• 検索結果がありません。

第 3 章 企業事例調査

3.4. 既存企業の動向

29

スインテリジェンスツールを提供しており,「Trunkey(すぐに使える)」とい うキーワードを全面に出し,導入の容易性を顧客に対して訴求している.

同社のケーススタディには,日本企業のトプコン社の製品と Jasper 社の プラットフォームを利用し,精密農業分野でのサービス提供を行っている.

同社の資料によると農機の稼働状況や収穫状況のモニタリングを可能にし たとしている14

30

によって得られるデータを社内で活用するというサイクルを構築し,事業 の先進化,最適化に Predix が寄与することを証明した.

この活動によって,GE 社の各事業部はプラットフォームとしての Predix を採用する.また, Microsoft のクラウドサービス「Azure」に Predix の 提供を開始15した.Microsoft の発表によると GE 社 CEO のイメルトは「顧客 が保有するマシンから出てくる膨大な量のデータから価値を引き出す支援 しているインダストリアル・インターネットは世界規模で製造業の繁栄を 支援することが可能にする」と発言している.同時に GE 社は,2020 年に世 界のソフトウェア企業ランキングにおいて 10 位以内に入ることを目標とし ている.この Microsoft 社への Predix の提供は,エコシステムを構築する 上で戦略的にも優位になる.同時にこれまでジェットエンジンや MRI とい ったプロダクト販売と併せて Predix から取得したデータを元にさらに価値 を高めていくものと考えられる.

3.4.2.

クボタ社の事例

株式会社クボタ(以下,クボタ社)は,農業機械を中心とした事業に加え,

パワープラントで利用されるエンジンやパイプラインの開発・製造・販売を 行っている.国内における農機のシェアは,国内 1 位であり,世界 4 位のメ ーカーでもある.しかし,日本市場は,農業機械市場は 2500 億円程度と市 場としての規模は減少傾向にあり,農業全体で見た場合,農林水産省 (2015a)が発表した生産農業所得統計によると農業従事者は 2009 年に 260.6 万人に対し,2015 年には 209.7 万人と 20%と減っており,加えて農業従事 者の平均年齢は,67.1 歳と高齢化が進んでいる.加えて新規就農者が農林 水産省の平成 27 年新規就農者調査によると 3,570 人となっており,急速に 人材枯渇が進んで居る状況といえる.加えて 1978 年に 5 兆 4,206 億円あっ た生産農業所得は,2013 年には 2 兆 9,412 億円と 54%も下落している.所得 の減少と従事者の減少によって日本の農業は,平成 27 年のカロリーベース の食料自給率は 39%しかまかなえていない.

15 2016/07/11 Microsoft New Center https://news.microsoft.com/2016/07/11/ge-and- microsoft-partner-to-bring-predix-to-azure-accelerating-digital-transformation-for-industrial-customers/

31

このような背景から農林水産省(2015b)は,アグリ・インフォマティクス (農業情報科学)の重要性を訴えている. アグリ・インフォマティクスとは

「今後急速に失われていく可能性のある篤農家の「匠の技」(暗黙知)を,

ICT 技術を用いて「形式知」化し,他の農業者や新規参入者等に継承してい く新しい農業」としている.この活動によってこれまで経験に即した暗黙知 が定性的な形と実態化し,農業経営において有効に作用するとしている.

クボタ社の農業 IoT サービスの「クボタ・スマート・アグリ・システム (以下,KSAS とする)」は,アグリ・インフォマティクスに向けたアプロー チの一つといえる.農業従事者が日々の行動をスマートフォンから入力,ま たは,KSAS 対応の車載無線ユニットが搭載されている農業機械を利用する ことで対象となる圃場に関する情報をスマートフォンから KSAS のクラウド にアップロードする仕組みを提供している.具体的には,農業機械が肥料を 散布したデータを取得し,実際の収穫した生産物を踏まえて,肥料の量が適 正だったかを検証し,次回の作付けで最適化を行うことを可能とする.また,

生産物,主に米の圃場単位の収穫量および「おいしさ」の情報を取得する.

しかし,このサービスを実現するために組織を横断した取り組みが散見 される.日経コンピュータ(2015)によると KSAS は 1 年の期間に最大で 50 人が参加したプロジェクトであり,そのメンバーは,農機の技術部などの代 表者 4 人,システムを開発するクボタシステム開発のメンバーが集まり,開 発をおこなった.社内に関係部署が多く、調整が必要だったとしている.ま た,センシングに統一的な規定がなく,インターフェイスの調整が必要だっ たことが示されている.収穫物の「おいしさ」を測定することを可能とした のは食味収量コンバインの研究開発が進んでおり,コメの成分を計測し,食 味に関する情報を収集することが可能となった.

生産に関する情報と当時に農機の稼働情報を収集し,保守に生かす取り 組みが行われており,「機械サービスシステム」というサービスで提供され ている.農業の場合,植え付け・収穫時期がある程度決まっている.そのた め,そのタイミングで農機の故障は植え付け・収穫のスケジュールに影響が 与える.そのため,同サービスは,同社の製品価値を最大化することが可能 となる.

