• 検索結果がありません。

施設リポート

ドキュメント内 CONTENTS 317 E 2012 BPSD 31 v BPSD i BPSD d BPSD e n c e (ページ 31-37)

診療科目:精神科,神経科

許可病床:精神科307床(うち認知症疾患治療病棟50床)

施設基準等:看護15対1(看護配置70%以上),看護補助50対1 重度認知症デイケア 24名(定員)

認知症疾患医療センター(2011年12月1日宮崎県指定)

認知症関連併設施設

介護老人保健施設・ラポール向洋 入所定員76名,デイケア30 認知症高齢者グループホーム・あけぼの 入所定員18名(2単位9名)

1 医療法人向洋会協和病院と関連施設の概要

(二宮 嘉正)

36-2̲p31-36-施設リホ ート1協和病院kp.indd   31 12.4.21   1:00:26 PM

宮崎県では,旧制度下では

5

所あった認知症疾患医療センター が,その後の制度見直しで

3

カ所 に削減されたが,相談,鑑別診断,

そして治療への流れが確立されて いた協和病院は

2011

12

月にそ

1

つに再指定され,現在は院長 の二宮嘉正氏と実務を取り仕切る 精神保健福祉士の内田みつ江氏を 中心に,地域全体の認知症診療の レベルアップを図っている.

鑑別診断や患者支援では 地域包括支援センター とも連携

二宮氏は「認知症疾患医療セン ターに求められる最も大きな役割 は,認知症の適切な診断と治療,

そして周辺症状(

BPSD

)への対 応ですが,医療だけでは認知症患 者さんを支援することはできない ので,地域の介護や福祉の機関と の連携が大変重要になります」と 語る.

そのため,協和病院では地域の 医療資源の総合相談窓口である地 域包括支援センターとの連携も強 化している.日向市内には現在,

6

つの地域包括支援センターが設 置されており,協和病院はそれら すべてと連携し,認知症患者やそ の家族が介護や福祉のサービスを 必要としたとき,迅速にアクセス できる体制を整えている(図1).

協和病院の認知症疾患医療セ ンターとしての業務は,「専門医 療の提供」「地域連携の強化」「情 報提供」の

3

つに集約されるが,

それらの業務は独立することな く,常に関連し合い,併走してい る.具体的には,まず患者家族や かかりつけ医から受ける相談で 始まる(図2).受ける相談は,も の忘れに関する相談と周辺症状 に関する相談の

2

つに分かれる.

いずれの場合も地域包括支援セ ンターの協力を得て,患者の生活 状況の調査を行う.地域包括支 援センターでは,常駐の看護師,

保健師,社会福祉士が,それぞれ の専門的な視点から患者を評価 し,情報を協和病院にフィード バックする.そして収集された さまざま情報をもとに,協和病院 で鑑別診断が行われる.また,厚 生労働省は認知症地域医療支援 事業の一環として,認知症治療に 関わる地域医療体制の中核的な 役割を担う認知症サポート医も 育成しているが,鑑別診断ではサ ポート医とも連携する.

鑑別診断で認知症と診断され れば,治療方針が決定される.こ のとき,患者にかかりつけ医がす でに関わっていれば,かかりつけ

医が対応可能かどうかを確認し,

可能でなければサポート医や別 の医療機関の支援を求める.ま た,治療とともに生活支援も開始 され,独居であれば見守りも行う ことになる.そうした生活支援 については,介護保険の申請や介 護サービスの導入も必要になる ため,再び地域包括支援センター にサポートを依頼する.生活支 援の体制をより強化するために,

日向市では協和病院を中心に,厚 生労働省が推進する地域の認知 症サポーターの養成にも力を注 いでいる.

内田氏は「日向市の住民は,認 知症に対する意識が高く,多くの 人が認知症を自分自身の問題とし てとらえています.たとえ認知症 になっても,自分たちが住み慣れ た地域に住み続けたいという思い がとても強いので,サポーターの 養成講座にも受講者がたくさん集 まります.日向市の人口は現在約

6

万人ですが,

1,800

人の認知症サ ポーターがすでに活動されていま す」と明かす.まさにそうした実 績には,認知症患者を地域全体で 支えようとの機運の高まりが感じ られる.

このほか,認知症治療における 病診連携の主役となるかかりつ け医への研修会や,認知症ケアに 関わるさまざまな機関・団体が意 見交換を行う認知症疾患医療連 携協議会の開催,認知症の啓発や 相談窓口の周知等を目的とする 情報提供なども,協和病院の認知 症疾患医療センターとしての業 務となる.

(32)Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.36 No.2  2012

122

二宮 嘉正

医療法人向洋会協和病院 院長

36-2̲p31-36-施設リホ ート1協和病院kp.indd   32 12.4.21   1:00:27 PM

徘徊とひとくくりにせず 背景因子の再精査が必要

認知症と診断された患者の治療 では,合併症と

BPSD

等への対応

2

つが想定される.国内の多く の認知症疾患医療センターは,合 併症であれば総合病院に,

BPSD

であれば自施設対応あるいは他の 精神科病院にそれぞれ患者を振り 分ける.しかし,協和病院の医療 圏では医師数が不足し,近隣に医 療機関も少ないため,同院は精神

科の単科病院ではあるが身体合併 症にもでき得るかぎり対応してい るという.

そうしたなか,最も重要となる 認知症の治療方針について,二宮 氏は次のように語る.「認知症は 薬を飲めば治るものではないので,

薬物療法はあくまで足元を支える もの,医療と患者さんを結びつけ るものと考えています.ですから,

在宅の患者さんであれば,近隣の デイケアやデイサービス,あるい は家族に対する指導,入院であれ

ば看護師による認知症ケアをより 重視しています」.

