6.5 対面議論への導入
6.5.3 排他制御とアウェアネスに関する結果
排他制御に関しては,ツール上での他者の挙動を認知するアウェアネスの機能により,
カーソルの位置から他のユーザが注目して編集しようとしている箇所を判断でき,衝突 せず円滑な記入ができた.また,画面上で他者のカーソルが置かれている行はロックされ ていると判断できることから,ユーザは記入の意図を阻害されることは少なかった.併せ て,他のユーザによる直近の編集箇所を表示したことにより,他者によって編集された内 容について認識することができたというコメントが得られた.
一方,アウェアネスについては設計時の予想を超えて必要性が認められた.対面環境に あるので他の参加者が発言中か,思考中か,それとも記録の入力中であるかはある程度認 知できる.しかしながら,他のユーザに記録入力の意思があるか等の点までは判断できな かった.このため,相手が議事録の入力を行おうとしていると判断して,発言を一時停止 する場面が度々見られた.
議論の場面にノート型コンピュータを持ち込むとディスプレイ越しの会話となり,相手 から手元が見えず怠業が容易であるという点も問題となる.また,視線が目前のディスプ レイに向かうため,参加者が操作に熱中して会議にならない可能性も指摘されている[34]. これらも含め,より細かい動作に関するアウェアネスの取得と提示方法は今後の検討課題
である.ShrEditの他者の編集を追跡する機能のように,ユーザに対して追加操作を要す
る場合は使用されない可能性がある.この点を考慮した上で設計を行う必要がある.
6.6 まとめ
本章では,対面同期環境においてメンバーの参加を促進するため,記録作成モデルの提 案を行った.複数のユーザが同時に文書を編集できるソフトウェアを議論に導入し,参加 者が内容に関する記録作成に参加できる環境の構築を行った.評価実験から,議論への参 加を促すために提案した機能に関する検証を行った.
議論への参加支援手法として協同記録作成ツールを用いる際には,ツール上での他者の 挙動を認知する個々のアウェアネスに関連する機能が参加支援と直接結びつくため,各機 能の持つアウェアネスの提示に関して深く吟味する必要がある.また,議論と記録の作成 を並行する際に生じる認知的な負荷が明らかになった.
今後は,本ツールで議論を重ねた被験者による評価実験を行い,定量的なデータを取っ て検証を行う.また,アウェアネス機能に関する検証,記録の取り方に関する検討,認知 的負荷に関する問題の検討を行う予定である.
Conclusion
本研究は参加者が物理的作業空間を共有してコミュニケーションを行う実空間での協調 作業を取り扱い,オフィスや研究室におけるグループなどの実践的コラボレーションに従 事するグループを支援対象とした.
会議室など人が集まる場にはコンピュータやコンピュータ以外の様々なモノが存在して おり,複数の端末や情報処理能力を持つモノでネットワークを構成し,情報の交換や共有 を行うような協同作業支援システムの重要性が高まってきている.コンピュータを用いて 人間同士の協調作業を支援する研究領域においても,これまでの知見をもとにユビキタス コンピューティングにおけるコラボレーション支援の手法を検討する必要が生じている.
端末の小型化とネットワーク化によって,利用者がいつでも端末を持ち歩き,ネットワー クにつないで利用できるようになっただけでなく,それが人間の社会活動のあらゆる場面 に浸透してきているからである.
従来のユビキタスコンピューティングに関する議論は遍在するデバイスをどう協調させ るか,またはユーザがデバイス群をどう効率的に用いるかといった観点からのものが多 い.遍在するデバイスがどのようにインタラクションの支援に役立つか検討し,ユーザ同 士のインタラクション支援の観点から,ユビキタスコンピューティングを基盤としたコラ ボレーション環境を実現する必要があると考えた.
実空間におけるコラボレーションの支援を実現するための課題は多岐にわたる.その解 決に向けて,本研究は実空間コラボレーションの場面を複合的かつ連続するものとして 想定し,従来の対面会議などの活発なコラボレーションだけでなく,対面会議の場に至る までの空間や場の状況を含めた支援を行う.併せて,会議の中身を高度化するために積極 的な参加を促す手法を包含し,状況察知に基づいたコラボレーション環境のデザインを 行った.
