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数理モデリング

ドキュメント内 生物の知性の探求と知能ロボットへの応用 (ページ 59-62)

第 4 章 ダンゴムシの行動選択 49

4.3 ダンゴムシの記憶行動を模した対向二輪車のアナログ制御機構の提案

4.3.1 数理モデリング

TAのダイナミクスを表現する数理モデルを構築するために,ダンゴムシを簡単なカプ セル型の形状であるとみなす(図 4.9).これは前方部と後方部が半円,身体の部分を長 方形で表現されている.このモデルダンゴムシの時刻tでの位置と進行方向をそれぞれ

(x(t), y(t)), θ(t)とする.ただしモデルダンゴムシの位置は身体の中央の位置とする.ま

たダンゴムシの触角をモデルダンゴムシの接触感知センサとみなす.接触感知センサは 有効範囲が存在するとし,モデルダンゴムシの前方部から一定距離の場所が有効範囲と する.

図 4.9: モデルダンゴムシの形状.

オカダンゴムシは左右にそれぞれ7本の脚を持ち,合わせて14本の脚を使って移動する.

モデルダンゴムシも同様に左右の脚で移動することを想定するが,ここでは単純化のため に左右にそれぞれ1つのタイヤ,計2つのタイヤで移動する対向二輪車であるとみなす.

これにより,モデルダンゴムシの移動は対向二輪車のダイナミクスを適用することができ る.右のタイヤの速さ,左のタイヤの速さをそれぞれvr(t), vl(t)とすると,モデルダンゴ ムシの速さはv(t) = (vr(t) +vl(t))/2と記述でき,方向転換はθ˙= (vr−vl)/(Body width) と記述できる.これらを用いて移動のダイナミクスは( ˙x,y) = (v˙ cosθ, vsinθ)と書ける.

生物が障害物と衝突した時,彼らはそれ以上前進することができない.この衝突時の 振る舞いを表現するために,モデルダンゴムシの前方部(Antenna area)が壁と衝突した 場合,モデルダンゴムシの位置は変化しないと仮定する.すなわち壁と衝突した時間で モデルダンゴムシの移動のダイナミクスはx˙ = 0, ˙y = 0, ˙θ = (vr−vl)/(Body width)と 仮定する.これはモデルダンゴムシの位置は変化しないが,方向転換だけは継続するこ とを意味する.

モデルダンゴムシの行動を制御するために,左右二つのタイヤは起電力Eの電源と,右 側の抵抗値がRr(t),左側の抵抗値がRl(t)の可変抵抗に接続された電気回路(図4.10)に 組み込まれていると仮定する.可変抵抗を指している矢印の位置をu(t),可変抵抗全体の 抵抗値を2R,可変抵抗全体の長さを2Lとする.ここで矢印が可変抵抗のちょうど中央を 指している時u= 0とし,u >0は可変抵抗の右側を指しているとする.可変抵抗の抵抗 値が線形で変化すると仮定した時,可変抵抗の左右の抵抗値はそれぞれRr=R(L−u)/L, Rl =R(L+u)/Lと書ける.

左右のタイヤに流れる電流の大きさは,オームの法則によりそれぞれIr =E/Rr,Il = E/Rlと計算できる.ここでタイヤの速さが電流の大きさに対して線形的に変化すると仮 定すると,左右のタイヤの速さはvr =βIr,vl =βIlと書ける.ここでβはタイヤの駆動 力を表現するパラメータである.

ここでは可変抵抗にストッパーが設置されているとし,可変抵抗を指している矢印が 移動できる範囲はストッパーによって制限されているとする.いまストッパーの場所が

Lulimit−Lulimitであるとすると,矢印が移動できる範囲は−Lulimit u(t) Lulimit

に制限される.ただし0< ulimit <1である.

実際のオカダンゴムシは障害物がない状態で直進する時間が長いことが知られている [42].障害物がない場合モデルダンゴムシが自発的に直進するように,可変抵抗を指して いる矢印にバネを設置する(図 4.10).これによって自然に可変抵抗の左右の抵抗値が 均等化される.ここで設置したバネのバネ定数をk(= kr+kl)とする.ここでkr, klはそ れぞれ矢印の左右に設置したバネのバネ定数である.矢印の位置u(t)のダイナミクスと して次式を得る.

md2u

dt2 +µdu

dt +ku= 0 (4.3)

ここでmは矢印の質量,µは速度に比例した摩擦係数である.モデルパラメータmµ

kの値は式(4.3)が減衰振動をするような値であるとする.ただしストッパーの場所を考

慮して,矢印の初期位置u(0)は[−Lulimit, Lulimit]の範囲とし,全ての時間で−Lulimit <

u < Lulimitを満たすようにする.

