第 2 章 担保保存義務と債権者の融資取引上の民事責任との交差
3 損害の性質と責任の追及方法
第 2編で観た一般法理に基づく保証人による債権者の 民事責任の追及に係る損害の性質 および訴訟上の追及方法に係る議論を、担保保存義務との関係で再検討すると、以下のよ うになる。
保証人が一般法理に基づいて債権者(金融機関)の民事責任を追及する場合、その損害 の性質は、追及方法に応じて 2種類考えられる。すなわち、一方において、保証人が債権 者の保証人自身に対するフォートを根拠に、自身の訴権を用いてその民事責任を追及する 場合、損害の性質は直接損害=機会の喪失となり、他方において、債権者の主たる債務者 に対するフォートを根拠として民事責任を追及する場合には、間接損害となる。 この際、
訴訟における具体的な追及方法として、保証人が反訴請求を用いるか、本案に関する防御 を用いるかにより、効果が異なることも観察した通りである(特に、反訴請求の場合には 保証人の「二重取り」という問題を理論的にどのように解決するかという問題も生じる)。
ところで、仏民2314 条に基づいて、保証人が免責を求める場合、保証人は、免責を債権
738 Duclos, supra note 720, no 13, pp. 174-175.
739 François, supra note 85, no 391, pp. 328-329.
740 Duclos, supra note 720, no 13, pp. 174-175.
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者による保証債務の履行請求に対するいわゆる抗弁として主張することとなる。具体的に これは、本案に関する防御を用いることを意味する。これに対して、保証人が一般法理に 基づき、債権者の民事責任を損害賠償という形で請求する場合には、原則として、反訴請 求に因らなければならならず、これが、類似する機能を持ちながらも、両者の間にある決 定的な違いを構成していたのである。しかし、破毀院は 1999年 10月26日判決以降、一般 法理に基づく債権者の民事責任の追及を本案に関する防御により行うことを選択的に認め る(手続的選択)ことになったため、この結果、仏民 2314 条との間にあった効果の差がほ ぼなくなることになり、両者は法理の面で接近することになったのである741。
第4款 小括
本節において確認できたことは以下の通りである。
1 フランス法においては、保証人が一般法理に基づいて債権者の民事責任を追及する ことができる。これは、仏民2314 条の規律範囲に含まれない、主たる債務者の倒産、すな わち、一般担保権の喪失に基づく債権者の民事責任の追及を認めるということを意味する ことになる。換言すれば、一般法上の担保保存義務を広く承認することに繋がる。
2 免除特約が締結されている場合に、一般法理に基づく債権者の民事責任の追及、す なわち、一般担保権の喪失について債権者の民事責任を追及することができるのかについ ては、仏民 2314 条に言う権利の喪失をどのように定義するのかによって変動する。一般担 保権の喪失が同条にいう権利の喪失に含まれると解すれば、免除特約の効力によって、も はや、債権者の責任を追及することができないのに対して、含まれないと解すれば、免除 特約の効力は及ばず、なお、債権者の責任を追及することができる。一般的には、後者で ある(含まれない)と解されているけれども、この結果、免除特約がある場合にはフォー トの次元からの逆転現象が生じ、ひいては、求償権が優先弁済権(担保権)よりも強く保 護されることを意味することにもなりかねない。
3 一般法理に基づく債権者の民事責任の追及と仏民2314 条が規律する担保保存義務の 決定的な違いの 1つに訴訟法上の主張方法があった。すなわち、原則として、前者は反訴 請求により、後者は本案に関する防御によるというものである。しかし、近時破毀院は、
前者についても、本案に関する防御を選択的に用いることを認めたため、両者が法理の面 において接近するという現象が観られている。
741 Ancel, supra note 722, no 148, p. 63 ; Legeais, supra note 717, no 291, p. 216 ; Aynès et Crocq, supra note 27, no 295, pp. 134-135.
176 第4節 結 語
1 フランス担保保存義務の法的構造
フランスでは、一般法理に基づく債権者の民事責任の追及が認められているところ、 こ れは主たる債務者の倒産という場面においては、一般担保権の喪失を根拠とした債権者の 担保保存義務の追及を意味することに繋がる。そうであるならば、担保保存義務は、仏民 2314 条と一般法理による「二重の規律」に服することになる。このような理解をする場合、
仏民 2314条は、数ある代位権者の中でも、あえて「保証人」だけに保護を与え、そのかわ りに、権利の範囲を「優先弁済権」に限定するという規律、すなわち、他の代位権者より も負担の大きい保証人だけを特別に保護するという、債権者の担保保存義務を保証人のた めに強化する目的を持った条文というように位置づけることができそうである。その意味 で、仏民 2314条を法定失権の規定と理解する立場(法定失権説)は説得的であるようにも 解される。
しかし、仏民 2314条と一般法理に基づく債権者の民事責任の追及に係る要件および効果 を比較すると、この「特別の保護」という点が、大きく揺らいでくる。すなわち、仏民 2314 条に基づく免責と比較すると、一般法理に基づいて債権者の民事責任を追及する方が、① 仏民 2314 条においては認められない一般担保権の喪失についても責任の追及が認められ る、②仏民 2314条が保護する権利の対象は原則的に契約時に存在していた優先弁済権に限 られることになるのに対して債権者による権利の取得時期に制限が無い、③(現在では締 結できないが)免除特約の範囲が及ばない、④保証人の主観的態様が評価されるため、保 証人のうちでも、とりわけ、保護の要請が強い素人保証の場合に、債権者の民事責任を認 定しやすい、⑤反対に、債権者が金融機関のような事業者である場合、軽いフォートであ っても、民事責任を認定しうる、⑥保証人は債権者の責任追及に当たり、事案に応じて、
損害の性質を「直接損害」と「間接損害」の選択をするこ とができる、⑦同様に、「反訴請 求」と「本案に関する防御」の手続的選択ができる、といった圧倒的な利点が認められる。
とりわけ、担保保存義務が問題となるようなケースでは、主たる債務者がすでに倒産して いる場合が多いため、一般担保権の喪失について債権者の責任を追及することができると いう点は、仏民 2314条にはない、保証人保護のための重要な利点といえる。したがって、
両者が接近すればするほど、一般法理上の担保保存義務が、あたかも、仏民 2314 条を吸収 するかのように、その意義を消滅させていくことになる。そうであれば、一般法 上の金融 機関の民事責任は契約責任と解されている742ことからして、担保保存義務は、契約責任の 一種と考えるのが妥当ということになろう。
さて、このような担保保存義務の存在に目を向けるとき、仏民 2314 条にはどのような 意義が残されているのか。一般法理に基づく担保保存義務違反の追及が行われることの理
742 第2編第 3章第 2節参照
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由は、そもそも、仏民 2314 条が、その要件の厳格さゆえに、利用しにくい条文であるとい うことが背景にある。したがって、両者が接近すればするほど、同条の価値が薄れていく のはある種の必然ともいえる。しかし、同条が強行法規化された 現在においては、もとも とフォートの認定の幅が広いということもあいまって、とりわけ、単なる担保の差替えな どといった軽いフォートによる権利の喪失の場合や、いわゆる玄人の保証人などの場合に は、債権者や保証人の態様が評価されない分、一般法理に基づく民事責任 の追及よりも、
なお免責が受けやすいときがありうる。したがって、両者の接近は、仏民 2314 条の意義を 消失させつつも、なお互いに他を補完しあって、担保保存義務というひとつの保証人保護 法理を形成しているものと評価できる。