(1)マデラン法 47条の目的
マデラン法においては,その第 47 条が保証人の保護を強化する内容を含んでいる。同 条は,全 4項から成り,個人企業の設立を促進するに当たり,事業主の責任を制限すると いう政策のうちの一つとして,個人事業主の資産(patrimoine)を保護することを目的とし ている118。民法典は,家産の不可分性(indivisibilité)を絶対の原則として掲げているとこ ろ,個人事業主の場合は,事業のために必要な資産と,それ以外の事業とは無関係な個人 資産とが一般的に分離していない。このため,家産の不可分性を絶対視すれば,個人事業 主は,事業上生じた債務についても,自己の資産を自動的にその引当の対象とされてしま
113 鈴木千佳子「会社法の 簡略化―イニシ アチブと 個人企業に関する一九九 四年二月一一日 の 法律第九四-一二六号」日仏 19号 116 - 117頁(1995年)。
114 三井正信「社会法と個 人企業―個人的 イニシア チブと個人企業に関する 一九九四年二月 一 一日の法律第九四-一 二六号」日仏 20号134頁(1997年)。
115 フランスにおける中小企業の定義は明確ではないが、小企業は従業員数が 10~49人の企業 を指し、中企業は 50~499人の企業を指すとされる。また、1995年時点でのフランスにおける 生産の 54%を中小企業が担い、1.300 万人の賃金労働者のうち 860万人が中小企業に勤務して いるとされる( 中小企業総合事業団調査 国際部調査第一課「ヨーロッパの信用保証制度~フラ ンス~」信用保険月報 45巻1号 37頁〔2002年〕)。なお、entrepriseとは、「企業」と同時に「請 負」も意味するため、ここで言う「個人企業(l’entreprise individuelle)」とは、企業それ自体と いうよりも、「独立した職業活動を行っている個人というニュアンスが強い」とされる(三井 ・ 前掲注〔114〕134頁)。
116 Doc. Ass. Nat., no 852, Projet de loi, 15 déc. 1993, pp. 2 - 5.
117 その概要については、Doc. Ass. Nat., supra note 116, pp. 2-11のほか、鈴木・前掲注(113)
117-119 頁、三井・前掲注(114)134 - 136頁を参照。
118 Doc. Ass. Nat., no 928, Rapport, 12 janv. 1994, p. 99.
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い不都合である。とはいえ,事業上必要な資産と,事業主の個人資産とを明確に分離する とすれば,民法典の基本原則たる不可分性を見直さなければならなくなってしまう119。そ こで、個人経営者の資産のうち、経営上生じた債務については、事業に必要な資産を優先 的にその引き当ての対象とすること(第 47 条 1 項および 3 項120)などにより、この不都 合を回避しようとしたのである121。
(2)経営者保証の制限
1項および3 項による経営者の保護に付け加えて、マデラン法第 47条第 2項は 1984 年
法に第60 - 1条を追加するという形を採り、「個人事業主(entrepreneur individuelle)のた
めに自然人によって合意された、職業上の契約に関する債務についての保証契約に規定さ れている連帯の約定および検索の利益の放棄の約定は、保証人の義務が、主たる債務、利 息、費用および附従する債務を含んだ、明白かつ契約上定められた総額に制限されない場 合は、記載のないものとみなす(第 1項)。個人事業主の職業上の債務を担保するために自
