第 5 章 自然エネルギー利用推進に向けた地域政策の模索 92
III.3 政策提案のデザイン
図5.7 「あいうえOM」とそのコンテンツ5-10)
により、「空気集熱式太陽熱利用パッシブソーラーシステム」の家が欲しいと思うクライ アントの注文は、全て浜松のOMソーラー協会に集まり、地域の加盟(会員)工務店は、
何も営業することなく毎日数枚のファクシミリで見込み客を含む顧客を得ることができ、
自分たちのスタイルで、年間6棟程度のパッシブソーラーの家を施工していた。施主が欲 しいというモノを売ることぐらい簡単な商売はない。年間 6棟というスケールメリット は、ふた月に一度契約着工して同様に竣工、引き渡しをするというルーチンを生み出し、
中小事業者の協力業者も含めて、受注に不安のない生活が保障された。国土交通省がすす めてきた、セミナー等の事業者教育は、省エネ基準遵守にとってあまり有効ではないと筆 者はみている。注文もないものに備えて準備をし、1円でも安い住まいの購入(もともと 住まいを購入するという思想自体に問題があるが)を目論んでいる施主に、コストアップ の提案を持ち出すことはできない。業界は、このことを、施主からの要望がないと説明し ているが、施主からの要望として、持続可能な省エネ等級の高い環境性能を要求すること で事態は様変わりするであろう。
気密測定
現状では、気密性能基準は、省エネ基準・性能表示等から「削除」されている。2013年 に改正された省エネルギー基準には隙間数値が削除されている。なぜ削除したかという文 面が以下である。「一定程度の気密性が確保される状況にあること、また住宅性能表示制 度における特別評価方法認定の蓄積により、多様な方法による気密性の確保が可能である ことが明らかになってきたことなどから気密住宅に関わる定量的基準(相当隙間面積の基 準)は除外されました」5-11)。多様な断熱材を分類して、種別による施工方法を規定する ことにより、その結果として気密性能は確保できている、という仕様規定に変更された。
気密シート張りを伴う気密性能規定を削除することにより、断熱材の種類(例えば、発泡 プラスチックなど)によっては、防湿シート(≒気密シート)の省略を選択できるように なった。この「防湿シート(≒気密シート)の省略」は、筆者が建築家として設計するス タンスとして当然のことであったが、それまでは許されない構法であった。この仕様規定 は、ひいては、繊維系断熱材(木質含む)においても透湿する断熱壁の開発をやりやすく するということでもあった。この「透湿する断熱壁の開発」は、当時の筆者たちのトレン ドであった。当時の一定程度の気密性能というのは、相当隙間面積 C値=5(cm2/m2 ) 程度の話で、外部風速の影響による自然換気回数は、周辺状況、内外温度差により変化す るが、外部風速が4(m/sec)のときに外気温度が0℃だと1.2回以上の換気回数となる。
このとき気密住宅に求められる自然換気回数を0.5 回以下とすると、箱の気密性能とし て、相当隙間面積C値=2(cm2/m2)程度の気密性能が要求される。仙台では、柱が4寸 角の木造住宅で、高性能グラスウール 24Kを壁体内に充填して、開口部をペアガラスに する断熱性能が要求されるが、このとき相当隙間面積C値=5( cm2 /m2)程度だとする と、自然換気負荷が暖房負荷で最大となってしまう。つまり、東北地域にあって、建物の 気密性能は重要で、熱還流率の計算もできないうえ、断熱工事の適切な施工について知識 をもっていないと、大きな隙間換気(漏気)負荷を持つ寒い家になってしまう。建物の気 密測定はとても面倒で、手間のかかるものだった、測定機器は高価で大きく重く、測定の ための準備にも手間がかかったため、2013年の省エネ基準の改正により、隙間数値が削除 されたことで、中小工務店は安堵した。計測機器をもたない中小工務店は、高額な測定費 用を負担して気密測定を外注していた。もしくは、気密断熱工事を仕様発注して、断熱工 事業者に工事区分として測定を依頼していた。筆者は、現在、2017、2018年度の2年度 にわたって、「宮城県新エネルギー等環境関連設備・デバイス等開発取組支援事業」を受託 し、気密測定器を小型化することを進めている。小型化の実現にあたっては、ファンモー タをDC駆動からAC駆動のものに替えたことが挙げられるが、最も小型化に貢献する判 断は、ラベリングツールとして、気密度の低い建物の計測を放棄したところにある。測定 に要する差圧を小さくし、かつ測定可能な隙間相当面積を小さくすることが、最も装置を
図5.8 気密測定器 従来型と著者開発中の小型簡易測定器
小さく安価につくるポイントであることに気付くまで2年の試行錯誤を要した。国策では ないが、気密測定法はJISに厳密にオーソライズされている。この測定方法は内外差圧を 50Psとしたときの風量と室内と室外の温度から求められる。筆者の提案は、50Psの差圧 を得られずとも10Ps/20Ps/30Ps 程度の低レベルの差圧測定を3点以上計測して、50Ps の時の差圧を推計することである。求められる差圧が小さくてよいのなら、計測に必要な ファンの風量(能力)もそれなりに小さくすることができる。大型測定器を設置して、建 物の気密を成立させている、べーパーバリアや気密シールを破壊する危険を冒すことな く、大袈裟な測定開口をわざわざ作ることなく、短時間で簡単に計測することができる。
上記は、あくまで「新築住宅」についての話題である。過半の既存住宅について「気密」