さらに同氏は,「

BPSD

が起きた ときは,単に不穏行動,問題行動 として片付けずに,その原因につ いて家族や周囲に問い直し,なに か思い当たることはないかと一緒 に考えることも重要です.実際 に,アルツハイマー型認知症によ る徘徊で困っているとの相談を受 けたときに,生活状況を再度精査 すると,実は徘徊には明らかな原 因があり,周囲がそれに気がつい

Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.36 No.2  2012(33)

施設リポート

123

1 協和病院 認知症疾患医療センターの地域連携の概要

36-2̲p31-36-施設リホ ート1協和病院kp.indd   33 12.4.21   1:00:28 PM

ていないことが少なくありませ ん」と語る.

すなわち,なにかのストレスが トリガーとなり,夜眠れない,家 で落ち着けない,じっとしていら れないために外に出たことが,徘 徊と判断されている事例が数多く 見受けられるというのである.一 見徘徊と思われる行動の背景には,

家族とのトラブルなど,さまざま な原因も想定されるため,徘徊と ひとくくりにせず,ストレスの存 在も必ず念頭に置くべきと同氏は 示唆する.

レビー小体型認知症に 伴う愁訴では抑肝散の 効果が高い印象

協和病院では,二宮氏の考え方 を院内で共有したうえで,適切な 薬物療法の運用を図っている.ま ず,ドネペジルを中心とするアセ チルコリンエステラーゼ阻害薬を 基本に,非定型抗精神病薬,漢方 薬,睡眠剤等を併用し,認知症が 中等度以上であれば,

2011

年に承 認された

NMDA

受容体拮抗薬で あるメマンチンの処方も考慮され る(図3).

(34)Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.36 No.2  2012

124

内田 みつ江

精神保健福祉士/認知症ケア専門士

2 協和病院 認知症疾患医療センターにおける認知症の受診から治療までの流れ

36-2̲p31-36-施設リホ ート1協和病院kp.indd   34 12.4.21   1:00:29 PM

一方,

BPSD

が前面に出ていれ ば,これまでは非定型抗精神病薬 を第一選択としていたが,最近で は漢方薬の抑肝散の使用機会が増 えている.その理由を二宮氏は,

「非定型抗精神病薬は継続使用す ると意欲の低下や錐体外路症状,

姿勢異常,嚥下障害などのリスク があります.そのため現在は,抑 肝散で抑制できない重度の

BPSD

でない限り,非定型抗精神病薬は 使用していません」と説明する.

さらに「アルツハイマー病(

AD

の幻覚妄想には非定型抗精神病薬 のほうが効くように思いますが,

レビー小体型認知症の幻覚や妄想 には明らかに抑肝散の効果が高い 印象があります(表2).レビー小 体型認知症の特徴は幻覚妄想に手 の震え,足の震え,歩行困難など のパーキンソン症状を伴うことで す.通常の

AD

には,パーキンソ ン症状はほとんど見られません.

認知症の患者さんでは精神症状 の発現により,本来の患者さんの 性格が修飾されていることがよく あります.抑肝散はこの修飾され ている部分が少し多い症例のほう がより効果が高いように思います.

抑肝散の適応を見きわめるために も,幻覚妄想だけでなく,パーキ ンソン症状の合併の有無を確認し ていただきたいと思います」と指 摘する.

介護施設でも要望が 多い抑肝散

副作用が少ないことも理由に

抑肝散は使いやすい

BPSD

治療 薬として,かなり広範に使用され

Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.36 No.2  2012(35)

施設リポート

125 患者1:86歳,女性,アルツハイマー型認知症

現病歴:数年前よりグループホーム入所中.1年前より近医にてアルツハイ マ ー 病 の 認 知 症 と 診 断 さ れ ド ネ ペ ジ ル5.0 mg/日 を 内 服 中.

3カ月前より昼夜逆転が現れ,易怒性も強まり,他の入所者とのトラブ ルが増加.睡眠導入剤と非定型抗精神病薬を頓用するも症状が悪化.

近医紹介により当院受診.

治 療:ドネペジルを継続しながら抑肝散2.5 g/分1(夕方)を追加.

経 過:抑肝散の投与約2週間後より易怒性が改善し笑顔も見られるように なった.その後,睡眠導入剤は使用せずドネペジルと抑肝散のみで症 状が安定している.

患者2:72歳,女性,レビー小体型認知症

現病歴:数年前よりもの忘れがあることに娘は気づいていたが,料理や買い物 は一人でできるため娘が見守ることで一人暮らしを続けていた.

1年前より手の震えがあることに気づいたが無処置.半年前より「知 らない男が毎朝やってきて呼び鈴を鳴らす」「天井にバラの絵が光っ て見える」などの幻覚,妄想が出現.      

近隣の精神科クリニックで非定型抗精神病薬の投与を受けたところ過 鎮静となり,包括支援センター職員の付き添いにより当院受診.

診 断:心理検査,画像検査等によりレビー小体型認知症と診断.

治 療:抑肝散5.0 g/日分2(朝夕)を投与.

経 過:抑肝散の投与約2週間後より「知らない男がやってくる」頻度が減少.

1カ月後には幻覚,妄想は消失した.

2 抑肝散が奏効した認知症症例

図3 認知症の薬物治療 (二宮 嘉正)

(二宮 嘉正)

36-2̲p31-36-施設リホ ート1協和病院kp.indd   35 12.4.21   1:00:30 PM

ドキュメント内 CONTENTS 317 E 2012 BPSD 31 v BPSD i BPSD d BPSD e n c e (ページ 31-37)