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事例 2 POC 試験結果からの後期第 2 相試験デザイン選択(ナラトリプタン)

3. MBDD 適応事例

3.2 事例紹介

3.2.2 事例 2 POC 試験結果からの後期第 2 相試験デザイン選択(ナラトリプタン)

先行開発薬剤の情報を MBDD アプローチによって生かした例としてナラトリプタンの例を挙 げることができる。ナラトリプタンはトリプタン系に分類されるセロトニン受容体5HT1B/1Dの アゴニストであり,頭蓋血管平滑筋や頭蓋血管周辺の三叉神経の同受容体を刺激することによっ て,血管収縮や神経ペプチドの遊離を抑えることで片頭痛を軽快するものである。

ナラトリプタンはスマトリプタンの後継薬剤である。このナラトリプタンについて MBDD ア プローチによればどのような検討が可能であったかを示す論文が Nestrov らによって発表されて いる72。彼らの検討はナラトリプタンの開発においては事後的なものであり,実際の臨床開発に 影響を与えることはできなかったとしながらも,臨床試験シミュレーションとそれによるデザイ ンについての科学的検討として本論文を公表している。本節では類薬との比較を含めた MBDD アプローチという観点からこの事例を取り上げる。

本事例においては 2つの解析が行なわれている。1つはナラトリプタン及びスマトリプタンの 非臨床薬理試験結果,ナラトリプタンの第1相試験におけるPKデータ(静注,皮下投与,液剤 の経口の3経路),スマトリプタンの臨床データを用いたナラトリプタンの前期第2相試験(POC 試験)のシミュレーションである。もう1つは,ナラトリプタンの後期第2相試験の試験デザイ

γ=1 γ=0.5 γ=2

γ=10

55

ンの選択である。これはナラトリプタンの前期第2相試験の成績を元に実施された。

3.2.2.1 前期第2相試験のシミュレーション

本事例においては開発が先行しているスマトリプタンの臨床成績から得られたPD モデルを用 いてナラトリプタンの前期第2相試験結果を予測している。対象疾患は片頭痛であるため評価指 標は痛みの程度を表すPain Severityであり,応答変数は4値の順序カテゴリカルデータである(Yij, i=個体,j=0-3; 0:No pain,1:Mild pain,2:Moderate pain,3:Severe pain)。スマトリプタンについて 血中濃度とPain Severityの関係が既に以下のようにモデリングされている。Pain Severityは薬剤投 与直前のベースラインスコアが3であるか2であるかによって分けてモデリングされており,鎮 痛効果によってPain Severityが回復にむかった場合にのみ興味があるためベースラインが3の場 合と2の場合でモデルが異なっている。

Baseline Scoreが2の場合

i ij ij ij

i ij ij ij

Ce time Ce

ore BaselineSc Y

it

Ce time Ce

ore BaselineSc Y

it

θ η θ θ

θ θ

θ η θ θ

θ

+ + + ×

× + +

=

=

+ + + ×

× +

=

=

6 5 4

2 1

6 5 4

1

) log(

) 2

| 1 ( log

) log(

) 2

| 0 ( log

Baseline Scoreが3の場合

i ij ij ij

i ij ij ij

i ij ij ij

Ce time Ce

ore BaselineSc Y

it

Ce time Ce

ore BaselineSc Y

it

Ce time Ce

ore BaselineSc Y

it

φ ξ φ φ

φ φ

φ ξ φ φ

φ φ

φ ξ φ φ

φ

+ + + ×

× + +

=

=

+ + + ×

× + +

=

=

+ + + ×

× +

=

=

6 5 4

2 1

6 5 4

2 1

6 5 4

1

) log(

) 3

| 2 ( log

) log(

) 3

| 1 ( log

) log(

) 3

| 0 ( log

本事例におけるスマトリプタンのPD である順序カテゴリカルデータと血中濃度の関係はロジ スティック回帰によって解析しており,各順序カテゴリカルデータの間には比例オッズが仮定さ れている。η,ξはいずれもロジットの個体間変動であり正規分布することが仮定されている。パ ラメータの表記が θ とφのように異なるのは,治験薬服用のときのベースラインとしての Pain Severityが2か3かによって値が異なるために区別するためである。またCeは血中濃度と薬効発 現の遅れを表現するために導入された薬効コンパートメント(Effect Compartment)内の濃度であ る(図 3-7)。

