教育分野の情報化に関し、日ごろ教育行政を行う教育委員会および学校現場における情報化の 具体的な取り組み内容やIT環境整備、並びに教員のIT指導力についての考え方、実践事例を中 心にヒアリング調査を行った。
№ 訪 問 先 ヒアリングのポイント 1 京都府教育委員会 IT環境整備とIT指導力等の考え方 2 兵庫県教育委員会 IT環境整備とIT指導力等の考え方 3 京田辺市教育委員会 学校現場へのOSS導入の可能性
4 三木市教育センター IT活用の先進事例実践機関。取組み内容 5 兵庫県立西宮今津高等学校 IT活用の先進事例実践校。取組み内容 6 京都大学大学院情報学研究科田中研究室 授業支援向けサーチエンジンの開発
以下に概要を示す。
2.1 IT 利活用状況等
(1) IT環境整備
IT環境の整備について、ネットワーク整備、PC(教員用、児童・生徒用)整備、校内LAN整 備の状況を以下に示す。
ネットワーク整備の状況は、本ヒアリング調査の対象とした自治体すべてが光回線で常時接続 が可能な環境を整えている。京田辺市教育委員会では独自のネットワークを構築しており、その 他は府県あるいは市のネットワークをベースに運用されている。ただし、兵庫県教育委員会につ いては、当初は独自の教育系ネットワークを構築していたが、現在は兵庫県の情報ハイウェイで の運用となっている。
文部科学省が「e-Japan戦略」で目標としていた『高速インターネット』とは、回線速度が400Kbps 以上を指しており、ヒアリング機関のように、光ファイバによるブロードバンド回線で文字通り 高速での接続が可能な回線速度を指すものではない。1Mbps足らずの回線速度でも『高速インタ ーネット』接続に分類され、統計上では『高速』でも体感上では『高速』とは言い難く、また、
授業での活用においても我慢して使っている学校が他ではみられることが、本ヒアリングから明 らかになった。一方、「IT新改革戦略」では、『光ファイバによる超高速(30Mbps以上)インタ ーネット』が目標となり、ようやく授業で活用し得る環境が目標に設定され、目標達成に向けた 整備が急がれる。
次に、教員用や児童・生徒用の教室配備のPC、校内LANについてみると、所管する学校数が 少ない市部の教育委員会ほど整備が進んでいる。
教員用のPCについては、三木市と京田辺市では1人1台の整備を完了しており、兵庫県と京 都府においても、1人1台を目指した整備が進められているところである。なお、兵庫県は平成
20年度で完了する予定であり、京都府も現時点で約5割の整備が終わり、今後3年間で約7割ま で整備を進める計画である。児童・生徒用教室配備PCについては、三木市と京田辺市では普通 教室に各1台配備されている。また、京田辺市では、2室目のコンピュータ教室を新たに整備し ている学校もある。
校内LANについては京都府と三木市では全校で100%整備が完了している。京田辺市では、小
学校で100%整備が完了している。
IT環境の整備に関しては、教員用よりも児童・生徒用を優先しており、教員用への整備を進め 校務への利活用が進めば、教員が児童・生徒と向き合う時間が生まれ、教育全体の質が向上する ものと考えられる。
(2)IT利活用
IT利活用については、授業への利活用と校務への利活用の2つの側面がある。
授業へのIT利活用については、「実施するためには準備に時間と手間がかかる」という現場の 先生の声があり、この点が授業への利活用のネックになっていると考えられる。これを解消する 方法として、京田辺市ではサポート体制の充実(機器の操作方法だけでなく、授業内容に応じた 使い方の提案やアドバイス、トラブルへの対応など)や、使いやすいコンテンツの提供など、先 生が気軽に使える環境が整えられていることから利活用が進んいる。
また、授業へのIT利活用の効果については、具体的に数値で表すことは難しいと認識されてお り、現在把握できていない状況にある。また、現時点では把握する予定がない自治体もある。
校務へのIT利活用については、三木市では学校全体で取り組む必要のある通知表の処理に使わ れており、その結果、利活用前に比べると先生に1週間程度の時間的余裕が生まれ、また通知表 の内容(質)が向上したという評価がなされている。
校務におけるIT利活用の浸透は、教員用PCの整備が不可欠であるが、単に整備を進めるだけ でなく、『使わざるを得ない状況・環境』を作り、IT利活用を促すことも必要であると考えられ る。
