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わが国への示唆

ドキュメント内 フランス保証制度の研究 (ページ 181-199)

第 2 章 担保保存義務と債権者の融資取引上の民事責任との交差

2 わが国への示唆

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由は、そもそも、仏民 2314 条が、その要件の厳格さゆえに、利用しにくい条文であるとい うことが背景にある。したがって、両者が接近すればするほど、同条の価値が薄れていく のはある種の必然ともいえる。しかし、同条が強行法規化された 現在においては、もとも とフォートの認定の幅が広いということもあいまって、とりわけ、単なる担保の差替えな どといった軽いフォートによる権利の喪失の場合や、いわゆる玄人の保証人などの場合に は、債権者や保証人の態様が評価されない分、一般法理に基づく民事責任 の追及よりも、

なお免責が受けやすいときがありうる。したがって、両者の接近は、仏民 2314 条の意義を 消失させつつも、なお互いに他を補完しあって、担保保存義務というひとつの保証人保護 法理を形成しているものと評価できる。

178 結 論

1 本稿のまとめ

以上、本稿での分析から得られた結論は以下の通りである。

1)フランスでは、1978年法以降、約10 を超える特別法の制定によって、多数の保証人 の保護にかかる規律が設けられた。その内容は、「手書き記載の要件」、「債務者の弁済等の 情報提供義務」、「比例原則」などである。もっとも、これらを生み出した各特別法の目的 は、起業の支援、(中小)企業の再生の支援、消費者保護、賃貸物件を含む不動産の供給の 促進など様々であり、保証人の保護にかかる規律もこの各法律の目的を達成するための道 具の 1つとして設けられたものである。したがって、各規律ともに、一般的に保証人を保 護するというような内容は有しておらず、債権者や保証人の属性、主たる債務の目的(性 質)等に応じて、適当とされるサンクションを伴った規 律となっているのである。それゆ え、各規律はそれぞれ適用範囲の「棲み分け」がなされ、判例による要件の修正とも相ま って、保証の利便性と保証人の保護とが調和された法理を形成していたのである。しかし、

2003 年法は、上記のように生成された各規律の適用範囲を「自然人たる保証 人」と「事業 者たる債権者」に一律に拡大するものであったため、規律間の「棲み分け」がなくなり、

かつ、従前の規律と適用範囲が重なり、また、内容において矛盾するなど 、保証制度に過 度な保証人の保護と調和の崩壊をもたらすこととなった。とはいえ、単純に「保証人 の保 護」という視点から見るならば、これはある種好ましい状態と評価することができるかも しれない。しかし、かかる視点に立脚したとしても、必ずしも保証人の保護に資するとは 評価し得ないものと解される。例えばそれは、条文の解釈や判例の影響を考えれば明らか である。すなわち、次の通りである。2003 年法以降の保証人の保護にかかる規律は「自然 人たる保証人」と「事業者たる債権者」を一律にその範疇にとらえている。それゆえ、仮 に条文の解釈を保証人の保護に寄ったものとした場合、規律が一律に保証人をとらえてい るが故に、本来であれば、保護の要請が低い保証人まで保護することとなり、保証制度の 利便性を奪う結果となる反面、その保護の要請が低い保証人の存在を考慮して解釈を行え ば、今度は、保護すべき保証人を軽視する結果となってしまう。これは、条文に係る判例 の影響についても同様であって、このような一律の規制はかかる 不都合を招くものとなる 恐れがある。したがって、主たる債務の性質や保証人および債権者の属性を考慮した規律 を設けるということには、その後の柔軟な解釈の修正を許すという可能性も含めて、保証 契約の利便性と保証人の保護を調和させる機能が内在しているというように評価すること ができ、この様な理解については、2003年法以前のフランス法の世界を観察すれば一定の 説得力を持っていることは明らかであろう。

2)以上のような特別法の規律の背後には、一般法がその穴を覆うように広く展開して

いる。フランス法では、債権者、とりわけ、金融機関は、倒産状態にある借主に追加的な 融資をしてはならない義務や、合意した融資を破棄ないし停止してはならない義務を負っ

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ており、かかる義務に違反した場合には、借主は債務不履行または不法行為に基づいて債 権者の民事責任を損害賠償の請求といった形で追及することができる。このとき、保証契 約が付されているのであれば、保証人は保証契約の附従性に基づいて、金融機関の借主(主 たる債務者)に対するフォートを援用することで、同じく、損害賠償の請求をすることが 認められ、この賠償金と保証債務とが相殺されることにより、事実上の免責を受けること ができる。ところで、このような金融機関の民事責任については、近時、「警告義務」を中 心とした大きな規律の柱が形成されている。警告義務の規律とは次のようなもの である。

