• 検索結果がありません。

第 4 章 先行研究,企業事例からの考察

4.2. ビジネスモデルの変化と対応

ビジネスモデルの変更には,先行事例から 2 つの方法を導くことができ る.1 つは,トップダウンによって変更することである.KAESER 社は,トッ プダウンでビジネスモデルを変更している.これは, Westerlund の示唆と 一致する.しかし,トップダウンでの決断が出来る企業は少ない.

もう一つは,根気強く関連する組織と交渉し,徐々に変化していくことに なる.組織的課題や顧客ニーズからのアプローチによって変化させていくこ

42

ととなる.先行研究では,製品・サービスの特性に応じたアプローチが必要 としており,先行している既存企業は,その考えを踏襲した形となっている.

従来の保守オペレーションに IoT を利用,保守オペレーションの効率化,ま たは,サービス化を実現している.

ベンチャー企業も製品を販売している企業ではスマートフォンのビジネ ス・エコシステムの中で製品を提供している.スマートフォンのビジネス・

エコシステム内においてスマートフォンという通信インフラを利用し,自社 のサービスへ誘導しているという点においては,特性に応じたものといえる.

また,補完財の提供に特化した企業においては,セキュリティや通信モジュ ールといった要素技術を提供する企業が多く,ライセンスやシステム利用料 徴収モデルとなっている.これは,IoT という視点で見たビジネス・エコシ ステムが徐々に構築されているといえる.また,ニッチ・プレイヤーという 立ち位置での事業が多く,ビジネス・エコシステムにおいて重要な役割を担 っているといえる.

先行事例のダイキン社やクボタ社を踏まえると,機能価値として大きな要 素となったのは,通信インフラと考えられる.特に日本では MVNO の台頭に よってコストを大きく削減することが可能になったことが大きい.ダイキン 社のように従来インターフェイスを有しているものに KDDI 社の LTE ユニッ トを搭載することで現地に行かずとも機器のモニタリングを可能とする.ク ボタ社も実際にクボタ社が MVNO として NTT Docomo 社の通信インフラを借 用し,KSAS のサービスを行っている.従って,IoT を導入する土壌としてこ れまでの製品開発の過程において導入のしやすさが存在するのではないか と推測する.従って図 18 の様な従来製品の IoT 化が成立するものと考えら れる.

43

18

既存企業の従来製品と

IoT

従来製品に新たな価値付与プロセスとして設計変更,仕様変更が必要とな る.これは,既存資産は設計段階で IoT を意識して設計されていないために 発生する.

また,Porter(1982)の競争戦略におけるコストリーダーシップが可能とな り,加えてサービス化により同業他社と差別化が実現した.Porter は,競争 戦略において 2 つの同時の実現は望ましくしていないとしている.しかし,

新宅(1986)は,同時に 2 つの実現はイノベーションによって実現可能である としている.新宅が示した事例は,カシオ社の電卓であった.従来 8 桁表示 が必須と考えられていた電卓を 6 桁表示としたカシオミニを発売した.個人 用の商品としてニッチの市場を新たに開拓した.サービス化は,市場におけ るルールチェンジだと考えられる.

同様のチェンジルールでは,工作機メーカーの Hilti 社による先行事例が 存在する.Johnson らに(2008)よると Hilti 社は,製品をサービスに変える ことで収益性を向上する戦略へ変更し,「必要なときに必要なツール」とい うビジネスモデルに変更した(表 10).

筆者作成

44

10

従来型の企業と

Hilti

社のサービス比較

一見,工具を購入してしまえば,必要に応じてドリルビットを購入して利 用する方法が低コストに見えるが,実際には工具のメンテナンス,ビットの 調達は利用者にとって本来の仕事ではない.従って,常に最適な状態で必要 なドリルビットをセットされたツールボックスを指定した場所に配送する ことで本来の目的である作業の生産性を向上させることが可能となる.この 新たな価値を顧客に提案する方法は KAESER 社のサービス化と同じである.

