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第 3 章 小脳による足底接地情報の遅れ補償を組み込んだ下肢筋骨格系モデルの

3.2 方法

下肢の筋骨格系動力学モデルと小脳の数理モデルを組み合わせた歩行モデルを構築した (図3.1).それぞれを以下で説明する.

(x1, x2)

(x3, x4) (x6, x7)

(x12, x13) (x9, x10) x14

x8

x11 x5 l1

l2 m1

m2 M

筋骨格系モデル CPGモデル

小脳モデル

y4股関節CPGの出力 小脳核の出力CNl(t)

yi 各CPGの出力

足底接地タイミング

Feedi 感覚フィードバック (足底接地は65ミリ秒の遅れ)

(予測された足底接地タイミング)

u1 u3

u2

u7 u8

u11 u12

u6 u5

u10 u9

(A) (B)

(C)

u4

y2

CN PN

IO プルキンエ

細胞

小脳皮質

橋核 苔状線維

登上線維 下オリーブ核 分子層介在ニューロン

    - zΣj j(t)

プルキンエ 細胞   分子層介在ニューロン

    - zΣj j(t)

CN

ゴルジ細胞 W 登上線維 IO

小脳核 顆粒細胞 zj(t)

Fg2

Fg4 IO(t-tdelay)

(65ミリ秒遅れ) IO(t-tdelay)

下オリーブ核

I(t)

CNr(t)

(xl, yl) (xr, yr) PCr(t)

PCl(t)

3.1 筋骨格系–CPG–小脳による歩行モデルの概要. 本モデルは,(A) 下肢筋骨格

系モデル [44](B)筋骨格系を駆動するCPGモデル [44](C) 小脳モデル[60]から なる.(A) 筋骨格系モデルは,左右の大腿および下腿と体幹の4リンクで構成し,股 関節,膝関節,足関節の6関節を有する.(x1, x2)は左右の股関節の座標,(x3, x4) (x6, x7)は右と左の大腿中心の座標,(x9, x10)(x12, x13)は右と左の下腿中心の座標,

(xr, yr)(xl, yl)は右と左の足部の座標,x5,x8は右と左の大腿の角度,x11, x14 右と左の下腿の角度をそれぞれ表している.M は上半身の体重,l1は大腿の長さ,l2 は下腿の長さ,m1は大腿の重さ,m2は下腿の重さをそれぞれ表している.(B) CPG モデルは,ニューロン2つをペアにした神経振動子によって周期的な活動を生成する.

矢印線は興奮性,丸印線は抑制性の結合を表す.生成された信号はyiとして筋骨格系 モデルへ出力し、各関節へのトルク計算に使用する.また左右の股関節運動に対応する y2, y4を小脳モデルに出力し,タイミング学習に使用する. 筋骨格系モデルからは感覚 フィードバック情報 (Feedi)を受け取り,神経振動子の活動を調整する.この時,足底接 地情報のみ65ミリ秒の遅れがある. (C) 小脳モデルは,苔状線維から股関節CPG 動のy2,y4を,登上線維から65ミリ秒の遅れがある左右の足底接地情報のFg2, Fg4 を入力とし,学習によって足底接地のタイミングを予測する. 予測したタイミング情報 (CNr(t), CNl(t))Feediに含まれ, CPGへと出力する.矢印線は興奮性,丸印線は

3.2.1 歩行モデル

歩行モデルは下肢 2次元 2足歩行の筋骨格系動力学モデルであるTaga モデル [44]を

用いた(図3.1A).このモデルでは,脊髄に存在するCPGが生成する各筋への交代性の

運動指令により,歩行の基本的パターンが生み出される.さらに,その出力が様々な感覚 器からのフィードバック情報や上位中枢からの入力によって動的に調節され,外部環境の 変化や外乱に対して頑健な歩行パターンが実現される.CPGには神経振動子モデルを用 いている.個々の関節トルクは神経振動子からの出力から生まれるものとし,床反力は足 が地面に着いているときのみ発生するものとしている.

ニュートン・オイラー法によって運動方程式を導いた [44, 45]. 具体的な式を付録A.2 に示す. 一般的な式の形は以下のように記述される.

