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不確実性の意思決定

2. MBDD の理論背景解説

2.7 不確実性の意思決定

37

38 思決定に用いられる代表的な原理について紹介する。

2.7.1 シナリオの発生確率(もしくは信頼度)が設定可能な場合

2.7.1.1 期待値原理

適用ケース:複数の試験計画に適応し,ある程度の失敗を見込んででも,全体としては一定の 確率で成功を収めたい場合など。

<手順>

1. シナリオ期待値(=予測される結果×予測発生確率)を算出

2. シナリオ期待値の期待値(平均値)が最大になる試験デザインを選択。

3. 期待値が同じならば,シナリオ期待値の標準偏差が小さい試験デザインを選択。

表 2-6 シナリオと正しい結果を与える確率の推定値(期待値原理)

PD モデル(シナリオ)と予想発生確率

Linear Linear-log Exponent Logistic Double

logistic Quadra.

試験 デザイン

0.15 0.25 0.30 0.20 0.05 0.05

期待値 標準 偏差

A 20%

(3%) 98%

(25%) 35%

(11%) 40%

(8%) 25%

(1%) 5%

(0%) 8% 9%

B 90%

(14%) 95%

(24%) 95%

(29%) 90%

(18%) 25%

(1%) 35%

(2%) 14% 11%

C 70%

(11%) 75%

(19%) 70%

(21%) 75%

(15%) 70%

(1%) 70%

(4%) 12% 8%

D 85%

(13%) 90%

(23%) 90%

(27%) 80%

(16%) 65%

(1%) 70%

(4%) 14% 10%

表 2-6 には,各シナリオ(PD モデル)の成功確率に各シナリオの予想発生確率を掛け合わせ た値を( )内に示し,試験デザイン毎に全シナリオの( )内の値の算術平均値と標準偏差を算 出した。期待値原理に従えば,期待値が最大であるBとDの試験デザインのうち標準偏差の小さ いDの試験デザインを選択することになる。

2.7.1.2 期待値・分散原理

適用ケース:期待値原理と同じだが,シナリオ期待値のばらつきをより重視したい場合,など

<手順>

1. 同じ標準偏差ならば,期待値が大きい試験デザインを選択。

2. 同じ期待値ならば,標準偏差が小さい試験デザインを選択。

3. 1., 2.で決まらない場合は,期待値を標準偏差で補正した値(例えば,期待値-標準偏

差)で選択。

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表 2-7 シナリオと正しい結果を与える確率の推定値(期待値・分散原理)

PD モデル(シナリオ)と予想発生確率

Linear Linear-log Exponent Logistic Double

logistic Quadra.

試験 デザイン

0.15 0.25 0.30 0.20 0.05 0.05

期待

標準 偏差

A 20%

(3%) 98%

(25%) 35%

(11%) 40%

(8%) 25%

(1%) 5%

(0%) 8% 9% -1%

B 90%

(14%) 95%

(24%) 95%

(29%) 90%

(18%) 25%

(1%) 35%

(2%) 14% 11% 3%

C 70%

(11%) 75%

(19%) 70%

(21%) 75%

(15%) 70%

(1%) 70%

(4%) 12% 8% 4.5%

D 85%

(13%) 90%

(23%) 90%

(27%) 80%

(16%) 65%

(1%) 70%

(4%) 14% 10% 4.4%

表 2-7 では,各シナリオ(PD モデル)の成功確率に各シナリオの予想発生確率を掛け合わせ た値を( )内に示し,試験デザイン毎に全シナリオの算術平均値と標準偏差を算出した。試験 デザインCが標準偏差は最も小さいが試験デザインB,Dと比べて期待値も小さいため,標準偏 差と期待値の差を算出した。期待値・分散原理では,標準偏差と期待値の差は試験デザインCと Dでは大きな違いは無いため,この原理により一つの試験デザインを選択するのは困難であった。

2.7.1.3 最尤未来原理

適用ケース:ひとつのシナリオの可能性が,他に比べて極めて高い場合,など

<手順>

・最も可能性が高いシナリオのみに注目し,最良の試験デザインを選択

・最も可能性が高いシナリオ以外は一切考慮しない。

表 2-8 シナリオと正しい結果を与える確率の推定値(最尤未来原理)

PD モデル(シナリオ)と予想発生確率

Linear Linear-log Exponent Logistic Double

logistic Quadra.

試験 デザイン

0.15 0.25 0.30 0.20 0.05 0.05

A 20% 98% 35% 40% 25% 5%

B 90% 95% 95% 90% 25% 35%

C 70% 75% 70% 75% 70% 70%

D 85% 90% 90% 80% 65% 70%

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最尤未来原理の場合,事例のケースでは予想発生確率が最大であるシナリオである Exponent 型PDモデルでの成功確率のみに注目する(表 2-8)。このシナリオにおける成功確率は試験デザ インBにおいて最大となり,これが選択される。

2.7.1.4 要求水準原理

適用ケース:要求水準以上の成功確率を最大化したい場合

<手順>

1. 要求水準を設定する。

2. 要求水準を達成する可能性の高い試験デザインを選択する。

表 2-9 シナリオと正しい結果を与える確率の推定値(要求水準原理)

PD モデル(シナリオ)と予想発生確率

Linear Linear-log Exponent Logistic Double

logistic Quadra.