56

図 3-7 ナラトリプタンのPK-PDモデル

表 3-3 第1相試験で得られたナラトリプタンのPKパラメータ73

パラメータ 推定値 個体間変動 C.V.(%)

CL(L/h) 22.7 27.9

V1(L) 17.2 20.7

V2(L) 147 26.3

Q(L/h) 154 25.5

ka(1/h)[経口液剤] 1.30 32.9

F [経口液剤] 0.69 ―

表 3-4 スマトリプタンの薬力学パラメータ

推定値(標準誤差)

比例オッズモデル パラメータ Baseline score = 2 のときのモデル

Baseline score = 3 のときのモデル

Baseline score = 0 θ1, φ1 -6.79(0.58) -7.74(0.677)

Baseline score = 1 θ2, φ2 4.73(0.217) 3.36(0.2)

Baseline score = 2 φ3 3.9(0.238)

作用部位への平衡速度定数Keo (1/h) θ3, φ4 0.779(0.49) 2.04(1.04)

Placebo/Time 効果 θ4, φ5 1.93(0.246) 2.32(0.234)

最大効果 θ5, φ6 3.96(1.2) 9.85(23)

Ce50 θ6, φ7 3.51(2.73) 45.9(162)

個体間変動 ω2η, ω2ζ 17.7(2.14) 19(2.42)

Depot Central Peripheral

Effect

Compartment Effect

tlag, Ka. F

V1, CL Q

V2

Ke0

y y

e e

= + Pr 1

57

表 3-3にはナラトリプタンの投与された26名の被験者のPK解析の結果が示されている。ナラ トリプタンの第1相試験は静注,皮下投与,経口投与の3つの投与経路で行なわれており,吸収 速度定数ka,バイオアベイラビリティFは前期第2相試験で予定されていた皮下投与のものであ る。表 3-4はスマトリプタンのPK-PD解析の結果であり,上述したようにベースラインスコアが 2 のときと3のときで,それぞれパラメータが得られている。非臨床試験成績からナラトリプタ ンが保守的に見積もってもスマトリプタンの2倍は薬効が強いと想定されていたことから,スマ トリプタンのCe50の1/2をナラトリプタンのCe50とし,ナラトリプタンの第1相試験のPKパ ラメータとあわせて前期第2相試験の成績をシミュレーションした。

前期第2相試験結果での投与後2時間における各用量とプラセボ群の間の検出力についてシミ ュレーション予測値と実測値の比較結果を図 3-8に示す。

0.29

0.48

0.78

0.90

0.97

0.71

0.90 0.95 0.99 0.98

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0.5 mg 1 mg 2.5 mg 5 mg 10 mg

検出力

プラセボ群に対する比較用量群 予測値

実測値

図 3-8 スマトリプタン前期第2相試験での投与2時間後における用量群別の検出力の予測 値と実測値の比較

この結果から,予測値の方が実際のデータよりもやや有効性を弱く予測していたことがわかる。

血中濃度は前期第2相試験の実測値の方が第1相試験からの予測よりも高く(原論文のFig. 3参 照),これも予測と実測のズレの原因の一つと考えられる。実際の前期第 2 相試験から得られた PKパラメータを表 3-5に示す。

58

表 3-5 前期第2相試験で得られたナラトリプタンのPKパラメータ

パラメータ 推定値 個体間変動 (S.D.) tlag (hr) 0.35 0.35

CL(L/h) 17.9 27.9

V1(L) 23.00 20.1

V2(L) 98.4 47.0

Q(L/h) 101.4 36.8 Ka(1/h) 0.85 0.28

F 0.48 -

前期第2相試験の血中濃度実測値と第1相試験データからの予測のズレは,第1相試験のPKパ ラメータ(表 3-3)と前期第2相試験のPKパラメータ(表 3-5)でも読み取ることができる。経 口投与後のバイオアベイラビリティ(F)の推定値は第1相試験では0.69に対し,前期第2相試 験では0.48であった。また,本事例では第1相試験は健康成人男性を対象としていたが,前期第 2 相試験に組み入れられたのは,ほとんどが女性片頭痛患者であり,こうした被験者背景の違い により,薬物動態等の予測と実測にズレが生じた可能性も考えられ,原論文中では原因は不明と されている。