¨

x=P(x)F+Q(x,x,˙ Tr(y),Fg(x,x)),˙ (3.1) ここで,xは下肢の4リンク 1質点の位置と4リンクの角度を表す14×1のベクトル,

P14×8の行列,Fは並進力を表す8×1のベクトル,Qは外的な力・トルクを表す 14×1のベクトル, Fgは床反力を表す4×1のベクトル,Tr(y)は個々の関節トルク,y は後述する神経振動子からの出力を表す12×1のベクトルである.関節トルクの式を付 録A.3に示す. ˙xは変数xの時間に関する1階微分,x¨2階微分を表す.床反力Fg 要素は以下の式で表される.

Fg1 =

{−kg(xr−xr0)−bgx˙r {yr <0},

0 それ以外,

Fg2 =

{−kg(yr0) +bgf(−y˙r) {yr <0},

0 それ以外,

Fg3 =

{−kg(xl−xl0)−bgx˙l {yl <0},

0 それ以外,

Fg4 =

{−kg(yl0) +bgf(−y˙l) {yl<0},

0 それ以外, (3.2)

(xr, yr),(xl, yl) はそれぞれ右と左の足部座標である. xr0, xl0 はそれぞれ, 一歩ごとに地 面に着いた瞬間のxr, xlを保持する. Fg1,Fg3 は右と左の水平方向の床反力, Fg2,Fg4 は 右と左の垂直方向の床反力をそれぞれ示す. kg, bg はそれぞれバネ・ダンパ係数である. 特に水平方向では足が地面に着いてからの変位とその速度に応じて床反力が生成される.

関節は以下の運動学的拘束を受ける.

C(x)¨x=D(x,x),˙ (3.3)

C は(8×14)の行列, Dは(8×1)のベクトルである. 具体的な式を付録A.4に示す. 式 (3.1)を式(3.3)に代入すると,

F= [C(x)P(x)]1[D(x,x)˙ −C(x)Q(x,x,˙ Tr(y),Fg(x,x))],˙ (3.4) が得られ, Fを取り除くために,式(3.4)を式(3.1)に代入すると,

¨

x=P(x)[C(x)P(x)]1[D(x,x)˙

−C(x)Q(x,x,˙ Tr(y),Fg(x,x))]˙ +Q(x,x,˙ Tr(y),Fg(x,x)),˙

(3.5)

が得られる.この式に yを与えると2足歩行の筋骨格系システムの動きが得られる.各パ ラメータの値を付録A.5に示す.

CPG としてのリズミックな運動生成には神経振動子を用いる.2つのニューロンより 周期的な活動を生成する式(2.6)を用い, 12ニューロンで構成されるCPGモデルを構築 した (図3.1B). また,歩行のリズムを調整するため式(2.6)に小脳モデルからの出力を含 んだ筋骨格系モデルからの感覚フィードバック情報を受け取る項を加えた [44]. 具体的に は式 (3.6)で表される.

τiu˙i =−ui+

12 i=1

wCPGi,i yi −βvi+u0

+ Feedi(X,X,˙ Cere(Fg(X,X),˙ CNk(t)), τiv˙i =−vi+yi,

yi = max(0, ui), Cere(Fg(X,X),˙ CNk(t)) =





1.0 Fgx >0 (x∈ {2,4}), 1.0 CNk(t) >0 (k ∈ {l, r}), 0.0 それ以外,

(3.6)

ここでui は細胞iの内部状態,yiは細胞iの出力,vi は細胞i自身への抑制性入力,u0 は定常的な外部からの入力,wCPGi,i は細胞i からの入力に対する重み係数,β は重み係 数,τiτiは細胞iの時定数,Feediは筋骨格系からのフィードバック情報を表す.Cere は小脳モデルからの出力を含んだ足底接地情報である. CNk(t) (k ∈ {l, r})は小脳核から

の出力であり,詳細は後述する.この2足歩行モデルでは神経振動子のリズムだけでな く,筋骨格系からのフィードバック信号を得ることにより,ある程度の環境に適応でき,

安定した歩行が実現できる.しかし,通常フィードバック信号には生体内の遅れが含まれ るため,遅れを導入すると安定した歩行ができなくなり,転倒してしまう.各パラメータ の値を付録A.6に示す.

