4.3.1 概要
ベイズ法(以下, BAM: Bayesian analysis method と呼ぶ)は, ベイズの定理(Bayes’
theorem)[44]を用いて,不確実な条件下で物事が起こる可能性や起こらない可能性を条件
付き分布として表している. ベイズの定理は, 事前分布と観測によるデータをモデルを用 いて組み合わせ, 事後分布を更新するため, 分布は新しいデータによって変化する. そこ で本論文は,時間の推移とともに変化する市場価格のようなデータは条件付き分布で表せ ると仮定し, ABSの時系列データの分布をBAM により導出し, その分布を用いた分類法
4.3.2 BAM による分布の導出
BAMは,事前分布,新しいデータ,分析モデル,事後分布の4つで構成される[45]. BAM は次の手順で行う.
1.分析モデルは正規分布を選択する.
2.分析モデルに基づきてシミュレーションの事前分布を設定する.
3.観測される時系列データを収集し, 新しいデータとする.
4.ベイズ理論に基づいて市場価格の変動の事後分布を推論する.
5.その後, 分布を用いた分類法(4.3.3節)に基づいて分類する.
これらは, ベイズ型モデルとも呼ばれ, データとして得られた観測値と事前分布を用い て事後分布を推論するため,事前分布の設定が重要であると指摘されている[37]. ABS の 結果は, そもそも不確かであり, 事前に十分な分布が知られていないため, 事前分布の設 定が困難である. そこで, 事前分布は, 事後分布に影響を与えない正規分布を用いること により, ABS の結果から事後分布を求める. 本文では, BAM によって得られた事後分布 を ABS の分布と呼ぶ.
そこで, ベイズの定理に基づき, 正規分布を用いた事後分布p(θ|y) を式(4.1)で表わす.
p(θ|y)∝exp
(
−1 2
[ 1
τ02(θ−µ0)2+ 1 σ2
∑k i=1
(yi−θ)2
])
(4.1) ABS の結果は, 時系列データの中からk個を抽出するためy = (y1, . . . , yk)と表し, µ0 とτ02は事前分布の平均と分散,θとσ2はABS の時系列データの平均と分散を表わす. 事 前分布は, ABS の結果から事後分布を推論するため, 幅の広い正規分布を利用する.
4.3.3 分布を用いた分類法
ABS の分布を用いた分類法は,次の表示技法を用いて分類する. BAM で推論した複数 の ABS の分布から相対的な比較を行うため,従来手法(4.2.2節の手順(3)に相当)を利用
する[40]. そこで, 分布を用いた分類法は, 次の手順をおこなう.
1.マハラビノス汎距離を用いて, ABS の分布の二項間の距離を求める.
2.二項間の距離から複数間の距離行列を作成する.
3.複数間の距離行列から多次元尺度構成法を用いて, ABS の分布を一つの座標軸上に 図示する.
マハラノビス汎距離D2M(m1, m2)は, 平均と分散の異る分布を考慮し, 次のように定義 される [46].
D2M(m1, m2) = (m1−m2)tΣ−w1(m1−m2) (4.2) m1とm2はそれぞれ ABS の分布の平均ベクトル, また(m1−m2)tは(m1−m2)の転 置ベクトルを示す. Σwは共分散行列を意味し,次のように定義される.
Σw = ∑
i=1,2
P(ωi)Σi
= ∑
i=1,2
(
P(ωi)1 ni
∑
x∈ωi
(x−mi)(x−mi)t
)
(4.3) ここで,P(ωi)は,分布ωiの事前分布を表し,xは分布ωiに属する特徴ベクトルを意味す る. 二つのABS の分布ω1,ω2の要素数k1, k2が等しい場合, 事前分布は,P(ω1) =P(ω2)
= 12 とする.
時系列データの分類は, 三つ以上の ABS の分布から関係性を分析するために, それぞ れの二項間での比較をおこなった後,式(4.4)の距離行列を作成する. ここで,dijは, ABS の分布iとjのマハラノビズ汎距離である. また, dij =dji,dii = 0である.
Md=
1 2 · · · n 1 0 d12 · · · d1n 2 d21 0 . .. d2n ... ... . .. ... ... n dn1 dn2 · · · 0
(4.4)
距離行列は, シミュレーション結果の分布の比較を可能にするが, より簡単に理解す るには幾何学的に図示する必要がある. そこで, 多次元尺度法(MDS: Multidimensional scaling)を使用する [47].
多次元尺度構成法は,対象間の類似性の程度を示す測度が与えられたとき, 対象を多次 元空間内の点として表し,点間の距離が観測された類似性と一致するように布置を定める 方法である [48]. 従って, 複数間の距離行列の距離から,新たに低次元(例えば,二次元)の 座標軸に写像することで, 複数の対象の関係性を分析することができる. 計量多次元尺度 法 (metric MDS)は, 様々な多次元尺度構成法の中で, Torgerson [49]によって完成した方 法であり, 古典的多次元尺度法とも呼ばれている [50]. 計量多次元尺度法 (metric MDS) の手順と考え方は以下のようになる.
1.距離行列の相対的な距離をもとに, 空間内の理論的な距離(内積)を推定する.
2.理論的な距離から,対象間の距離の縮約を維持しながら, 新しい座標を得る.
この手法の考え方は. n個の対象iとn個の対象jの座標をそれぞれ(xi1, xi2,· · ·, xin),(xj1, xj2,· · ·, xjn) とする. 空間の原点を対象gと仮定することで, 対象間の距離を次のように表す. 対象i
と対象jの内積bij は,距離の公理(dgi =dig, dgj =djg, dij =dji)に満たされる場合に次の ように記述される. このbij によって対象間の距離から対象間の内積を推定することがで きる.
bij = 1
2(d2gi+d2gj−d2ij) (4.5)
そして,対象間の距離に誤差が含まれていないという仮定のもとでは,この式(4.5)は原点 の様々な位置でも成り立つ. しかし,原点は,対象間の距離の誤差を仮定した場合,それぞれ の距離が異なることから,n個の対象の点に重心を移動する. そこで,bijは(n−1)×(n−1) の対象行列 Bと表し, 新しく求める(n−1)×rの短形行列Aとする. ここで,Bの固有値 を対角成分とする行列をΛ, Bの固有ベクトルを列に並べた行列をΓとすると, エッカー トヤング分解[51]により, 次の式が得られる。
B = ΓΛΓt= (ΓΛ12)(ΓΛ12)t =AAt (4.6) これにより,新しいr次元の座標行列Aは, 次のように定義する.
A= ΓΛ12 (4.7)