試験 デザイン

0.15 0.25 0.30 0.20 0.05 0.05

成功率 70%以上 のシナリオの

総発生確率

A 20% 98% 35% 40% 25% 5% 0.25

B 90% 95% 95% 90% 25% 35% 0.90

C 70% 75% 70% 75% 70% 70% 1.00

D 85% 90% 90% 80% 65% 70% 0.95

要求水準原理を適用する場合,最初に要求水準を設定する必要がある。事例のケースで要求水

準を70%と設定した場合,全てのシナリオにおいてこれを満たす唯一の試験デザインであるCが

選択される(表 2-9)。一方,要求水準を90%とした場合には要求水準を上回る確率が90%と最 大となる試験デザインBが選択される。

2.7.2 シナリオの発生確率(もしくは信頼度)が未知の場合

シナリオの発生確率や信頼度を特定することは,現実的には困難であろう。シナリオの発生確 率(信頼度)が未知の場合の意思決定方法の例について以下に示す。

2.7.2.1 ラプラスの原理

適用ケース:期待値原理や期待値・分散原理を適用するシチュエーションの各シナリオの発生 確率が存在しない場合

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<手順>

1. 「全てのシナリオの発生確率は等しい」と仮定 2. 期待値原理あるいは期待値・分散原理を適用

表 2-10 シナリオと正しい結果を与える確率の推定値(ラプラスの原理)

PD モデル(シナリオ)と予想発生確率

Linear Linear-log Exponent Logistic Double

logistic Quadra.

試験 デザイン

0.15 0.25 0.30 0.20 0.05 0.05

期待値

A 20% 98% 35% 40% 25% 5% 37%

B 90% 95% 95% 90% 25% 35% 72%

C 70% 75% 70% 75% 70% 70% 72%

D 85% 90% 90% 80% 65% 70% 80%

ラプラスの原理を適用する場合,各シナリオ(PD モデル)の発生確率はいずれも等しいと想 定するため事例のケースでは各シナリオの予想発生確率は1/6 となる。試験デザイン毎に全シナ リオの成功確率の算術平均値(期待値)を算出した(表 2-10)。ここで期待値原理に従えば,期 待値が最大である試験デザインDを選択することになる。

2.7.2.2 マクシミン原理

適用ケース:最低限の成功確率を確実に担保したい場合

<手順>

1. 各選択肢において,最悪の結果を調査

2. 最悪の結果の中で,一番よい結果をもたらす試験シナリオを選択

表 2-11 シナリオと正しい結果を与える確率の推定値(マクシミン原理)

PD モデル(シナリオ)と予想発生確率

Linear Linear-log Exponent Logistic Double

logistic Quadra.

試験 デザイン

0.15 0.25 0.30 0.20 0.05 0.05

最低確率

A 20% 98% 35% 40% 25% 5% 5%

B 90% 95% 95% 90% 25% 35% 25%

C 70% 75% 70% 75% 70% 70% 70%

D 85% 90% 90% 80% 65% 70% 65%

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マクシミン原理を適用する場合,各試験デザインについて全シナリオ中最低成功確率に注目す

る(表 2-11)。この最低成功確率が最大である試験デザインCを選択することになる。

2.7.2.3 マクシマックス原理

適用ケース:臨床開発で適用が想定されるケースは存在しない,と思われる。

※1/100の確率で100万円当たる宝くじと1/10の確率で10万円当たる宝くじ,ともに期待値は 1 万円だが,マクシマックス原理に当てはめれば当たったときの利益が大きい100万円当たる宝 くじを選択する。

<手順>

1. 各選択肢において,最良の結果を調査

2. 最良の結果の中で,一番よい結果をもたらす試験シナリオを選択

マクシマックス原理を適用する場合,各試験デザインについて全シナリオ中最高成功確率に注 目する。この最高成功確率が最大である試験デザインAを選択する。

2.7.3 不確実性の意思決定における注意点

いずれの選択原理を用いたとしても,不確定要素・選択肢の数と種類を調節することで,任意 の選択肢に誘導しうる。不確定要素及び選択肢の設定は,科学的に想定しうるパターンに対して 網羅的でなければならず,決して恣意的に不確定要素の種類やその予想発生確率・選択肢を設定 してはならない。

また,試験開始前の不確実な状況下での意思決定を行なわず,臨床試験の実施中に不確実な部 分の情報を収集(中間解析,アダプティブデザイン)し,モデルの情報を更新しながら臨床試験 を進めるという方法があることには留意されたい。

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