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5. MBDD に必要な環境と担当者の育成

5.4 担当者育成

MBDDの導入を成功させる上で最も重要なのはファーマコメトリシャンの育成である100。Senn は統計学と臨床薬理学それぞれ学問として確立されているが,この2つの学問のコラボレーショ ンについては成功していないとし,ファーマコメトリクスとは,この2つの学問のコラボレーシ ョンが必須と指摘している101。しかし,統計専門家や臨床薬理専門家を養成するための組織・機 関と比べてファーマコメトリクスの専門家を育成するための組織・機関は,ファーマコメトリク ス自体の歴史が浅いため,未だ不十分である。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF) では,ファーマコメトリシャン育成を目的として,2010 年から Pacific Coast Statisticians and

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Pharmacometricians Innovation Conference (PaSiPHIC)を開催している102。これは生物統計学,臨床 薬理学のみならず,工学,数学,コンピュータ サイエンスなど,幅広い知識の習得をコンセプ トとしている。ファーマコメトリシャン育成については,グローバルにおいても近年取り組みが スタートしたといっても過言ではない状況であり,確固たる担当者育成プランを示すことは困難 であるが,ファーマコメトリシャン育成に必要となる周辺知識習得に向けた参考情報を以下に示 す。

5.4.1 育成方針

Sennが指摘しているように,ファーマコメトリクスの基礎となる知識の多くは,統計学と臨床 薬理学であるので101,この2つのどちらかの専門家をファーマコメトリシャンに育成することが 早道と考えられる。本TFに参加していた企業の8割程度は,臨床薬理担当者がファーマコメト リシャンの役割を担っていたが,その場合には,生物統計学の知識の充実が困難という話もあっ た。逆に生物統計担当者がファーマコメトリシャンとなる場合には,臨床薬理学の知識習得が必 要となる。PaSiPHICのコンセプトにもあるように,ファーマコメトリシャンは,それらに加えて さらに幅広い知識習得が必要と考えられるが,少なくともファーマコメトリクスの基礎となる統 計学と臨床薬理学については,ある程度の知識が要求されるため,その知識習得方法を構築する ことが,ファーマコメトリシャン育成方針の第一歩と考える。

各社,統計専門家育成方法,臨床薬理専門家育成方法については,既に方針が存在しているか もしれないが,MBDD実施のためには,今後は製薬業界全体として,ファーマコメトリシャンを 育成するための仕組みを検討する必要がある。

5.4.2 数学及び統計知識・技術の必要性

MBDDにおけるモデリングの実施時には高度な統計解析手法を応用的に行う必要が有る。また,

微積分や線形代数の知識はモデリングやシミュレーションの様々な場面で必要とされる。必要な 数学および統計スキルを習得するには,ある程度時間を掛けて基礎からの学習を行う事が必要で あるが,社内でのトレーニングが困難な場合も想定される。そのための外部講習のトレーニング や,大学の科目履修生となって学部または大学院の講義を受講するといった方法も考えられる。

5.4.3 臨床薬理等に関する知識・技術の必要性

モデルを構築する際,得られているデータだけに基づいて採用するモデルを決定することはあ ってはならない。当然ながら,そのモデルの仮説の元となっているメカニズムを事前に理解して おくことが重要であり,そのためには臨床薬理学,薬理学,生理学,薬剤学,毒性学等の基礎知 識(少なくとも各領域の専門家の情報を理解し,適切な形でモデルに反映できるだけの知識)は 必要不可欠である。また,対照薬を用いた比較臨床試験に関するシミュレーションを行う上では,

この対照薬に関する情報も必要となる。このような理由により,ファーマコメトリシャンには疾 患領域に関する臨床薬理学的・医学的知識が必要となる。これらの習得は必ずしも容易ではない

