現在の議論の状況を理解したり,不明な点の補足情報を得たりすることが可能となる.加 えて,議論の内容を記録として文章化する段階で記録作成者の理解が正しいかどうかが示 されるため,理解の程度や誤りの有無について周囲の参加者が把握でき,記録作成者が間 違って理解していた場合は,必要に応じて訂正したり改めて検討しなおしたりすることが できる.これにより,記録の作成者を支援することができる.
記録作成による参加方式により,話されている内容に対する理解度に偏りが生じにくく なるだけではなく,各参加者が議論に参加する敷居を下げることができる.また,集団の 構造的に下位の立場にある参加者が,記録の作成を通じて上位の立場にある人たちの議論 に自分の理解の範囲で参加できたりと,各参加者の役割を固定するのではなく,動的かつ 柔軟に役割を交代できることによって参加の機会を広げることができると考える.
この場合の記録は話者の発言を阻害せず[38],その場の議論に即時的に活用され,議論 を補助する二次的なメディアとしての役割を果たすことができる.
図 6.3: ユーザの操作の通知
の操作に時間を要したり,編集を拒まれたりするようなデザインは好ましくない.他者に 対して編集の意思を通知して操作権を取得する方式は,議論を遮るため突然話を切り出す ような場面と似ており,編集への参加上の障壁となる[94].
このため,排他制御を行う単位をできるだけ小さくしたり,操作権を得るための特別な 手続きを用いず並行して編集できるなど,参加者が手元から自由に記録編集に参加できる ようなデザインを検討する必要がある.同様のツールであるShrEditにおいても,複数の ユーザが共有するウィンドウに対してそれぞれ編集したい範囲を選択して編集する等の方 式で排他制御を行っている.
本ツールではできるだけ編集への参加を妨げないために,ユーザのカーソルから自動的 に判定する行単位での排他制御を行った.ユーザがカーソルを移動すると,カーソルを置 いた行が自動的にロックされる.他の利用者は同じ行にカーソルを置くことはできるが,
先にカーソルを置いたユーザのロックが有効であり,その行の内容を書き換えることはで
きない.ShrEditは排他制御において他のユーザのカーソルを表示していないため,衝突
した場合は警告音とポップアップメッセージで通知している.一方,本システムでは全て のクライアントのカーソルの位置をサーバ経由で全員に通知する.このため,ユーザの追 加操作なしで編集の意思を他者に伝え,未然に衝突を避けることができる.
また,カーソルが一定時間移動しなかった場合は,発話中または熟考中と判断して当該 ユーザのロックを無効とし,何らかの理由で端末操作が放棄された場合でも編集不能とな らないよう配慮した.また,一時的に席を立つ場合などを想定し,ユーザの操作により自 分のウィンドウを記録の閲覧のみに切り替え,ロックを放棄するモードを用意した.
6.4.2 他者に関するアウェアネスの機能
参加への障壁として大きな問題となるのが,議論に参加している相手がコンピュータ上 で何をしているか知ることが難しいという,アウェアネス情報の欠如である.遠隔同期環 境または非同期環境における協調作業のみならず,対面であっても他の参加者の振る舞い を認知するのは難しい.多くのホワイトボード系のツールでは,各ユーザの端末に表示さ れる領域を同じとすることでこの問題を解決しているが,EGIToolの場合,各ユーザが文 書の同じ部分を閲覧しているとは限らないため,この問題は大きくなる.
記録作成ツールの積極的利用を促すためには,他者の状況を認知するアウェアネスに関 する問題の解決が重要である.相手が「参加」しているか[34],どのような編集行動を行 おうとしているかを認識するため,記録作成ツール上での他者の挙動を認知するための機 能を用意した.この機能は,大きく分けてユーザ情報表示機能と文書編集状況アウェアネ ス機能の二つからなる.
ユーザ情報表示機能では,参加しているユーザの名前と属性の一覧と,現在の議論に ついての記録作成を担当している「プライマリ記録者」の情報を示した.EGIToolでは,
特定の記録者が最初から最後まで継続して記録を担当するのではなく,話者の交代と連動 して記録者も交代する.また,自分が発言したい場合には適切な後継のプライマリ記録者 を指名し,以後の記録は指名された者が担当する.ShrEditなどのツールは会議における 参加者の役割を特定せず,誰が編集するかは口頭での調整に委ねている.本ツールでは,
少なくとも一名が議論の内容を記録し,かつ議論を妨げずスムーズに交代するために,各 ユーザの画面上に表示することとした.役割によって作業できる権限が異なるQuiltなど とは異なり,プライマリ記録者は編集上の排他制御などには影響しない.
文書編集状況アウェアネス機能では,他者のカーソルや,他者による直近の修正部分を ユーザ毎に特定の色で示した.さらに,削除された記述や,記録の記入者を確認するため に,各ユーザの編集履歴を遡って参照する機能を付加した.ShrEditでは他者のカーソル が表示されなかったため,他者のカーソル及び編集領域の追跡機能が備えられていた.し かし,この機能はShrEditの評価実験ではほとんど使われず,被験者は口頭で相手のカー ソルの位置を確認して自分のカーソルを移動させていた.インターフェイスが洗練されて いなかったためとDourishらは指摘しているが,他者のアウェアネス情報を取得するため に追加の操作が必要であった点も原因と考えられる.
ロックの情報やカーソル位置の表示は重要であり,状況を継続的に提示しつつ変化を色 やフォントなどを変えて通知する等の方法が必要である.また,他者のステータスを認識 することによって,複数の記入者が競合したり,議論が進行しているにも関わらず記入者 がいない等の状況を防ぐことができる.
図 6.4: 記録作成ツールの画面
6.4.3 実装
設計に基づいてテキスト型の議事録作成を協同で行うシステムを検討し,EGIToolの 実装を行った[13].
プログラムはMicrosoft Windows95以降 + Winsock1.1で動作するサーバ・クライアン ト機能を持つ協調エディタであり,開発にはMicrosoft Visual C++ 6.0を用いた.スク リーンショットを図6.4に示す.ツールバーやステータスバーなどの画面構成はWindows の標準的なタイプであり,中央に議事録を作成するためのテキスト編集用のウィンドウが ある.各クライアントが接続を確立した後,ここで一つの記録に対して各ユーザが同時 に編集を行う.右側には現在会議に参加しているユーザの一覧が表示されており,画面下 部には現在のカーソル行番号や文書の総行数,ユーザのステータス変更等のシステムメッ セージが表示される.