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教師による復唱の教授 的意味(研究3)

A 口 計

第3節  教師による復唱の教授 的意味(研究3)

1.問題と目的

本節では,集団としての教室談話の生成において,教師は,発話行為 者の意志や制度的環境に対して,どのように対応を行っているのか,と いうことを明らかにする。具体的な課題としては,教師による子どもの 発話のくり返しである「復唱」が,授業の進行においてどのような機能 を果たしているのか,ということを明らかにし,教授行為としてどのよ

うな意味をもつのか,ということを考察する。

本節では, 「復唱」を,■「子どもの発話‑の応答として生成される, 教師による,子どもの発話のくり返し」であるとする(以下,教師の復 唱)。発話内容の再現の厳密性については,言語学研究における次のよ

うな通例にしたがう。すなわち,言語学研究において,発話の「くり返 し」は,もとの発話との物理的同一性は問われず(牧野, 1980), 「意味 が同じかあるいは類似した別の表現で言い換えること」 (福地, 1985) であると定義される。実際の会話分析においては,言い換えや要約であ っても,下敷きとなった発話が特定でき,意味が保持されていると判断

されれば, 「くり返し」であると判定されている(中田,1992)。そこで, 本節では,一字一句同じである発話に限らず,要約や言い換え,イント ネーションの変化があっても,もとになった発話が特定でき,意味内容

を保持していると判断できれば復唱とみなすこととする。

従来,言語学研究において, 「くり返し」にレトリックとしての機能 や効果があることは認められてきた。しかし,会話における文や語の「く

り返し」は発話の冗長な部分であり(例えば,中野・島津, 1998),非 創造的なものであるとみなされた。しかし,一方で,言語行為における

「くり返し」現象の普遍性を検証し,その機能と構造を体系化しようと いう試みもある(例えば,牧野, 1980)。また,会話分析から「くり返

し」が会話の冗長度を高めるのではなく,むしろ相互作用の円滑化や進 展,話者間の関係性の強化などの役割を担うことが明らかになっている

(例えば Tannen, 1989;中田, 1991, 1992)。

では,授業場面において,教師の復唱は,どのようにみなされてきた のだろうか。

教師の復唱は,教授スキルの解明(小金井・井上, 1979)や教師の意 思決定モデルの開発(同根・吉崎1992;樋口, 1995)などの研究におい て,教師の働きかけに対する子どもの応答‑の,教師の対応行動の一部

として着目された。しかし,これらの研究は,教授行動の点から対応行 動を分類しているため,個別の言語現象としての「復唱」については言 及していない。また,竹下(1964, 1965, 1966, 1967)は,カウンセラー がクライエントの反応を引き出すために用いる技術である「リード」の 概念を援用し, 「子どもを目標に対して前進させるための働きかけ」と 再定義したうえで, 「リード」の強さという側面から教師の発言型を分 類し,教師の言動が子どもの活動に及ぼす作用を記述,測定する分析シ ステムを提案している。ここでは, 「くりかえし」は, 「沈黙」や「巡 視」などと同等の段階に位置づけられている。つまり,復唱は教授行為

として強い効力をもつとはみなされなかったのである。

一方,日常会話研究においては, 「くり返し」が,文章や会話に語桑

的な結束性をもたせること(ハリデイ &ハサン1997;津田,1994)や, 会話における"involvement' (話者が諸に心情的に入り込んだり聞き手

と共感を分かち合うこと)の表出や参加者相互のinvolvementを高める方 策として機能すること(Tannen, 1989)などが明らかにされてきた。こ れらの研究が「くり返し」の機能として明らかにしてきた「要点の強調」

や「発話量の増加」, 「話題の一貫性の維持」, 「共感の表示や喚起」な どは,学級としての談話進行の円滑化や話題についての理解促進などの ための教師の発話行為にもみいだされる可能性がある。

だとすれば,復唱は教室談話においてどのようなはたらきをするのだ ろうか。会話研究にお/いては, 「形状」と「機能」の点から,復唱のは たらきが明らかにされている。

まず,形状については,次のことが明らかにされている。すなわち, 部分的な変更や語句補足を行い,相手の発話を言い換えることによって

聞き手の理解を助けたり,要約することによって話題の収束を図ったり する(中田, 1992)。また,語尾のイントネーションを上昇させること

によって,相手の発話の内容を確認したり, yes‑no型の応答を引き出し たり,もとになる発話の撤回や修正を要請したりする(稲木, 1993)。

さらに,相手の発話の再現によって相手の発話の受信を表明する。その 際の,復唱に潜在する発話者の意図は,相手の発話‑の関与の程度に応 じて,会話‑の単なる参加表明から相手の発話‑の肯定的評価まで多様 である(稲木, 1993)。再現によって時間かせぎや間つなぎを図ること

もある(中田,1992)。以上のように,復唱の形状としては, 「言い換え」,

「語尾イントネーションの上昇」, 「再現」の三つが考えられる。上述 の日常会話にみられる話し手としての行為は,教室談話の進行の円滑化 を図ろうとする教師によってもなされうる。よって, 「言い換え」, 「語

