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第 3 章 企業事例調査

3.3. ベンチャー企業の動向

本研究におけるベンチャー企業の定義を明確にする必要がある.多くの定 義があるが,IoT という事業特性上,松田(2000)の定義した「成長意欲の強 い起業家に率いられたリスクを恐れ無い若い企業で,製品や商品の独創性,

事業の独立性,社会性,さらに国際性をもった何らかの新規性のある企業」

とする(松田 2000:p5).

対象企業の抽出は,松田のベンチャーの定義の観点から表 3 より抽出し,

対象とした.

3.3.1. QRIO

社の事例

QRIO

株式会社

(

以後,

QRIO

)

は日本における

IoT

の先駆的な商品であ るスマートロック「

QRIO

」が発売している.

QRIO

は,スマートフォンに よって既存住宅のドアロックを開閉する製品である.この製品は,従来のド アに取り付けられているサムターン12の内側にある持ち手にユニットをは める形で装着する.通信は

Bluetooth

を利用し,専用アプリで解錠,施錠を 行う.現在のところ,ビジネスモデルは物販のみである.

QRIO

の仕組みは,本体に鍵

ID

が個別に付与されており,

QRIO

のスマ ートフォンアプリケーションを起動し,バーコードの鍵コードを登録す る.鍵本体とアプリケーションの鍵

ID

が関連づけられ,解錠が可能とな る.

12 ドアの内側にある鍵の開閉金具の総称.

25

11 QRIO

におけるビジネスモデル・利用モデル

アプリケーションの鍵

ID

を持つユーザーは,第三者のユーザーに鍵を送 付することが可能である.これは,アプリケーションから対象ユーザーに対 してアプリケーション用の鍵情報をメールで送信する.

QRIO

社が持つ鍵管 理サーバと思われるサーバから鍵が生成され,対象ユーザーに鍵の情報は暗 号化されてスマートフォンのアプリケーションに送付される.

QRIO

の鍵は,

利用可能時間や利用日などを細かく設定出来るため,テンポラリーに鍵を解 錠することが可能となる.物理的な鍵の受け渡しを不要とするため,

QRIO

社のホームページの事例として

AirBnB

のオーナーや不動産業者などが採 用する事例が紹介されている.

しかし,

QRIO

のビジネスモデルは,本体の販売のみで鍵の配信や管理

などについては無料である.

2016

12

月に遠隔地から解錠を可能にする

QRIO Hub

」の販売を開始した.現時点では,物販以外の収益は存在しな

い.解錠という情報を第三者に販売するとしても防犯の観点から望ましいと もいえないため,これ以上,想像しうるビジネスモデルの構築は難しい.

同社の

CEO

の西條氏は事業構想

(2015)

のインタビューにおいて今後の展 開としてアプリ上に広告を表示するやロックの回数で課金をするというよ うなアイデアを展開,

QRIO

と連動するカメラを設置し,録画するというプ

QRIOHPより筆者作成

26

ランを述べているが,具体的なサービスは提供されていないのが現状である.

3.3.2. Mimo

社の事例

IoT

のビジネス分野に

Baby IoT

というセグメントが存在する.生後,間 もない赤ちゃんのモニタリングを行う分野である.この分野は,過去に類似 がなく,ブルーオーシャンといえる分野である.この分野で先行している企 業でアメリカ・Mimo社の「Mimo Baby Monitor(図

12)」がある.

12 Mimo Baby Monitor

同社は,

Intel

社の

Edison

というマイクロコンピューターを亀の形をし

たようなケースに入れ,赤ちゃんの衣類にセンサーを装着した物と接続する.

センサーからは呼吸パターンのチェック,赤ちゃんの体勢,睡眠するのに快 適な温度,寝ているか起きているかをスマートフォンでモニタリングを行う.

また,起きたときにはアラートがスマートフォンを介して発報する.現在は,

NEST(

サーモスタット

)

と連携して温度・湿度の連携を可能とし,

NEST

オプションのカメラとも連携可能である.

NEST

は,

SDK

を提供しており,

NEST

のビジネス・エコシステムに参加している状態といえる.センサーの

Mimo BabyHPより転載

27

データはスマートフォン経由で閲覧することが可能である.ビジネスモデル は,センサーのベースと衣類がセットになったものと成長に応じて着替え用 の衣類の販売がメインである.これ以外のビジネスモデルについて,現在公 開されていないため今後,どのようなビジネスを展開していくかは不明であ る.

3.3.3. SIGFOX

社の事例

フランスの SIGFOX 社は, IoT 機器間の通信に特化したベンチャーである.

SIGFOX 社は,各 IoT ユニットからの信号を 920MHz 帯域という免許不要帯域 を利用して自社のクラウドへ蓄積するサービス(図 13)を提供している.先 日,日本でも京セラと業務提携をすることを発表した.

京セラ社HPより転載13

13 SIGFOX

社のサービス

その技術は,LPWA(Low Power Wide Area )と呼ばれるものである.LPWA は,通信速度が 100Bps と非常に遅い.しかし,920Mhz を利用し,通信距離 は最長 10km と非常に長い到達範囲を持つ上に消費電力が他の通信方式と比 べ,格段に低い.しかし,欠点もある.双方向の通信が不可能なため,一方 通行となってしまう点がある.これは,モニタリングのみを行う前提であれ ば,問題は無いが双方向,具体的にはホスト側から操作することは不可能を 意味する.また,1 回の送信が 12 バイトと非常に小さく,送信回数も 1 日 あたり 140 回という上限が決まっている.そのためインターバルタイムが 10

13 株式会社京セラ 2016119日ニュースリリース

28

分となる.一方,コストは非常に安く 1 年あたり数百円という価格で通信サ ービスとして利用可能とホームページで公表されている.表 7 では IoT で利 用されている通信方式例を表記する.

表 7 通信プロトコル比較

総務省「情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 920MHz 帯電子タグシステム等作業班(第 1 回)」に SIGFOX 社が提出した資 料によると既に 26 カ国で線路温度,ケーブル張力の保守監視,スマートメ ーター,ADE(除細動器)のモニター等に利用されていることを報告している.

通信コストと電力使用量は,稼働環境によって重要な要素となる.しかし,

安価であってもデータ量や伝送間隔などが適切かを考慮する必要がある.加 えてこれらのデータは,SIGFOX 社のクラウドを経由するため,セキュリティ に対する外部依存度が高くなるものの用途が適切であれば価格としては安 価で導入しやすいインフラになる可能性が高いといえる.

3.3.4. Jasper

社の事例

Jasper 社は,現在,CISCO System 社に買収された Jasper @ Cisco とい う社名となった.同社は,2004 年に設立,世界 120 社のモバイル通信企業と 提携し,M2M サービスの提供を実施.対象分野は,工場,自動車,ホームセ キュリティ,農業,食品産業,ウェラブル,医療と幅広く対応している.同 社を利用することで IoT 化が素早く実現出来ることを提案している.同社の サービスは,機器に搭載されているセンサーからの情報取得を容易にさせる クラウドベースのアプリケーションと取得した情報から表示させるビジネ

筆者作成

29

スインテリジェンスツールを提供しており,「Trunkey(すぐに使える)」とい うキーワードを全面に出し,導入の容易性を顧客に対して訴求している.

同社のケーススタディには,日本企業のトプコン社の製品と Jasper 社の プラットフォームを利用し,精密農業分野でのサービス提供を行っている.

同社の資料によると農機の稼働状況や収穫状況のモニタリングを可能にし たとしている14

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