3.2.2.2 前期第2相試験成績のモデリングと後期第2相試験のシミュレーション

ナラトリプタンでは前期第2相試験のモデル解析結果を用いて後期第2相試験の試験デザイン の検討を行なっている。解析は用量を説明変数とした PD モデル(式 1)と血中濃度から薬効コ ンパートメント濃度を用いて解析したPK-PDモデル(式2)の2つを用いている。

・・・式1

・・・式2

Z=1が鎮痛に至っている(pain relief)ことを意味し,Z=0が鎮痛に至らない(no pain relief)こ とを意味する。時間(time),用量(Dose)もしくは薬効コンパートメントの濃度(Ce),時間と 用量もしくはCeの相互作用,片頭痛のタイプ(type)が共変量としてモデルに組み込まれている。

PK-PDモデルについてはスマトリプタンで用いられたEmaxモデルよりも簡略化されている。

シミュレーションの結果は原論文のFig. 6に示されている。このFig. 6には5つの棒グラフが 含まれており,そのうち2つは各用量間での効果の比較において,一群の例数を50例,100例,

(150例,)200例としたときの検出力の比較であり,用量を用いたPDモデル(Fig. 6,A)とPK-PD モデル(Fig. 6,B)について,それぞれ検討した結果を示している。PDモデルとPK-PDモデル とでは,ほぼ同じ傾向が見られており,これらの結果から一群例数として150例程度は必要だと

type Ce

time Ce

time Z

it

type Dose

time Dose

time Z

it

× +

×

× +

× +

× +

=

=

× +

×

× +

× +

× +

=

=

4 3

2 1

4 3

2 1

) 1 ( log

) 1 ( log

β β

β β

θ

β β

β β

θ

59 Nestrovらは考察している。

表 3-6にはPDモデルからの評価タイミングの検討結果を示している。規制当局の要求から片 頭痛の評価については服薬後2時間を評価ポイントとして設定することが必須であるが,それ以 外の時間帯を設定するとしたときに投与初期よりは 4,6 時間のような後ろの時間帯の評価をし たほうがプラセボに対して有意差を検出するのに必要な症例数は少なくなっている。

表 3-6 有意水準5%の有意差を検出力80%で検出するために必要な症例数

観察時点

比較用量群 1 h 2 h 4 h 6 h 5 mg vs. プラセボ 1414 82 22 23 10 mg vs. プラセボ 400 35 15 18 20 mg vs. プラセボ 130 19 12 17 10 mg vs. 5 mg 1822 280 337 860 20 mg vs. 5 mg 267 71 144 430 20 mg vs. 10 mg 700 286 1148 4693

片頭痛は薬剤の胃内排泄時間を延長することが知られているが,片頭痛の鎮痛薬としては服薬 後すぐに効果が得られることが重要であるため,本薬の吸収ラグタイムが0.5時間あるいは1時 間を仮定して,投与2時間後の評価における検出力への吸収ラグタイム影響についてシミュレー ションしている(Fig. 6(E))。結果,実薬群間の検出力は吸収ラグタイムが長いほうが影響を受 けるが,プラセボ群との比較においては検出力が影響を受けず,この程度の吸収ラグタイムの変 動は大きな影響を与えないとNestrovらは判断している。

本事例の特徴は,①非臨床成績を用いた類薬に対する相対強度の利用,②類薬の臨床PK-PDモ デルの利用,③順序カテゴリカルデータの解析,④各種シナリオに応じた臨床試験シミュレーシ ョンがあげられる。先行薬剤との相対強度は非臨床成績から臨床成績を予測する際に考慮される ことだが,MBDDにおいて,それはモデルの中のパラメータの違いという形で定量的に反映する ことが可能である。また先行薬剤のPK-PDモデルの存在は,非臨床成績と第1相試験の薬物動態 結果に基づく前期第2相試験の成績の予測精度の向上をもたらす。これは先行薬剤の情報収集や 自社開発において蓄積されているデータの有効利用が,今後一層重要となることを示唆している。

このナラトリプタンの例は,薬力学解析に従来よく用いられていた連続変数の薬力学的代替エン ドポイント(血中バイオマーカー濃度など)ではなく,臨床有効性としてよく用いられるカテゴ リカル変数を用いた解析という意味でも典型的な例といえる。