もう一つの方法である,組織内のすりあわせは,一般的には困難が伴う.

これは大江の指摘と同じであり,ビジネスモデルの変更は,いわば新規事業 に近い側面が有る.今までやり方と異なるやり方をすることは,既存事業で 行っていないこと,新たに学習することが発生することになる.そのため,

導入は新たな学習からスタートする.

一方,ベンチャー企業はこの学習がなく,新規に新しいプロダクト,サー ビスを提供することに集中が出来る.QRIO 社,Mimo 社共に従来市場に存在 しなかった製品を開発している.この活動自体は,イノベイティブであり,

新たな市場の創造につながったものといえる.しかし,QRIO 社は,物販以上

Johnsonら (2008)より筆者作成

45

のビジネスモデルは現在のところなく,Mimo 社は,新生児の数に依存する上 に成長に合わせてセンサーがついた衣類を購入するモデルに関しては,最長 でも 3 年前後と 1 顧客あたりのライフサイクルが短い.同様に Baby IoT プ ロダクトしてイスラエルの Heramed 社が販売する妊娠中の妊婦と胎児の心 拍をスマートフォンで見ることが出来るセンシングデバイスに至っては,妊 娠期間の 6 ヶ月前後である.しかし,胎児以外の分野にも進出することは不 可能ではない.先例としてピジャイらの(2012)によるリバースイノベーショ ンのアプローチが有効ではないかと推測する.リバースイノベーションとは,

従来のイノベーションと異なり,既存の製品を川下から川上から進めるアプ ローチである(表 11).

11

リバースイノベーションの

2

つの流れ

具体的な例として GE メディカルは,2002 年に中国市場での小型超音波診 断装置を投入し,従来の特殊なハードウェアベースの構成からソフトウェア ベースの構成に切り替え,2008 年には従来価格の 15%という安価な超音波 診断装置を市場に投入した.その結果,2002 年当時,年商 400 万ドルだった 売上が,2008 年には 2 億 7800 万ドルとなった.しかし,15%という価格は 1.5 万ドルであり,最新モデルのヴィースキャンは日本円で 98 万円,サイ ズはポケットに入るレベルである.HeraMed 社の製品との純粋な比較は不可 能として,プロダクトに対するアプローチは同じである.従って,今後 HeraMed 社のセンシングデバイスは,妊婦・胎児の心拍測定のみにとどまっ ているが,超音波診断装置の様な商品ラインナップをもうけることによって MVE 的なエコシステムの構築が可能と考えられる.また,Mimo 社も同様に高 価な専用機器の購入が難しい,貧困国の医療現場での利用を可能にすること によって新しいマーケットの拡大が可能になると推測する.通常,バイタル

⽬的地 必要とする時間 推進⼒ ⾏動しない場合の結果

取り残された市場

即時 貧困国のマス市場と似た ニーズを持つ富裕国のニッチ 市場

機会を逃す ニューヨーク市の貧困地区 でのマイクロファイナンス

主流市場

少し後から ニーズの具アップが狭まって いく傾向

ことによると,富裕国の市 場における現状の地位を失 いかねない

従来品と競争できるレベル まで,性能をこうさせた⼩

型超⾳波診断装置 ビジャイ(2013)より筆者作成

46

サインと呼ばれる患者の生命に関する最も基本的な情報のうち,Mimo 社の 製品は,脈拍,体温,呼吸数の取得は可能であり,血圧のみが対応していな い.この点を補う方法は,機能を追加する,他の製品の連携となる.加えて,

スマートフォンが通信媒介となり,クラウド上にデータを蓄積することによ って,遠隔医療といった試みも可能となる可能性がある.従ってベンチャー 企業による B2C プロダクトは,今後事業戦略によって大きく拡大する可能性 があると考察する.

関連したドキュメント