1.1 教育の情報化政策
(1)主な施策
これまで教育における情報化については、「e-Japan 戦略」において、2005 年度(平成 17 年度)
を目標に「すべての小・中・高等学校等の、すべての授業においてコンピュータやインターネット を活用できる環境の整備」を進めると定め、その目標に向かって取り組まれてきた。しかし、十 分に達成されてこなかったために、2005 年(平成 17 年)12 月に文部科学大臣から「教育の情報 化の推進のための緊急メッセージ」を発表し、情報化は教育においても重要な根幹となることを 明確に打ち出している。
さらに、2006 年(平成 18 年)1 月に新たな国家戦略として策定された「IT新改革戦略」では、
今後のIT政策の重点として、人材育成・教育においてIT基盤の整備の必要性が謳われ、全ての 教員へのIT機器の整備、IT活用による学力向上等が目標として挙げられている。
また、2006 年(平成 18 年)7 月に策定された「重点計画-2006」では、具体的な目標として以 下の4つの目標が挙げられている。
① 学校におけるIT基盤の整備
教員一人に一台のコンピュータ及びネットワーク環境の整備ならびにIT基盤のサポート 体制の整備等を通じ、学校のIT化を行う。
② 教員のIT活用指導力の向上
教員のIT指導力の評価等により教員のIT活用能力を向上させる。
③ 児童生徒の学力向上のための学習コンテンツの充実
自ら学ぶ意欲に応えるような、ITを活用した学習機会を提供する。
④ 児童生徒の情報活用能力の向上
教科指導におけるITの活用、小学校における情報モラル教育等を通じ、児童生徒の情報モ ラルを含む情報活用能力を向上させる。
こうした流れの中で、文部科学省では目標達成に向けて、総務省等関係各省との連携をはかり ながら取り組まれており、教育行政および各学校現場においても、各施策に則った情報化が進め られているところである。
重点計画-2006 に挙げられた目標①「学校におけるIT基盤の整備」では、2006 年度(平成 18 年度)「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」が実施され、IT環境整備の目標に対 する現状が把握されている。
学校における教育の情報化の実態等調査結果
出典:平成 18 年度「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(文部科学省 2007 年 3 月 速報値)
この「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」結果のとおり、学校現場におけるIT 環境の整備はまだまだ途上であり、目標達成に向け、国、地方自治体において更なる対応策が必 要となっている。
また、目標②「教員のIT活用指導力の向上」に関しては、「教員のICT活用指導力の基準の具
体化・明確化に関する検討会」において、「授業中にICTを活用して指導する能力」や「情報モ ラルなどを指導する能力」等の5つの大項目と18のチェック項目で構成する「教員のICT活用 指導力チェックリスト」が策定されている。また、基準を具体化・明確化するだけでは不十分で あるとして、基準について分かりやすく説明する機能や教員が基準を用いてICT活用指導力を自 己評価する機能、研修担当者が基準を活用した効果的な研修が実施できる機能を備えたWebシス テムが構築されている。
「教員のITC活用指導力」チェックの5つの大項目は、以下のとおり。
A:教材研究・指導の準備・評価などにICT を活用する能力
B:授業中に ICT を活用して指導する能力 C:児童生徒の ICT 活用を指導する能力 D:情報モラルなどを指導する能力 E:校務に ICT を活用する能力
(Eを除く 4 項目は各 4 チェック項目、Eは 2 チェック項目の 18 項目で構成している)
さらに、その基準が広く活用される必要があるとして、2007 年 3 月に初めて 18 項目による教 員のICT活用指導力調査が実施された。その結果は下図の「国の ICT 戦略と教員の ICT 活用指導 力の関係」のとおりである。
【参考】 ICT 活用指導力については、前回まで(平成18 年3 月現在まで)の調査方法と、今回(平成19
年 3 月)の調査方法が異なるため、一概に比較することはできない。なお、全 18 小項目中、「わり にできる」若しくは「ややできる」と回答した教員の割合が最も高い項目は、A2「教材作成のために ICT を活用」で 77.3 パーセントとなっている。
出典:「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果について -教員の ICT 活用指導力に関する速報値-」(文部科学省 2007 年 7 月)
この調査結果から、「授業中にICTを活用して指導する能力」や「児童・生徒のICT活用を指 導する能力」を有する教員の不足が課題であることが明らかとなっている。
目標③「児童生徒の学力向上のための学習コンテンツの充実」、目標④「児童生徒の情報活用 能力の向上」に関する取り組みとしては、「学校教育情報化推進総合プラン」(文部科学省 2006 年度策定)の中でIT教育の充実が謳われ、初等中等教育における児童生徒の情報活用能力の育成 と各教科等におけるITを活用した確かな学力の育成に向けて取り組まれているところである。