図 4.10: バネの減衰振動を用いて自然に直進するようなモデルダンゴムシの制御.バネ

が自然長の位置にあるとき,可変抵抗の左右の抵抗値が一致する.

モデルダンゴムシの接触感知センサは障害物を回避するために使用される.オカダン ゴムシは前方部の左右にそれぞれ1本ずつ触角を持つことから,モデルダンゴムシの前

方部に二つの接触感知センサを持つとする.オカダンゴムシの行動を観察すると,左右 の触角の有効範囲は前方部分で重なっていることがわかる.ここではMigitaの報告[39]

を参考にして,右側の触角は0 から110の有効範囲,左側の触角は70から180の有 効範囲であるとする.すなわちモデルダンゴムシが0から70の範囲で障害物を検出す ると右側のセンサのみがON,70から110の範囲で障害物を検出すると左右両方のセン サがON,110から180の範囲で障害物を検出すると左側のセンサのみONとなる.右 側の接触感知センサをδr(t),左側の接触感知センサをδl(t)とし,センサがONの時間に 1,そうでない時間に0の二値関数であるとする.

オカダンゴムシが片方の触角で障害物を検出した場合,検出した方向と逆方向に方向 転換し,障害物を避ける.モデルダンゴムシにおいてこのような回避行動を再現するため には,例えば右方向に方向転換する場合,可変抵抗を指している矢印を左側に動かせば 良い.従って,ここでは矢印に鉄を装着し,その左右にスイッチと電磁石からなる電気回 路を矢印の左右に設置する(図 4.11).ここで左右のスイッチは接触感知センサδr,δlで あるとみなす.もしモデルダンゴムシが右側のセンサで障害物を検出すると(δr = 1 か つ δl= 0)矢印は右側に移動し,これによりモデルダンゴムシが左方向に方向転換する.

図 4.11: 電磁石を用いて回避行動が発現するようなモデルダンゴムシの制御.

右側に設置した電磁石の引力をFr,左側に設置した電磁石の引力をFlとする.センサ がONになった時間に,電磁石の引力はバネ部分のダイナミクスに外部入力項として作 用するため,式 (4.3)は次のように書き換えられる.

md2u

dt2 +µdu

dt +ku=δrFr−δlFl (4.4) モデルダンゴムシの前方に障害物がない場合,すなわちδr = 0かつδl = 0の場合は式(4.3) となり,バネの振動減衰によって最終的にはvr =vlとなる.ただし,矢印がストッパー の位置まで移動した場合,矢印はそれ以上移動できないとする.

電磁石の引力に関して特殊な性質を与える.左右の電磁石の引力Fr,Fl をそれぞれ Fr =fr(t) + ¯FFl =fl(t) + ¯F とする.ここでF¯は正定数であり,電磁石の引力の基本

値を表す.frflは基本値からのずれを表す.ここで電磁石の特殊な性質として,一方 のセンサがONになると,それと逆側にある電磁石の引力が増加し,センサがOFFの時 間は基本値にゆっくりと戻るというものを与える.この性質は次式のダイナミクスで記 述できる.

dfr

dt =−εrrγ+ 1)fr+δlsr+ξ (4.5) dfl

dt =−εllγ+ 1)fl+δrsl−ξ (4.6) ここでγεrsrεlslは正定数であり,ξは白色ノイズである.式 (4.5)と式(4.6)に おいて,センサがOFFの時間に右辺第一項は電磁石の引力が基本値F(r,l) = ¯F に戻る効 果であり,右辺第二項がセンサがONの時間で引力の増加を表す項である.この電磁石 の性質はT字路における長いタイムスケールでの記憶を表現している.例えばT字路に おいてモデルダンゴムシが左方向に方向転換したとする.この時δr = 1の時間はδl = 1 の時間と比べて長い.従って左方向への方向転換の後で式 (4.5),式 (4.6)からflの値は frの値と比較して大きくなる.この状態で次のT選択点に到達すると(δr, δl) = (0,1)だ けでなく,(δr, δl) = (1,1)の場合でも式 (4.4)の右辺が正値となる.従って,T字路で一 旦左方向に方向転換したモデルダンゴムシは,次のT選択点で右方向に方向転換しやす い状態になっているのである.

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