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旗国検査・証書発給スキーム検討の視点

査・証書発給スキームを構築する上では、サブスタンダード船が排除された後 のレベル・プレイング・フィールドの出現という、MLC2006 の発効により必然 的にもたらされる競争環境を念頭に置くことが必要である。船員の労働条件を 犠牲にすることなどで不当に安い費用構造で運航されていた船舶が市場から退 場させられてから、クオリティ・シッピングを目指す船舶間で真の競争が始ま るからである。とすれば、日本の旗国検査・証書発給スキームは、その下にあ る日本籍船が外国の当該スキームの下にある外国籍船と比してレベル・プレイ ング・フィールドに置かれるべく、存在することも意識しなければならないの は当然である。実際、諸外国調査(第2章)で明らかになったとおり、諸外国 はその点を織り込んで、MLC2006 の発効までの準備期間を長く取るために、必 要な法改正・批准を早く済ませることとしたり、検査員を  ILO 研修センターに 派遣して養成し、検査体制の構築を始めたり、検査・証書発給にあっては柔軟 な対応を可能としたりしている。

ところで、日本の経済・国民生活を支えるライフラインである外航海運の基 盤である日本籍船は、経済安全保障の観点から一定規模が確保されることが必 要である。そこで、海上運送法第34条に基づく日本籍船・日本人船員の確保 に係る基本方針においては、当面の目標として、日本籍船の数を2008年度 からの10年間において2倍に増加させることとしている。今この目標に向け、

国及び関係業界が力を合わせて取り組んでいる状況に鑑みれば、少なくとも今 後の海事分野におけるすべての政策は、かかる目標を共有し、船主が日本籍船 を増やす環境を整備する若しくはその意欲を減退させないことを直接間接を問 わずひとつの効果として備えるべきであることは論を俟たない。

日本におけるMLC2006のための旗国検査・証書発給スキームの対象は日本籍 船である。よって、当該スキームの在り方如何によって影響を受けるのは日本 籍船であるため、当該スキームの在り方もまた、日本籍船増加目標との関係に おいて如何なる効果を有するかが問われなければならない。それ故、MLC2006  のための旗国検査・証書発給スキームは、日本籍船を増加させることについて 何らか正の作用を及ぼすことあるいは少なくとも負の作用をもたらさないこと が見込まれるものでなければならない。

以上のように、MLC2006 を国内的に実施するためには新たに旗国検査・証書 発給スキームを構築することが必要であるものの、MLC2006 が排除しようとす る 悪 質 な サ ブ スタ ン ダ ー ド 船 は そも そ も日 本 籍船 には 存在 しな いこ と 、  MLC2006 は適切な船舶間でのレベル・プレイング・フィールドを作り出すもの であるからその基盤たる国内実施スキームもまた諸外国とレベルであることが 望ましいこと、実際に諸外国はそれを意識していること、さらに、日本は目下、

経済安全保障の観点から日本籍船を増やす取組みの中にあることなどを踏まえ

ると、MLC2006 の円滑な履行という観点から日本の当該スキームの在り方を論 ずるには、当該スキームの効率性、とりわけ日本籍船の船主にとっての利便性 を視座に据えることが必要である。

もとより船主にとっての利便性とは、検査の内容についてではなく、検査及 び証書発給にかかる手続きの負担の少なさであり、証書発給までの時間短縮で あり、寄港国検査において問題が生じた場合の迅速な対応などである。

第  2 節 旗国検査・証書発給スキームのパターン  

MLC2006 のための旗国検査・証書発給スキームについては、RO が代行する

権限に応じて3つのパターン、すなわち、 (1)検査及び証書発給の双方を  RO  が代行する「RO完全代行型」 、 (2)検査のみをROが代行し、証書発給は国の みが行う「RO 検査代行型」 、 (3)検査及び証書発給ともに  RO に代行させず、

国が自ら行う「非代行型」が考えられる。諸外国もこれらのいずれかを採用予 定であるところ、日本の事情を踏まえた上述の視点、すなわち船社の利便性か らそれぞれを眺めてみる。

(1)RO完全代行型 

RO完全代行型は、検査と証書発給の双方をROに代行させるものである。今 般調査対象国の中では、デンマーク、オランダ、ノルウェーそして韓国におい て採用される予定である。 

RO 完全代行型においてはまず、検査の代行権限が RO に与えられる。RO と して今のところ具体的に候補となっている船級協会を例に、その検査体制につ いてみてみると以下のとおりである。