尾イントネーションの上昇」, 「再現」の形状は教師の復唱にもみられ るだろう。復唱の形状それ自体は,聞き手にとって顕在的に示されるた め,子どもにとっては,教師の教授意図を判断するための手がかりとな りうる。そうすると,形状に着目することで,子どもは教師の復唱を教 授行為とみなし,どのように対応しているのか,ということが明らかに

なるだろう。

次いで,機能については,次のことが明らかにされている。すなわち, ある特定の発話の復唱が,その発話‑の肯定的評価や強調となり,ワキ の聞き手‑の伝達や理解を補助する(中田, 1992)また,復唱には, 話の内容や発話の相手に対する,態度や姿勢を表明する機能がある(中

田, 1992)。その場合に,相手との一体感や共感を表出する役割を担う こともあれば(Tannen, 1989),先述のように相手の発話を疑問文にして 復唱することで,疑問のみならず強い否定的評価を表すことがある(棉 木, 1993)。以上のように,復唱の機能としては, 「媒介」, 「受容」, 「疑 問・否定」の三つが考えられる。上述の日常会話にみられる復唱の機能 は,授業において子どもの理解促進や評価に向けて教師がとる教授行為 にもみられる。よって, 「媒介」, 「受容」,‑ 「疑問・否定」の機能は教師 の復唱にもみられるだろう。ただし,同一の機能の復唱でも,用いられ た状況やとられた形状などによって,授業進行や子どもの学習に及ぼす 影響は異なることが考えられる。そのため,機能については形状や後続 する発話などとの関連で検討する必要がある。機能に着目することで, 復唱がどのような教授行為として用いられ,授業進行や子どもの学習に

どのような影響を及ぼしているのか,ということが明らかになるだろう。

以上のように,教師の復唱梓,形状,機能のいずれの点からみても, 学級集団としての課題解決の遂行に向けた談話進行のために用いられて

いる可能性がある。さらに,復唱は,特定の子どもの具体的な発話のく り返しとして生成されているため,復唱に着目することで,教師が,具 体的に,どの子どもの発話をどのように教室談話に位置づけようとして

いるのか,ということが明らかになるだろう。つまり,教室談話におけ る復唱の運用に,行為者としての教師の意志も表れる可能性がある。

近年の談話研究では,発話を行為としてとらえることで,従来,言語 を対象とした研究において冗長であるとみなされ捨象されてきたような 言語現象も,話し手と聞き手との相互行為のなかである一定の役割を果 たしていることが明らかにされた。例えば Goodwin (1981)は,夕食 場面の会話の分析から,話し手の発話に出現する「リスタート」, 「ポ ーズ」, 「イントネーション」といった,発話としては明確な意味内容 を伝達しない言語現象が,聞き手の注視を引き起こすことを明らかにし ている。教室談話においても,茂呂(1996a, 1996b, 1997b, 1997d, 1999) は,教師の「話し始めの言い違い」という言語現象が,子どもにとって は,自由な発話を停止して教師の発話に注目するための手がかりとなっ ていることを明らかにした。このように教師の発話には,意味内容の伝 達によってではなく,行為として子どもに何らかの活動を促すような誘 導性を備えたものがみいだされる可能性がある。

本節で着目する復唱も,意味内容の伝達という点では,既存の情報を 再提示するにすぎないため,教授行為としては教師の意志が明確には表 されない。だからこそ,誰の発話の,どの箇所を,どのような形状を用 いて復唱したのか,という点に,学級としての課題解決の遂行において, 子ども個人の意志と教師自身の授業進行‑の意志との調整に向けて,教

師は,どのように子どもの意志をくみ取り,どのように自らの意志を介 入させ,学級としての談話の進行を管理していこうとしているのか,そ

の創意工夫をみいだすことができるかもしれない。

以上より,教師の復唱については次のことが予想される。すなわち, 教師による子どもの発話甲復唱は,教室談話において冗長なものではな

く,学級としての課題解決の遂行に向けた,教師による談話進行の管理 としての意味をもつのではないだろうか。また,どの子どもの発話をど のようにくり返すのか,という点に教師の発話意志が示されるだろう。

そこで,本節では一斉授業における教師の復唱に着目し,教授行為と してどのように運用されているのか,ということを明らかにする。その 際,教師の復唱の「形状」, 「機能」という二つの次元と「後続する発 話」の点からカテゴリーを設定し,数量的に分析を行い,教師の復唱が 形成する発話連鎖の特徴や発話の形状と機能との関連を明らかにする。

また,教師の教授意図と復唱の運用との関連を見やすくするために, 「談 話展開上の役割」について, 「話題の導入」, 「話題の継続」, 「話題の収 束」からなるカテゴリーを設定し, 「機能」との関連を検討する。復唱 が授業の展開上どのような機能をもつのか,ということについては,熊 谷(1997)が一時間の授業展開に位置づけて考察している。本節では, 特定の話題が維持されている間を一つのエピソードとし,エピソード内 での役割に着目して分類した。さらに,発話事例の解釈的分析を行い, 数量的分析で明らかになった特徴が,具体的な授業展開においてどのよ

うに表れ,どのような授業展開を形成しているのか,ということを考察 する。