第 2 章 テトラヒメナの記憶メカニズムを利用した知能ロボット制御の提案 11
2.4 この章のおわりに
本章では初めに繊毛虫の行動を決定する複数の内部状態を,安定な平衡点に向かう内 部状態変数として記述した.テトラヒメナの円形容器記憶行動に関して,減衰の遅い二 つの内部状態に着目し,そのうち一つは遅いタイムスケールで変化する内部状態,もう 一つは速いタイムスケールで変化する内部状態と仮定した.数値計算の結果,遅いタイ ムスケールで変化する内部状態が行動の継続を引き起こし,実験の記憶行動を再現した.
ゾウリムシの正多角形容器記憶行動に関して,減衰の遅い実固有値を持つ内部状態と,複 素数固有値を持つ内部状態を仮定した.数値計算の結果,正多角形容器の壁との周期的 な衝突により内部状態が共振し,正多角形容器の形状と同じ移動の軌跡が得られた.
次に繊毛虫の記憶行動のうち,減衰の遅い実固有値を持つ内部状態を二輪ロボット制 御モデルへ書き換えた.この制御モデルを用いて,正方形空間で二輪ロボットを動かし た結果,空間の内接円周に近い軌道で移動できた.
繊毛虫の記憶メカニズムの実装は幾つか再検討すべき点がある.一つ目は壁と接触し たときに壁面をスリップするような動きである.今回は壁と衝突すると離れるまでター ンするという方法をとったが,きちんと壁への入射角を算出し,速度を与える必要があ る.例えば実験空間の真上に設置したカメラの情報をリアルタイムに処理し,入射角に応 じた行動選択を実装すれば良い.しかし繊毛虫のダイナミクスを実装するという点を考 えると,俯瞰から得られる情報で行動を選択することは望ましくないかもしれない.二 つ目はデータを収集する方法である.今回はカメラを実験空間の真上に設置することが 難しかったため,実験空間の斜め上に設置し,斜め下に見下ろす視点で撮影した.その ため正方形の実験空間が,画面上では台形のような形で記録された.この歪み補正の過 程で生じるデータの誤差や,重心位置の取得プログラムで生じる誤差をきちんと見積も る必要がある.三つ目はArduinoに実装した∆tの値である.ルンバに実装した回避行 動,オイラー法の誤差の両面から∆tをより小さい値に取らなければならない.そのた
めにArduinoの処理速度,ルンバとの通信速度をより詳細に検証する必要がある.特に
Arduinoに搭載されているアナログ-デジタル変換は処理に時間がかかることが知られて
いる.今後はArduinoのレジスタ値を書き換えるなどしてルンバとの通信を高速化する ことが求められるかもしれない.
今回は繊毛虫の記憶ダイナミクスを用いてルンバを正方形空間に内接させた.今後は 形状も学習できるようにモデルの改良が求められる.また様々な空間形状,空間サイズ での実験を行い,実装したモデルの考察をすることも今後の課題である.