3.2.2 小脳モデル

我々は,フィードバック信号に内在する遅れを補償する機構として,小脳に着目した.

小脳は脊髄小脳路を介して,下肢から多くの体性感覚フィードバック信号を受け取ってい る [85]と考えられるが,本研究では環境との相互作用に重要であると考えられる足底接 地のタイミングに着目した.小脳は運動のタイミング制御において重要な役割を担ってお り,そのための時間経過を表現する機構を有していると考えられている.Yamazakiらは 小脳の顆粒層のダイナミクスによる顆粒細胞の発火パターンで時間経過を表現できると考 え,小脳タイミング学習を説明する小脳内部時計モデルを構築し,小脳タイミング学習の 代表的課題である瞬目反射条件付けに適用した [60] .

このモデルは興奮性の苔状線維入力とゴルジ細胞を介した再帰的な抑制性入力の2つを もつN 個の顆粒細胞,その投射先であるプルキンエ細胞,出力細胞である小脳核からなる (図 3.1C).顆粒細胞のダイナミクスは式 (2.7)を用いるが, 本研究では,求心性入力I(t) に2種類の信号が入力される. これは,左右の足底接地タイミングを学習する前段階とし て, それぞれに対応した時間経過を顆粒細胞で表現させるためである. 具体的には式 (3.7) で記述される.

zj(t) = [qj(t)]+, qj(t) =I(t)− 1

N

j

wGCj,j

t s=1

exp (

−t−s τGC

)

zj(s1),

I(t) =





1 y2(t)>0 かつ j が奇数, 1 y4(t)>0 かつ j が偶数, 0 それ以外,

(3.7)

ここでzj(t)は時間 tでの顆粒細胞j の活動を示しており,qj(t)の正の値で与えられる.

qj(t)は時間tにおける内部状態,I(t)は苔状線維を介しての求心性入力で,具体的にはj が奇数ならば左の股関節CPG活動が入力され,偶数ならば右の股関節CPG活動が入力 される. また,左右の股関節CPGの活動で値が正ならば1となり,それ以外は0となる.

wGCj,j は細胞jから細胞j へのゴルジ細胞を介した抑制性のシナプス荷重,τGC は時定数

をそれぞれ示す.一方,時刻 t でのプルキンエ細胞の活動は式(2.8)を用いた. 本研究で は左右の足底接地タイミングをそれぞれ学習させるため, PCl(t)とPCr(t)の2つの式を 使用した. 式 (3.8)で表される.

PCl(t) =∑

j

wPFj zj(t)

j

zj(t) + PC (jが奇数), PCr(t) =∑

j

wPFj zj(t)

j

zj(t) + PC (jが偶数),

(3.8)

ここで, PCl(t), PCr(t)ともに, 右辺第1項は顆粒細胞から直接投射する興奮性入力,第 2項は分子層介在ニューロンを介した抑制性入力を表す.分子層介在ニューロンは顆粒細 胞から入力を受け取り,プルキンエ細胞を抑制する.第3項は定常状態の活動を表す.j が奇数ならばPCl(t), 偶数ならばPCr(t)とした. 本論文では顆粒細胞からの入力の総和 に応じてプルキンエ細胞を抑制するものとした.wPFj はプルキンエ細胞と顆粒細胞j と のシナプス荷重を表す.小脳核の活動は式(2.9)を用いた. 本研究ではPCl(t)とPCr(t) のそれぞれのプルキンエ細胞に対応させるため, CNl(t), CNr(t)とした.