検査を希望する船社が、検査希望日時のどれくらい前に当該日時を船級協会 に申請しなければならないかといえば、基本的に、明示的な申請期限はなく、

検査員の都合が付く限り対応するとしている。この点、三国間輸送若しくは長 期航海に従事する船舶にあっては、寄港地が急遽変更になるなど直前になって 受検可能な寄港地が確定することが多いが、それへの対応として船級協会の申 請受付体制は望ましいものである。当然、検査の受検地についても、国内の港 や海外の少数の港に限られることなく、船級協会の従来のネットワークを活か し、数多くの海外港で対応するとしている。

MLC2006 であれ何であれ、検査 には、 所要の時間がかかるのはやむ を得ないものの、 検査を行う側にと っても受ける側にとっても、 検査が 必要にして最短の時間で済むに越 したことはない。MLC2006 のため の検査は、 検査事項の一部が事実上  ISM コードと共通性を有するが故 に  ISM 検査と同時に実施すること により、 少なくとも別個に行うより もある程度の短縮が可能である。 今 では荷役の効率化に伴い、 船種によ っては停泊時間が短い船舶が多く なっている中、 検査の所要時間は船 社の運航スケジュールに大きな影 響を与えうるものである。この点、

船級協会は、MLC2006 のための検査を ISM 検査と同時に実施するとしており、

両検査を別個に行うことの煩雑さ、所要時間の長さから船舶を解放する意味で、

船社にとって利便性の高いものである。 

RO完全代行型においては、条約証書の発給についても代行権限がROに付与 される。ここでもROたる船級協会の証書発給体制をみれば、証書発給にかかる 申請等は、検査の申請とともになされることとなり、船社にとっては一度の手 続きで完了するワン・ストップ・サービスが提供されることとなり、利便性が 高い。そして証書の交付について、船級協会は検査後に即時交付としており、

これも運航スケジュールを守らねばならない船舶にとって条約証書の入手時間 までの見込みが立ちやすく、利便性が高いものである。 

PSC へのサポートは、船級協会は24時間365日体制を敷いており、船社 に不満はない。

(2)RO検査代行型 

RO検査代行型は、条約証書の発給にかかる検査についてのみ代行する権限を  ROに付与し、条約証書の発給についてはROに委ねず、当該検査にかかる報告 を受けて、国が証書を発給するものである。今般調査対象国のうち、ドイツが 該当する。 

ROに検査のみを代行させる場合、当該検査を担うROとして具体的に名前が 挙がっているのはやはり船級協会である。よって、検査体制については上記RO 

【RO完全代行型】 

RO 

検査権限

証書発給権限

検査

証書

+ 対象船舶

国際航海へ

完全代行型と同じ利便性が確保される。

しかしながら、船級協会による検査の後、船社は証書発給主体である当局に 対し、証書交付申請を行う。船社にとっては、検査を受けるための申請と、証 書の交付を受けるための申請と、2つの手続きが必要となることから、ワン・

ストップ・サービスを提供するRO完全代行型及び非代行型(後述)と比べると 利便性が一段劣るものである。

但し、RO  検査代行型は、RO  が証書発給までを代行しないか ら、 裏を返せば国が証書を発給す るからというだけで利便性がひ どく低下するというわけではな い。それは、国が提供する証書発 給手続きがROのそれと同等若し くは若干見劣りするぐらいであ れば、 全体として一定程度の利便 性は確保しうるからである。

ドイツを例に挙げれば、当局

(BG Verkehr)は、証書発給にか かる申請の受付時間を月曜から 金曜日の朝7時から夕方5時ま でとしているが、申請方法としてオンライン(通常  E­mail)を用意しているの で、実際には申請が上記時間に限られることはない。そして、証書の発給は、

申請の当日若しくは翌日に行っている。交付について、郵送を基本とするが、

船社や船舶の事情によっては、当該証書の画像データを  E­mail 添付で送ること もしている。そして PSC については、専門の人員を用意し、24時間365日 の対応を行っている。

以上のとおり、RO検査代行型においては、検査についてROとして船級協会 を活用し、その世界的なサービス体制を船社が享受することを可能としつつ、

証書発給についてオンライン申請を認め、証書の即日交付などの対応とるドイ ツのような体制であれば、船社にとっての利便性は一定程度確保されていると みることができる。特にオンライン申請の導入は、それが時間を問わず申請者 の都合で提出できるものであることから、ワン・ストップ・サービスでないこ とや平日夜間・土日に休業することのデメリットを最小化しうるものである。

【RO検査代行型】 

RO  検査権限のみ

検査 証書

対象船舶

国際航海へ