119 Doc. Ass. Nat., supra note 118, p. 99 ; Doc. Sénat, no 252, Rapport, 19 janv. 1994, p. 118.
120 マデラン法47条 1項および3項は以下のような内容である。すなわち、第 1項は「金融機 関の活動および規制に関する 1984年 1月24日の法律第46号」に 60-1条を挿入する形をとり、
「 金 融 機 関 が 個 人 経 営 者 に 対 し て そ の 事 業 活 動 の た め に 合 意 す る あ ら ゆ る 金 銭 的 支 援 を 行う 場合、経営に不可欠ではない財産 に対する物的担保の設定または自然人による人的担保の設定 を求める金融機関は、経営に不可欠な財産も担保として提供することが出来ることおよびその 金額を、書面により経営者に対して通知しなければならない(1項 1号)。個人経営者が 15日 以内に返答しない、または、個人経営者から提示された担保を金融機関が拒絶した場合、金融 機関は、その個人経営者の経営に不可欠ではない財産に対して金融機関が設定することを望む 担保の金額を当該経営者 またはその他すべて の担 保負担者に対して通知し なければならない。
経営者が拒絶するときは、金融機関は責任を問われることなく、融資を拒絶することができる
(1項2号)。金融機関が 1号および2号所定の方式を遵守しないとき、金融機関と個人経営者 との関係において、金融機関はその担保の設定を主張することはできない。不動産または動産
担保(sûreté)により設定された担保(garantie)が登記されているときは、金融機関は、その
登記の抹消の日より、当該担保を主張することができない(1項 3号)」と規定している。また、
第 3項は「民事執行手続の改革を目的とする 1991年 7月9 日の法律第650号」に第22 - 1 条 を挿入するという形をとり「個人経営者の事業活動に由来する契約上の債権の名義人が、その 経営者の財産に対して執 行名義による 強制執行を 行おうとする場合、当該 経営者は、本法 14 条 4項の規定にかかわらず、かつ、事業 活動に不可欠な財産が債権の弁済を担保するのに 充分 な価値を有するものである であることを証明した場合には 、先だってその財産に対して執行を 行なうように求めることが できる(3項 1号)。債権者は、この提案が自身の債権の回収を危険 にさらすものであること を証明した場合には、 その要求を拒絶することが できる(3 項 2 号)。
害する意思がない限り、債務者の要求を拒絶した 債権者の責任は 問われない(3項 3号)」と規 定している。なお、4項は、本稿 3 号が、マデラン法が有効となる前に開始された強制執行手 続には適用されないことを定めている。1項および3 項については、①そもそも、「経営に不可 欠な財産」をどのように定義すべきか、②金融機関が融資をするかしないかは金融機関の自由 であるというのが銀行法の原則であるところ、あえて 1 項2号や 3項3 号のような規定を設け ることは、金融機関による 融資の拒絶をより正当化することとならないか、 ③1項 3 号は、金 融機関による 1項の不遵守は、登記の抹消後にその担保権の主張が出来なくなると定めている が、これは、担保法上当然の原則であり、要するに、金融機関に対する罰則がないのに等しい、
などの批判がなされていた(Doc. Ass. Nat., supra note 118, pp. 100 - 101)。
121 Doc. Ass. Nat., supra note 118, p. 99.
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然人によって合意された期間の定めのない保証契約 の場合は、債権者は、企業の経営難の 予防および同意整理に関する 1984年3月1日の法律第148号第48 条に規定された条項を 遵守しなければならない(第 2項)。本条第 1項の規定は、本法律が施行されたのちに締結 された契約に適用され、2項の規定は1994 年9月1日より同項に該当する債権者に対して 適用される」(括弧内、下線、筆者)と規定している。
先に見たように、消費者信用および不動産信用についての保証契約においては 、1989 年 12 月 31 日法によって、保証債務の総額や連帯の文言を保証人の手書きにより明示しなけ れば、その保証契約は無効となる。一方において、これらの領域に属さない保証契約につ いては、なお、このような厳格な規律には服さない。とりわけ、商人により締結される事 業上の保証契約については、商法典 110 - 3条122により、「全ての商行為はいかなる方法に よっても証明される」とされているため、なおさら、書面の作成などは 義務ではない123。 したがって、一定の範囲においては、なお包括的な保証契約は有効であるところ、本項は、
まず、その前段で、個人事業主の事業上生じた債務についての自然人による連帯保証契約 に関して、保証債務の総額等を明示することを要求し、金額の定めのない保証契約におけ る保証人の保護を強化している。続いて、後段では、個人事業主の事業上生じた債務につ いて期間を定めずに保証した自然人たる保証人に関しては、1984 年法第 48 条に定められ た文言を遵守すること、すなわち、主たる債務の状態に関する情報、および、任意解約権 の行使条件を通知するなどの義務を債権者(金融機関)に課している。これは 、要するに、
1984 年法第 48 条において、「企業に対する融資」について、「金融機関」に課せられてい た義務を、「個人事業主に対して融資を行うすべての債権者」へと拡張することを意味する
124。
(3)評価
本条によって、保証人の保護の枠組みに、「個人事業主の職業上の債務についての自然人 による保証契約」という、新たな範囲が追加されることとなった125。これによって、少な
122 商法典110 - 3条「商人に関しては、全ての商行為は、法律に別な定めがない限り、いかな
る方法によっても証明される」。
123 Doc. Ass. Nat., supra note 118, p. 101 ; クロック・前掲注(1)202頁およびその脚注(29)(2005 年); Simler, supra note 32, nos 381-383, pp. 389-392. 389-392.なお、判例上、特定保証と包括的保 証がそれぞれ有効とされる要件(前者の方が厳格である)について、クロック・前掲書 206-209 頁 ; Doc.Ass.Nat., supra note 118, p.101、後掲注(138)および第2章第 3節第 2款参照。
124 Simler, supra note 32, no 438, pp. 458-459. なお、本項は事業主の個人資産を保護することを 目的とした本条 1 項および 3 項(前掲注〔120〕参照)を保証の側面から支えるという目的を 有しているようである(Doc. Ass. Nat., supra note 118, pp. 99-102参照)。つまり、個人事業主と 資産を共有する家族による連帯保証や根保証を制限することで、その資産を間接的に保護する ということであろう(Pascal Rubellin, L’étrange protection des biens no n nécessaires à l’exploitation d’un entrepreneur individuel-Remarques sur l’article 47 de la loi «Madelin» du 11 février 1994, JCP G, 1995.I.3856, no 6, p. 290参照)。
125 Simler, supra note 32, no 417, p. 436.