7.1 概要
全船モデルを使用した振動応答解析では計算機の制約から局部構造に対して十分細かい メッシュサイズとすることが困難な場合がある。一方、上部構造内のデッキ大パネルの振 動応答を評価するニーズがある。そこで、全船モデルによる振動応答解析結果を使用して 局部構造のファインメッシュモデルの振動応答を解析する手法の研究を行った[52]。本手法 を本論文では振動応答ズーミング解析手法と呼ぶ。
本章では、振動応答ズーミング解析手法の理論を示し、VLCC のタンクを対象とした解 析により本手法の妥当性を検証した。また、本手法を上部構造の振動応答評価に適用する 要領を示した。
7.2 振動応答ズーミング解析手法の理論
全船モデル等のグローバルモデルにより解析された振動応答解析結果を強制振動変位と して詳細にモデル化したズーミングモデルに負荷し、ズーミングモデルの振動応答を解析 する手法を開発した。本手法の定式化を以下にまとめる。
ズーミングモデルの構造-流体連成振動応答解析のマトリクス連立方程式は以下で表され る。
K
C
M MW
F (7.1) ここに、[K]、[C]、[M]、[MW]、{δ}、{F}はそれぞれ剛性マトリクス、減衰マトリクス、構造質量マトリクス、流体質量マトリクス、節点変位ベクトル、節点外力ベクトルを示す。
0 eit、
F F0 eitとおき、両辺をeit で割ると、(7.1)式は以下で表される。
K
0 i
C
0 2
MMW
0 F0 (7.2) ここで、{δ0}を強制振動が作用しない節点の変位{δ0F}と強制変位が作用する節点の変位 {δ0S}に分割し以下のとおり表す。
S F 0 0
0
(7.3)
また、外力{F}は強制変位が作用する節点への反力{F0S}のみと仮定し以下のとおり表す。
- 129 -
FS
F
0 0
0 (7.4)
(7.3)式、(7.4)式を用いると(7.2)式は以下のとおり表される。
S S
F W SS
W SF
W FS W FF
S F SS SF
FS FF S
F SS SF
FS FF
M F M M
M
M M M
M C
C C i C
K K
K K
0 0
2 0 0 0 0
0 0
(7.5)
(7.5)式の第1行を以下のとおり変形させる。
KFF iCFF 2 MMW FF
0F
KFS i
CFS 2
MMW
FS
0S (7.6) {δ0S}は既知であり(7.6)式の右辺は節点外力ベクトルに相当する。(7.6)式を解くことによ り、強制振動変位を負荷したズーミングモデルの振動応答を解析することができる。本研 究では、グローバルモデルから強制振動変位を取り出しズーミングモデルに負荷し直接周 波数振動応答解析を実施する一連のコードを開発した。7.3 本手法の検証
VLCC の機関室内の置タンク構造を対象として振動応答ズーミング解析を行い、実船で の起振機試験結果により検証を行った。供試船の主要目、起振機試験時のコンディション を表7.1に示す。
表7.1 供試船主要目/コンディション
グローバルモデルとしてタンク境界での強制変位を計算するための全船モデルを図 7.1 に示す。本全船モデルには機関室内に図7.2に示すズーミング解析の対象としたタンク構造 のコースメッシュモデルを搭載している。本タンクの内部流体の重量はタンク構造コース メッシュモデルに要素の比重調整を行い考慮した。応答解析の際の起振力として実船の起 振機試験と同様に船尾部の起振機設置箇所に上下方向の単位起振力を負荷した。また、減
L×B×D×ds 324.0m×60.0m×29.0m×20.5m
Main Engine 7RTA84TB
Shaft Revolution (rpm)
70.1(NOR),74.0(MCR) Propeller Blade 5
Draft
at Exciter Test
da : 14.00m df : 11.23m
- 130 -
衰は、船尾部、上部構造等の解析結果と計測結果の関係から求めた設計時に使用している 標準データを使用した。
図7.1 供試船全船モデル
図7.2 タンク構造コースメッシュモデル
ズーミングモデルを図7.3に示す。なお、本図はスティフナー間を4分割したモデルを示 している。
- 131 -
(構造モデル) (流体モデル)
図7.3 ズーミングモデル
構造モデルはプレートをシェル要素、スティフナーをビーム要素でモデル化した。流体モ デルはタンク内流体をFEMの五面体ソリッド要素と六面体ソリッド要素でモデル化した。
本モデルを使用して(7.1)式に示す流体質量マトリクス[MW]の計算を行い、バーチャルマス を使用した構造-流体連成振動解析を行った。
バーチャルマスを使用したタンク構造の振動解析では、スティフナー間の要素分割数が解 析精度に大きな影響を与える。NASTRANを使用した場合はスティフナー間を4分割すれ ばメッシュサイズに対して解析結果が収束するという知見が得られている。図7.3に示すモ デルとメッシュサイズを変更したモデルを使用して、本手法で用いたFEMのソリッド要素 で流体をモデル化する場合のメッシュサイズに対する収束性を検証した。