が「省エネ」と「住まいの健康」にとって大切な課題であることを共有したい。「住まい の健康」については、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)がWebプログラムと して公開している「すまいの健康チェックリスト」5-12)がある。東北地域の住まいの気密 性能については、吉野らが、東北地域のZEHの前提として推奨している値がある5-13)。
C値=1.0(cm2 /m2 )の提案は、東北地域の新築住宅のすべてに関して、気密測定結果
の報告を義務付けること、またこの基準を満たさない住宅建築については、罰則規定を設 け目標値までの改善を図り、第三者計測によりその値の報告を義務付けることを提案した い。さらに可能であれば、スイスのミネルギーのように、現場を特定できない情報であっ ても、その性能を公開して、ストックの活かし方についても議論できる土壌となることを 願う。
SDGsと地域政策
SDGsは2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)5-14)の後継として、国連 サミットで採択された2030年までの国際開発目標(2030アジェンダ)が掲げた「17の目 標と169のターゲット」から構成されたものである。SDGsには主となる17個の目標が
定められているが、それは相互に関連し合い、どれかひとつではなくすべてを総合的に取 り組むことが大切とされている。国連で SDGsが策定された背景には、今日の世界が抱 える問題と社会の変化が大きく影響している。ここで地域政策を考えるうえで、目標設定 において重要視された5つの基準、普遍性、包摂性、参画型、統合性、透明性から地域政 策のありかたを模索する。「普遍性」は、SDGs以前に策定されていたMDGsでは、途上 国向けに国連の専門家が主体となって策定されたものであったが、SDGsでは国連全ての 人が話し合って策定され、すべての人が実施できるように作られた5-15)。表5.4 にSDGs の目標設定において重要視された基準に基づいた地域政策のありかたをまとめた。
表5.4 SDGsに照らした地域政策のコンセプト提案
太陽光発電の導入時にもみられたが、エネルギー使用について「みえる化」はとても有 効であるといえる。筆者が知る限り、HEMS5-16)など「エネルギー使用量の見える化」を 図った施主は、全て以前のエネルギー消費量を下回る生活をするようになっている。ほと んど、省エネがゲーム化し、それまでに意識していなかったエネルギーのみえる化によ り、省エネの喜びを得ている。SDGsの「17の目標と169のターゲット」は互いに結び 合いつながっている。時には負の連鎖を生み出して思わぬところに大きな負荷をかけてい る。わが国の木材輸入量は1996年をピークに減少傾向で推移する一方、国産材の供給量
推移し、2017年は 7年連続の上昇で36.1%となり30年前の水準に回復している5-17)。 しかし、かつてわが国は、コンクリートの型枠用合板の材料として熱帯雨林の木材を大量 に輸入し、そのあとの手当てを怠っていた。南アメリカのアマゾン川流域には、世界最大 の熱帯雨林があるが、過去50年でその5分の1が消失した。森林面積が減少している国 の上位は、ブラジルをトップに、インドネシア、スーダン、ミャンマーなどが並ぶ。熱帯 雨林は、毎年520万ha(=東京都の約25倍)が減少している(2010年)。これは植林し た分を差し引いた数字で、もし植林がなかったとすると、毎年1300万ha(=東京都の約 60倍)のペースで森林がなくなる5-18)。これらの森林破壊によって、○1 地球の温暖化が 進み…森林は、CO2を吸収し、酸素を放出している。○2 異常気象が増える…森林は土に しみこんだ水を吸い上げ、葉から蒸発させて大気に戻している。森林がなくなると、この 循環が崩れ、森林の減少は地球全体の大気の流れにも影響して、異常気象を増やす恐れが ある。○3 生き物の絶滅が加速する…森林にはたくさんの生き物が生息している。森林が 減ったため、生き物はすみかを失い、絶滅に追い込まれている。森林減少が止まらない と、絶滅スピードが速まり、生態系が崩れていく。○4 土砂崩れや洪水などの災害が増え る。また森は、空気と水を作っている。「森は海の恋人」で知られる畠山重篤は、牡蠣の ために海の環境をよくするには森が大切だとして、室根山の森の手当てを続けている。川 の上流に住む人々は代々、山を大事にしてきた、しかし、下流の村からは「川の水を汚す な」と言われこそすれ、「ありがとう」と言われたことなんてなかったという。17の目標 と169のターゲット」連鎖は、良い方向に向かえば、連鎖する全ての目標に影響し順調な 展開を望むことができる。
地域の意識革命
地方分権で国が制度の具体的運用を地方に委ねる場面が増える中、ルール設定のあり方 が改めて問われている。ふるさと納税制度をめぐって、国が返礼品の割合を3割以下とす るなどの規制基準を定めて対象自治体を指定する新制度を導入した際、過去の泉佐野市の 返礼品の取り扱い状況に基づいて除外を決めたことの妥当性が争点だった「ふるさと納税 訴訟」で、ふるさと納税制度の対象自治体から除外したのは違法だとして、大阪府泉佐野 市が除外決定の取り消しを求めた訴訟の上告審判決が2020年6月30日、最高裁であっ た。第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は国勝訴とした大阪高裁判決を破棄し、決定を取り消 し、泉佐野市の逆転勝訴が確定した5-19)。
地方にできることは地方に任せるべきとの考えなどが重視される傾向が強まり、地域政 策の方向性は地域の主導へと転換してきている。「地方の時代」という言い方は、日本に おいて1970年代からみられる、地域主義を主張するスローガンで、国がコントロールす る中央集権に対する反論であり、過去、何度かの盛り上がりをみせた概念であるが、今ま