まず、借主または保証人を、職業、年齢といった取引に係る 能力に応じて「素人」と「玄 人」に分類する。玄人と評価された場合には、詐欺などの他の一般法理に照らして違法と の評価がなされない限り、原則として、金融機関の民事責任を追及することはできず、た だ、借主または保証人の弁済能力等の情報について本人も知らなかったであろう情報を金 融機関が保有していたことを、借主または保証人が証明した場合には例外的に民事責任を 追及することが認められる。かかる証明はほぼ不可能に近く、要するに、この枠組みは「玄 人」による金融機関の民事責任の追及を封殺するための準則として機能するのである。 一 方、「素人」と評価された場合には、金融機関の警告義務の履行が問題となる。ここでいう 警告義務とは、概して言うと、借主または保証人の支払能力を調査し、その支払 能力に応 じて、取引のリスクを通知する義務と解されている。支払能力に関する調査の結果、融資 をしてはいけない義務まであるのかについては争いがあるところ、学説の多くは、不介入 義務との関係で融資を拒否する義務まではなく、また、それゆえに警告義務のメリットが ある旨を指摘する。つまり、警告義務には、資力の 調査とリスクの警告に係る義務を債権 者(金融機関)に負わせることにより、素人たる借主または保証人を保護する一方で、債 権者(金融機関)は警告さえすれば、資力に見合わない融資を行ったとしても、その民事 責任から解放されるという機能があり、この点で、債権者の利益にも資することになる。

また、借主や保証人にしてみても、常に資力と釣り合った融資しか受けられないというの であれば、経済活動が甚だしく阻害されることとなり、「義務の履行があれば免責される」

という債権者の利点は、ひいては保護対象たる借主または保証人の利益にも資することに なる。換言すれば、このような意味での警告義務とは、債権者と借主または保 証人の利益 の調和をもたらす可能性を秘めている法理であると評価できるのである。

3)この点で興味深いのは、比例原則との関係である。比例原則とは、概していえば、

保証人の資力と保証債務の額と間の均衡を求める規律である。この規律は、本来、消費法 典上に定められた条文を根拠とするものであり、適用範囲も限られたものであったところ、

いわゆるマクロン判決により一般法上の民事責任の領域にその規律が取り込まれ、また、

ナウーム判決によって、これが、先に示した金融機関の民事責任に係る規律の枠組みへと 再定位されことになった。この延長線上の結果として、比例原則の機能は、これと同様に 資力の有無を問題とする警告義務に解消されつつあることは第 1編および第3編第1章で 明らかにした通りである。確かに、消費法典上の規律(L.341-4条等)は、一般法上の規律

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とは離れて、なお、広い適用範囲を有しつつ保証制度の領域を支配してはいるものの、重 要なことは、比例原則の機能自体が、警告義務で代替することができるという事実である。

比例原則は、表面的にはまさに保証契約の内容規制に係る規律であり、保証人を強固に保 護するための有力な道具となる。第 1編で観たとおり、比例原則を除く特別法上の規律の 大部分が情報提供に関するものであるという点を考慮すると、この比例原則すらも情報提 供義務の発展形たる警告義務の規律に解消されてしまうのであれば、フランス法における 借主ないし保証人の保護に係る規律が、その全体として警告義務に収斂しつつあるという、

1つの方向性を示すことになるのではないだろうか。このことは、2010 年7月1日の法律 により、破棄院が作り上げた警告義務に係る枠組みが立法化されたという事実を見ても、

一定の説得力を持っているものと解される。

5)ところで、保証人の保護に係る以上のような規 律は、極めて特殊フランス的な性格

を有するものであり、わが国の法学への示唆という点では、その直接的な連結点を求める ことは難しく、専ら立法論ないし制度論としての示唆という色彩が強くならざるを得ない ように見える。しかし、第 3編第 2章で考察したように、いわゆる「担保保存義務」は上 記のような金融機関の民事責任に係る規律を我が国へ結びつける可能性と危険性を孕んで いるものと解される。すなわち、以下の通りである。

先に指摘した通り、フランス法において債権者(金融機関)の民事責任が発展した背景 には、我が国の民法 504条に相当し、いわゆる担保保存義務を規律するものであるフラン ス民法典 2314条の要件が厳格で使い辛いという事情が指摘されている。この指摘について 例を挙げつつ少々詳しく見るとすれば次のようになろう。例えば、債権者が担保を実行し ない間に主たる債務者の資力が低下したというような場合、または、債権者が主たる債務 者に対して、その弁済能力に比して過剰な融資を行った結果として主たる債務者が倒産し た場合や、そもそも倒産状態にあり、再建の見込みがないにもかかわらず追加的な融資を 行った場合、あるいは、融資の合意があったにもかかわらずこれ を破棄したために主たる 債務者が倒産したというような場合に、債権者の行為によって主たる債務者は破綻し、結 果として、保証人は保証債務の履行後に主たる債務者に対する求償の機会を喪失すること になる。ところで、担保保存義務の目的とは、保証人等の法定代位権者による、債権者の 主たる債務者に対する優先弁済権への代位を保全することを通じた、求償の機会の確保で ある。したがって、その基礎を見れば、債権者が優先弁済権 を喪失するということと、主 たる債務者を倒産に追い込むということは、保証人の求償権を侵害するという点において 共通しているのである。しかし、前者により失われるのが優先弁済権であるのに対して、

後者により失われるのは一般担保権であるという違いがあり、一般担保権は特定の債権者 のための担保とはならない以上、担保保存義務に係る規定はその権利を保護 してはいない のである。先に述べた、担保保存義務の要件の厳格さの 1つとはこの点にあり、それゆえ、

倒産を引き起こしたという一般担保権喪失の場合への救済手段として一般法理に基づく損 害賠償請求が発展したのである。

ドキュメント内 フランス保証制度の研究 (ページ 181-199)