流体をFEMソリッド要素でモデル化した場合とNASTRANのMFLUIDを使用した場 合のメッシュサイズに対する収束性を図7.4に示す。本検証では解析精度検証で評価した最 低次の振動モードを対象とした。
- 132 -
図7.4 メッシュ分割による収束性
NASTRAN のMFLUIDではスティフナー間を4分割すると固有振動数が概ね収束する
が、流体をFEMでモデル化する場合はスティフナー間2分割で固有振動数が概ね収束する 結果となった。今回の検討では、流体をFEMでモデル化する方が固有振動数に対する収束 性が良い結果となった。以降の検討では、一般的に必要とされているメッシュ分割数であ るスティフナー間を4分割したモデルを使用し解析を行った。
減衰は、タンクの計測点のうち計測結果の応答のピークの伝達関数(単位起振力あたり の振動応答)がもっとも大きい計測点の計測結果を使用してサークルフィットにより同定 した。計測結果と同定結果の比較を図7.5に示す
- 133 - 図7.5 減衰同定結果
減衰の同定結果は減衰比で0.54%であった。本振動応答解析コードはRayleigh’s減衰 を使用しており、7.0Hzで上記の減衰比となるα、βの値(付録2参照)を応答解析に使用 した。なお、本減衰には船体の振動の影響も含まれているが、本減衰はタンクが共振する 際の減衰であり船体の振動の影響は小さいと仮定しタンクのみの解析に本減衰を適用した。
供試船の海上運転時の代表的な計測点を図7.6に示す。計測点①、②はパネル中央、計測 点③はスティフナー上となっている。
- 134 -
F44 F47+250
図7.6 計測点
計測点①~③の計測結果と解析結果の比較を図7.7~図7.9に示す。計測結果は船尾上下 のスイープ加振に対する伝達関数を示している。本モデルを使用した固有振動数解析の
Fr. 47+250 Fr. 44
・
・
・
①③
②
- 135 -
7.0Hzの固有振動モードを図7.10に示す。また、計測結果と解析結果の7Hzのピークでの
振動数の比較を表7.2、伝達関数の比較を表7.3に示す。
図7.7 計測点①の解析結果と計測結果の比較
- 136 -
図7.8 計測点②の解析結果と計測結果の比較
図7.9 計測点③の解析結果と計測結果の比較
- 137 -
本タンクの7Hzでの振動モードは、図7.7~図7.9に示す計測結果、図7.10に示す振動 モードからタンク全体が同相のモードで振動する「呼吸モード」と思われる。7Hz のピー クの振動数の解析結果の誤差は-1.13%であり解析結果は比較的計測結果に近い値となった。
また、もっとも伝達関数が大きい計測点①の応答の誤差は 15.8%であり、本手法により局 部構造の振動応答評価が実用化できる可能性があることが確認できた。
図7.10 振動モード(7.0Hz)
- 138 - 表7.2 ピークの振動数の比較
Peak Frequency (Hz) Analysis Mearsurement
Point ① 7.00 7.08
Point ② 7.00 7.08
Point ③ 7.00 7.08
表7.3 ピークの応答の比較
Amplitude Acc. (mm/s2/kN) Analysis Mearsurement
Point ① 11.0 9.5
Point ② 8.9 6.4
Point ③ 3.2 0.7
今回の起振機試験ではタンク基部の伝達関数を計測していなかった。解析精度を評価す るうえで、グローバルモデルの解析精度、ズーミングモデルの解析精度に分離しそれぞれ の解析の課題を抽出する必要があり、今後の課題としてタンク構造基部の伝達関数を合わ せて計測することが必要である。
- 139 - 7.4 本手法の適用
本解析手法により上部構造上部のレーダーマストなどのズーミング解析を行うことがで きる。客船、フェリーなどで居住区画の振動応答を評価する際に全船モデルではメッシュ サイズが粗すぎてデッキ大パネルの振動特性が再現できるモデルとすることができない。
また、デッキ大パネルのみを取り出したモデルでは起振力が未知であるため振動応答を絶 対値として評価することができない[53]。このような状況で本ズーミング解析手法は有効で あると考えられる。フェリーのグローバルモデルとズーミングモデルを図7.11に示す。本 モデルを使用してフェリーの上部構造デッキ大パネルの振動応答を評価することができる。
また、タンカー、バルクキャリアー、コンテナ船の上部構造のデッキ大パネルに関しても フェリーの例と同様に本技術を用いて振動応答評価を行うことができる。デッキ大パネル の検討ではデッキの面外変位を拘束しているトランス、ガーダー位置をモデルの境界とし て強制変位を負荷する必要がある。
なお、本研究で開発したコードはグローバルモデルと節点が同じ座標にあるズーミング モデルの節点に強制変位を負荷している。今回のタンクのモデルのように本要領でグロー バルモデルの振動特性がズーミングモデルで再現できる場合はいいが、今後の対象によっ てはグローバルモデルの節点の間に相当するズーミングモデルの節点に線形補間した強制 変位を与えるなどの配慮が必要である。
図7.11 カーフェリーでのズーミング解析