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ため,開発品目によらず疾患毎に専門のファーマコメトリシャンを任命する組織体制を採用して いる欧米の製薬会社もある。統計学の知識習得と同様に大学の科目履修生となって学部または大 学院の講義を受講するといった方法も考えられる。

5.4.4 担当者の意識改革

モデリングを行うには医薬品開発プロセスで発生する様々なデータが必要となる。そのため,

MBDD担当者は,これまでのような各部署で発生したデータについてだけではなく,非臨床から 市販後までの医薬品開発プロセスで発生するデータや類薬情報,疾患情報について考える必要が ある。つまり,横断型な医薬品開発の考え方に意識改革させなければならない。また,データに よってはある一部の部署が抱え込んで表に出て来ない場合もあるが,そのようなデータを入手で きるように各部署に入り込む能力も必要であろう。そのためには,担当者だけではなく,部門長 や経営層も含め社全体で,定量的判断が行えるようにすべきである。

候補品を世に送りだすためには,候補品の特性(物理化学的特性,作用メカニズム,有効性あ るいは安全性など)を見極めなくてはいけない。企業内でのTarget Product Profile(TPP)がどの ように変更されようとも,その候補品の長所を引き出せるよう努める必要がある。しかし,国内 医薬品の自社開発は前臨床試験から申請まで平均 9.2年,第1相試験からでも平均 4.6 年との報 告があり16,年単位という長い開発期間中に担当者がかわることも稀ではない。MBDDは,担当 者間でのナレッジの受け渡しに容易になるといった観点からも推奨される。また,MBDDでは客 観的な科学的根拠をモデルとして構築するため,そうして行われる意思決定はぶれのない Straightforward (一本筋の通った姿勢)な判断となりうる。

5.4.5 ソフトウェア

MBDDの解析を行うソフトウェアは多数存在し,ファーマコメトリシャンまたはプログラマは それらを使いこなせるだけの技術は必要である。MBDDの解析を行うソフトウェアは,多数存在 するが,ここでは代表的なもの,バリデーションプログラムが用意されているものを中心に紹介 する。また,MBDDにおいては多くの臨床試験データを統合して解析するのが通常であり,統合 を見越した共通のデータベース構造が必要となる。そのため,レポジトリ・システムの設置は重 要な要素となるのであわせて紹介する。

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表 5-4 MBDDで利用されるソフトウェアの一部

目的 ソフトウェア名 メーカー名,URL

ADAPT http://bmsr.usc.edu/Software/ADAPT/SADAPTsoftware.html

NONMEM ICON

http://www.icondevsolutions.com/nonmem.htm Phoenix NLME Pharsight

http://www.pharsight.com/products/prod_phoenix_nlme_home.php Phoenix WinNonlin Pharsight

http://www.pharsight.com/products/prod_phoenix_winnonlin_home.php PK-Sim Bayer Technology Services

http://www.systems-biology.com/products/pk-sim.html Simcyp Simulator Simcyp

http://www.simcyp.com/

WinBugs フリーソフトウェア

http://www.mrc-bsu.cam.ac.uk/bugs/

モデリング

Monolix フリーソフトウェア

http://www.monolix.org/

Matlab マスワークス

http://www.mathworks.co.jp/

SAS SAS Institute Japan

http://www.sas.com/offices/asiapacific/japan/

S-plus 数理システム

http://www.msi.co.jp/splus/

統計処理

R フリーソフトウェア http://www.r-project.org/

日本語サイト:http://www.okada.jp.org/RWiki/

シミュレー ション

Trial Simulator Pharsight

http://www.pharsight.com/products/prod_pts_home.php

EP Series http://www.thermoscientific.com/wps/portal/ts/products/detail?productId=11962422&gr oupType=PRODUCT&searchType=0

PKS Pharsight

http://www.pharsight.com/products/prod_pks_home.php データ・

レポジトリ

SAS

Drug Development

SAS Institute Japan

http://www.sas.com/offices/asiapacific/japan/industry/pharma/develop/index.html