第 3 章 小脳による足底接地情報の遅れ補償を組み込んだ下肢筋骨格系モデルの
3.3 シミュレーション結果
3.2.5 数値シミュレーション
微分方程式は4次のRunge-Kutta法で求解した.時間刻み幅は10マイクロ秒とした.
これは足部が地面から受ける床反力のパラメータ値が大きいため (kg = 10000.0 N/m), それを精度よく求解できる値として設定した. 一方,小脳モデルの計算は1ミリ秒毎に更 新した. 数10ミリ秒の遅れ情報を精度よく学習させること, 計算コストの両方を考慮し設 定した.
0 1 2 Distance[m] 3 4 5
Distance[m]
1 2 3 4 5
Distance[m]
1 2 3 4 5
Distance[m]
1 2 3 4 5
0 0
0
0
(d) (c) (b) (a)
Distance [m]
Distance [m]
Distance [m]
Distance [m]
(A)
(B)
(C)
(D)
図3.2 歩行パターンのスティック線図. 横軸は距離(m)を表す.赤色の線,青色の線 はそれぞれ下肢の左足,右足を表し,左から右へ向かって歩行中の様子を示している.
(A) 小脳遅れ補償モデル. (B)両側小脳停止モデル. (C)片側小脳停止モデル. (D) 片脚小脳補償停止モデル + 股関節筋力弱化モデル.
3.3.1 小脳による遅れ補償モデル
両脚の足底接地の感覚フィードバック遅れを小脳により補償した場合は,転倒せずに歩 行が可能であった(図3.2A).
図 3.3は歩行中の顆粒細胞の活動パターンである.顆粒細胞は股関節CPGからの入力 によって,左右の遊脚期に対応する活動パターンを周期的に示す.また各遊脚期におい て,各顆粒細胞はそれぞれ独自の時間パターンで活動する.集団として見た場合,活動す る顆粒細胞集団は時々刻々変化するため,これによって遊脚中の時間経過を表現すること が可能になる [60].
図 3.4は歩行中のプルキンエ細胞と小脳核の活動パターンである.プルキンエ細胞は登 上線維刺激のタイミングで活動を減弱し,その後ゆっくりと元に戻るが,学習によって減
弱するタイミングが徐々に先行する.5歩進んだ段階で,フィードバック遅延を含めた実 際の接地より先に活動が閾値を下回るため,小脳核が接地のタイミングを予測した活動を 示す.その信号が各CPGへと送られ,フィードバック遅延が補償される.
3.3.2 両側小脳停止モデル
両側の小脳を停止した場合,足底接地の感覚フィードバックを補償できず転倒してし まった (図3.2B).
表3.1 歩行中における足底の高さの違い.
1歩行周期中の足底位置の最大値を求め,12歩分の平均値と標準誤差を算出した.
小脳補償モデル 左小脳停止モデル 足底の最大高さ(cm)
左足 5.53±0.45 6.89±0.34 右足 5.38±0.51 4.39±0.43
平均値±標準誤差
3.3.3 片側小脳停止モデル
左側の小脳のみを停止したところ,転倒はしないが歩行パターンが変化した(図3.2C). 具体的には図3.5の足底位置のプロットから,小脳を停止した左側の足底がより高く上 がっていることがわかる.さらに定量的に評価すると,表3.1より歩行中の最高足底位置 の平均値は,小脳による遅れ補償モデルはほとんど左右差はない一方,左側小脳停止モ デルは左右の高さが1.5cm 異なっていた.小脳を停止した側の左足が高く上がっており,
その高さは小脳による遅れ補償モデルと比べると25%程度高くなっていた.
3.3.4 片側小脳補償停止モデル + 股関節トルク弱化モデル
片側小脳停止に加え股関節トルクの値を小さくしたところ(屈曲トルクphf 99%,伸展 トルクphe 99%),転倒した (図3.2D).同じ比率でそれぞれ膝関節トルク,足関節トルク のみを小さくしても歩行が可能であった.また,関節トルクと転倒の有無に関しては,膝 関節トルク96%,足関節トルク85%で転倒した.
時間(秒) 200
100 150
50
0
ニューロン番号
5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0
図3.3 顆粒細胞の活動パターン. 顆粒細胞200個に対して,活動した(zj(t)>0とな る)時刻を線分で表示した.赤と青はそれぞれ右脚,左脚の立脚期に対応している.歩 行の半周期に対応する約500ミリ秒ごとに2 種類の活動パターンが繰り返されている.
-0.25 -0.2 -0.15 -0.1 -0.05 0 0.05
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9.0 9
0.0
時間(秒)
プルキンエ細胞活動
1.00
0.85
3.0 6.0
(A)
-0.3 -0.25 -0.2 -0.15 -0.1 -0.05 0 0.05
-0.1 0.0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
時間(秒)
プルキンエ細胞活動
1.00
0.85
0.2 0.4 0.6
登上線維刺激
(B)
-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
-0.1 0.0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
時間(秒)
小脳核活動
0.00 1.00
0.2 0.4 0.6
(C)
-0.1
登上線維刺激
図3.4 片側の足底接地タイミング学習の様子. (A) プルキンエ細胞活動.横軸は時間 (秒),縦軸は式 (2.8)の値.(B)登上線維刺激のタイミングを0秒に揃えたときのプル キンエ細胞活動.1歩目(実線),3歩目(破線),5歩目(点線)での活動パターンをそれ ぞれ表示している.(C)小脳核活動.横軸は時間(秒),縦軸は式(3.9)の値.線の種類 は(B)と同様で歩数に対応する.
0 2 4 6 8 10 12 14 Distance [m]
0 2 4 6 8 10 12 14
Distance [m]
(A)
Height [cm]
10 20
0 -10
(B)
Height [cm]
10 20
0 -10
図3.5 歩行中の足底の高さ. 小脳遅れ補償歩行(A)と片側小脳停止歩行(B)の,左足 (赤)右足(青)の足底の位置をそれぞれ表示している.赤と青の横線は左右の1歩行周 期中における最高足底位置の平均値である.本筋骨格系モデル [44]では床面の高さに 関しての制約条件が存在しないため,立脚期に足底面の高さが負の値になる.