(3)教員のIT指導力
文部科学省において、2007年3月に全国の教員を対象に初めて実施されたIT活用の指導力調 査は、ヒアリング機関においてもその捉え方は様々であった。調査内容が多岐にわたり、調査の 実施時期も異動時期であり、しっかり聞き出せたかという疑問が残るものである上に、自己申告 による調査であり、基準にブレがあると感じられているものであったとする認識が大半であった。
その結果に対する評価への疑問を残しながらも、三木市教育センターでは、教員自身の弱点を 知る上での指標となるもので、活用能力チェックリストに沿い課題を絞り込んだ研修を実施する ことができるようになったと評価している。
(4)情報モラル教育、情報セキュリティ対策
学校で教えるのはITの技術だけでなく、情報モラルについての教育も重要である。特に情報モ ラル教育については、『学校裏サイト』等の問題も発生しており、社会的な問題となっているだけ に早急な対応が求められている。学校現場からも情報モラル教育についての要望が教育委員会へ 出され、企画や資料提供、講習会の開催等、児童・生徒を対象とするだけでなく保護者も含めて
の取り組みが行われている。三木市教育センターでは、保護者向けに家庭においてWeb上で情報 モラル学習ができるように教材の提供もなされている。また、西宮今津高等学校では入学予定の 1年生の生徒・保護者を対象に、情報に関するモラルマナーガイダンスが実施されている。
情報セキュリティについては様々な工夫がなされており、教員用PCが1人1台整備されてい る学校であれば、私用PCの持ち込み完全禁止や、データを個人持ちとせず必ずサーバーに保管 することの徹底などがなされている。特に、京田辺市では校長用と教頭用を除く教員用PCには 外部記憶装置へのデータ書き出しをロックしており、厳重な管理がなされている。京都府の場合 はPCの学校外持ち出しを禁止するのではなく、持ち出しにあたり、必ず『危険なものを持ち出 している』ことを自覚させるセキュリティ対策用ソフトウェアを全クライアント(私物を含む教 員用PC約4000台)にインストールする計画を立てている。
各校で定めている情報セキュリティポリシーについては、その基本形は教育委員会で作成され ており、それをベースに学校長の名の下に学校独自でまとめているケースがほとんどである。
情報モラルや情報セキュリティについては、子供に対してはそれぞれの年代に応じた教え方が あり、また、大人に対しては常日頃から言い続けておかなければ身につかないと考えられる。
(5)今後の課題
IT利活用を進めていく上での今後の課題には、以下が挙げられる。
第一には、環境整備(=予算確保)と情報担当できる人材の確保である。
IT環境の整備に関しては、予算の確保が困難な財政状況にあり、地方交付税を原資にするので はなく、目的を明確にした補助金制度等の創設が望まれる。同時に、PC整備を進めるためには、
京田辺市のように旧型PCの再利用およびそれに伴うOSS導入の検討など、自治体としての対応 策を検討する必要もある。
授業へのIT利活用を進めるためには、誰でもが手軽にIT機器を使えるようになることと同時 に、準備に時間を使わなくても簡単に利用できる教科書に準拠したコンテンツの整備やサポート 体制の充実が不可欠である。校務へのIT利活用には、校務用の統合システムや生徒情報を一元管 理できるシステムの開発が望まれる。
IT利活用の効果については、現時点では明確に示すことのできる指標や基準がないため、国(文 部科学省)による、わかりやすい形での効果判定方法の提示が望まれる。また、2007年(平成19 年)3月に行われた『教員のIT活用指導力』に関する調査では、日常求められる活用能力が各都 道府県により異なることから自己評価に差が生じ、結果を一律に比較することができないため、
全国共通の評価基準が必要である。
また、教育分野における更なるIT利活用を図るためには、教育CIO設置に関する方針、教育 CIOの資格・基準の明確化を行った上で、教育CIOを設置する必要がある。
2.2 特徴的、先進的取り組み事例
特徴的、先進的な取り組み事例として、京田辺市教育委員会の『京田辺市地域プロジェクト』
における教育現場へのOSS導入に関する実証実験、兵庫県立西宮今津高等学校のIT活用授業の 実践、京都市立稲荷小学校と京都大学大学院田中研究室との小大連携による『INARIプロジェク ト』があげられる。
これらの内容について、以下にその概要を示す。