第 4 章 ダンゴムシの行動選択 49
4.3 ダンゴムシの記憶行動を模した対向二輪車のアナログ制御機構の提案
4.3.2 数値計算
値を表す.frとflは基本値からのずれを表す.ここで電磁石の特殊な性質として,一方 のセンサがONになると,それと逆側にある電磁石の引力が増加し,センサがOFFの時 間は基本値にゆっくりと戻るというものを与える.この性質は次式のダイナミクスで記 述できる.
dfr
dt =−εr(δrγ+ 1)fr+δlsr+ξ (4.5) dfl
dt =−εl(δlγ+ 1)fl+δrsl−ξ (4.6) ここでγ,εr,sr,εl,slは正定数であり,ξは白色ノイズである.式 (4.5)と式(4.6)に おいて,センサがOFFの時間に右辺第一項は電磁石の引力が基本値F(r,l) = ¯F に戻る効 果であり,右辺第二項がセンサがONの時間で引力の増加を表す項である.この電磁石 の性質はT字路における長いタイムスケールでの記憶を表現している.例えばT字路に おいてモデルダンゴムシが左方向に方向転換したとする.この時δr = 1の時間はδl = 1 の時間と比べて長い.従って左方向への方向転換の後で式 (4.5),式 (4.6)からflの値は frの値と比較して大きくなる.この状態で次のT選択点に到達すると(δr, δl) = (0,1)だ けでなく,(δr, δl) = (1,1)の場合でも式 (4.4)の右辺が正値となる.従って,T字路で一 旦左方向に方向転換したモデルダンゴムシは,次のT選択点で右方向に方向転換しやす い状態になっているのである.
数値実験で使用した円形空間を図 4.13に示す.モデルダンゴムシが歩行可能な場所は 直径140の円形空間として与えられた.ただし,軸の原点(x, y) = (0,0)は円の中心で ある.
図 4.13: 数値実験で設定した円形空間.
T字路における数値実験では,初期時刻t = 0において次の範囲で初期位置がランダム に与えられた;x(0) = 0, y(0) ∈ [0,10], θ(0) ∈ [85◦,95◦].数値実験の結果,(Aisle length) が60の場合,全てのT選択点でTAが発現した.図 4.14は(Aisle length)を60に設定 した場合のモデルダンゴムシの移動の様子である.最初のT選択点(t= 5,7,9)において 左に方向転換したモデルダンゴムシは次のT選択点(t = 17,19,21)において右に方向転 換したことがわかる.
T字路を用いた数値実験では,モデルダンゴムシが100回のT選択点を経験するまで 計算した.もし方向転換した方向が直前に方向転換した方向とは逆になっていれば,そ れはTAが発現したと言える.従って100回のT選択点のうち,99回分の方向転換でモ デルダンゴムシが各T選択点でTAを発現したか,しなかったかが判断できる.ここで TAが発現した頻度F reqを次式で計算する.
F req= (Counts of turn alternation)
(Counts of turn)−1 (4.7)
F req = 1は全てのT選択点でTAが発現したことを表し,F req= 0.5は左右を選択する
バイアスがないこと,すなわちTAが発現していないことを意味する.例えば図 4.14に 示された2回のT選択点(Counts of turn=2)においては,TAが1回発現した(Counts of turn alternation=1)のでTAの発現頻度はF req = 1となる.
様々な通路長(Aisle length)において,5個体のモデルダンゴムシで数値実験が行われ た.各個体は与えられた初期位置が異なり,それぞれの個体でT選択点を100回経験する まで計算された.図 4.15は各通路長ごとのTAの発現頻度を表す.(Aisle length)が100 以下の場合ほとんど全てのT選択点でTAが現れたことがわかる.(Aisle length)が120 の場合はTAの発現頻度が75%程度に減少した.さらに(Aisle length)が長くなると,そ れに従ってTAの発現頻度は減少してゆき,最終的に(Aisle length)が180以上ではTA の発現頻度が50%程度になった.
モデルダンゴムシを円形容器(図4.13)に閉じ込めた場合の移動の軌跡を図4.16に示 す.初期時刻でモデルダンゴムシは直進し,やがて壁に衝突する.その後は容器の縁に 沿って歩き続けた.
図 4.16に示された円運動では,移動の方向はいつも一定であり,この場合時計回りで あった.このときモデルダンゴムシの右側接触センサいつもOFFであり,電磁石の引力
の不均一状態は動きに影響を与えない.従って円形容器において,障害物の回避行動と バネの減衰振動による方向転換によって短いタイムスケールの記憶が表れる.
図 4.14: (Aisle length) = 60に設定した場合のモデルダンゴムシの移動の様子.
図 4.15: T字路を用いた数値実験におけるモデルダンゴムシのTA発現頻度.
図 4.16: 円形容器を用いた数値実験におけるモデルダンゴムシの移動の軌跡.