点滴静注であるが,その利尿作用に より血漿中の水分を減少させ,脱 水,高ナトリウム血症,低カリウム 血症,溶血,心不全等の副作用を起 こす可能性がある.その他の保存
的治療には過換気の防止,血中浸透 圧濃度の維持,バルビツレート療法 などが報告されているが,保存的治 療に反応せず,脳浮腫のコントロー ルが困難となり,開頭外減圧術が必
要となることがある.
「脳卒中ガイドライン2009」にお いては,70歳未満,保存的治療を施 行しても進行性の意識障害を有す る,CT所見で明らかな脳幹部への 図1 症例1の頭部MRI検査 (入院時)
図2 症例1の頭部CT画像
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圧迫所見を認める,救命を目的と する,発症24時間以内に行う,と いった制限を設けながらも,硬膜 形成を伴う開頭外減圧術が推奨さ れている.
今回,筆者らは70歳以上と高齢 ではあるが,MRI上,脳梗塞が中大 脳動脈領域の50%に及ぶ症例で保 存的治療に五苓散投与を加えるこ とによって,開頭外減圧術を要す脳
浮腫を来さなかった.CT上で脳溝 の狭小化は認めるも,五苓散非投与 例に比べ,脳室変形は少なく,低吸 収域が不鮮明であった.
これまでも脳梗塞に五苓散を使 図3 症例2の頭部MRI 画像(入院時)
図4 症例2の頭部CT画像
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ケース・リポート
用し,通常治療に比し,良好な成績 を得たとする報告が散見される.五 苓散がなんらかの薬理効果を及ぼ し,治療成績に貢献していることが 考えられるが,その薬理作用につい ては明らかではなかった .
近年,五苓散がAQP 4発現細胞 の細胞膜水透過性を阻害すること が確認され,脳浮腫の予防・治療薬 となる可能性が示唆されている3, 4).
AQPは水透過性の高い組織であ る赤血球や腎臓に存在する28kDa の膜蛋白として発見され,後にこ れが水チャネルとして機能するこ とが明らかとなった5).脳ではその サブタイプのうちAQP 1および AQP 4が発現している.AQP 4は 神経系に多く存在しているサブタ イプであり,クモ膜下腔,脳室およ び脳血管に接するアストロサイト に強く発現している.免疫電顕に よる観察ではAQP 4は脳浮腫時に 著明な膨化を示すアストロサイト endfeetへの高い局在が示された.
脳浮腫を伴う脳障害モデルでは血 液脳関門の破綻および浮腫の形成 が,アストロサイトのAQP 4発現 増加と相関されることが報告され ており,脳虚血でも経時的にAQP 発現増加を認め,脳浮腫に関係が 深いとされている6〜9).
ManleyらはAQP 4欠損マウスに 急性水中毒を起こした場合,野生型 に比べアストロサイトendfeet膨化 の発生および脳浮腫形成がともに
有意に小さいことを報告している.
さらにAQP 4欠損マウスに中大脳 動脈結紮による脳虚血を起こした 場合,野生型に比し,脳浮腫形成が 減少していることを報告している10).
また,礒濱は急性水中毒マウスに 五苓散の事前投与・大量投与(1 g/
kg,3 g/kg)を行い,用量依存的に 死亡率が激減したと報告してい る3, 4).
今回,筆者らは脳梗塞急性期に五 苓散を倍量(15 g/日)投与し,脳浮腫 形成が減少したが,これは五苓散の AQP 4阻害作用によると考えている.
また,筆者らは本研究以前,脳浮 腫がCT上明瞭な低吸収域として 認めた後,五苓散を投与し,開頭外 減圧術を要する強い脳浮腫を来し た症例を経験している.脳梗塞発 症早期,画像上,脳浮腫が軽度の時 期に五苓散投与を開始し,AQPの 発現を抑制することが脳浮腫形成 を減少させる重要なポイントと考 える.
結語
脳主幹動脈閉塞に伴う広範脳梗 塞発症早期,脳浮腫の兆候がない時 期より,初日,五苓散を倍量投与,
翌日より通常投与を行うことによ り,脳浮腫のコントロールが容易で あった.
脳浮腫予防薬として五苓散は有 用であると考える.
● 文献
1)木元博史. 急性期脳梗塞に対する漢方 薬併用14例の検討. Japan Standard Stroke Registry (JSSRS)との比較 を中心として. J Tradit Med. 2003, 20, p.68.
2)木元博史. 急性期脳梗塞での五苓散の 併用療法に関して. 日東医誌. Kampo Med. 2010, 61(1), p.73.
3)礒濱洋一郎. 五苓散のアクアポリンを 介した水分代謝調節メカニズム. 漢方 医学. 2011, 35(2), p.90.
4)礒濱洋一郎. 炎症・水毒−和漢薬によ るアクアポリン水チャネルの機能調節. 漢方と最新治療. 2008, 17(1), p.27.
5) Hasegawa H, Ma T, Skach W, et al.
Molecular cloning of a mer-curial-insensitive water channel expressed in selected water-transporting tis-sues. J Biol Chem. 1994, 269, p.5497.
6)寺 本 佳 史. 脳 浮 腫 動 態 に お け る Aquaporinの役割に関する研究. 近 畿大医誌. 2004, 29(2), p.31.
7)祖父江和哉, 平手博之, 飯田裕子, 他. 脳浮腫の発症機序と水チャネル「ア クアポリン」の機能. Anesthesia 21 Century. 2008, 10(1-30), p.51.
8) Ta n ig uch i M, Ya ma sh it a T, Kumura E, et al. Induction of aqua-porin-4 water channel mRNA after focal cerebral ischemia in rat.
Brain Res Mol Brain Res. 2000, 78, p.131.
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10) Manley GT, Fujimura M, Ma T, et al. Aquaporin-4 Deletion in mice reduce brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med. 2000, 6, p.159.
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