そのひとつとして、2006 年度(平成 18 年度)にITを活用した授業の効果が調査されている。
授業にITを活用した場合と活用しない場合における児童生徒の学力の違いを分析・評価する観点 から、IT 活用による学力向上の証しを示す取組みとして実施されたものである。
その調査結果から、以下の効果が確認されており、このIT を活用した教育の効果についての 理解を浸透させることで、学校のIT 環境整備の促進に繋げるとしている。
【IT 活用の効果】
(1) IT を活用した実証実験を行った教員の評価
⇒ 授業の質を高め、授業の改善に役立つと感じている。
(2) 児童生徒を対象とした、IT を活用した授業に対する意識調査
⇒ 授業に対する児童生徒の興味・意欲、満足度が高まるとともに「正しく理解するこ とができた」、「内容を先生や友だちに正しく説明できる」等、知識・理解に関する項目 について効果が示された。
(3) 児童生徒を対象とした客観テストによる比較調査
⇒ 小学校「算数、社会、理科」、中学校「数学、社会」、高校「数学」の実証授業後に 実施した客観テスト(児童生徒)の結果、「技能・表現」、「知識・理解」の観点からの 分析・評価で、IT を活用した授業後に行ったテストの得点が高いことが示された。
(2)今後の教育行政の動き〜『新しい学習指導要領』
教育における今後の大きな流れの一つとして、『新しい学習指導要領』の導入がある。
「新学習指導要領」は、小学校では 2011 年度(平成 23 年度)から、中学校では 2012 年度(平 成 24 年度)から完全実施の予定で進められており、その改訂案が 2008 年(平成 20 年)3 月に公 表されている。そこでも教育の情報化に関して、ICT の環境整備の必要性や情報教育、学校段階 別における情報モラルの必要性、また科目別の導入内容等について、具体的に提示されている。
ここでは、2008 年(平成 20 年)1 月に発表された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特 別支援学校の学習指導要領等の改善について」(答申)より、「ICT 環境整備」に関する主な記載 箇所を抜粋する。
(以下、抜粋)
4.課題の背景・原因
(3)教師が子どもたちと向き合う時間の確保や効果的・効率的な指導のための条件整備
○学習指導要領の理念は、それぞれの教室の日々の教師の指導の中で実現するものであり、
教師が子どもたちとどれだけ向き合い、どのような教科書・教材を用い、ICT環境を活用
していかに効果的・効率的に指導できるかといったことが極めて重要である。
(略)
○そのためには、教職員配置、設備、教科書・教材、ICT環境の整備も含めた学校の施設な ど教育条件の整備、地域全体で学校を支援する体制の構築や学校や教師を支える教育行 財政の在り方について幅広く検討する必要がある。
9.教師が子どもたちと向き合う時間の確保などの教育条件の整備等 (2)教師が子どもたちと向き合う時間の確保のための諸方策
(ICT環境の整備)
○学校の組織力を高め、効果的・効率的な教育を行うことにより確かな学力を確立するとと もに、情報活用能力など社会の変化に対応するための子どもの力をはぐくむため、ICT環 境の整備、教師のICT指導力の向上、校務のICT化等の教育の情報化が重要である。
○しかし、文部科学省が行った「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によ れば 2005 年度末において、高速インターネット接続率、校内LAN整備率、コンピュータ を使って指導できる教師の割合などについて、「e-Japan 戦略」等の目標を下回る結果とな った。文部科学省としても、「IT新改革戦略」における新たな目標の策定など一層の推進 を期しており、今後、各地方公共団体における積極的な取組が期待される。
このように、今後、教育現場においても、IT環境の整備は、学校の組織力を高め、効果的・効 率的な教育を行うために不可欠なものと位置づけられている。またその中で、早い段階からの情 報教育の導入の必要性も明示されており、多種多様な情報が氾濫する現代社会において、個々が 正しく情報を読み取る力を身につけること、すなわち情報モラル教育の充実が求められている。
1.2 関西におけるIT環境整備とIT活用指導力の実態
ここでは、文部科学省が公立学校を対象に毎年実施し、整備の進捗状況を知る上で重要な指標 となっている「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(2007 年(平成 19 年)3 月 31 日現在)から、関西におけるIT 環境整備の実態についてみる。併せて、文部科学省において実施 された「地域・学校の特色等を活かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究」(2007 年(平 成 19 年)3 月)結果と照合することで、IT環境の整備とIT利活用の関係性と阻害要因を探る。
(1)IT環境の整備状況
まず、関西の公立学校におけるIT環境の整備状況を見ると、次表「学校におけるICT 環境の
整備状況」のとおり、2006年度調査と同様、関西地域においてはコンピュータの配備は全国的に
見て低位置にある。しかし、超高速インターネット接続率や光ファイバ接続率等、ネットワーク 環境の整備は比較的進んでいることがわかる。