定理 4.3.
(1) 連続問題の∂u/∂tの項を0にした連続定常問題の解は, ( ) 0≤a≤dπ2のとき,lim
t→∞u(x, t) = 0x∈(0,1)
( ) dπ2 < aのとき,lim
t→∞u(x, t) =W(x) x∈(0,1)
が成り立つ.ここでW(x)は,連続問題において∂u, ∂t= 0とした場合,すなわち定常問題の正値 解である.
さて,差分化した離散問題については,次のようなことが言える.
条件1をみたすとき,tについて前進,xについては通常の2階差分近似を用いて構成された差分ス キームは安定である.
連続問題の解を考えるには定常問題を考える必要があった.離散化しても,それは変わらない.ここ で考える離散定常問題とは,
0 = dwj+1−2wj +wj−1
(∆x)2 +a(1−wj)wj w0 =wN = 0 である.この離散定常問題に関して,次のことが言える.
ξ1 = (∆x)4d2 sin2(∆x
2 π)
とするとき,
( ) 0≤ξ1のとき,非負な解はWj = 0のみである.
( ) ξ1 < aのとき,非負で恒等的に0ではない解Wjが唯一つ存在し,Wj >0である.
この定理を用いることで,離散問題について,以下のような定理が成り立つ.
定理 4.4. 条件1のもとで離散問題を考える.このとき,
( ) 0≤a≤ξ1のとき,初期値u0jが∀µ >0に対してu0j =µsin(j∆xπ)で与えられるなら,
lim
k→∞ukj = 0 (∀j = 0,1,· · · , N) が成り立つ.
( ) ξ1 < aのとき,初期値u0jが∀δ (0< δ ≤1−ξ1/a)に対して,u0j =δsin(j∆xπ)で与えられる なら,
klim→∞ukj =Wj (∀j = 0,1,· · · , N) が成り立つ.(ここでWjは離散定常問題の正値解である.)
このとき,
∆xlim→0ξ1 =dπ2
であることが容易にわかるので,連続問題と離散問題の結果は完全に一致している.
一般の非線形偏微分方程式でこのような条件1が求まるかどうかは難しく,ほぼ不可能に近い.ここ での問題は,条件1を満たさない場合の解の挙動である.
次のような条件2を考える.
条件2:1− a∆t
3 −2λ ≥0
この条件のもとで,初期関数について0≤uoj ≤1が成り立てば,やはり差分スキームの安定性を示すこ とが出来る.もしも,
条件3:1−a∆t <2λ <1− a∆t 3
を考えると,条件1は破れるが条件2は満たされる.このような場合の解の挙動について,∆xを固定し て∆tを動かすと,数値解の分岐現象が起きることが知られている.
離散解は0に収束
離散解は定常問題の正値解に収束 条件1 条件3
離散解は規則的ないしは不規則的な振動を起こす.
d
T = 1/∆t
これはロジスティック方程式に見られたカオス的振る舞いの偏微分方程式版に相当する.
∆tを十分小さくとると,T は大きくなるので,安定な定常解に収束するが,∆tを小さく取ることは,
差分法においては計算量の問題と関係していて,危険である.しかし,∆tの選び方が少しでも大きいと,
振動解のような幻影解が出現することが,上の分岐図からも理解できる.こうしたことは,λ ≤1/2とい うしかるべき条件を満たしていても,∆tの大きさ如何によっては,もっともらしい有界な解(振動解・
周期解)を連続問題の近似解として採用してしまう危険性を示唆している.
このような分岐の起こらない,しかも安定なスキームとして,以下のものが知られている.
uk+1j −ukj
∆t =dukj+1−2ukj +ukj−1
(∆x)2 +a∆t(1−uk+1j )ukj
これは冒頭の差分スキームの第2項の()内のukj をuk+1j としただけである.こうすることで∆tに関する 数値解の分岐が回避できることが知られている.
4.6.2 ∆xに関して分岐現象を生じる例
前節では,∆tに関する差分解の分岐現象を見た.次に取り上げる非線形偏微分方程式系は,前節の偏 微分方程式の拡張でありながら,今度は∆xに関して差分解が分岐することが知られている.
∂u
∂t(x, t) =d∂2u
∂x2(x, t) + (R1−a1u−b1v)u x∈[0,1], t∈[0, T], a >0, d >0
∂v
∂t(x, t) =d∂2v
∂x2(x, t) + (R2−a2v −b2u)v x∈[0,1], t∈[0, T], a >0, d >0 u(x,0) =φ(x), v(0, x) = ψ(x) x∈[0,1], φ(0) =φ(1) = 0
∂u
∂x(t,0) = ∂v
∂x(t,0) = ∂u
∂x(t,1) = ∂u
∂x(t,1) = 0 t≥0
これをtについては前進差分,xについては通常の2階の差分近似式で近似すると,
uk+1j −ukj
∆t =dukj+1−2ukj +ukj−1
(∆x)2 + (R1−a1ukj −b1vkj)ukj vk+1j −vkj
∆t =dvkj+1−2vkj +vjk−1
(∆x)2 + (R2−a2vjk−b2ukj)vjk となる.いま,連続問題に関しては次の事実が知られている.
定理 4.5.
連続問題の定常解のうち,空間的に非一様なものは存在したとしても不安定である.
しかし,実際に,特にR1 =R2 =R, a1 =a2 =a, b1 =b2 =bとしてみるなどして,差分方程式で数値計 算してみると,∆xの値如何によっては,空間非一様な数値解の存在が確認できる.ここで,空間非一様 な定常解は決して特異な存在ではないことに注意しておく.この偏微分方程式系のモデルでは,1次元区 間[0,1]内に2種の生物種がおり,それぞれ単独ではロジスティック方程式に従うような環境劣化因子を 含む増殖で,しかも密度勾配に従って分散する状況で,両生物種の間には何らかの相互作用がある場合 のモデルである.この場合,空間非一様な解とは,いわば「住み分け」に相当している.そのような解 が存在するか否かが数理生態学的にも重要な点である.
このような例からわかることは,まだ数学の解析的な理論がない非線形偏微分方程式を数値的に解く 場合には,得られた数値解がモデル化した物理現象と合致しているか否かはもちろん,他の様々な数値 解析手法を用いても同じような結果が得られるかを追試するなど,数値解が本当に厳密解の近似になっ ているのか常に注意を払い検証しなければならないことになる15.
15このような例の多次元版として,『数学セミナー』1998年9月号特集『解くことで広がる微分方程式の世界』の中の三村 昌泰の文章に付されたカラー図版にある.反応拡散方程式に見られる複雑なパターン形成に関するものである.