32

KSAS の責任者である長網氏16にインタビュー17を行い,KSAS についてヒア リングを行った.長網氏によると元々,IoT は意識しておらず,従来の農業 を取り巻く環境,海外とのコスト競争力,生産主体(担い手)がプロに移行さ れている現状が KSAS 開発のきっかけとなったとしている.生産者の所得を あげるには高品質高収量(大量均一生産)化が必要と考え,KSAS の開発を着 手した.「おいしさ」の均一化は,生産者にとって重要な問題ではあるが,

その原因がわからないという背景が存在した.稲作では,圃場の窒素量によ って生産物の収穫量とおいしさが変わる.窒素量の調整は,肥料を減らすこ とになるが,過去の経験から農業経営者では決断できない背景が存在したと いう.KSAS は,センサーによって「おいしさ」の状態が把握出来ることによ り,減肥が可能かどうかの判断材料の提供を可能とした.

この KSAS の実現にあたり,研究部門トップ,経営トップから「これまで 自社を育てていただいた農業経営者,日本の農業に寄与する」という判断で 実施が決定した.当初は「ワイガヤ」レベルで着手し,2011 年から一気に開 発が進み,新潟の農業経営者の協力を得て実証実験,検証作業を行った.2014 年にサービスを開始し,2016 年ぐらいから加入者の利用率が高くなったと している.また,長網氏による「サービス料として月額 6,500 円(本格コー ス),これだけで利益をあげるのではない.顧客に踏み込んで,コンサルと までは行かないが新しい顧客との関わり方,関係性を強化していきたい」と いう考えを示している.

3.4.3.

ダイキン社の事例

ダイキン工業株式会社

(

以下,ダイキン社とする

)

の「あんしんスカイエア」

というサービスを提供している.オフィス等に設置しているエアコンやユー ザーの利用データを収集し,制御の最適化を行うことを目的としている.マ イナビニュース(2015)によるとダイキン社は,以前から「DAIKIN D-irect」

というサービスを展開しており,エアコンのセンサーからネットワークを経 由して

Web

サービスで室内温度と設定温度,消費電力などを簡単に確認で きるサービスを提供していた.しかし,ネットワークに接続する必要があり,

16 株式会社クボタ アグリソリューション推進部 KSAS業務グループ グループ長

17 201712013時~クボタ本社にて実施

33

導入先企業のネットワークを利用しての通信は,セキュリティの観点から利 用例は限られていた.しかし,

2

つの要因によってこのサービスの提供環境 が成立した.一つは,

2011

3

11

日に発生した東日本大震災である.こ の地震により首都圏に電力を供給していた原子力発電所が停止し,電力の供 給がエリアごと輪番制になり,電力料の価格が上昇した.このため,電力料 金の抑制が顧客からの要求事項となった.もう一つは,通信モジュールの低 価格化である.同社のサービスでは

KDDI

社製の

LTE

モジュール「KYM11」

を利用,顧客のネットワークではない別の閉域網ネットワークから情報取得 が可能となった.この結果として機器の異常時の状態把握が,現地に訪問す ることなくダイキン社側で確認が可能となる.加えて,故障の前兆と思われ る動きをあらかじめモニタリング可能となり,事前保守も可能となったとし ている.このビジネスは,従来の「エアコン」としての売り切りという形と は別にリースと保守を組み合わせた「あんしんスカイエア」というサービス の提供が可能となった

(

14)

14

ダイキン社「あんしんスカイエア」のビジネスモデル

ダイキン社HVCHPより筆者作成

34

このサービスは,一定の初期費用が発生するものの

7

年間の機器の利用料 と保守料がセットになったサービスである.前者は,従来の空調機器の販売 および保守契約であり,後者は設置空間における空調のサービス化を実現し たといえる.

3.4.4. KAESER

社の事例

ドイツのコンプレッサーメーカーの KAESER は,コンプレッサーの販売を やめ,コンプレッサーから作られる圧縮空気に対して課金する事業モデルへ 変更した.これは,コンプレッサーという製品の特性が大きく影響している ものと推測される.岩本(2016)によるとコンプレッサーは,圧縮空気の費用 の 80%以上は電気代であり,コスト削減を行うには省電力が重要になる.加 えてコンプレッサーは冷却が必要になる.方法は,水冷式と空冷式があり,

コンプレッサーを安定的に稼働させるためにはメンテナンスを適切に行う 必要がある.そのため,コンプレッサーは,必要性から求められる物である が,ユーザーからは,可能な限りコストとして押さえたいものと考えられて いた.このユーザーのニーズに対して,コンプレッサーの本体の販売からか ら圧縮空気の販売というビジネスモデルを変更した.2015 年時点の世界の コンプレッサー市場は,年 15~20%の伸び率を示しており,シェア通りに規 模を拡大することによって当面の成長が見込める市場である.その市場にお いて競争力を持つ方法として,イニシャルコストがかからない「圧縮空気の 販売」となる.これは,エンドユーザーにおけるニーズであり,これを可能 としたのは,コンプレッサーのモニタリング技術である.同社は,導入した 製品・システムの予備診断(PdM; Predictive Maintenance),顧客のシステ ムを構築して運転状態を把握するシステム(EB; Engineering Base)を導入 しており,これらのシステムを利用し,「シグマ・エア・ユーティリティ」

という圧縮空気を販売するサービスを実現した.このサービスを導入するこ とによってユーザー・KAESER は,表 8 にまとめたメリットを共有すること が可能となる.

関連したドキュメント