 年変動を、年平均値、年最大値、及び年最小値を 示したものである。

北極域の海氷域面積は、1979年以降長期的に減 少傾向がみられるが、減少速度は一様ではない。

1990年代は比較的緩やかに減少しているが、近年 は減少率が大きくなる傾向にある。年最小海氷域 面積は2012年に、年最大海氷域面積は2006年に、

それぞれ過去最小を記録している。海氷域面積の 過去最小値はすべて2004年以降に記録されている ことから、北極域では年間を通して海氷域の減少 が2004年以降顕著であることがわかる。また、年 最小海氷域面積の縮小する割合と年最大海氷域面 積の縮小する割合を比較すると、前者の方が大き くなっている。これは、夏季に海氷域面積が減少 しても、冬季にはある程度減少幅を回復していた ことを表しているが、2004年以降は冬季の海氷も 大きく減少しており、夏季に多年氷が融解して減 少する分を冬季の海氷の生成で補いきれなくなっ て い る こ と が 指 摘 さ れ て い る (NSIDC Press Room; 18 March 2005)。そのため、近年は北極域 の全海氷のうち多年氷の占める割合が急速に減少 し、逆に薄く融けやすい一年氷の割合が増えてお り、これが原因で春から夏にかけて広範囲で急速 に海氷の融解が進んで多年氷が更に失われ、翌年 夏季の海氷の減少を助長していることが指摘され ている(NSIDC Press Room; 4 October 2011)。な お、北極海の氷厚の長期的な減少については、潜 水艦による観測結果からも明らかにされている

(Rothrock et al., 1999, Yu et al., 2004)。

南極域の海氷域面積は、1979年以降長期的に増 加傾向であるが、その要因については未解明な部 分が多く、現在も研究が進められている。

73

北極域の減少傾向が卓越しているため、南極域と 合わせた全体では減少傾向である。

3 診断

北極域の海氷域面積には明らかな減少傾向がみ られ、特に最小海氷域面積の減少が顕著である。

一方、南極域の海氷域面積には1990年代初頭から わずかな増加傾向がみられる。全球の海氷域面積

74

図1.3.1-3 北極域及び南極域の海氷域面積の年最大値、年平均値及び年最小値の経年変化(1979~2012年)

破線は変化傾向を示す。

北極域

南極域

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 北極・南極域の海氷

は、北極域の減少の影響が卓越して減少傾向に なっている。IPCC第4次評価報告書(2007)では、

海氷域面積のこれらの変化傾向には、大気循環の 変動と関連する数年から10年スケールの変動もか なり含まれると述べられている。

海氷域の変動は気温・水温・降水量・大気の流 れなどの影響を受けるため、気温の上昇が海氷域 の減少に単純に結びつくものではないが、地球温 暖化予測情報第7巻(気象庁,2008)の気候モデ ルによる数値シミュレーション結果では、北極域 の海氷密接度の減少の大きな地域は気温の上昇の 大きな地域に対応しており、両者が相互に関係し ていることを示唆している。

参考文献

Cavalieri, D. J. and P. Gloersen, 1984: Determination of Sea Ice Parameters With the NIMBUS 7 SMMR, J.

Geophys. Res., 89, 5355-5369.

長 幸平,佐々木信夫,下田陽久,坂田俊文,西尾 文彦,1996:オホーツク海におけるSSM/Iデータ を用いた海氷密接度推定アルゴリズムの評価と改 良,日本リモートセンシング学会誌,16,47-58. Comiso, J. C., D.J. Cavalieri, C. Parkinson and P.

Gloersen, 1986: Passive Microwave Algorithms for Sea Ice Concentration: A Comparison of Two Techniques, Remote Sens. Environ., 60, 357-384.

Gloersen, P. and D. J. Cavalieri, 1986: Reduction of Weather Effects in the Calculation of Ice Concentration From Microwave Radiances, J. Geophys. Res., 91, 3913-3919.

Gloersen, P., W. J. Campbell, D. J. Cavalieri, J. C.

Comiso, C. L. Parkinson and H. J. Zwally, 1992: Arctic and Antarctic sea ice, 1978 - 1987: Satellite Passive Microwave Observations. NASA SP-511.

IPCC, 2007: Climate Change 2007: Working Group I:

The Physical Science Basis.

気象庁, 2008: 地球温暖化予測情報,第7巻

NSIDC News, 18 March 2005, Arctic Ice Decline in

Summer and Winter

NSIDC News, 4 October 2011, Arctic sea ice continues decline, reaches second-lowest level

Rothrock, D. A., Y. Yu, G. A. Maykut, 1999: Thinning of the Arctic sea-ice cover, Geophys. Res. Lett., 26(23), 3469-3472.

Yu, Y., Maykut, G. A., and Rothrock, D. A., 2004:

Changes in the thickness distribution of Arctic sea ice between 1958-1970 and 1993-1997, J. Geophys. Res.

109(C08004).

75

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 1.3 海氷

1.3.2 オホーツク海の海氷

オホーツク海の海氷

診断概要

診断内容

オホーツク海の海氷の変化は、地球温暖化の影響を受けると考えられているほか、北海 道 の 気 候 や 親 潮 の 水 質 な ど に 影 響 を 及 ぼ す 。 こ こ で は 、 オ ホ ー ツ ク 海 の 海 氷 に つ い て 、 1970年の観測開始以来43年間の長期変化傾向を診断する。

診断結果

1970年代初めからのオホーツク海の海氷域面積は緩やかな減少傾向であり、網走で流氷 が観測される期間も短くなる傾向がある。しかし、長期的な変化よりも10年程度の周期の 変動や年々の変動の振幅のほうが大きい。これは、オホーツク海の海氷の大部分が、北部 で生成して風や海流によって運ばれる流氷で構成されることから、年々の大気の流れに大 きく支配されるためである。オホーツク海の海氷域面積は北極域のように明確な減少傾向 になく、海氷域面積の変動に及ぼす気象や海洋のメカニズムについて、地球温暖化の影響 の評価も含めて現在も研究が進められている。