第 5 章 自然エネルギー利用推進に向けた地域政策の模索 92
III.2 ウッドマイルズ
Wood miles という概念がある。わが国の「ウッドマイルズフォーラム」5-7) が建材と
して使う「木材」の移動履歴を「環境負荷低減」という視点から評価している。解りやす い「エコマテリアル」として、光合成によって空気中のCO2を定着する「木材」と、それ を加工して得ることができる「木質材料」パ―ティクルボード・合板・MDF(中密度繊 維板)等がある。自然素材としての木材を建材として使用可能なものにするためには加工 エネルギーを要するがそれは世界中どこで加工しても同じである。しかし日本の場合、そ れを海外から輸入するなど輸送費にエネルギーを必要としておりそれらを環境負荷として 捉えることができる。「ウッドマイルズフォーラム」は、ウッドマイルズ関連指標として、
ウッドマイレージ(m3・km)ウッドマイレージCO2(kg-CO2)、流通把握度の3つの指
図5.4 日本の部門別二酸化炭素排出量の推移 国立環境研究所 温室効果ガスインベ ントリオフィス
図5.5 木材の輸送過程における消費エネルギー(著者作成)
標で環境負荷を評価している。これらの指標も「尺度としてのCO2」のひとつである。
図5.5に木材を建築材料に加工するのに必要なエネルギーと輸入元別にそこからの輸送 に係るエネルギーをコストとして原油換算して表示した。また、図5.6では、植物として 未だ建材にならない未乾燥材を建材として利用するためには含水率を 15%以下5-8)にし なければならず、重油や電気をエネルギーとする人工乾燥、太陽熱利用である天然乾燥等 の乾燥処理やべニアに薄く削いで分解して接着して得られる合板への加工、チップ状に砕 いて再形成する手法で制作されるパ―ティクルボードへの加工エネルギーについても原油 換算で加算し鉄鋼やアルミニウム等の他の建材と比較したものである。解りやすいエコマ
図5.6 建材各種材料の製造時における消費エネルギー(著者作成)
テリアルとしての木材は、光合成によって空気中のCO2を定着した素材であるが、必要 とされる乾燥処理や、合板や集成材、パ―ティクルボードなどへの二次加工エネルギーは 微々たるものであるが、それらを長距離輸送することとなると、エコマテリアルとしての 価値が低くなることが指摘できる。
また、建材としての役割を終えた木材は、再利用も可能であるが、最終的にサーマルリ サイクルされて再び空気中にCO2 として循環する。この木材に係るCO2については、次 の世代の木材に光合成で定着されるため、カーボンニュートラルであり温室効果ガスには ならない。このようにCO2 を尺度として環境負荷を論じる視点が大切である。温暖化ガ スは CO2 だけでなく、自然界における微生物による分解や、牛の糞尿から発せられるメ タンガスも温暖化ガスである。しかし、CO2 は人間の活動によってコントロールするこ とのできる温暖化ガスであることと、温暖化ガスの60%を占めることからもわかりやす く、「低炭素」というフレーズにつながる。IPPCレポートでは、温暖化の限界は現在のプ ラス2℃とされており、このクリティカルポイントを境に、わが国では「マラリア」の危 険、世界的には、飢餓、干ばつ、洪水などの異常気象とその影響が予測されており、一気 にこの排出量を削減しても、長い時間をかけないと、かつての状態には戻れないことが指 摘されている。CO2 を尺度とした全てのマテリアルフローを説明して「見える化」する ことができれば、原子力発電所のメルトダウンを見るまで、コンセントに向こう側がある ことを意識していなかった人たちにも、この待ったなしの危機的状況を知らしめることが できる。