以下,本論文の各章を振り返りながら結論をまとめていく.
第1章では,本研究の目的と概要について述べた.次の第2章では,本研究の背景とな る対面コラボレーション支援に関する研究の展開と,アウェアネス情報の収集に深く関係 するユビキタスコンピューティングの研究について概観し,関連研究を整理した.
第3章において,状況の適切な察知に基づいた実空間におけるコラボレーションの提案 に関して,その概念と必要性を中心に述べるとともに,関連研究を踏まえた上で本研究の 位置づけを明確にした.
その上で,第4章では協調作業空間に対してユーザがアプローチするフェーズにおい て,「出入り口」の場におけるグループの支援環境について議論した.協調作業空間にアプ ローチする「出入り口」を場と捉え,その場におけるグループの支援環境を構築した.出 入り口空間の特性を踏まえ,会議室やオフィスといった作業空間内とその出入り口空間に おけるアウェアネス情報を収集・蓄積することにより,グループにおけるインタラクショ ンを支援した.併せて,出入り口に接近したユーザに対して,空間内部の雰囲気情報とそ
の推移を出入り口空間において直感的に提示する手法を検討した.場の雰囲気はどのよう な要素から推測されるかを考え,人の活動度とその推移といった空間内部の状況の推移を 表示インタフェース上に提示した.これらのシステムを用いた評価実験から,ユーザが作 業空間に入る前に内部の雰囲気を察知できるようになることで,グループの作業効率化や コミュニケーションの活発化を促進する可能性を見出した.
次に,第5章で協調作業空間に入ったユーザが対面でのコラボレーションに参加する フェーズにおいて,コラボレーションの場の距離情報を利用した協調作業を支援する手 法について議論した.対面協調作業の場に存在する人やモノの間の物理的距離を認識し,
それらの距離情報と距離の変化に基づいて,コラボレーションの支援を行う手法を提案し た.状況に応じて複数の距離帯を使い分ける対面協調作業の場面において,距離に基づ いてグループを構築した上でコンテクストを反映した協調作業に利用することを可能と した.距離情報を用いた協調作業支援環境を用いる評価実験を行った結果,実空間の距離 情報をもとにその場で必要となる機能やデータを提供することにより,対面協調作業がス ムーズに行えることが明らかになった.
さらに,第6章では協調作業の中身に関するフェーズにおいて,協同で議事録を作成す ることによる対面議論への参加支援の手法について議論した.議論の内容に関する記録編 集を行うことを通じて,参加者が傍観することなく主体的に参加できることを狙いとし た.パーソナルコンピュータを持ち寄った対面での議論の環境を対象とし,提案手法を実 現するために必要な協同記録作成ツールを議論に導入した.その結果,議論と記録の作成 を並行するための認知的な負荷が増すという点が明らかになり,記録作成ツールを設計す る際に,対面同期環境における参加支援の観点から必要なアウェアネス機能を整理し検討 を加えた.
最後に本章において,実空間における状況察知に基づいたコラボレーション支援につい てそれぞれのフェーズにおける各章の支援を総括し,結論とした.
以下に本領域における今後の新たな展望について述べる.
出入り口空間,会議の場の空間ならびに会議の中身についての各フェーズにおいて,ア ウェアネス情報の収集・提示によるコラボレーション支援を行った.それぞれのフェーズ において必要となるアウェアネス情報を収集・提示するだけでなく,配置・装着に困難を 伴う重厚なハードウェアや現実的なサービスとして展開する余地のない高価なデバイス を用いず,サービスに見合うだけのコストにより実現した.今後,非接触型IDカードや 携帯電話といったデバイスを用いれば即座に大規模な運用を行うことが十分可能であり,
実際に社会生活の中で用いられるであろう.
しかしながら,現在は高価かつ重厚なハードウェアであるため多数配置することが現実 的ではない磁気による高精度の三次元センサーなどが,リーダ・タグともに小型かつ安価 なデバイスとして用いることが可能になれば,より正確な位置関係を確実に判断すること