CNl(t) = {

1 PCl(t)< θPC かつ PC˙ l<0, 0 それ以外,

CNr(t) = {

1 PCr(t)< θPC かつ PC˙ r <0, 0 それ以外,

(3.9)

小脳核はプルキンエ細胞の下流に存在し,プルキンエ細胞の活動が低下し抑制が減弱する とバースト的に強く活動する.その過程を再現するために,通常は一定の強さにあるプル キンエ細胞の活動PCl(t), PCr(t)が低下し,閾値θPCを横切った瞬間に活動するものと した.式(3.9)において,CNl(t) = CNr(t) = 1となる最初の条件はプルキンエ細胞の活 動が閾値を下回っていること,二番目の条件は閾値を上から下へ横切ることをそれぞれ 表している.まとめると,プルキンエ細胞の活動が減弱し閾値を横切った瞬間を表して いる.これにより,小脳核は脱抑制された結果,バースト的に活動するものとした.小脳 核の出力が,小脳が予測した足底接地のタイミング信号となり,各CPGへと送られる.

CNl(t)が左足底接地のタイミング, CNr(t)が右足底接地のタイミングにそれぞれ対応し ている. 本来,小脳核の出力は視床を経由して大脳皮質へと入力し,そこから間接的に CPGへと送られるが [84, 86],機能的には直接小脳核からCPGへと送られるものと仮定 する.また,このモデルは小脳プルキンエ細胞のLTDを模擬しており,タイミング学習 を可能にしている.式(2.10)を基にし,本研究では登上線維刺激(IO(t))に足底接地情報

を使用した. 具体的にはwPFj を以下の式で更新する.

wPFj = max(1, wPFj

+ PFj(t)wPFj (IO(t−tdelay)×(0.95) + (1IO(t−tdelay))×0.003)), IO(t) =





1.0 Fg2 >0かつ j が奇数, 1.0 Fg4 >0かつ j が偶数,

0 それ以外,

(3.10)

PFj(t)は顆粒細胞の活動を表し,zj(t)>0ならば1,それ以外は0である.tdelayは足底 接地から登上線維信号がプルキンエ細胞に到達するまでの遅れである.IO(t)は学習にお ける教師信号を表す.本研究では足底接地したら1, していなければ0の値を取る.wPFj の学習は抑制方向に進み,値はゼロへ推移していく (LTD).よって,負の方向への変位 量に着目するため,wPFj の上限を1とした.各パラメータの値を付録A.7に示す.

3.2.3 小脳による足底接地情報の遅れ補償モデル

両側の足底接地情報に遅れを導入した.ヒトの姿勢反応に対しての報告 [87]をもとに すれば感覚フィードバック遅れはおおよそ数10ミリ秒であり,本モデルでは遅れ時間を 65ミリ秒とした.また,遅れは68ミリ秒以上になると後述する小脳モデルによる遅れ補 償があっても転倒することを確認した.歩行モデルのパラメータはTagaモデル [44]を ほぼ踏襲しており,変更点はu0,と関節トルクの係数であるphfphepkfpkepafpae ある.これらのパラメータにおいて,u0pae は個別に30%の減少,phfphepkfpkepaf は個別に30%の増加させても歩行することを確認した.遅れを補償するために小脳モデ ルで足底接地のタイミングを学習し,予測したタイミング信号を実際のフィードバック信 号の替わりに式(3.6)のCNl(t), CNr(t)として各 CPGに与えることとした.経時的な 股関節のCPGの活動を文脈信号,足底接地の有無を教師信号と仮定し,それぞれを苔状 線維,登上線維を介して小脳へ入力することとした (図3.1).各パラメータを付録A.3と 付録A.6に示す.

3.2.4 歩容の評価

転倒せず歩行可能であったモデルにおいては,歩行中の足底の高さを計測した.歩数は 左右12歩とし,1歩ごとに床から足底までの最高値を評価した.それぞれ平均値と標準 誤差を算出した.

3.2.5 数値シミュレーション

微分方程式は4次のRunge-Kutta法で求解した.時間刻み幅は10マイクロ秒とした.

これは足部が地面から受ける床反力のパラメータ値が大きいため (kg = 10000.0 N/m), それを精度よく求解できる値として設定した. 一方,小脳モデルの計算は1ミリ秒毎に更 新した. 数10ミリ秒の遅れ情報を精度よく学習させること, 計算コストの両方を考慮し設 定した.

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