第 6 章 超音波探傷試験のエコー高さに及ぼす塗膜厚さの影響
6.4 探触子および塗膜の物性値
数値シミュレーションの精度向上のためには振動子の剛性やダンパーの減衰を適切に設 定する必要がある。探触子の物性値についての情報は入手するのが困難であるため,実際 の超音波探傷試験で得られた探触子の受信波形に一致するように探触子の特性を定めてい
る。Table 6.4に探触子および塗膜の物性値を示す。超音波パルスの入力波形はカタログを
参照して67) Fig.6.5(a) に示す波形を入力した。数値シミュレーションおよび計測で得られ
た無塗装面での底面反射波形をFig.6.5(b)に示す。Fig.6.5(b) はCase 2の垂直探傷で探触
子周波数 5MHz,振動子の寸法 6.4mm で超音波を試験体表面から入射し,裏面(試験体
底面)からの反射波の受信波形である。Fig.6.5(c)はCase 4の斜角探傷で屈折角45°の場 合の受信波形である。数値シミュレーションの波形と実験より得られた波形はよく一致し ており,探触子の特性が適切にモデル化できていることがわかる。
120 mm
20 mm
40 mm
45°
Specimen
Paint film Transmission probe Receiving probe
Piezo
Wedge
97 Table 6.4 Material property
(a)Signal waveform
(b)Normal probe (Case 2) (c) Angle probe (Case 4) Fig.6.5 Comparison of waveform between calculation and experiment (without paint film)
Density Young's modulus Poisson's ratio
ρ [×103kg/m3] E [MPa] ν CL[m/sec]CS [m/sec]
7.85 205,800 0.30 5,900 3,230
1.18 5,400 0.32 2,580
Piezo 6.92 127,000 0.21 4,550
Damper 5.00 19,000 0.30 2,260
Piezo 6.92 118,000 0.21 4,380
Damper 5.00 19,000 0.30 2,260
Piezo 6.92 108,000 0.21 4,190
Damper 5.00 19,000 0.30 2,260
Wedge 1.18 6,040 0.32 2,730
Angle Probe (2MHz)
Specimen Paint film Normal Probe
(2.25MHz) Normal Probe
(5MHz)
Sonic velocity
CL : Longitudinal wave velocity, CS : Shear wave veloctiy
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
6.5 7 7.5 8
Wave amplitude
Time(μs)
Exp.
Cal.
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
30.0 32.0 34.0 36.0
Wave amplitude
Time(μs)
Exp.
Cal.
‐0.06
‐0.04
‐0.02 0 0.02 0.04 0.06
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
A m plit ude
Time(μs)
98 6.4.2 塗膜の縦波音速と減衰係数
(1)塗膜の縦波音速
塗膜の物性値については不明な点が多いが,塗膜がある場合の超音波伝播挙動シミュレ ーションを実施するためには,塗膜の物性値を同定する必要がある。塗膜の音速は密度,
縦弾性係数,ポアソン比で決まる。そこで,塗膜の密度,ポアソン比はエポキシ樹脂の値 を採用し,縦弾性係数のみを変化させた計算を行い,塗膜上から実測した底面反射波と計 算により得られる底面反射波の伝播時間,波形の極値間隔を合わせることにより塗膜の縦 弾性係数すなわち音速の同定を行った。
(2)塗膜の減衰係数
塗膜の減衰係数を
c
p 2 m
p
(m
p:塗膜質量,
:探触子固有円振動数,
:減衰比)と定義し,計測波形の極値の振幅減少量に合うように
を変化させた計算を行い減衰係数 を同定した。(3) 音速と減衰係数の同定結果
計算を行ったのは Case2(垂直探触子,振動子寸法 6.4mm,周波数 5MHz)と Case3
(垂直探触子,振動子寸法12.7mm,周波数 2.25MHz)の場合である。Fig.6.6 に計測波 形とシミュレーション波形がよく一致した時の音速と塗膜厚さの関係を示している。また,
超音波パルス法により計測して求めた音速も同時に示している。
超音波パルス法による塗膜中の縦波音速の計測方法について説明する。探触子周波数
5MHz,直径 9.5mmの垂直探触子を用いて,Fig.6.7 に示すように同一試験体で,塗膜の
ない箇所と塗膜のある箇所で,底面反射波の伝播時間の測定を行った。塗膜の縦波音速
C
PLは(6.1)式で求められる。
C
PL 2 h
P t
2 t
1
(6.1)ここで,
t
1は塗膜のない位置での超音波の伝播時間,t
2は塗膜のある位置での超音波の 伝播時間を表し,h
Pは塗膜の厚さを表す。なお、塗膜厚さは電磁誘導式膜厚計で計測している。Fig.6.6を見ると,塗膜中の縦波音速は計算および計測の両者とも塗膜が厚くなると
低下する傾向にある。これは,塗膜と試験体の剛性が大きく異なり,鋼の部分の剛性が大 きいため塗膜と鋼の境界面近傍では塗膜の変形が拘束されることになる。したがって,塗 膜が薄い場合,鋼の剛性の影響により塗膜の拘束度が大きく,見かけ上塗膜の剛性が大き くなり音速が速く,塗膜が厚いと拘束度が低下することにより音速が低下するものと考え られる。また,計測した音速は、シミュレーションにより求めた音速より 100~200m/s 程度速い結果が得られた。これは塗膜上から底面反射波形を計測した時期から数カ月後に 音速計測を実施したため,塗膜が乾燥した影響によるものと考えている。以降のシミュレ
99
ーション計算では,塗膜中の縦波音速は,計測した底面反射波形をシミュレーションして 得られた音速の平均値2580m/secを用いて計算を実施した。
Fig.6.6 Relationship between the paint film thickness and wave velocity
Fig.6.7 Measurement method of wave velocity
Fig.6.8に示すように減衰係数の大きさにより,波形の極値の振幅減少量は変化する。一
方,減衰係数の大きさが最大エコー高さに及ぼす影響は,Fig.6.8(a)に示すように塗膜が薄 い場合には影響が小さく,また,Fig.6.8(b)に示すように塗膜が厚い場合には影響が大きい ことが計算によりわかった。
0.2
とすることにより全塗膜厚さの場合で最大エコー高 さ,振幅減少量が計算と計測でほぼ一致する結果が得られた。以降のシミュレーション計 算では, 0.2
を用いて計算を実施した。C
PL=2580m/sec, 0.2
とした時の Case2 と Case3 の伝播波形の計算結果を計測波 形と比較してFig.6.9とFig.6.10に示す。シミュレーションにより得られた波形は計測さ れた波形とほぼ一致した結果が得られている。2200 2400 2600 2800 3000 3200
0 200 400 600 800 1000 1200
Wave velocity (m/sec)
paint film thickness(μm) Case 2 Case 3 Exp.
Specimen
Paint film
Probe
100
(a)
h
p=200μm (b)h
p=1000μmFig.6.8 Waveform changes due to differences of damping coefficient (Normal probe Case 2)
(a)
h
p=250μm (b)h
p=500μm(c)
h
p=700μm (d)h
p=1000μm Fig.6.9 Comparison of waveform between calculation and experiment (Normal probe Case 2)‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0
Wave amplitude
Time(μs)
Exp.
Cal.
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0
Wave amplitude
Time(μs)
Exp.
Cal.
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0
Wave amplitude
Time(μs)
Exp.
Cal.
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0
Wave amplitude
Time(μs)
Exp.
Cal.
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5
Wave amplitude
Time(μs)
ζ=0.1 ζ=0.2 ζ=0.3
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0
Wave amplitude
Time(μs)
ζ=0.1 ζ=0.2 ζ=0.3
101
(a)
h
p=250μm (b)h
p=500μm(c)
h
p=700μm (d)h
p=1000μmFig.6.10 Comparison of waveform between calculation and experiment (Normal probe Case 3)
6.5 エコー高さの計算および計測結果